〜蟠り〜
「女の子の大事な秘密を覗き見るなんて、君には少し、でりかしーというものが足りていないんじゃないかい。」
俺は魔法を使いリオスの記憶を探った。見様見真似だったが、意外となんとかなるもんだ。部分的ではあるとはいえ、リオスの過去の記憶を垣間見る事ができた。
「お前がデリカシーって言葉を知ってるなんて意外だな。」
「・・・」
リオスは少し照れ臭いのか、前髪を直す振りをして俯いて見せた。
リオスの判断は間違ってないように思える。強大な敵が近づいている、だから逃げる。単純明快な話だ。だが、その話には足りてないものがある。それはこいつの『寂しい』という気持ちだ。
生まれてからずっと一人。やっと対等に話せるようになった俺という存在。自分で言ってて恥ずかしくなるような話だが、逆の立場になって考えてみれば難しい話じゃない。俺だったら、一緒に居たいって思うだろう。でも、『じゃあ一緒にいよう』と言えるほど簡単な話でもない。だって、リオスは俺のことが___
「あのさ、もう離してもらっていいかな?」
「うおっ! ごめ__」
今更になって自分を俯瞰した。端から見たら少女を抱きしめる変態だ。
「・・と、とにかくさ、僕はこの村から消えるから。それはけってーじこーね。」
「___それは・・」
「はいはい、もういいから! また、どこかで会えるのを楽しみしてるよ。」
リオスは俺を突き放す。
「バイバイ、またね。」
そう言って、リオスは羽を伸ばし、空高く舞った。
以前に見たときはあんなに恐ろしく感じた翼だというのに、今は、なんだか儚いものに見えた。
「はぁ!? アンタそれで逃した訳!?」
セリスに話したところ叱責が飛んできた。話の大部分は伏せておいたが、例のドラゴンがリオスを狙っていて、リオスは村に迷惑をかけないために村を出たという話をした。話の大筋は間違ってないはずだ。
「はあ・・・見損なったわ。」
そこまで言うかねセリスさん。あなたリオスのこと相当毛嫌いしてましたよね?俺にだって言い分はあるんですよ?
リオスの記憶に潜ったとき、アイツは俺の事が、俺の事が____好きだと言う事が分かってしまった。だから、俺に被害が及ばないように逃げるというか、一縷の望みにかけて戦うという選択肢を取ったのだ。こればっかりは、誤解ではない。だったらしょうがないじゃないか。
「それがアイツのやりたいことなんだから、やらせてやるのがアイツにとっての幸せだろ。」
「・・・アンタ、何も分かってないわね。」
はい?何も分かってないってどういう意味だ。俺は魔法を使ってアイツの中に潜った。リオスの気持ちは俺が一番分かってんだ。誰に向かって何も分かってねえって?
「・・・どういう意味だよ。」
「そのままの意味よ。アンタ、リオスがやりたいようにやる事が、そうさせてあげる事だけが彼女の幸せだと思ってるの?」
「そりゃ、そうだろ。アイツは自分で___」
「違うわ。全く違う。彼女のやりたいことと、彼女の幸せは一緒ではないのよ。人間の大部分はそうだけどね。自分の幸せを犠牲にしてでも、やりたいことがある場合だってあるのよ。その矛盾を___、その蟠りを埋めてあげる事ができるのは、周りの人間しかいないわ。」
セリスは言い切った。自分の幸せを犠牲にしてでもやりたいこと___。
「・・・リオスは___寂しがっていた、羨ましいと思っていた、俺を。」
「なら、するべき事は一つなんじゃない?」
「___アイツを助けにいく。」
アイツが逃げるとしたらどこか。そんなな予想は立てる必要はなかった。何せ、アイツの魔力の感覚は肌で覚えている。
「ちょうど南に向かってるな。」
「南ってことは、、、あの湖の方ってことかしら?」
「そうなるな。あの巨大な・・・」
セリスは飛んでいる俺の背中におぶさっている。着いてくるのを俺は止めたが言うことを聞かなかった。言い合いしてる間にも、リオスの気配が遠ざかっていくのがわかったので、連れてこざるを得なかった。
エルデン村の南にある、巨大な湖に向かっていた。時刻はもう深夜の1時を回った頃合いだろうか。
追い続けていたリオスの動きも止まっていることが気配でわかる。疲れて止まったのか、俺たちに気づいて止まったのかはわからないが、、、。
とにかくこれで___
「追いついたぞ。」
リオスは木の根元に腰掛けていた。
「・・・はぁ、せっかく遠ざけてあげたってのに、追ってくるなんて君たちは馬鹿なのかい?」
罵倒する言葉だが、その語気は弱々しい。
「そっくりそのまま、その言葉をお返しするわ! バカはあなたよ!」
