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02 困惑

 敦は混乱していた。


 いつの間にか謎の戦いに巻き込まれ、挙げ句の果てに牢屋に入れられてしまった。言葉も通じないし……思わず涙目になってしまった。


 少しすると、(てのひら)に乗せていたチュン子が目を覚ました。まだボーッとしているのか、掌の上でじっとしていた。


 敦がチュン子を優しく撫でていると、牢屋に何人かのモンスターがやってきた。


 服装や持ち物から牢番と思われるブタに似た獣人を先頭に、ゴリラやサルに似た獣人、顔は人間に似ているがツノやキバのあるモンスターが鉄格子の前に立った。


 モンスターの大きさは区々(まちまち)だ。


 ブタに似た獣人は2mくらいで、サルに似た獣人や顔が人間に似ているモンスターはそれよりも小柄。ゴリラに似ている獣人は2m以上あるように思われた。


 モンスター達は、敦の姿を見ながら何やらお互いに話し合っているようだった。その合間に、敦にも話しかけてきた。


 どうやら、それぞれのモンスター固有の言語で話しかけられたようだが、残念ながらどの言葉も分からなかった。


 幸い、モンスター達の表情に敵意はなく、明らかに困惑している様子だった。


 全員と話が通じないことが分かると、ブタに似た獣人が敦に鉄格子から少し離れるようジェスチャーで伝えた。敦は素直に従った。


 ブタに似た獣人が、ポケットから宝石のようなものを取り出し、鉄格子越しに牢屋の中へ転がし入れた。ジェスチャーでその宝石を手に取るよう敦に伝えた。


 敦がチュン子を左手の掌に乗せ、右手で恐る恐るその宝石を手に取ると、ブタに似た獣人がもうひとつの宝石を手にしながら喋った。


「おい、俺の言葉は理解できるか?」


「あ、分かる。分かります!」


 思わず敦は叫んだ。言葉が通じることがこんなに嬉しいなんて。


 その声に驚いたのか、チュン子が敦の左手の掌から飛び立った。流石(さすが)にどこかへ飛んで行ってしまうかなと思ったら、敦の左肩に留まった。


「お前、種族は何だ?」


 ブタに似た獣人が敦に尋ねた。


「え、種族?」


「そう、オークとかエルフとかあるだろ。お前は何なんだ?」


「え、えーっと……ヒトです。人類、人間、ホモ・サピエンス?」


 敦は必死に説明したが、ブタに似た獣人はピンときていないようだった。他のモンスター達にも「ヒト」について聞いたようだが、誰も知らないようだった。


「ヒトねえ。知らん種族だなあ。どこに住んでたんだ?」


「に、日本です! 学校で試験を受けてたら急にこんなところに来ちゃって、訳が分からなくて。ここはどこなんですか?!」


「ニホンねえ、知らないなあ。学校ってことは、まだ子どもか……ここは魔王城だ」


「ま、魔王?!」


 敦は思わず叫んだ。ブタに似た獣人が苦笑した。


「お前、ホントに何も知らずに間違って召喚されたみたいだなあ。可哀想に……まあ、もうしばらくそこで我慢してくれ。色々と手続が済んだら出してやるから」


 そう言うと、ブタに似た獣人や他のモンスターはどこかへ行ってしまった。



† † †



 魔王? 間違って召喚? 誰もいなくなった牢屋で、敦は先程の話を思い出した。


 どうやら自分は、間違って魔王やモンスターがいる世界に召喚されてしまったということのようだ。アニメや漫画じゃあるまいし、こんなことが現実に起きるなんて……


 昨晩の深夜アニメもそうだが、よくあるアニメや漫画だと、異世界に召喚された主人公は不思議なパワーやチートスキルを手に入れるのが常道だ。


 しかし、どうもそんなパワーやスキルを身につけたようには感じなかった。


 とりあえず「ステータスオープン」とか「ファイア」とか色々声に出して言ってみたが、何も起きなかった。悲しさと恥ずかしさで、また涙目になってしまった。


 そうこうしていると、先ほどのブタに似た獣人が牢屋に戻ってきた。敦に例の宝石を手に取るようジェスチャーをした。


 慌てて敦が床に置いていた宝石を手に取ると、ブタに似た獣人が鉄格子の鍵を開けながら言った。


「その翻訳石は高価だから失くすなよ。ポケットに入れとけ。とりあえず今晩は俺の家でお前を預かることになった。本名と仮名(けみょう)は?」


「中津敦です。けみょう?」


 敦が翻訳石と呼ばれた宝石をズボンのポケットに入れながら聞くと、ブタに似た獣人が少し驚いた顔をした。


仮名(けみょう)を知らんとは、本当に異世界から召喚されたみたいだな……本名とは別に日常で使う名だ。お前の世界には、そういう名はないのか?」


 よく分からなかったが、どうやらアダ名を聞かれているようだ。


「あ、アダ名ですか。皆からは『ナカアツ』って呼ばれています」


「ナカアツか……その使い魔の名はあるのか?」


 ブタに似た獣人が敦の肩に乗ったチュン子を指差して言った。


「あ、このスズメですか? たまたま僕と一緒に召喚されてしまったみたいで……チュン子と呼んでます」


 敦が肩のチュン子を見ながら言った。チュン子が「チュン!」と鳴いた。


「そうか……よし、行くぞ、ナカアツとチュン子」


 敦はブタに似た獣人に促され、牢屋の外へ出た。

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