19 狩猟小屋②
「それで、その魔力の物質化とやらと二つの国の滅亡にどういう関係があるんだ?」
ブーヴが不思議そうに聞いた。エゼルスィギルがコップをテーブルに置いて説明し始めた。
「物質化した魔力は、ナカアツさんの魂、正確には、その魂に宿るナクァツァーシの魔力に引き寄せられたものです。もし、ナカアツさんの魂からナクァツァーシの魔力を取り出すと、物質化した魔力は、形を失い爆散します」
「それは、当初お主がナクァツァーシを召喚して爆発させようとしたことと同じじゃないのか?」
老鬼神が聞いた。エゼルスィギルは暗い顔になった。
「魔力量が桁違いなのです。もし、現時点でナカアツさんの物質化した魔力が爆散したとすると、おそらく中央大陸は跡形もなく破壊されます。そして、今もナカアツさんの魂に宿るナクァツァーシの魔力は、周りの魔力を引き寄せ続けています」
「そんな与太話、信じられると思うか?」
老鬼神の右手側に座る紅炎童子が、エゼルスィギルを睨みながら言った。エゼルスィギルはタメ息をついた。
「普通はそう思いますよね。私の上官も同じ反応でした。ナカアツさんの身柄確保を続行しようとする上官に反対した私は、抗命罪に問われ、処刑されそうになりました……」
「……ですが、私の召喚術がきっかけでエルフの国と魔王の国が滅びるなんて、死んでも死にきれません。私は逃亡しました。先ほどのように、私は今は追われる身です。信じてもらえませんか?」
エゼルスィギルは、涙目になって紅炎童子を見つめた。美しいエゼルスィギルに見つめられ、紅炎童子は頬を赤らめ目を逸らした。
そんな紅炎童子を見て苦笑しながら、老鬼神がエゼルスィギルに聞いた。
「ナカアツ殿が先日襲われたときの魔力の暴走は、お主のいう物質化した魔力の爆散ではないのか?」
「暴走? ああ、あれは少し違いまして。ね、小鳥ちゃん?」
エゼルスィギルが、テーブル上の小皿の水を飲んでいたチュン子に言った。老鬼神達が驚いてチュン子の方を向いた。
エゼルスィギルに声を掛けられたチュン子は、チラリとエゼルスィギルの方を向いた後、また水を飲み始めた。
† † †
「おいおい、チュン子が魔法を使ったとでも言うのか? 確かに普通の鳥より賢いとは思うが、流石に魔法を使えるとは思えんぞ」
ブーヴがチュン子を見て笑った。チュン子が「チュン!」と一声鳴いて、ブーヴの肩に留まった。
エゼルスィギルが笑いながら応じた。
「私もこの目で見るまで信じられませんでした。あのとき、盗賊を魔法で攻撃したのは、明らかにこのチュン子ちゃん、正確には、チュン子ちゃんの魂に宿るナクァツァーシの魔力でした。結界を張るのが一瞬でも遅れていれば、私も盗賊と同じような目に遭っていたと思います」
「ん? ナクァツァーシの魔力はナカアツの魂に宿ってるんじゃないのか?」
老鬼神が首を傾げながら聞いた。エゼルスィギルが向かいに座る老鬼神の方を向いて答えた。
「はい、ナクァツァーシの魔力の大部分は、ナカアツさんの魂に宿り、ナカアツさんの体を形作っています。ですが、ごく一部、ナクァツァーシの意識を司る魔力が、偶然このチュン子ちゃんの魂に宿ったのです。チュン子ちゃん、おいで」
エゼルスィギルが声を掛けると、チュン子がブーヴの肩からエゼルスィギルの肩に移動した。
「このチュン子ちゃんも、ナカアツさんと同じ魔力のない世界から召喚されてしまったようです。偶然、チュン子ちゃんの近くに居たナクァツァーシの意識を司る魔力を吸い込んでしまったのでしょう」
エゼルスィギルが肩に留まったチュン子を優しく撫でながら話を続けた。
「ナクァツァーシの魔力の大部分はナカアツさんに集まったため、チュン子ちゃんの魂に宿ったナクァツァーシの意識は、以前よりもかなり希薄になっているのだと思います。そのため、チュン子ちゃんの意識にだいぶ引っ張られているようです」
「チュン子ちゃんの意識、すなわちブーヴさんやナカアツさんを助けたいという思いに呼応して、ナクァツァーシの意識が魔法を使ったのでしょう」
「魔法の使い方が乱暴だったので、衝撃でナカアツさんの服が吹き飛ばされたのには驚きました。ごく一部とはいえ、チュン子ちゃんに宿るナクァツァーシの魔力はかなりの量ですからね」
エゼルスィギルが笑った。ブーヴや老鬼神、紅炎童子が呆気に取られる中、エゼルスィギルに撫でられて気持ちよさそうなチュン子が、「チュン!」と一声鳴いた。




