スローライフな田舎で、シングルマザー3人の共同子育てやってます♪
「がう♪」
「がう♪」
「がう♪」
「がう♪」
東北とは言え、まだ、柿が実っている季節だった。
4匹の子熊達は、地面に落ちた柿の実を食べようとしたが……。
「がうッ‼」
その時、メスの成獣の熊が威嚇の声をあげた。
そのメス熊は、異常個体と言える程では無いが……メスの成獣のツキノワグマとしては体格は平均を下回り、だが、毛並みなどからすると健康状態は良さそうだった。
また、これも「ツキノワグマとしては平均を外れているとは言え有り得る」範囲内だが、大半の人間が可愛いと思うような顔立ちだった。
「がう?」
「がう?」
「がう?」
「がう?」
メスの成獣の熊は、子熊達を押し退け、柿を食べ……吐き出した。
渋柿だったらしい。
「がう……」
メスの成獣は、別の柿の木を指差した。「指」と言っても、童話の「くまのパディントン」シリーズの英語版では、fingerでもhandでもなく前足と表現されるだろうが。
この辺りは過疎地となって、誰も住んでいない家も多い。しかし、畑や庭の果樹は、そのまま放置されている。
気候の変化などで餌が無くなった熊達にとっては、ある意味で楽園だ。まだ、少数ながら、この一帯に残っている人間にとっては、たまったモノではないが。
メスの成獣の熊と、4匹の子熊は、甘柿らしい別の柿の木の方に向い、のんびりと歩いていく。
次の瞬間、異常極まりない事態が起きた。
たとえ、どれだけ強い煽り口調で、熊なんてさっさと殺せとSNSで主張していても、もし、熊の生態に無知な者であれば、思わずホンワカした気分になるような光景だ。
逆に、熊の生態に詳しい者が見たら生成AIで作ったフェイク映像だと真っ先に疑うような代物だった。
もし、これを、熊に詳しい者が目撃して、それが幻でも何でも無いと確信したならば、恐怖と混乱の余り泣き叫ぶような光景である。
たとえ、それが「熊を安易に殺すな」という意見を強く主張している人間であっても、「熊の生態に詳しい」……ただ、そのたった1つの条件さえ満たしてさえいれば、例外ではあるまい。
恐るべき事に、5頭の熊達は、別の方向から現われた成獣のメス2頭と子熊5頭の他の熊達とじゃれつき合い始めたのである。
子熊同士のみならず、成獣同士でさえも。
人間に喩えるならば、恋人同士が睦み合うような甘い声が周囲に響く。
人間が見落していただけで、彼女達のような熊が生き残り子孫を残し易くなる環境変化が起きていたのか?
それとも、動物園などで熊を多頭飼育する場合と共通する何かの状況が自然状態でも発生・継続してしまったのか?
はたまた、彼女達が単なる異常個体なのかは……現時点では不明である。
そして……。
異様に動作音が小さいドローンが、空中から、この成獣3頭、子熊9頭の群を監視していた。
熊達も……そして、人間達の大半も、この時点では、ある重要な3つの事実に気付いてはいなかった。
1つは、彼女達のような熊こそが、従来の熊以上に、人間にとっての重大な脅威と成り得る事。
2つは、彼女達を発見し、その脅威に気付いてしまった者が、高い知性と合理性を持つが、人間社会の基準では完全な狂人だった事。
最後の1つは……彼女達が、人間の中でも「熊なんか、とっとと殺せ」と強く主張している者達にとってさえ、感情的に許容し難い方法で殺処分される運命が……ほぼ確定してしまった事である。




