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06 食事会

 ピクニックの数日後、夕方。肩にチュン子を乗せた敦とブーヴは、老鬼神に案内されて、魔王城から老鬼神の自宅へ向かった。


 老鬼神の自宅は、城下町裏手の丘陵の中腹、広い敷地を有する大豪邸だった。


「立派なお宅ですね!」


「ははは、古くて広いだけだよ」


 驚く敦に、老鬼神は笑いながら答えた。ブーヴによると、老鬼神の一族は、大昔はこの地域の領主だったそうだ。


 立派な洋館のような建物の玄関では、敦が召喚されたときに魔王の執務室で倒れていた若者と、その家族が出迎えてくれた。老鬼神の長男家族ということだった。


 若者は軍服のような服を着ていたが、他の者は昔の中国の道士のような服を着ていた。


 若者が駆け寄ってきて敦の手を取った。


「あのときは、いきなり召喚されて状況が分からないにも関わらず、私の命を救ってくれたとのこと。感謝申し上げます!」


 若者は敦に何度もお礼を言った。赤髪が映える凛々しい顔立ちの若者の仮名(けみょう)は「紅炎(こうえん)(どう)()」というそうだ。老鬼神の家系の嫡男は代々「○○童子」と名乗るということだった。


 ちなみに、老鬼神の仮名は「(もう)()童子」とのこと。いかにも強そうな仮名だ。


 敦達は、まるでレストランのような広いダイニングに案内され、食事をごちそうになった。


 トングや箸に似た食具を使い、大皿の料理を皆で取り分けるスタイルで、中華料理を思い起こす見た目と味付け。とても美味しかった。チュン子は、小皿に入れられた木の実や花の蜜等を美味しそうに食べていた。


 ブーヴは、フォークやナイフに似た食具を使っていた。種族や地域によって使う食具が違うようだ。


「魔王様の執務室にエルフが転移してきたときは驚きました。突然の出来事に為す術もなく、エルフの魔法で打ち倒されてしまいまして……魔王様の側衛官として申し訳ない限りです」


 紅炎童子が、魚のあんかけのような料理を食べながら悔しそうに言った。それを聞いた老鬼神が、隣に座る紅炎童子に優しく言った。


「まさか魔王城の強力な結界をエルフが突破するとは想像だにせんかったからな。魔王様もお前も無事だったのだし、そう落ち込むな」


 老鬼神が大皿から野菜炒めのような料理を取りながら話を続けた。


「超長距離転移に結界の破壊、そして伝説の魔獣の召喚。いずれも膨大な魔力が必要だ。たった3人のエルフの魔力で足りる訳がない……」


「……エルフの国は禁忌を犯したのだろう。一体どれほどの者が犠牲になったのか。おそろしい話だ」


「エルフに犠牲者が出ているのですか?」


 敦が聞いた。老鬼神が野菜炒めのような料理を食べながら答えた。


「ああ、おそらく。魔力は魂に宿るものだ。外部で貯蔵したり他人に譲ったりすることはできん。そのため、一人が一度に使える魔力には限界がある。だが……」


 老鬼神が暗い顔になり、箸に似た食具を手元に置いた。


「……魂を破壊し、そこに宿っていた魔力を奪う魔法があるんだ。非道で危険な魔法なので、禁忌とされている。エルフどもめ、そこまでして膠着した戦局を打開したいのか。誰も幸せにならんというのに」


 ブーヴが敦のために補足で説明してくれた。


「我々魔王の国とエルフの国は、中央大陸の中央を南北に貫く高山地帯、中央山脈が暫定的な国境になっていて、そこで小競り合いを続けている」


「最近は落ち着いてきていて、事実上の停戦状態だったんだがな。このエルフの襲撃で厄介なことになりそうだ」


 ブーヴの苦虫を噛み潰したような顔を見て、老鬼神が呟いた。


「報復侵攻か……」


「ああ、おそらく。最近、魔王城の参謀本部がバタバタしている。相当大規模な作戦になるんだろう」


 この世界で戦争が始まる……老鬼神やブーヴの話を聞いて、敦は不安になった。


 その気持ちが顔に出ていたのか、隣に座るブーヴが笑いながら敦に話し掛けてきた。


「ああ、すまんすまん。ナカアツを心配にさせてしまったな。中央山脈はここから遙か東だ。ここが戦禍に巻き込まれることはまずないよ」


「そうそう。何かあっても、歴戦の勇士で有名な『怪力のブーヴ』が守ってくれるさ」


 老鬼神が笑顔で言った。それを聞いたブーヴが苦笑する。


「歴戦の勇士だなんて、単に運が良かっただけだよ。それに往年の力もないし……猛武童子の方が『先槍の猛鬼』として有名だろ?」


「懐かしい呼び名だな。単に突撃するしか能が無かっただけだよ」


 老鬼神が応じ、皆が笑った。



† † †



「今日は楽しかったです!」


「俺もだ。料理も美味しかったな」


「チュン!」


「ははは、チュン子も楽しかったみたいだね」


 すっかり暗くなった夜道。肩にチュン子を乗せた敦とブーヴは、老鬼神の家を出ると、月明かりの中、農家が点在する田園地帯の緩やかな下り坂をのんびり下って行った。


 ブーヴの自宅はもう少し町の中心部寄り。人通りはほとんどない。


 ちょっとした雑木林に差し掛かったとき、突然、敦の右手側を歩いていたブーヴが立ち止まった。


 道の両側に広がる暗い雑木林を見回したブーヴが、小声で敦に話し掛けた。


「ナカアツ、俺から離れるな」


 敦が返事をしようとしたとき、雑木林から何かが飛び出してきた。


 暗くてよく見えなかったが、どうやら棒や剣を持った複数の獣人のようだった。


 ブーヴと敦は獣人達に遠巻きに取り囲まれてしまった。

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