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夢の箱庭  作者: Nico
9/14

9.想定外の出来事


空を飛んで爆発音と悲鳴が聞こえた場所に駆けつけると、そこは街の繁華街だった。

視界に飛び込んできたのは、信じられない光景。巨大なタンクローリーが、ファミレスに突っ込んで横転し、炎を上げて燃え盛っている。

熱と煙が夜空に立ち昇り、焦げ付く匂いが鼻腔を刺激した。

ファミレスからは、すでに逃げ出した人たちが駐車場に座り込み、呆然と燃え盛るファミレスを眺めている。その周りには、爆発音を聞きつけて集まってきた人だかりができていた。


俺は空からその状況を見て、驚きを隠せなかった。もちろん、目の前の凄惨な事故の状況にも驚いたが、それ以上に、この夢の世界で、ここまでリアルに、自分たち以外の人間が意志を持っているように動いているのを見たのは初めてだったからだ。



これまでの俺の明晰夢の世界では、人間はほとんど見かけることがなかった。

たまに繁華街で歩いている人を見ても、彼らは表情も意識もなく、まるでロボットのようにただ歩いているだけだった。これは、俺の意識のキャパシティが、他の人間を人間らしく再現するほどの余力がないからだと、勝手に考えていた。



だからこそ、今目の前でパニックになっている人々、座り込んでいる人々、そして集まってくる人だかりの、その一つ一つの表情や動きに、俺は驚きを隠せなかった。


「タクミくん、あれ……!」


シオリが震える声で、燃え盛るタンクローリーを指差した。運転席から、運転手が這い出そうとしているが、うまくいかないようだ。


「あの人たちは、タクミくんが作ったものなの?」


シオリの問いに、俺は動揺した。


「ありえない……こんな大人数を、こんなリアルに……俺じゃない」



俺の知る明晰夢の世界の法則が、すべて崩れ去っていくような感覚に陥った。俺が作った世界じゃないなら、一体誰が……?焦りで頭の中が真っ白になる。


すると、人だかりが俺たちに気づいたようだ。何人かが空に浮かぶ俺たちを指差し、ざわめき始めた。


その時、シオリが俺の手を掴み、強く言った。


「とにかく、できることをして、あの人たちを助けてあげたい!手伝って、タクミくん!」


シオリの言葉にハッと我に返った。そうだ。俺は、この世界で超人なんだ。そして、シオリもだ。俺は、いつもの冷静さを取り戻し、シオリに頷いた。


「ごめん、俺もパニックになってた。よし、助けよう!」

「俺は運転手をまず助ける。シオリはファミレスの中の人の位置と人数を確認して!」

「分かった!」


俺たちは二手に分かれ、空を飛んで行動を開始した。


俺は運転手のもとへ急行した。

炎が熱風となって顔に吹き付けてくる。運転席のドアは大きく曲がり、それ以上開かない。俺は右手で思いっきりドアを引っ張った。すると、バキバキと音を立てながら、拍子抜けするほどあっさりとドアは根元から千切れ、そのままはるか遠くまで飛んでいってしまった。あまりの威力に、俺自身も驚いてしまった。


「大丈夫ですか!?」


俺は運転手を抱え、空中に退避した。熱風から離れ、少し冷たい風が吹く場所で、駐車場にゆっくりと降り立ち、運転手を寝かせた。

近くにいた男性に「救急車を早く!」と伝え、俺はもう一度飛び立ち、ファミレスに向かう。


「シオリ!人数と位置は!?」

「4人!店員さんが裏口に誘導してくれたみたいだけど、まだ出てこない!なにかあったんだと思う!」


俺は裏口に回った。

鉄製の裏口のドアは、熱で歪んでいる。ドアノブを思いっきり引くと、ドアノブだけがもげてしまった。


「あぁ、もう!」


苛立ちと焦りで、俺は咄嗟に手刀でドアの真ん中を貫いた。そのまま右手をドアと一緒に引き抜く。ドア枠と、その周りのコンクリートごとドアがごっそり引き抜けた。

そこから中を覗くと、目の前に火柱が上がっており、中の人たちが出られないでいる。炎の熱気と煙が、俺の顔を襲った。


「どうすりゃいいんだこれ……!」


俺が途方に暮れていると、空中に浮かんだシオリが指をさした。


「タクミくん、あれ!」


彼女が指差す方向には、ファミレスの屋上にある給水タンクがあった。


「ナイスアイデア!」


俺は迷わず飛び上がり、給水タンクの根本に手をかけた。重量上げ選手のように、巨大なタンクを軽々と持ち上げる。そして、裏口からタンクの中身を一気に流し込んだ。


ゴオォォォォ……!


炎に飲まれる水が、轟音を立てて蒸気に変わる。裏口に続く炎は一瞬で消え去り、煙の中から人々の咳き込む声が聞こえてきた。


「いまのうちに早く!」


シオリが誘導してくれたおかげで、中にいた人々が次々と裏口から出てきた。彼らは皆、安堵と恐怖の入り混じった表情で、俺たちを見ていた。


念のため駐車場に戻って降り立ち、他に取り残されている人はいないか確認したが、もう誰もいなかった。

シオリと、ススだらけの顔をお互い見合わせる。そして、ふたりとも安堵したせいか、自然と笑みが溢れた。

すると、俺たちの周りにいた人だかりから、自然と拍手が起こった。俺たちは戸惑いながら、その拍手を聞いていた。

その場にいてはいけないような気がして、ちょうど救急車と消防車が到着したタイミングで、俺たちは何も言わずにその場を飛び立ち、現場を後にした。



空を飛びながら、俺はシオリと顔を見合わせた。


「何が起こってるんだ……?」


シオリも、分からないと、ただ首を横に振るだけだった。


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