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1 追放

―――そして10年後




「《剣聖》ヒスト、貴方を勇者パーティーから追放する」




ヒストは勇者にパーティーを追放されていた。




10年前、村に保護されたルシアは、強さを買われて『勇者パーティー』に入ることになった。そのすぐあとルシアは聖剣に選ばれ勇者となり、王国の使者が村にルシアを迎えに来た。


一緒に戦っていたのを知り、王国はヒスト達を勇者パーティーに任命した。不遜な自称が真実になり、ヒスト達は史上最強の勇者パーティーと呼ばれるまで成長し、魔王討伐へ向かい―――敗北した。




「そんな、どうして―――......!俺は今まで《剣聖》としてパーティーに貢献してきたはずだ!」




(《剣聖》は最も優れた剣士として王国に認められた者に贈られる称号だ。俺は小さな頃の夢のように勇者にはなれなかったが魔王討伐に関われることを誇りと思ってきていた。それなのに......!)






「貴方がお荷物だからよ。


剣士なんて、剣聖に選ばれた勇者である私がいるんだからそれで十分なのに、そんな称号まで貰って恥ずかしいと思わないの?魔王に敗けたのだって貴方のせい!」




「魔王に敗けたのは、最後にルシアが魔力切れを起こして聖剣を使えなくなったからだろ?


......お前が昔から俺の事をよく思ってなかったのは知ってるよ。でも、せめて魔王を倒すまでは我慢してくれないかな?頼むよ!」




いつも無口なルシアは嫌に今日だけ饒舌だった。二人だけの声が響く王城の一室にヒストの懇願が木霊する。


魔王を倒す方法は特殊で神の力が込められた聖剣でないとトドメは刺せない。しかし、魔王討伐の最終局面、勇者が魔力をこめないと扱えない聖剣が使えなくなり、エリスの転移魔法で撤退した。




(魔王への再戦の準備がやっと揃ってきていたのに.....!)






「......これはパーティー全員の総意。二度と王都に近づかないで!出てってよ!!」




「ぐッッ!!」




―――パーティー全員の総意。そうか、俺は知らないうちにティールやイルダ、エリスにもお荷物だと思われてたんだな。『勇者がいるのに剣士なんていらない』そんなことを思われていたのか。


絶望で目の前が暗くなっていく心地をヒストは味わっていた。




ルシアの振るった聖剣の斬撃の余波で吹き飛ばされたヒストは王城の壁を突き破り門の外まで吹き飛ばされる。受け身は取ったが、ミシミシと体があげてはいけない音をあげている。


背中を地面へ擦り付けるように着地した。








ぽよんっっっ。




(ん....? 柔らかい感触が頭に.......)




「きゃあっ?!人が飛んできました!」




「ご、ごめん!


お、俺はヒスト。君は......」




一泊おいてヒストは自分の後頭部が人の胸に触れる形になっていることに気付き顔を赤らめ慌ててどくと、精一杯怪しさが減るようにと名乗る。


艶々とした長い黒髪は質の良い白いリボンで高くひとつに結われていて、見開かれた瞳は青空をそのまま写したかの様。ルシアのような近寄りがたい美貌とはまた違う、可憐な容姿の美少女がそこにいた。




「あの...今、王城から飛んできましたよね?


私はリシェル、勇者です。そう名乗ったところ、さっきちょうど追い出されて......」








****








「つまり君は、自分が勇者であることと魔王を倒す使命があることだけを覚えている記憶喪失で......それを王城の門番に言ったら怒られて追い返されちゃった、ってこと?」






「はい。.....やっぱり信じてくれないですよね」




「申し訳ないけど......そうだね。勇者が生きてるのに新しく選ばれるなんて聞いたことないし、にわかには信じがたいよ。......でも君が嘘を言ってるようには見えない」




聖剣が次の勇者を選ぶのは今代の勇者が死んでから。ルシアが聖剣に選ばれたのも前代の勇者が死んだタイミングだった。




「! なら、王国に取り次いでもらえませんか?お城の関係者ですよね」




「分かったよ。俺の話を聞いてくれるかは分からないけどやってみる」






「ヒストさん......!いや、師匠......!!」




(師匠......?)


緊張の糸が切れたように、ぱぁ、と太陽が咲くような笑みをリシェルは浮かべる。


リシェルが後ろから見守る中ヒストは重厚な鎧を纏った門番のもとへ寄ると声をかけた。








「すみません、剣聖のヒストです。陛下に取り次ぎをお願いしたいのですが......」




「お前勇者に王都から追放された剣聖だろ!取り次げる訳ないだろうがーーー!!!!」








****










「師匠をつまみ出すとは......。なんて失礼な人たちなんでしょう......!」




「リシェルの力になれなくてごめんね。


......はぁ。王都も追い出されちゃったし俺、これからどうしよう.....」




門番につまみ出された二人は王城が見える近くの草原に座っていた。リシェルに追放されたいきさつを話したら、彼女はさっきからずっと憤っている。








「師匠!良ければ私と一緒に魔王を倒すための旅に出ませんか?聖剣さえ手に入れば私は魔王にトドメを刺すことができます。


私には魔王を倒す使命があるし、それに、師匠を追放したパーティーの人達に復讐もしたいので!」




リシェルがその膨らみごと胸を張る。






「復讐ってそんな大袈裟な......」


苦笑して、僅かに目線を上に向けたヒストは立ち上がった。




「......俺、小さい頃は勇者になるのが夢だったんだ。勇者にはなれないって分かって、でも、魔王を倒そうって気持ちは全然変わらなかった。


―――リシェル。君と、旅がしたい。」






「それじゃあ、改めて......よろしくお願いします、師匠! ―――私を弟子にしてください!」




「こんな追放された師匠で良ければ喜んで」




「ちょ、ちょっと師匠~!それを言うなら私も偽物の烙印押されて追い出されてますっ!」




「ははは、追放師弟だな」




「笑い事じゃないですよぅ~!」






数十分前の絶望が嘘みたいに、晴れやかな気分だった。それはおそらく、リシェルの太陽のような明るさとこちらを射抜くような真っ直ぐさのお陰だろう。


パーティーは理不尽にクビにされてしまったし、幼なじみ達からは疎まれていたし、王都からは追放された。でも不思議とこれからのことに不安はない。




「聖剣をどんな方法で手に入れるかは置いておいてまずは体制を立て直さないとダメだ、収入を稼ぐためには冒険者になるのが手っ取り早い。

まずは王都から一番近い冒険者ギルドがある町―――アンファングへ行こう!」

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