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六畳一間邪神付き

「ククク……ハハハハハハ! よくぞ人の身でそこまで練り上げたものよ! その力、素直に賞賛しようぞ!」


 天は裂け、地は割れ、焦土と化した大地に横たわる巨大な漆黒の龍が、その鈍色の光を放つ逆鱗を震わせ目の前の男を睨み付ける。

 魂をも凍らせそうなその金色の瞳に射貫かれながら、尚平然と剣を構えるその男、全身に傷を負い満身創痍ながらもその構えに一糸の乱れも無く、自身の流したものとも返り血とも分からぬ朱に身を染め、ゆるりと剣を振りかぶる。


「ふん、我を討ち果たしながら喜ぶでも誇るでもない、その揺らぎを見せぬ瞳、気に入らん」


 龍の言葉を意に介さず、その両手に満身の力を込め首を断たんと振り下ろす刹那、その黄金の瞳から放たれた光が男の胸を貫く。


「!?」


「ククク……それは鎖。……貴様の瞳、何事もつまらぬ、世は退屈じゃと語っておる。よかろう、ならばわれが貴様の願いを叶えてやろう! 貴様の魂は我と繋がり輪廻の輪を外れた! ことわりの世界に戻ることあたわず貴様は何度生まれ変わろうとも貴様のまま、永遠に現世を彷徨う! 我に愉悦を捧げる供物となるがよい、貴様の魂を嬲り尽くし絶望に染まったそれを飴玉のように溶かし喰ろうてやろう! 貴様の魂が朽ち果てるまで喰らい合い殺し合おうぞ! クハハハハハハハハ!!」



☆☆☆☆



「……なんて事言ってたっけか?」


「……うるさい」


 六畳間のワンルームアパート、ただでさえ狭い部屋を更に狭苦しく感じさせる大柄な青年の問いに、黒髪金目の小柄な少女が膝を抱え顔を隠すようにして肩を震わせる。


「……あれから随分経ったな」


「……三万年じゃ……」


「今回が1026回目の転生か?」


「……ぬぐぐ……よくもまぁ細かく覚えておるな……ってかおかしいじゃろ!? これ程までに長き時を殺し合いに費やしなぜ心が折れぬ!? 魂が濁らぬ!? ってか貴様転生する度により活き活きしとるのはどういう事じゃ!?」


 邪神の問いに短く刈り込まれた黒髪をわしわしと掻きながら英雄が首を傾ける。


「う~む、別に俺としてはお前と戦うのは楽しいし……どういう事ってと言われてもな……っつーかお前こそなんか転生する度に縮んでないか? 角も尻尾もなんか短くなってるし」


「ぬぐっ……」


 英雄の指摘に邪神が両手で角を隠し、尻尾を自らの胴に巻き付ける。

 言えない……まさか言えよう筈も無い、邪神たる自分が只の人間相手に敗北を繰り返し、魂が疲弊し、心が折れかけているなどと。

 雲霞の如くに居た崇拝者ももはや居るかも定かで無く、全盛期の自分の姿も最早記憶の彼方に消えているなどと……。


「まぁ、なんだ……何を落ち込んでるのか知らんが……その内良いことあるから頑張れ?」


「ぐっ……ぐううぅぅ……! 貴様がっ! 貴様がそれをぉぉ……ぐぐぐ……良かろう! ならばこの場で決着を……」


「……やめとけ、壁壊しちまったら大家さん怒るぞ」


 『大家さん』の言葉が出た途端に邪神の動きがピタリと止まり、同時にマナーモードの携帯の如くに震え出す。思い出すも悍ましいあの日……まさか破壊と恐怖の権化たる自分が、恐怖に身じろぎ一つ出来ずにへたりこむ無様を晒すとは……。


「……ま、まぁ、こ……今回は簡便しておいてやろう、うむ……大家さんを困らせてはならぬな、うむ、うむ」


「なー、大家さん怒ったら怖いもんな~」


「ぬ? 上着を着て何処か出掛けるのか?」


「コンビニ、腹減ったし晩飯作るの面倒だしな、なんかいるもんあるか?」


「肉まん! あと何か甘い飴ちゃんなんぞあればよいのぉ」


「へいへい、出掛けてる間悪さすんなよ?」


「我を子供か何かのように言うな! 留守番位ちゃんとするわい!」


 ぷりぷりと怒り出す邪神を眺め、ふと英雄が気付く。


「……邪神は悪さするから邪神なんじゃねぇのか……? アイデンティティーとしてそこは……まぁいいや、んじゃいってくる」


「うむ、気をつけて行くのだぞ」


 輪廻の輪から外れた英雄と邪神、殺し合いの宿命の最中(さなか)、1027回目にして奇妙な同居生活が始まる……。


~邪神様現在の戦績:1026戦1026敗~

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