プロローグ
昔々、人間が大好きな心優しい神様がいました。
神様の名前はエスといって、イドという人間の少年と暮らしていました。
けれど、どんな人間にも寿命があります。イドの死を嘆いた神様は深い眠りへつき悲しみを癒すことにしました。
眠りにつく前、神様はこう言いました。
「ボクからひとつ、人間に祝福をあげる」
神様からの贈り物の種は芽吹き、やがて財宝の産まれる大きな樹になりました。
今でもその樹は世界樹と呼ばれ大切にされています。
―――『或るお伽噺』 より
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「世界樹は今、すべての国を属国にしている王国が管理しているの。どこにあるのか王様以外は誰も知らないんだって!」
ティールがふわふわとした銀髪を揺らしながら興奮したように言う。読書が好きで博識な彼女は俺にこうして知識を披露してくることが時々あった。
ティールが村の中でも有数の商人の家の娘なのも理由だろう。
「へえ!いつか見てみたいな!......でも、今の俺たちにはこの小さな村の平和を守るので精一杯だもんなぁ。世界樹探しの旅に出るのなんて夢のまた夢だ」
「......大人の人たちはヒストに頼りすぎなんだよ。いくらヒストやイルダが強いからって、村の防衛を9才の子供たちに任せるなんておかしいもの」
「これで皆が安心して暮らせるならそれでいいじゃないか。『勇者パーティー』の皆は大人よりも強いし」
田舎の村にはまともに戦える者なんていないし、王国からの騎士団の派遣も望みにくい。魔物から村を守るのもやっと―――それはヒストたちが生まれる前の話だった。
ヒストは皆を守ろうという一心で幼い頃から鍛練を重ね大人顔負けの剣の腕を手に入れた。そして3年前、ティールを含む幼なじみたち3人と、魔物から村を守るための『勇者パーティー』を結成したのだ。
「その名前もどうかと思うよ?......まあでも、私はヒストのそういうところ好きだなぁ」
―――この世界には、魔物たちの王・魔王を倒す宿命を持った勇者がいる。勇者は生まれながらに強く、前代の勇者が死ぬと魔王を倒せる剣《聖剣》に選ばれる。勇者とその仲間たちは『勇者パーティー』と呼ばれていて彼らが魔王が倒すのは皆の憧れの英雄譚だ。
それを自称するなんて不敬だが、田舎だからと咎められないことを良いことに俺たちは名乗っていた。
「なぁティール。皆には秘密にしてほしいんだけどさ、実は俺、勇者になって魔王を倒して世界を救うのが夢なんだ!」
(そうすれば魔物も減って皆安心して暮らせる!もう奴らに怯えなくて良くなるんだ!)
「ヒストは剣が大好きだし、きっと聖剣に選ばれるよ。私、応援してる!」
これからも剣の鍛練を頑張ろう、そうヒストが決意を新たにした時だった。鋭い笛の音が村に響く。
「方角は......北の森か?『勇者パーティー』の誰かが笛を鳴らした!魔物の襲撃だ、行こうティール」
「うん!」
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森ではイルダとエリスが先に来て魔物と戦っていた。
「ヒース!来てくれたんだね!」
「ヒストお兄ちゃん!さ、索敵魔法を使ったらね、あっちに女の子がいたの......ここはなんとかするから助けてあげて......!」
エリスがゴブリンの頭部を魔法で出した氷で貫きながら俺に必死に訴える。
「分かった!ティールはここに残って二人のサポートを頼む」
三人を置いて走り出す。今回の襲撃は上位危険度のゴブリンもいた。俺たちは倒せるが、早く向かわなければ一般人の命はかなり危ないだろう。
木の間を素早く抜けながらしばらく走ると、長い金髪の後ろ姿が見えた。ボロ切れしか纏っていない。
近くにはゴブリンの姿もある。
「はぁぁぁああ!!!」
剣に炎を纏わせゴブリンを切り伏せる。少女の方を振り向くと、見開いた碧の瞳と目が合った。
これが俺と勇者―――ルシアの出会いだった。
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