さえずる鳥がつぶやいたとんでもないこと
すぴー、どぴー!!!
どぺぺペペぺ……
最近、鳥の鳴き声が気になっている。
マンションの五階…最上階に住んでいるのだが、窓を開けていると鳴き声が筒抜けてくるのである。
じちゅー、ぴぎ、ぴぎ…
けるるるるる……
あまり聞いたことのない、独特で…個性的な、鳴き声。
おそらく、屋根の部分に鳥がいて、朝もはよからけたたましく己の存在を誇示しているに違いない。
この辺りにはカラスや鳩も多いので、陣地合戦が繰り広げられていると思われる。もしかしたら巣を作ったのかもしれない。
時折出窓の屋根の上でガサゴソ音がするのは、下方に見える電信柱の変圧器の上でくつろいでいるハトを偵察するために足を延ばしているからだろうか。
ごくまれに屋根の端っこから鳥のつま先?のようなものが見えるので、何らかの鳥類が住み着いていることは確実だ。
動画に撮って、面白い鳴き方の鳥がいるという動画を作ったら…バズるかもしれない。
窓辺の棚の上にスマホをセットし、1時間ほど録音をしてみることにした。
音声は、ことのほか綺麗に録れていた。
これならばループ再生もできそうだ。
長尺のリラクゼーションBGMを作れば再生を稼げるかもしれない…、 そんなことを思いつつ、動画の編集をするためソフトを立ち上げる。
適当な素材動画とあわせ、音声を重ね、一時間の動画に仕上げ、動画を出力する。サムネイルを作り、概要欄を書いて…アップロードが完了した。
……そうだ、ショート動画も作っておこうかな。
最近はショート動画から視聴者がつくことも珍しくない。
一時間の動画を一分にしたものを作るか、普通に一分分だけ切り取るか。
……まあ、いろいろ作ってみるか。
長尺動画をカットする場所を探していると、通りかかった救急車の音に反応したのか、やけにギャアギャアと鳴いている部分を見つけた。
この部分を使おうと思い、適当にカットして…ほかの部分を消去する。
ショート動画は60秒以内で作成しなければいけない。
一秒でもオーバーしてしまえば、それはただの短い動画になってしまうので注意が必要だ。
再生時間を確認するため、再生時間の編集ツールを開く。
再生時間は…1分8秒。このくらいならパワーツールで修正すれば良いか…。
再生時間の入力部分に5800と入力…これで58秒の動画になる。
ショート動画は60秒ぴったりで作ると、一秒くらいオーバーして使えなくなることがあるので、注意が必要なのだ。
……うん?
なんか…動画のコマが長くなっているぞ。
「ああ、何だ…入力場所を間違えていたのか」
どうやら手元が狂ってしまったようだ。
再生時間が58分になっている。
……一分の音声を一時間に伸ばしたら、どんな音になるんだろう?
すぐに修正しなおせばいいものなのだが…、好奇心から音声を聞いてみることにした。再生の三角マークをクリックする。
間延びしたサイレンの音が、まるで別次元の…呪いのBGMのように聞こえてきた。
実に不快で、不気味な…聞いたことのない、不協和音。
音というものは、ちょっとした操作で…こんなにもおどろおどろしいものに変容するのだな、そんなことを思っていると。
「にげろ」
……?!
今、なんか…言った?!
「もうだめだはやく」
「むこうがいい」
低い声で、明らかに人の声ではなく、鳥の声でもなく!!!
でも…確かに!!!
「今すぐ逃げろ」
「ここは危険だ」
「ここはもうだめだ」
間延びした鳥の声が…聞こえてくるはずだったのに!
「あいつらがくる」
「今すぐ逃げろ」
「今すぐ逃げろ」
聞こえてくるのは、明らかな…警鐘の。
「つかまりたくない」
「ばれたら」
「にげる」
「たべ」
なんだ、……これは。
「…だ」
「…い……よ」
「…また」
こんな、ことが……。
「……!」
「…、……」
……。
そういえば、あんなにうるさかった鳥の声が。
今、まったく……聞こえない。
何が……、起こっているというんだ。
あわてて、窓の外に目を向けると。
そ こ に は