クロちゃんとエミリア王女
『モブに過ぎない衛士の俺が、「氷の令嬢」と呼ばれる悪役令嬢をお持ち帰りするハメになった件~気づいたら勝手に惚れられてたんだけど⁉~』でおなじみ、クロちゃんシリーズ。こぼれ話を書いていこうかと。
モフモフヒーロー企画に参加しています。
【登場人物】
クロウ・アカツキ ロックガルド城のモブ衛士
エミリア王女 クロウを可愛がっている(?)王女
エリザベート クロウが助けた公爵令嬢
「待ちなさい、クロウ!」
城門警備の仕事をサクサクと片づけて、あとは衛士の詰め所にいって報告書を書きあげたら終わり。同僚からの飲みの誘いはうまいことかわして、宿舎に帰ったらベマ戦記を読むぞ!
……などと考えていたことは顔にはださず、俺はくるっとふり向いてビシッと敬礼をした。ロックガルドの城で俺を呼び捨てにするのは、上司か同僚に決まっているが、それ以外だとたったひとりだ。
ラウル殿下の妹、今年十一歳になったばかりのエミリア王女殿下が、両手を自分の腰にあて仁王立ちしている。
くるくると縦巻きロールにした輝く金髪に赤いリボンを結び、ふわりと広がった豪華なドレスはプリンセスそのものだ。
俺はビシッと敬礼したまま、モブの衛士らしく声を張りあげた。
「ごきげんうるわしゅう存じます、エミリア王女殿下!」
エミリア王女はフンと鼻を鳴らし、自分の縦巻きロールを手で肩から払う。
「ホント鈍くさいのね、あたくしから声をかけさせるなんて。いいことクロウ、あたくしの姿を見かけたら、すぐにすっ飛んで来なさい!」
「は!」
いや、俺はべつに王女係じゃねぇし……とは言い返さず、短く応えてビシッと敬礼は崩さない。このエミリア王女、ラウル殿下を見て育ったせいか、わりとワガママでめんどくさい。何かぷりぷり怒ってるが、うまいことやり過ごして詰め所に戻りたい。
「では、詰め所にて報告することがありますので!」
「待ちなさいよ!あたくしがお前を呼びとめたのよ。まだあたくしの用事が終わってないわ!」
「は!そうでありました!」
ええと、これは何の嫌がらせだろうか……図書館で借りたベマ戦記を返すのが遅れるじゃねぇか、次の休みに続きを借りる予定なのに!
いいや、報告書はササッと書いて適当にあげちまおう。何て書くかな……今日は城門で故障した馬車は三台、その騒ぎで気分が悪くなった乗客のおばあさんを救護室に運んだ。お、いいね。それ書いときゃ完璧!
「ちょっとクロウ、聞いているの?」
「は!」
……ちっとも聞いてなかった!
エミリア王女はぷくっとほっぺをふくらませた。子どもっぽいと言えば子どもっぽいが、可愛いっちゃ可愛い。
王女は喜怒哀楽がハッキリしていて扱いやすいが、城の者が自分のために働くのは、当然だと思っているふしがある。
「エリザベートお姉様を助けたことで、クロウはロシュ公爵に気にいられたのですってね。ずるいわ、クロウとお茶を飲むのは、あたくしだけの特権なのに!」
「は……」
ええと俺、王女とは一滴も茶を飲んだことはないんだが。もしかしていつも警備と称して駆りだされる、エミリア王女のお茶会だろうか。
猫型獣人の俺は頭の上にツンと立った耳とか、歩くと揺れる尻尾とかがなぜか王女に気に入られている。
壁際につっ立った俺が、話しかけられれば「は!」と返事をし、それを見た王女が「クロウってホントに可愛いわ」と満足げにお茶を飲む。ただひたすら時間が過ぎるのを待つ、アレのことだろうか。
護衛騎士が見かねて王女をたしなめた。
「エミリア殿下、その衛士は詰め所に向かう途中です。用もないのに呼びとめてはなりません。それに公女を『お姉様』と呼ぶのは……」
「何言ってるの。用があるから呼びとめたに決まってるでしょう!エリザベートお姉様のことはラウルお兄様と婚約する前から、あたくし『お姉様』とお呼びしているもの。婚約破棄なんて関係ないわ!」
どうやら先日の一件で、ロシュ公爵自ら衛士の詰め所に出向き、俺を公爵領に招いた件が王女にもバレているらしい。まぁ、公爵が派遣した設計士が城にやってきて、測量や新しい詰め所の設計図まで作り始めたから、王女の耳にも入ったんだろう。
それに公爵の派遣した設計士は、どさくさに紛れて詰め所だけでなく、城の測量まで終えてるし!
堂々と城を丸裸にするとは、政争ってヤツは怖いのね。ま、俺は関係ねぇけど、公爵だけは敵に回したくないなぁ。
ていうか、それもあった。公爵領へ出発する日はもうすぐそこだ。ちょっと誤解は解いておかないといけない。
「エミリア王女、返答をお許しいただけますでしょうか」
エミリア王女は意外そうに目を丸くした。
「あら……いつも『は!』しか言わないお前が、話をするなんて。いいわよ、聞いてあげる。だってあたくし寛大ですもの」
喜怒哀楽がハッキリしている王女は、わかりやすいと言えばわかりやすい。まぁ、それでもめんどくさいけどな!
俺はなるべくキリリとした顔を作った。
「私がロシュ公爵領に向かうのは、あくまで業務です。衛士隊へ公爵領へ〝剣術指南役〟の派遣が要請され、私に白羽の矢が立ちました。公爵令嬢とは何の関係もありません」
たぶんきっと。そう願いたい。俺の説明は効いたのか、エミリア王女の顔がパアッと明るくなる。
「剣術指南役……じゃあ、クロウはちゃんと戻ってくるのね!」
うん、たぶん。首と胴がくっついてて、脚がちゃんと体から生えていれば。ちょっと不安になりながらも、俺は短くいつものように「は!」と応えた。
エミリア王女は満足したのか、いっきに機嫌がよくなった。
「ならいいわ。公爵家の〝剣術指南役〟を務めたとなれば、騎士にだってなれるわよね。そうしたらあたくしようやく、クロウを護衛騎士にできるわ!」
……へ?
いや、俺はモブに過ぎない衛士の仕事が、自分でもすんごい気にいってんだけど⁉
「光栄に思いなさい。ロックガルドの第一王女である、あたくし専属の護衛騎士にしてあげる!」
待てよ、おい!
姫さんの護衛騎士が顔を引きつらせて、すっごい目つきで俺をにらんでるんだけど⁉
そして俺は絶対に城に帰ってきちゃ、いけないような気がする!
俺は報告書だけでなく、戻ってきた後の辞表の文面まで考えるハメになった。
エミリア王女は初登場。
こぼれ話をちょこちょこ書いていきます。