表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

このビキニアーマーが強すぎる!




凶暴で狡猾な魔物の跋扈する世界。それは力を持たない一般人が生きていくには厳しい世界である。

力を持たぬ民の為に戦うのは、国が認めた冒険者だ。

剣術、槍術、弓術、体術、魔術、ありとあらゆる手段を用いて彼等は戦うのだ。

そんな世界で1人の男が、その圧倒的な実力で世の魔物を次から次へと倒し、その名を轟かせていた。


彼の名はユコル

人呼んで最強のマイクロビキニアーマー……




………………………………

………………

……



「何をしている!?早く怪我人の救助をするのだ!」


「隊長!もう回復ポーションがありません!」


「隊長!こっちは1人食われましたぁ!」


「チッ、仕方がない。救助出来る人だけ助けて一度撤退だ!」


共通の鎧を纏い、高品質な剣をその手に持ち、悪鬼どもと戦うのは王国騎士団第四部隊だ。


騎士団もやる事は冒険者と似たようなものだ。

違うのは給料の安定……それと、拒否権の有無である。


故に彼等は優秀だ。

どんな仕事でも請け負う為にあらゆる状況に対応出来るよう訓練が施されている。



だが、戦況は随分前から劣勢であった。何とか村人を救い出すのには成功したが、それは悪鬼達の罠だったのである。

彼等は囲まれてしまい、今まさに村人達を庇いながら奮闘していたのだ。


このままではマズイ。


そう思った隊長は独断で自らと新人の2人で団員を逃す為に囮になったのであった。


2人は懸命に戦った。

だが、余す事なく力を使い果たした彼等は等々疲れ果て倒れてしまった。



「終わり……か」


「畜生……最後に……酒飲みたかったですよ」


騎士の命である剣が折れては、流石の隊長も心が折れてしまった。


もうダメだ。


2人ともそう思い、抵抗をやめた。


「仕方がない。目的は果たせたのだ。我々は最後まで民を守ることが出来た……」


「俺との約束は、守ってないですよ?」


「ああ……すまんな。それはあの世で果たすことになりそうだ」


「じゃああの世で1番高い酒お願いしますよ」


「分かった」


会話が止んだ。

その瞬間、悪鬼の爪が勢いよく振り翳される。


……が、その爪はある者の胸筋によって遮られる事となった。


その者は仁王像を彷彿とさせる体躯に、その身に持て余すほどの筋肉。

その惚れ惚れするくらいに筋骨隆々とした身体を前にしてはどんな攻撃も無意味……

男の顔は歴戦の戦士を想起させる。


見た目だけなら最強の兵士と呼んで差し支えないくらいに男前なであった。


しかし、しかしだ。

その男、つけている装備が問題であった。


ほとんど全裸でマイクロビキニアーマー……


問題があるどころではない。 

問題しかない。


「あ、あんた何者だ!?」


驚いた様子の隊長が思わず声をかける。

まともに喰らって本来なら肉が抉れているはずの胸元は、何故か傷一つついてすらいなかった。

しかし、痒かったのか少しポリポリとかいた後、隊長の質問に彼は答える。


「……ただの通りすがりの老兵さ。おっと、今は冒険者なのだった」 


「そ、そうですか。因みにその装備は……」


新人が言いにくそうに聞く。

隊長も気になってはいたようだが、触れてはいけなさそうな話題だったので敢えて聞かなかったのだ。


「これ……か。………いや、今はそんな事を説明している余裕は無いな」


「それもそうだな……だが、名だけは聞いておこう」


「俺の名前はユコル。ただのビキニアーマー冒険者だ」


「そうか、私は王国騎士団第四部隊隊長ゴートだ。こっちの若いのはロキ。ユコル殿、申し訳ないが力を貸してもらえないだろうか?」


「元よりそのつもりだ」


ユコルは右腕に精一杯の力を込めて悪鬼に殴りかかる。

直撃を喰らった悪鬼はもちろん、その周辺にいた悪鬼達もソニックブームで死んでいた。


「な、なんて威力なんだ……」


「それより、周りの悪鬼達はボロボロなのになんで俺達にはダメージが無いんですかね?」


「分からん……ユコル殿が何かしてくれているのだろうが……」


見ているだけでは何が何だか分からなかった。

ただ、ユコルが腕を振るえばあたりの悪鬼どもはボロボロに消し飛んでいた。


「次元が違いすぎる。そういえば聞いたことがあるな……伝説のマイクロビキニアーマー冒険者。どんな魔物も歯牙にかけず、次々と倒し、放浪しているという……」


「それが彼、ユコル殿だと言うのですか!」


「そうとしたか考えられん。あのような装備を真面目に着る者が2人もいてたまるか」


そんな会話をしている間にも悪鬼はどんどん殺されていく。

その後、たった10分程で殆どの悪鬼を殲滅してしまった。


だが、ここで悪鬼の上位種族悪魔が悪鬼の大群の奥から出てきた。


恐らくこの集団のボスであろう。


何を考えたのか、悪魔は味方である筈の悪鬼を素手で殺し始めた。


「な、何をやっているんだアイツ!?」


「笑ってやがる……役に立たない味方な要らないということか」


部下を始末し尽くした。悪魔はユコルの元にゆっくりと歩み出す。


「成る程、貴様が親玉か」


「グギャア!!!!!」


