2話 世界移動
「てか…魔王と戦わせたくて僕達を連れてきたんでしょ?ここの世界の人達に武器あげるとかじゃ駄目だったの?」
ギルドに向かう途中、ベルはゆずきの唐突な質問を聞き、立ち止まってから答える
「それは簡単に言うと「世界移動」が関係しています」
「世界移動???」
腕を組んで首を傾げるゆずき。世界移動という単語は聞いたことがない。そしてそれがゆずき達に影響することなのだろうか
「貴方達はこちらの世界に来る際、世界を移動しています。それを世界移動と言います」
「な…なるほど?でもそれと何が関係あるの?」
「………では聞きます。この世界の者達の中で最も強いのは魔王や勇者です。分かりやすくその者達を10と表します。そして街にいるような幼い子供などを1とします。それを貴方の居た世界に当てはめてください」
ゆずきは顎に手を当て考える。ベルの言ったとおりに当てはめる事に
「じゃあ、シャチとかを10…ライオンとかゴリラを9として…格闘家が8…大人が7…で僕達中学生ぐらいの子供が6とか?」
「そうです。そして世界はこの数字を維持しようとします。要するに貴方達転移者はこの世界でも6〜8ぐらいが維持されます」
そして何かに気づいたゆずきが目を見開く。それを見てベルがゆっくり頷く
「そうです。貴方達が居た世界の6と、こっちの世界の6では訳が違います。既に貴方の実力は並の冒険者の域を超えています」
ゆずきは驚きで固まり、言葉も出ない。無理もない事だ。急に自分の実力が上がっていることを告げられたのだから。しかし自らの頬を思いっ切り引っぱたき、ベルに向き直る
「凄いのは分かったけど…それって今、元の世界に戻ったりしたら…」
「そうです…基本は世界によって影響されます」
「基本は?」
ベルが空を見上げる。それは何処か遠くを見ているようだった
「先程言ったと思いますが、この世界での10は魔王や勇者です。何か引っかかりませんか?」
ゆずきは頭を抱えて暫くの間悩む。しかし急に閃いたかの様に目を輝かせる
「まさか…その10を上回る存在がいるってこと!?」
「そういうことです…現に絆の神である私は10を超えています。神などはその数字からは除外されるので。そして10を超えている者には世界移動によるステータス増減はありません。かといって10の者のステータスが上がるからといって10を超えているの者に勝てるというわけでもありません。超えられない壁があります」
「超えられない壁?」
「10以下の者の攻撃はそれを上回る者には届きません」
10を上回る存在がいるということを言い当てたことで、暫くはしゃいでいたゆずきだったが、とある事が頭をよぎる
「あれ…じゃあベルが魔王倒せばいいんじゃないの?」
説明を終えて、ギルドに向かおうとしていたベルの足が止まった。そしてゆっくりゆずきの方へ振り返る
「今の貴方に答える気はありません…」
そして再び前を向くと歩き始めた。通行人達が珍しい服装のゆずき達を見つめている。ベルは一瞬だけ振り返る。まるで「早く来て」とでも言いたげだ。しかしゆずきが足を進めることはなかった
不審に思ったベルが後ろを振り返り、立ち止まる。それでも動く気配は無い
「どうしたのですか?」
「や~めた」
ゆずきは頭の後ろで腕を組んで、そのまま逆方向に向かって歩き出した
「え…ちょっと待っ―――」
それでもゆずきは振り返ることも無く歩き続ける。まるで興味を失ったようだ
「だって…」
ゆずきが腕を下ろし、立ち止まった。しかし相変わらずベルの方を見る気配は無い
「そっちの情報話さなすぎ。信用出来ない」
「ッ―――」
まさかそんな事を言われるとは思わなかったのか、ベルの口から声が漏れる。しかしゆずきが言っていることは正論。ベルは何も言い返せず、ただその背中を見つめることしか出来なかった。やがてベルは俯いた
「ごめんなさい…今は…どうしても言えません…」
少し声が震えている。そして普段なら「すいません」とでも言うだろうに、今回は「ごめんなさい」と言った。それが何処か儚く、ゆずきは初めてベルの弱い所を見たような気がした
「それ以外なら…本当に…何でもします…」
するとゆずきがとんでもないスピードで振り返る。まるでその言葉を待っていたかのように。そして顔は普段の能天気な笑顔
「今…何でもって言ったよね?」
「あ―――」
ベルはここでようやく気づいた。ハメられたのだ。この男はこの機に乗じて、ベルからこの言葉を言わせようとしていたのだ
しくじりました…まさかこの男の前で言ってしまうとは…。この男がどんな命令を下すか分かったもんじゃありません。すぐに誤魔化さないと―――
「じゃ命令ね。僕の事「貴方」じゃなくて「ゆずき」って呼んで欲しいんだけど」
「え?―――」
なんと「何でもする」というお願いをそんなことに使うとはベルも予測出来なかった。しかしベルは、ゆずきのキラキラ輝く目を見て実感した
あぁ…この男が持ってるのはドス黒い欲望なんかじゃない。純粋な願いなんだ
よほどベルに名前で呼んで欲しかったのだろう。少なくともこのタイミングで頭を使い、「何でもします」と言わせるぐらいには…
この2人の奇妙な会話を周りの者は聞いている。この2人は周りの者達が知らない言語で会話している。そう、2人は周りに話している内容を悟られないよう、日本語で会話をしていたのだ。堂々と周りに聞かれたくない話も話し放題だ。周りに転移者が居ない場合に限るが…
「分かりました…。まぁ…少し回りくどい性格ですね。ゆずきは」
ベルの顔は相変わらずお面で見えないが笑っている様に感じた
「迫真の演技だったでしょ!?」
ゆずきが自身の事を指差してドヤ顔をしている。その様子に少し呆れたように答える
「はいはい…本当にゆずきは面白いですね」




