07 襲撃
「……何の用だ?」
空に浮かぶ大小二つの月明かりの下、暗い雑木林の道。周りを取り囲んだモンスター達に、ブーヴが静かに聞いた。
「その異世界から来たガキを渡してもらおう」
ブーヴの正面に立つ狼男とでも言うべき獣人が言った。ブーヴが敦にぴったりと寄り添って言った。
「嫌だと言ったら?」
「殺れ」
狼男がそう言うと、周りの獣人達が一斉にブーヴと敦に襲いかかった。
ブーヴは、ひょいと敦を左腕で抱き上げると、敦を抱えたまま後ろを向き猛ダッシュした。
ブーヴの真後ろに立っていた牛頭の獣人が、持っていた棒をブーヴに振り下ろした。ブーヴは、それを右腕で受け止めた。顔をしかめながら、牛頭の獣人に猛然とタックルする。
牛頭の獣人が文字どおり吹っ飛び、道に倒れ込んだ。
ブーヴは道に倒れ込んだ牛頭の獣人を無視してそのまま走り抜けると、敦を地面に下ろし、追いかけてくる獣人達の方を向いた。
「ナカアツ、猛武童子の家へ行くんだ!」
肩越しにブーヴが叫んだ。
「あ、あ……」
敦は、気が動転してしまい、その場に立ちすくんでしまった。チュン子が敦の周りを飛び回り「ジジジッ!」と鳴いた。
「行くんだ、ナカアツ!!」
敦の方を振り向いて叫んだブーヴに、獣人達が襲いかかった。
ブーヴは、一人目が振り下ろした棒を右手で受け止め、殴りかかってきた二人目を蹴り飛ばしたが、三人目の剣を避けきれなかった。三人目の剣がブーヴの腹部に突き刺さった。
剣で突き刺されたブーヴは、地面に膝をつくと、その場にうずくまった。
「ブーヴさん!」
敦が叫んだ。
「に、逃げろ……ナカアツ!」
ブーヴが力を振り絞って叫んだ。それをあざ笑うかのように、獣人達が敦を取り囲んだ。
敦は、狐に似た獣人に後ろから羽交い締めにされた。必死にもがく。狐に似た獣人が驚いた顔をした。
敦の正面に狼男が近づき、敦のみぞおちを殴打した。息が詰まる。
「大人しくしろ」
狼男が敦を睨み付けて言った。周りを飛んでいたチュン子が敦の肩に乗り、心配そうに鳴いた。
敦は咳き込みながらブーヴの方を見た。獣人の1人が剣を振り上げ、必死に立ち上がろうとするブーヴにトドメを刺そうとしていた。
「やめろー!!」
敦は日本語で絶叫した。その瞬間、辺りが真っ白になり、敦は気を失った。
† † †
日の光を感じ、敦が目を覚ますと、広い部屋のベッドの上だった。敦の右手側、ベッド脇には、老鬼神が立っていた。
チュン子が飛んできて、敦の枕元の右側に留まった。敦は寝たまま枕元に手を伸ばし、チュン子を優しく撫でた。
「具合はどうだ?」
老鬼神が心配そうな顔で尋ねた。敦はチュン子を撫でながら老鬼神の方を向いて答えた。
「だ、大丈夫です……ここは? 僕は何をしてたんでしたっけ……」
「ここは私の家だよ。昨晩、賊に襲われた君達を救助し、この寝室に担ぎ込んだんだ。なかなか目を覚まさないんで心配したよ」
賊? 担ぎ込む? 少しの間ボンヤリとしていた敦は、昨晩の出来事を思い出し、慌ててベッドから上半身を起き上がらせた。
「……そうだ! ブーヴさんは?!」
「大丈夫だ。安心しなさい」
老鬼神が優しく言うと、敦のベッドの左手側を指差した。敦がそちらの方を向くと、隣にもう一つのベッドがあり、そこにブーヴが寝ていた。ベッドの向こう側に紅炎童子が立っていた。
ブーヴは右腕に添え木を付けて包帯を巻いていた。紅炎童子に支えられながらベッドから上半身を起き上がらせると、敦に笑顔で左手を振った。
「ブーヴさん!!」
敦はベッドから飛び起き、隣のベッドのブーヴに飛びついた。
「良かった! ブーヴさん……本当に良かった! ありがとう!!」
「ははは、お互い無事で何よりだ」
ブーヴが笑顔でそう言うと、左手で敦の頭を優しく撫でた。
「それはそうと、その格好だと風邪をひくぞ」
ブーヴが笑いながら言った。それを聞いた敦が自分の体を見ると、何と全裸だった。
顔を真っ赤にした敦が慌てて自分が寝ていたベッドに滑り込むと、皆が大笑いした。
続きは明日投稿予定です。