セリスは俺の背中から降りるや否や、リオスに抱きついた。あら、あなた達そんなに仲がよろしくっていたのね。
だが、、、やっと追いついた。リオスは疲弊しているが、外見的には損傷はない。ノクターナスと戦闘を行ったわけではなさそうだ。
「・・・お前が一人で戦おうとしてたことは、わかってた。」
「・・・」
リオスは推し黙る。言わなくてはならない。何故、俺がここに来たのかを。
「___俺は、お前を一人にはさせない。もう『寂しい」なんて、思わせない。」
何故、俺はここまで、奴に与しているのだろうか。自分でもわからない。ほっとけば良かったのかもしれない。でも、ほっとけなかった。
「__っ、、、やっぱり、バカだよ・・・。君は、、、。」
そう言って、リオスは俺に抱きついて来た。セリスが怒るかなぁ、なんて、ちょっと思ったけど、セリスは満足げに腕を組んで口をへの字に結んでいた。
俺の取った選択は正しかった___。そう思いたい。
翌る日。日が昇ると同時に俺たちは会議を始めた。ノクターナスをどう退けるかについてだ。だがここで一つ問題がある。セリスだ。セリスに、ドラゴンについて話すべきか否か。そこでまずはがまず問題になった。
俺は適当な理由をつけてリオスを物陰に誘い出し、事情を説明した。セリスは真っこと訝しがっているようだが、こればっかりはしょうがない。リオスと俺は木の陰で話し合った。
「セリスのことなんだが、、、。」
「あぁ、僕もそこについて話そうと思ってたんだが___」
「いっそのこと殺しちゃえば?」
これはリオスの冗談だ。冗談だが、お前、冗談でももう少しセリスに感謝した方がいいぞ。俺が今ここにいる主たる要因はセリスなんだから。
「ま、冗談はさておき。・・・もうここまで来たら伝えるしかないだろうね。」
「・・・そうだな。面倒ごとに巻き込むのは申し訳ないが、、、。」
「どうせ、彼女が勝手に着いてきたんだろ? 自業自得さ。」
「そうだな、自業自得だな。なんせ、お前を助けるためにここまで来たんだから。」
リオスは青い目を丸くしていた。ここはちゃんと言っておいてやらんと、セリスだって可哀想だ。
「とにかく、ドラゴンについては俺から話す。リオスは聞いていてくれればそれでいい。」
俺達はセリスのいる方へ戻った。
正直、時間はない。奴がかなり近くまで来ていることがわかる。自分自身の気配を隠すつもりはないようだ。
「___セリス。話しておかなければならないことがある。」
「何かしら? あっちでこそこそと話してたことと関係があるわけ?」
「・・・ある。」
「はぁ、歯切れが悪いわね。 さっさと言いなさい。」
「驚かないで聞いてくれってのは、無理があると思ってる。だが、これから来るもののことを考えると今伝えなきゃいけないと思うんだ。」
「・・・」
「俺は、いやリオスを含む、『俺達』は、____『ドラゴン』なんだ。」
「・・・」
「今まで黙っていてすまない。何を言っても言い訳にしかならない、だが今は協力し
____」
「はあ、ようやく、言ってくれたのね。」
セリスは全くと言っていいほど驚いていなかった。
「・・・お前、気づいて、、、」
「当たり前でしょ。何回アンタと旅したと思ってんのよ。」
「セリス、、、。」
だが、おかしい。普通の、この世界の住人ならば、ドラゴンは忌み嫌われる存在だ。
「じゃあ、お前、なんで・・・」
「時間、ないんでしょ、さっきからおっかない気配がどんどん近づいてきてるわよ。 まずはそっちなんじゃないの?」
理由はわからないが俺たちに協力してくれることは確かみたいだ。セリスが味方なら心強い___。というか、嫌われなくて、良かった、そんな風に思う俺は女々しいだろうか。
「奴は更に南方からやってくる。」
俺は行き付けに持ってきた地図を広げる。俺たちは北からこの湖にやってきた。ノクターナスは南から俺達に近づいてきている。つまり戦う際には、この湖を挟んで向かい合う形になる。
「この湖をどう利用できるか、それが俺たちの勝敗にかかっている。 対岸から来る奴は、まず間違いなくドラゴンの姿でこちらに飛翔してくるだろう。」
リオスによるとノクターナスは暗黒龍だ。能力としては、人心、龍心?の完全掌握だ。はっきり言って、真正面から挑んだのでは勝ち目はない。出会い頭に頭の中を弄られたんじゃあ、そこでゲームオーバーだ。
だからこそ、奴を見ない。
「このロープを使う。」
俺はそう言って、俺の鬣を元に作られたロープをセリスとリオスに見せる。
「このロープの両端を持っていてば、俺とリオスは意思疎通を図ることができる。」
