私の人生は没落から始まる
「どうもお世話になりました」
私エレーナ・トラビックはそう言って深々と頭を下げた。
「まぁこれから大変だろうけど生きていりゃ良い事はあるから頑張れよ」
騎士が私に励ましの言葉をかけてくれた。
「ありがとうございます、それでは失礼いたします」
私はそう言って貴族専門の収容所を跡にした。
これで私も平民になってしまったのね……。
私の実家であるトラビック公爵家に騎士団が攻め込んで来たのは一ヶ月前の話。
なんでも内部告発があったらしく両親、妹、使用人全員捕縛された。
当然、私も捕まったんだけど正直私はノータッチだったから家族が何をやっていたのかは知らなかった。
結果的に私は無罪放免となり釈放されたんだけど、当然我が家は爵位返上の上取り潰しとなった。
王太子様と婚約していたんだけど勿論白紙となった。
王家から使いが来て婚約解消の書類にサインしてそれで終わり。
私と王太子様の薄っぺらい関係そのものの終わりだった。
私としては常に人を小馬鹿にする王太子様の顔を見なくて良くなったのは良い事だ。
「そういえば結局、お父様達は何をして捕まったのか教えて貰えなかったわね……」
取り調べの際、私は自分が家族の中では常に疎外されていた事とか妹に物を奪われていた事とかお父様に暴力を振るわれていた事とかを全て話した。
余計な事まで言っちゃったかなぁ、と思っていたけど取り調べを担当した騎士の話が上手くてペラペラと話してしまった。
まぁ、事実だからしょうがない。
「でも考えてみたらこれはこれで良かったかもしれないわね」
今までは周囲の顔色を気にしたりしていたけどもう貴族ではないのだからそんな事を気にしなくていい。
そう考えたら気持ちが軽くなった。
「まずは一旦家に戻って荷物を纏めてから考えましょう」
私は貴族街にある屋敷へと向かった。
屋敷に到着すると門は固く閉ざされ見張りの兵士達がいた。
私が荷物を取りに来た、と言ったら話が入っていたらしく門を開けてくれた。
屋敷の中に入ると飾られていた美術品は無くもぬけの殻になっていた。
多分、押収されたのだろう。
私は自分の部屋へ向かい荷物を纏めた。
荷物と言ってもカバン1つに入るぐらいの荷物しかない、殆ど妹に奪われたり壊されたりしてしまったので。
「あぁ、この本は残っていたのね」
机の上に置かれていたのは錬金術の本、実は私、国家錬金術師の資格持ちだったりする。
なんでそんな資格を持っているのか、と言えば将来の為としか言えない。
なんせ王太子の婚約者という立場だけでこの家に入れたんだけど王太子様に捨てられたら家は追い出される。
そうなったら困るので手に職をつけておこう、と思い王妃教育の傍ら錬金術師を勉強していた。
そして1年前ぐらいに国家錬金術師の資格を取ったのだ、この事は家族にも王太子様にも言っていない。
「かなり早まったけど錬金術師として独立しますか」
公爵令嬢エレーナの人生は今日でおしまい、これからは錬金術師エレーナの人生が始まる。