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夢の箱庭  作者: Nico
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8.赤い空


その日は、久しぶりにシオリと夢の中で会うことができた。はじめて出会ったときのように病院にある噴水から公園の噴水を通り抜けて俺の町に来れるようだ。

俺は幼少期から遊び慣れていたからか、強く意識すればほとんど毎日この世界に入れるが、シオリはそうではないらしい。強く望んだとしても、2、3日に一度しか来ることができないようだ。


「久しぶり、タクミくん!」


シオリは満面の笑みで、俺の隣に並んで空を飛んでいた。まだぎこちない動きだが、以前よりずっと滑らかで、人が走るのと同じくらいのスピードで空を飛べるようになっていた。その嬉しそうな横顔を見ていると、俺まで嬉しくなる。


「うん、久しぶり。空飛ぶの、上手くなったね」

「へへ、タクミくんが教えてくれたからだよ。いつもタクミくんを探しながら練習してるんだ」


その言葉に、俺は少し胸が締め付けられた。ベッドの上で動けない彼女が、この世界で、どれほどの努力を重ねているのか。それは俺の知る由もないことだが、その喜びが、彼女の生きる力になっているのだと思うと、俺もこの世界を、もっと大切にしなければならないと感じた。


「今日はどこに行く?何か見たいものある?」


俺の問いに、シオリはきょろきょろと夜景を眺める。


「うーん……そうだ!ねぇ、あそこに行きたい」


シオリが指さしたのは、街の中心にある巨大なショッピングモールだった。


「よし、行こう!少し遠いから練習がてら、線路に沿って行こうか」


俺たちは並んで、電車の線路に沿って空を飛び始めた。電車のレールが、月明かりを浴びて鈍く光っている。地上を走るはずの電車も、ここには一本もなかった。


「この前さ、学校の授業中にユウキが居眠りしてて。それがすげー顔で、カクンカクンってさ。先生もさすがに呆れて、ユウキの顔に落書きしてたんだ」


俺は他愛のない話を始めた。


「それでさ、アヤカはそれ見て大爆笑してて。放課後『笑いすぎて腹減った』って、またハンバーガー食べにいってんの。ただ食べたいだけなんだよ。」

「ふふ、ユウキくんとアヤカさんって、面白い人なんだね」


シオリは楽しそうに笑いながら、俺の話に耳を傾けてくれた。


「面白いっていうか、バカっていうか……。アヤカは毎日、バーガーやらスイーツやら、食べすぎて『今日からダイエットする!』って宣言したくせに、俺がコンビニでバイトしてる時、こっそりチョコ買いに来てたんだぜ。ほんと笑えるだろ?」


俺はそう言って笑った。その時、シオリも笑いながら嬉しそうに話を聞いていた。そして少し真剣な顔で俺に問いかけた。


「ねぇ、タクミくん。タクミくんの夢の世界って、タクミくんの記憶とか、現実の世界のことが、そのまま再現されてるの?」

「どうなんだろうな。俺も少し気になってたんだ。ほら、空飛ぶクジラとか、マッチョな銅像とか、そういうのは俺の想像の範囲内だったけど、意識したことなんてないんだけどな。」


俺はそう言いながら、ふと頭の片隅で、あの不気味な赤色の空を思い出していた。ユウキに見せてもらった写真。


そんなことを話していると、俺たちは目的地のショッピングモールにたどり着いた。俺たちは屋上にある大きな看板の上に腰を下ろした。夜風が心地よく頬を撫でる。眼下には、まるで星を散りばめたような街の光が広がっていた。


「わあ……すごい。こんな景色、見たことない」


シオリは目を輝かせて、その光景を眺めている。


「だろ?現実じゃ絶対に見られない景色だ」


俺はそう言って、満足そうに微笑んだ。


その時だった。


向こう側の空が、ぼんやりと赤く染まっていることに気づいた。まるで、巨大な炎が空を焦がしているかのようだ。


「あ、あれ……なんだろう?」


シオリの声が震えていた。俺もその異様な光景に、息をのんだ。


「空が……赤く染まっている?……どこかで見た気が……」


俺はシオリに、数日前にユウキから見せてもらった写真のことを説明した。


「あれは、タクミくんの記憶が再現されただけなのかな?」


シオリが不安そうに尋ねた。


「どうなんだろうな……。もしそうなら、俺の記憶にある風景が、全部ここに再現されているってことになる。でも、俺はあの写真を一瞬見ただけだしな…」


俺がそう話していると、赤く染まった空が、一瞬、眩しいほどに白く光った。

フラッシュが焚かれたように、あたり一帯が真昼のように明るくなり、次の瞬間、まるで映像が反転したかのように、風景の色が若干青みがかった色に変化していく。

街灯の光、ビルのネオン、車のライト、その全てが、どこか冷たい、薄い青色に染まっていく。


「な、なんだこれ……!?」


俺は恐怖と混乱で、声を上げることができなかった。その変化が、俺たちを包む瞬間、大きな突風に押し出され、二人ともモールの看板から落っこちてしまった。


「うわっ!」

「きゃっ!」


俺たちは慌てて空中で姿勢を正し、地面に激突する寸前でなんとか体勢を立て直した。


「シオリ!大丈夫か!?」

「うん、なんとか……タクミくんは?」

「俺も大丈夫だ!」


一体何が起こったのか分からず、ただ顔を見合わせる。


その時、俺たちの耳に、複数の爆発音と、人々の悲鳴が聞こえてきた。それは、まさに空が赤く染まった、あの方向からだった。


「悲鳴……?まさか……」


この世界は、俺とシオリの想像力で成り立っている。誰かが、この世界で破壊行為を行っているのだろうか?

いや、そんなはずはない。俺は破壊行為はしないし、シオリはそんなことをするはずがない。


「どうしよう、タクミくん……」


シオリの顔が恐怖で歪んでいる。俺は彼女の手を強く握り、空を飛んで、その爆発音の方向へと向かった。


心の中では、嫌な予感が膨らんでいく。


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