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15 巡回②

 参謀本部は、動員令が出される直前ということもあり、職員が廊下を走り回るなど多忙を極めている様子だった。


「お疲れ様です。巡回です」


 などと言いながら、ブーヴと老鬼神は各部屋を覗いて回ったが、疲れ切った職員ばかりで、敦を見つけることはできなかった。


 続いてブーヴと老鬼神は魔法省のフロアに行ってみたが、こちらも忙しそうな職員ばかりで、敦はいなかった。


「別のフロアを回ってみるか」


 ブーヴが老鬼神にそう言って、来た道を戻ろうとしたとき、老鬼神の肩に留まっていたチュン子が突然飛び立ち、階下に向かう階段に飛んで言った。


「お、おい、チュン子」


 ブーヴと老鬼神は、慌ててチュン子を追いかけた。階段の下は、長らく使用されていない地下倉庫や地下牢のあるフロアだった。



† † †



 ブーヴと老鬼神は、ランタンを片手に暗い地下の石畳の廊下を進んだ。廊下の左右に並ぶ倉庫の扉は、半ば朽ちていて、マスターキーを使わずとも開けることが出来た。どの部屋にも敦はいなかった。


 倉庫の並ぶ廊下を進み、左に曲がると、今は放棄されている地下牢のエリアの入口の扉があった。チュン子はその扉の前で待っていて、ブーヴに気付くと飛んで来てブーヴの肩に留まった。


 扉の鍵は比較的新しいものだった。ブーヴがマスターキーで鍵を開けた。


 中に入ると、少し前に壁面の松明(たいまつ)を使用した跡があった。ブーヴ達は警戒しながら両側に牢が並ぶ通路を進んだ。


 一番奥の右側の牢の中を覗いたとき、ブーヴは思わず叫んだ。


「ナカアツ!」


 そこには、最近持ち込まれたと思われるベッドに腰掛けた敦がいた。目は虚ろで、ブーヴが何度か声を掛けたが反応しない。床の一点を見つめ続けるだけだった。


「くそっ、何てことだ! こんな、こんな非道な……」


「静かに! 誰か来る」


 怒りに体を震わせるブーヴに、老鬼神が言った。廊下を誰かが歩いてくる音が聞こえた。


 この地下牢は行き止まりだ。ブーヴは辺りを見回した。敦が閉じ込められている牢の向かいには、倉庫と思われる木の扉があった。


「頼むぞ……」


 ブーヴは、祈りながら木の扉の鍵穴にいくつかのマスターキーを差し込んだ。幸い3つめのマスターキーで鍵が開いた。


 ブーヴと老鬼神は、急いでその倉庫に入ると、ランタンの火を消し、息を潜めた。



† † †



「少年の状態はどうじゃ?」


 敦の牢の前で、誰かが喋った。声色からすると、どうやら所長のようだった。


 所長と思われる者の質問に、部下と思われる者が答えた。


「はい。意識レベルを下げたまま、安定しております」


「常時監視は必要ないのか?」


「はい。少年の牢には何重にも結界を張っております。牢内で何か動けばすぐに分かります。それに、食事や排泄処理の他、頻繁に巡回しておりますので、問題ございません」


「死なせるなよ」


「お任せください」


「それにしても恐ろしいほどの魔力じゃ。これだけの魔力があれば、エルフの軍勢を一瞬で灰塵(かいじん)()すことができるじゃろう……」


「……この魔力、必要量を自由に使えればよいのじゃが。そういえば、先日この少年が賊に襲われたときには、少年が魔力を使って賊に被害を与えたということじゃったな?」


「はい。少年が賊に殴打され意識を失った後、そのような状況になったと聞いております」


 どうやら、剣で刺されたブーヴの傷を治癒したという話は、所長達には伝わっていないようだった。


 所長と思われる笑い声が聞こえた。


「ほっほっ。著しい肉体的精神的負荷を与えれば、一部の魔力が暴走するようじゃの」


「エルフどもの軍勢の前でこの少年の意識を戻し、苦痛を与え、一部の魔力を暴走させてエルフどもを攻撃するという方法もありそうじゃな。どの程度の苦痛を与えるか加減が難しそうじゃが……まあ、戦況次第じゃな」


 それを聞いたブーヴは、怒りのあまり倉庫から飛び出しそうになったが、老鬼神が必死に止めた。


 少しすると、第三の声がした。


「今回の動員令では、ほぼ全軍を動かすとともに、魔法省の要望どおり全土の魔法使いを召集する予定だ。急な作戦変更で参謀本部は大慌てだぞ」


「すまんのう、参謀長。それだけの魔法使いがいれば、この少年の内に秘められたナクァツァーシの魔力を十分に活用できるじゃろう」


 所長と思われる声が嬉しそうに言った。先ほどの第三者の声は、参謀長だったようだ。その参謀長が所長と思われる者に聞いた。


「だが、本当に大丈夫なのか? この少年から魔力を取り出せたとして、ナクァツァーシが復活することはないのか?」


「ほっほっほ、その点は大丈夫じゃ。ナクァツァーシは魔力の集合体じゃが、この少年に秘められた魔力に意識は感じられん」


「おそらく、この少年が誤って召喚された衝撃で、ナクァツァーシの意識は消し飛んでしまったのじゃろう。意識がなけれぱ問題ない」


「さて、ワシも従軍の準備を進めるとしようかの。この目でエルフの国が滅ぶのを見る日が来るとは。ほっほっほ、楽しみじゃわい」


 所長と思われる声がそう言うと、所長達は地下牢を出て行ったようだった。


 しばらく様子を見た後、ブーヴ達は慎重に倉庫から地下牢の廊下へ出た。地下牢は真っ暗闇だった。


 ブーヴはランタンに火をつけた。牢の中では、敦が先ほどと同じようにベッドに座り、虚ろな目で床の一点を見つめ続けていた。敦は、部屋の明暗にも気づいていないようだった。


 ブーヴは敦の牢の鍵を開けようとマスターキーを取り出したが、老鬼神に制止された。


「ブーヴ、お前の気持ちは分かる。だが、今はダメだ。牢の中に入れば気付かれる。このままナカアツ殿を連れて逃げ切れるとは思えない」


 老鬼神は冷静に振る舞っていたが、槍を持つ手に力が入り、爪が食い込んで血が滲んでいることにブーヴは気づいた。


「助ける機会はどこかで必ずある。その機会を待つんだ」


 老鬼神は、まるで自分に言い聞かせるように、そう言った。


 老鬼神の説得を聞いたブーヴは、手を震わせながら逡巡(しゅんじゅん)した。手に力が入り、頑丈なマスターキーの()が少し曲がってしまった。


 ブーヴは、大きなタメ息をつくと、鍵を片付けた。


「ナカアツ、必ず助け出してやるからな……」


 ブーヴが苦渋に満ちた顔で(つぶや)いた。ブーヴの肩の上で、チュン子が悲しそうに一声鳴いた。


 ブーヴ達は、急ぎ地下牢を後にした。


 その日の夕方、魔王の国の全土に動員令が出された。魔王軍によるエルフの国への侵攻がついに始まろうとしていた。

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