1話 異世界転移
その穴の中は宇宙の様だった。ゆずきは宇宙に浮いてる様な不思議な感覚に見舞われる。チラッと横を見るとベルは特に焦ってもいない
「うわー!すごーい!」
すると急に目の前が眩しくなる。先程神社から転移した時と同じ光だ
「うぇ!?またこの光!?」
ゆずきがベルに掴まれていない方の腕で目元を隠し、目を瞑る。その間もベルはしっかりゆずきの腕を掴んでいた。そして目を開けるとそこは…
「うわぁぁ―――」
ゆずきが感嘆の声を漏らす。目の前には異世界が広がっていた。よくゲームで見るような中世の建物。そして人で賑わう町中。武器屋などが立ち並び、ゆずきが夢見てた異世界がここにある
「うわ!凄い!あそこに大きな時計台がある!。あ!こっちには見たことない果物売っ…」
ゆずきがあまりにはしゃぎ過ぎるので、ベルがゆずきの口元を抑え、腕を引っ張って橋の下に連れて行く
「いいですか―――あまりはしゃがないでください!」
急に怒鳴られたので、ゆずきは目を見開いている。穏やかな雰囲気のベルがこんな怒るとは思わなかったのだ。
ベルが怒るのも当然だ。ベルは狐の面を被っており、更に巫女服に草履を履いている。そしてゆずきは猫のイラストが描いてある白いシンプルなTシャツにジーパン。ただでさえ人の目が集まるのに更に集まるなんてたまったもんじゃない
「ご…ごめんなさい…」
ベルはお面の上から額に手を当て、ため息をつく。しかしすぐにゆずきの方に振り向き、話を始める
「一応異世界転移の特典として、この世界の言語の読み書きが可能です」
「え?そうなの?」
ゆずきは両手の人差し指を頭に差し、目を閉じる。すると頭の中に言語が流れ込んでくる感覚。恐らく喋れるようになっているのだろう。それに気づいたゆずきが目を見開く
「凄い…凄いよ!」
そのまま橋の下から町中に上がり、再び辺りを見渡す。ひとまず慣れの為に雑貨屋に入る事に
ドアを開けるとベルの音が鳴る。元の世界ではレトロな店と言うのだろうが、この世界ではこれが当たり前なのだろう
「いらっしゃぁい…」
カウンターの奥には、きだる気な男が座っている。ゆずき達に対して一言告げ、一瞬姿を見て目を見開いたが、また手元の新聞に目を通す。やはり2人の服装は珍しいのだろう
「そこの狐の嬢ちゃんの服は知らねぇけどよ…そこの坊主の服は知ってるぞ。似たような服を着た奴等が町中に居て皆大騒ぎだ。別にそいつ等が街に危害を加えてる訳じゃねぇけどな…」
恐らくこの男が言っているのは、ゆずきと同じ転移者だろう。しかし街を出歩くだけで大騒ぎだ。それほど珍しいのだろう。ここの者達の服装は薄いボロボロの布だ。しかし偶に見かける冒険者達は鎧やローブを羽織っている
そして店には鉛筆とかではなく、羽根ペンなどが置いてあり、やはり文明が遅れていることがうかがえる
ゆずき達は店をあとにすると、再び先程の橋の下に向かう。そこで今後の事を話し合う事にしたのだ
「一つ言っておきたいことがあります。あなた方をこの世界に転移させた理由です」
「え…」
ベルがまさかそんな事を言うとは思わず、ゆずきは思わず口に出してしまう。理由とかについては一生喋ってくれないパターンだと思ったからだ
「貴方はそもそも、こういう異世界での目的はどんな事を想像しますか?」
突然の質問に、ゆずきは一瞬固まった。しかし、目を輝かせ、自信満々に答える
「魔王討伐!」
「フ…」
ベルが漏らした声はバカにしているわけではなく、ゆずきの理解の早さに安堵している様だ
「そう…この世界では魔王が一人います。その魔王は残虐性のあまり、人間が視界に入れば即殺害。ムシャクシャすれば人間の村を滅ぼすという傍若無人ぶり…そして王はその事態に目を瞑り、魔王の侵略は激化。魔王により人類は四割が消えました」
「は…はぁ!?四割!?」
ゆずきは目を見開いたまま固まってしまった。しかしベルは構わず続ける
「勇者は四人居ますが、全員行方不明。そして私が思い付いたのは異世界人。異世界の者達ならばこの世界をどうにか出来るのでは…と…」
ゆずきは腕を組んで考える素振りを見せる。そしてゆっくり目を開ける
「でもそれって、この世界の他の国の人達に助けてもらえないの?ほら…同盟国とかあるじゃん。あ…でも魔王はこの世界の至る所で暴れてるから忙しいのか…」
「同盟国はありません」
「え?」
なんということだろう。この国は周りの国と交流する気などないということなのだろうか。しかしゆずきの考えは外れた
「この世界に国という概念はありません。既に統一されています」
なんということだろう。この世界は既に統一されていると言うのだ
そしてベルが語った話はまるで作り話の様だった。どうやら十年前、アリス・グランド帝国という国が統一したそうだ。そこまでならまだ信じられる。しかし問題はそこからだった。なんと王に代わって軍を率いて戦ったのが、当時5歳の王子だと言うのだ
「ベル…嘘は信用なくすよ?」
するとベルの体がプルプル震え始める。そしてドス黒いオーラが見えそうだ
「だぁ…かぁ…らぁ………本当ですから!」
ベルに背中をボカスカ叩かれる。しかし全然痛くない。むしろその行動に可愛いと思える程だ
するとベルはゆずきを叩くのをやめ、気を取り直して話し始める
「ごほん…では話します。今回の転移はランダムで三つの地点に飛ばされるものです。今現在私達がいるエレンタウン。ここより北の地にあるケノタウン。南のフキノタウン。そして三つの地点にあるギルドで転移者を冒険者にし、魔王を倒させるのが私の役目です」
「ちょっと待った」
ゆずきが挙手したのを見て、ベルが腕を組み、首を傾げる
「なんでしょう?」
「誰もが冒険者になる保証はないんじゃない?」
「大体異世界に来たら皆冒険者になりたいと思うのでは?」
「いや…合ってるけども!」
ゆずきとベルは橋の下から上がり、ベルの道案内でギルドへと歩いて行く