「そこで、リオスには俺の『目』になってもらう。」
「・・・ふーん?」
リオスはロープを伸ばしたり、縮めたりしている。
「そう、これは俺の鬣で作られている。おそらく半径2、30キロくらいまでなら伸び縮みするだろう。」
「・・・キロ?」
リオスもセリスも不審げだ。おっと、この世界にキロという単位はないんだっけか。
「___まあとにかく、俺はリオスと繋がったまま、この湖の上空を飛び回れるってわけだ。 その間、お互いに意思疎通は可能だ。 だからリオスは、俺とノクターナスが戦っている間、俺に戦闘指示を出してくれ。 俺はその通り動く。」
「・・・ふんっ」
セリスは不満げだ。仲間はずれみたいで悲しいのかな。
「セリスにもやってもらうことがある。」
「・・・ふん?」
今度は少しばかり嬉しげな『ふん』だ。ちょっと可愛い。
「セリスには奴の、両目を潰してもらう。」
「私が?」
「そうだ。これは一種の賭けになるが、、、おそらく奴の能力は目によるものだと俺は踏んでいる。 だってそうだろ? もし位置、距離関係なく俺たちの人心を掌握できるのであれば、わざわざ俺たちの所まで出向く必要はない。」
「奴の能力はそれなりに対象の近くまで近づかなければならないわけだ。 それで相手を自身の術中にはめる。」
「であれば、最も可能性の高いものは視覚、もしくは聴覚に頼った魔法だろう。 だから、俺は自信を変化させて目が見えない状態にする。」
「仮に音に頼った魔法だった場合には?」
リオスの反論は最もだ。
「そうだとしたら___終わりだな。何かしらの音を立てて近づいてきた場合には
、一斉に逃げよう。人里の方にな、人間様にはご迷惑をおかけすることにはなるが、、、奴とて人間と無駄な争いをしたいわけではあるまい。」
「・・・はあ、杜撰な計画ね。」
セリスに言われると本当に杜撰な計画な気がしてきた。まあ実際、杜撰だ。でも、時間はない。ないものねだりしていてもしょうがないのだ、今できることをするしかない。
「両目を潰し終わったら、あとは湖の中に奴諸共引き摺り込む。水の中なら、ある程度は優位に立てるはずだ。」
こうしている間にも奴は近づいてきている。
「だから計画をまとめるとこうだ。まずは俺が両目が見えない状態で奴と戦って時間を稼ぐ。その間、リオスは俺に戦況の報告だ。時間を稼いでいる間に、セリスは奴の両目を潰す。潰し終わったら、俺は水中に潜る。あとは俺に任せろ。」
セリスの射撃の腕、リオスの戦闘感覚の良さ、ノクターナスの魔法が視覚に作用するものであること、これらの仮定に仮定を重ねた、凡そ作戦とも呼べないような代物だ。
だが、やる。今の俺にできることはこれくらいだ。
「それで水中に入って、勝てると思ってるわけ?」
リオスの指摘だ。
「それも、やってみないとわからん。 だが、俺は『水』を司るドラゴンだ。勝算はある。」
本当は勝算なんかない。だが、言い切っておかないと二人を不安にさせるだけだ。
奥の手もある。というかこれしかない。
あぁ・・・___こんなはずじゃなかったんだけどなあ。ゆっくり田舎で暮らせれば、俺は、それだけで幸せだったはずなのに。
「・・・・来たよ。」
リオスがロープを念入りに確かめながら言う。
「・・・っうし、それじゃ、作戦通りに!」
「___まって!」
セリスに腕を掴まれる。
「っおま、こんな時に___」
グッとセリスに身体を引かれ_____キスされる。
「・・・っこ、こんな時に言うことじゃないのは、わかってるけど。戻ってきたら、話すことがあるから、ちゃんと、戻ってきなさい。」
セリスは顔を赤らめ、告げる。
___悪いが、その望みは叶えられそうにない。だが___
「当たり前だろ、また綺麗な夜空。見せてやるからさ。」
俺は嘘を吐いた。
微かにドラゴンが羽ばたく音が聞こえる。だが、それ以外に特殊な音は聞こえない。
「よし、作戦続行!」
俺はドラゴンの姿へと変化し、目を潰す。
「あとは頼むぞ。」
「任せてよ。」
そう言って力なく笑うリオスの顔はもう見えない。
その代わりに彼女と__『繋がる』。
『聞こえているかい。』
『あぁ、感度良好ってやつだ。』
『なんだい、それ。』
『こっちの話だ。』
『あっそ、それじゃあ、行くよ!』
行くのは俺なんだが、、、とも思ったが、これもリオスには聞こえているんだろう。今の俺たちは二人で一つの意識を共有しているようなものだ。リオスが『行く』と言う気分になるのも無理はない。
最も、俺の最終的な意思決定がリオスに伝わっているのか、いないのか_________そこは定かではないが。