神頼みの末路
「ヤバい…ヤバいぞ!」
叫びながら必死で走る男。どうやら何かから逃げている様だ
周りの景色を見る限り、ここはヨーロッパ辺りの町中。男の顔は日本人で、背が高い。しかし既に日が沈み、男以外に人は居ない
そして必死な男を嘲笑うように雨が振り始めた。男が息切れしながら走る中でも雨は更に激しさを増す
「何処か…隠れる場所…はぁ…はぁ…」
そして男は細い路地を見つけた。男は路地に入る。路地は横向きにならなければならない程どの狭さ。しかし他に隠れる場所もない
「ひとまず…ここでやり過ごすしか―――うわっ!」
男が驚きの声をあげる。それもそのはず、なんと隣に女性が来たのだ。女性も日本人の様だ。そしてこの女性も何かから逃げてきたかのように息切れしている
「あ…すいません!先に誰かいるとは思わなくて…」
女性は謝る。顔が少し赤い。髪は茶髪で、少しウェーブがかかっている。可愛らしい女性だ
「あ…いえ!」
男の言葉を最後に、沈黙が訪れる。お互いに見つめ合い、雨で少し濡れた顔が見える。互いの心臓の音まで聞こえそうだ。段々と雨音が遠ざかっていくようだ
すると女性が男に手を伸ばす。目指すのは男の頬―――ではなかった
「グハッ…!ゲホッ!」
女性の手は男の胸を貫いていた。女性は男の上着にまで血が染みるのを見てニコリと笑った
「やっと…見つけた…♡」
やがて男の意識は遠のいてゆく。男が最後に見たのは、雨に濡れながらもその笑顔を崩さず男の胸から手を引き抜いた女性の顔だ。笑顔だが目は笑っていない。男は口から吐血した後、白目を剥いて崩れ落ちた
「もうこれで…ずっと一緒…♡」
すると暫く真っ暗になる。数秒後、エンディングが流れ始めた。今のはホラー映画の終盤だ。今日は大晦日なのでお笑い番組が多いはずだが、録画したホラー映画を見ている
見ていたのは中学3年生の少年。ソファの上でポテチを食べながら見ていた。やや小柄な体格だ。顔が中性的で、男の子っぽいかと言われれば男の子っぽい。女の子っぽいかと言われれば女の子っぽい。髪は男の子に見えるけど、ショートの女の子にも見えなくもない
ちなみにホラー映画を見たのは「世の中は皆今日お笑い番組を観るから逆にホラー映画観よ」という何とも言えない逆張りである
「あ~…面白かった」
少年は伸びをしている。少年の名前は安藤ゆずき。中3なのでもうすぐ受験だ。しかし…
「あ~…僕受験勉強何もしてない…」
何とこの時期にノー勉。全くやる気が無いのだ。時計を見ると11時を回っている。ゆずきは時計を見て、重い腰を上げた
ゆずきの親は家に居ない。父親はゆずきが幼い頃に他界。母親は最近病気により入院し始めている。そのため年越しは一人だ
ゆずきは一階のキッチンに降りると、手際よく蕎麦を準備する。どうやら普段から自炊しているようだ。そして12時前、自分の部屋で蕎麦を啜る
そしてテレビのカウントダウンのタイミングでジャンプ
「ハッピーニューイヤー!」
そしてゆずきは食器を片付け、出かける準備をする。近くの神社で初日の出を見るのだ。玄関の扉を開けると外はまだ暗く、初詣に向かう人達がちらほらいる
神社はここから十分程の距離だ。ゆずきは家の鍵を閉め、神社に向かう。横断歩道が意味を成さない程に車が通らない。それもそのはず、まだ日が昇ってないのだから
そしてゆずきは神社に着いたのだ。ちなみに、この神社の階段は特に長く、上からの景色は絶景だ。そして遂に…
「初日の出ー!」
周りの人達は日の出に向かってスマホを向けている。そして暫くは皆、この神社の高い位置から見える絶景を楽しんだ
そして日が昇って暫く経つと、辺りがどんどん明るくなる。すると一斉に人が賽銭箱に集まる。ゆずきも列に並んだ
そして遂にゆずきの番になった。ゆずきは予め手に握っていた五円玉を下から軽く投げ、目をつむりながら手を2回叩く
そしてゆずきは願いを心で叫んだ
受験勉強しなくていい様になりますように!
何とも言えない願いだ。そしてゆずきが次の人に位置を譲ろうとした瞬間、空が眩しく光る
「ま…眩しい―――え…」
しかし周りを見てもゆずき以外はこの眩しさに気付いてない模様。段々と視界が歪んでフニャンとしてきた
「お…おい!お嬢ちゃん大丈夫か!?」
「いや兄ちゃんだろ!」
ゆずきを心配する声が聞こえる。どうやら周りから見ると、ゆずきは悶え苦しんでいる様だ。ゆずきは思いっきり目をつむった
そして次に目を開けたときには、心配してくれてた神社にいた人達は何処にも居ない。代わりに真っ白な空間が広がっている。何処までも真っ白なのだ
そして意外な事に、ゆずき以外にも数十人いるのだ。彼らは辺りを見渡したり、他の者とコミュニケーションを図ったりしている
ゆずきは一通り辺りを見渡す。そして後ろに振り返った
ゴツンッ
何かに当たったようだ。目を開けると目の前に現れたのは岩。目の前には2メートル程の大岩の様な物があり、上に誰か座っているのだ
「うわっ!え…さっきまで無かったはず…」
ゆずきの声に周りの者たちも振り返る。大体の者が目を見開いている。そしてゆずきも上を見上げる
そこに居たのは少女。なのだろうか…。何故なら狐の面を被っており、顔は見えない。ちなみに顔全体を覆うタイプなので、口元すら見えない。少女と判断したのは服装だ。まるで神社で働いているかのような巫女服を着ているのだ。少女は華奢で不思議な雰囲気だ
すると少女がフワッと岩から飛び降りた
「ようこそ皆さん…異世界へ」




