21 峠の攻防
目を覚ました敦は、薄暗闇の中に横たわっていた。
どうやら、窓のない頑丈な箱形の荷車の中にいるようだった。移動中のようで、ガタガタと揺れている。
ふと横を見ると、チュン子が床に留まっていた。荷車の扉の小さな隙間から入ってきたようだ。
敦が上半身を起き上がらせ、掌を差し出すと、チュン子が嬉しそうに「チュン!」と鳴いて飛び乗った。
敦は揺れる車内で慎重に立ち上がり、壁に手をつきながら後方の扉へ向かった。扉を押してみたが、外から鍵がかかっているようで開かなかった。
その直後、荷車が急に止まった。敦は慌てて壁に手をついた。外から怒号が聞こえてきた。
「ナカアツ、今助けてやるからな!」
「青二才ども、邪魔だ、どけえ!」
ブーヴと老鬼神の大声が聞こえた。
敦はチュン子を床に下ろすと、荷車の扉に体当たりした。しかし、扉は頑丈でビクともしなかった。
「相手は老兵二人、取り囲め!」
外から兵士の声が聞こえた。
敦は何度も荷車の扉に体当たりした。やはり扉は開かなかった。
「弓兵はまだか!」
兵士の声が聞こえた。
敦は、先ほど見た不思議な「夢」を思い出した。夢のとおりだとすると、皆が殺されてしまう……
敦は涙目になった。チュン子が敦の肩に留まり、心配そうに鳴いた。敦はチュン子をそっと撫でた。
外で多くの足音が聞こえた。弓兵が到着したのだろうか。もう時間がない。
敦は荷車の扉を蹴ったが、無情にも扉は開かなかった。
「うわああああ!!」
どうしていいか分からず、敦はその場に蹲って叫んだ。
その直後、荷車の屋根と壁が弾け飛んだ。
† † †
急に周りが明るくなり、敦は眩しさのあまり目を瞑った。ゆっくりと目を開くと、ブーヴと老鬼神、それに兵士達が、呆然と敦の方を見つめていた。
ブーヴと老鬼神は、多くの兵士に取り囲まれ、あちこち傷を負って血を流していた。
「僕の大切な人達を傷つけるな!!」
壁や屋根が吹き飛んだ荷車の上から、敦が叫んだ。荷車を引いていた大きなダチョウのような生き物が、驚いて走って逃げて行った。
「ナカアツ、意識が戻ったのか……」
ブーヴが涙目になって言った。そのブーヴの背後から、ゾウ頭の大柄の兵士が槍でブーヴを突き刺そうとした。
「やめろ!!」
敦が叫んだ。その直後、ゾウ頭の兵士の槍がグニャリと曲がったかと思うと、槍を持った両腕が一瞬でねじ切れた。その兵士は絶叫し、周りの兵士が腰を抜かした。
「あ、ああ……ダメだ、死んじゃダメだ!」
長い鼻を振り回し泣き叫ぶゾウ頭の兵士を見て恐ろしくなった敦が叫んだ。すると、ゾウ頭の兵士のねじ切れた両腕が一瞬で元に戻った。
腕が元に戻ったゾウ頭の兵士や周りの兵士は、一目散に逃げて言った。
敦は力が抜けて荷車の床にへたり込んだ。自分の体を見回すと、少し痩せたようで、上半身は裸。何度か扉に体当たりしたせいで、肩に擦り傷が出来ていた。
下半身はパンツというか布おむつ一枚だった。幸い、布おむつは交換されたばかりだったようで汚れておらず、内心ホッとした。
「ナカアツ、助けに来たぞ!」
ブーヴと老鬼神が荷車に上がって来た。チュン子が嬉しそうに鳴きながらブーヴや老鬼神の肩に飛び乗り、また敦の肩に戻って来た。
「ブーヴさんに猛武童子さん、それにチュン子。みんな……」
敦は堪えきれずに大声で泣いた。ブーヴは、泣きじゃくる敦を優しく抱き締めると、敦を抱え上げ、荷車から下りた。
荷車の前後から、応援の兵士がこちらへ向かって来るのが見えた。
一部の兵士は、大きなダチョウのような生き物に乗っていた。どうやら騎兵のようだ。
敦を抱えたブーヴと老鬼神は、峠道の脇の森の中で待機していた紅炎童子とエゼルスィギルの援護を受けながら森の中へ逃げ込み、エゼルスィギルの空間転移魔法で移動した。
続きは明日投稿予定です。
4/22、4/23誤字を修正しました。




