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16 密談

 地下牢で敦を発見した日の夜、ブーヴと老鬼神、そして紅炎童子は、ブーヴの家に集まった。


「やはり過去最大規模の動員令になりましたね。各師団の中核部隊は出発に向けて準備を進めているようです」


 ダイニングのテーブルで、ブーヴの作った野菜たっぷりのスープを一口食べた後、紅炎童子が話を続けた。


「召集した兵や魔法使いを加えた部隊編制は、魔王城周辺ではなく、中央山脈の手前の要塞まで進出して行うようです」


「スピード勝負ということだろうな。ナカアツもすぐに連れ出されるんだろうか」


 紅炎童子の向かいに座って話を聞いていたブーヴが、パンをちぎってチュン子にあげながら(つぶや)いた。


 ブーヴの呟きに、紅炎童子の左手側に座っていた老鬼神が、サラダを食べながら応じた。


「そうだな。おそらく上層部は、ナカアツ殿の魔力を緒戦となる中央山脈周辺の戦いで使うつもりだろう。第二師団あたりの部隊と一緒に移動するんじゃないか?」


 ブーヴが腕組みをした。


「何とかナカアツが傷付けられる前に救出したいところだが……そういえば猛武童子は魔王様と同族だよな。同族の(よし)みで直談判できんか?」


 老鬼神が苦笑して言った。


「魔王様は遠縁も遠縁だからなあ。お優しい方だとは聞いているが、今回の作戦はナカアツ殿の魔力の使用を前提としたもの。そう簡単に取り止めてはくれんだろう」


 紅炎童子が続いて口を開いた。


「ここ最近の魔王様は暗い顔をしておいでです。ナカアツ殿を犠牲にしたエルフの国への全面攻撃……全てをご理解の上、苦渋の決断をされたのでしょう」


 ブーヴは苦笑した。


「まあ国のトップとしてはそう判断せざるを得ないだろうしな。そうすると、やはり実力行使しかないか……」


 ブーヴが老鬼神と紅炎童子の顔を交互に見ながら聞いた。


「猛武童子と俺は一緒に新兵の訓練等を担当するから、二人とも中央山脈手前の要塞に行くことになるだろう。紅炎童子は、魔王の側衛官として魔王城に残るんだったっけ?」


 紅炎童子が申し訳なさそうな顔で下を向くのを見て、ブーヴは笑った。


「ははは、そんな顔するな。職務だからな」


 ブーヴは、椅子の背もたれに背中を預け、考えながら話し始めた。


「そうすると、3人で一緒に行動できるのは、ナカアツが魔王城を出発する直後くらいだな。ただ、この時点では警護が厳しいだろうし、逃亡も難しいか……」


 ブーヴに続き、老鬼神が話し始めた。


「ナカアツ殿の奪還のタイミングは、部隊の移動中か、開戦直前の混乱時だろう」


「身柄確保までは私とブーヴの二人で何とかするとして、逃亡の手引きをする者がもう一人欲しいところだが、紅炎童子が動けないのは痛いな……」


「お困りのようですね?」


 突然、誰もいないはずの寝室の方から若い女性の声がした。


「誰だ?!」


 ブーヴ達は椅子から立ち上がり身構えた。寝室の方から、両手を上げた狐に似た獣人がゆっくりと出てきた。


「落ち着いてください。私は丸腰です。お話を聞いていただけないでしょうか」


 狐に似た獣人が、両手を上げたまま、右手の指をパチンと鳴らした。すると、獣人の容姿が変化し、尖った耳に美しい顔立ちの若い女性の姿になった。


「エルフか……」


 老鬼神が呟いた。若い女性が(うなず)いた。


「そうです。エゼルスィギルと申します。これは仮名(けみょう)ではなく本名です。どうかお話を聞いていただけませんか?」


 エゼルスィギルが両手を上げたまま、ブーヴ達に微笑んだ。


 本名が分かれば、魔法で支配することができる。本名を伝えることは、相手に生殺与奪の権を与えるに等しい。ブーヴは魔法が使えなかったが、老鬼神や紅炎童子は少しだけ魔法が使えた。


 ブーヴ達はお互いに顔を見合わせた。

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