悪魔は下卑た笑みを浮かべながら、ユコルに向かって口を多く開けた。

その瞬間、口元に強力なエネルギーが溜まり、エネルギー波を打ち出した。


「あ、危ない!」


ユコルは避ける事もせず、正面から受け止めた。


「ぐぬぬ、なかなか強力だ。しかし!我が鋼の肉体とこのビキニアーマーの前には如何なる攻撃も無力よ!」


ユコルは腹筋に力を入れる。


「フンッ!」


なんと、たったそれだけで強力なエネルギー波は跳ね返され、逆に悪魔の頭に直撃した。


自らのエネルギー波をまともに食らった悪魔は、頭が半壊しており死亡したのは明らかであった。


「な、なんて身体してやがる……」


「身体……?違うな。これは我がビキニアーマーの力よ。ビキニアーマーが無ければ我が鋼の肉体もただの肉の塊であるよ」


「嘘つけ!絶対今のビキニアーマー関係なかっただろ!?守ってたの局部と乳首だけじゃねえか!」


「おお、言い忘れておったな。実はこのビキニアーマーは特別性でな……。色々な効果が付与されておるのよ」


「まさか、マジックアイテムか?」


マジックアイテムとは、通常の武器や防具、アイテムとは異なり、何かしらの特殊な魔術効果が付与された物の事である。


マジックアイテムは、そもそも存在がレアだ。国中探しても3桁は無いであろう。

その分効果も絶大。性能としては最低でも通常の武具の倍は行く。


特殊効果はそのどれもが強力で、一つのアイテムに複数の特殊効果が付いていることもあるのだ。


下手をすればマジックアイテムだけで騎士団の部体を一つ丸ごと相手に出来てしまう。

その話を聞いた時は半信半疑であったが、今の無双っぷりを見れば事実であった事は間違いない。


「そうだ。このビキニアーマーには色々と便利な機能が付与されていてな」


「どんな効果なんだ?」


「たしか……攻撃力上昇、防御力上昇、回復力上昇、思考加速、エネルギー操作、体力上昇、五感強化、第六感、幸運値上昇、速度上昇、筋力上昇、身体能力上昇、老化防止、経験値増加……」


「ま、待って!待ってくれ!今何と言った?」


「……?攻撃力上昇、防御力上昇、回復……」


「おい待て!貴殿一体そのビキニアーマーに幾つの付与効果があるというのだ!」


「数えた事はないが……ざっと千は超えるな」


「せ、せんっ!?」


「そんなの……聞いた事ないですよ」


「であろうな。我がビキニアーマーは特別性だからな」


「しかし……普通マジックアイテムの付与効果は一つか二つ、最大でも五つだ」


「千なんて……聞いた事もないですよ」


「そのような事を言われても、実際に千あるのだから仕方あるまい?」


「そもそも、一体どのようにしてそんな装備を手に……」


「悪いが……それについては言えない」


「言えない……だと?何故だ」


「悪いが俺の気分の問題なのだ。すまんが詮索しないでくれ」


「ふざけるな。我々はそれを聞かなければいけないのだ!民の平和の為にな!貴様がその力を魔物以外に使わないと何故言い切れる?」


ここまで言われてはユコルも流石に眉を顰めた。


「あまりこのような事を言いたくは無いが、騎士団よ、私は助けたのだぞ。少しは恩義を感じても良いのでは無いかね?」


「それはっ……か、感謝する。だが、それとこれとは話が別だ!」


「隊長!やめましょうよ。こんなのただの個人情報を探ってるだけですよ!」


「新人、お前まで……」


「だってそうでしょ!こんなのまるで僕たちの力が及ばなかったのをユコル殿に当てつけてるみたいじゃ無いですか!そんな先輩見たくなかったですよ」


「……そう……だな。すまん」


「それに、ユコル殿は我々を助けてくれました。見ず知らずの我々を。そんな人がその力を悪戯に使ったりしませんよ」


「ああ……少し頭に血が昇っていた。ユコル殿、申し訳なかった」


深々と謝罪するゴートに、ユコルもそれ以上は何も言えなかった。


「分かった……。俺も言い過ぎた」




………………………………

………………

……




それから、増援が到着したのは20分後の事であった。

到着した増援部隊は数百はいた筈の悪鬼達が壊滅していたのだから。

その場にいたのは食い止めるのを任せた筈の隊長ゴートと、新人のロキの2人だけであった。

2人で倒したとはとても思えない。

しかし、話を聞いても2人はまるでその事について語らない。まるで口止めされているかのように……




僕の名前は楊田和也。

なんて事の無い普通の高校生だった筈の僕は今、ドラゴンと戦っている。


何故か?

お馴染み異世界転移である。

幼馴染の玲奈をトラックから庇って死んでしまった僕は神様から善行をしたからだとかで、この異世界に転移させてもらった。


ドラゴンは10メートルはある巨大で、それに見合わないとてつもない速度で攻撃をしてくる。


口からは火を吹き、空を飛びながらこちらにダメージを与えてくる……さながら、昔からやっているドロクエに出て来るような見た目と能力だ。


しかし、そんなドラゴンと僕はまともに戦えている。


通常攻撃は剣で捌くか回避、火のブレスは剣撃で相殺する。


何故僕がそんな風に戦えているのか?それは神様から貰ったこのマジックアイテムのおかげだ。


僕の手にあるこの剣は、『攻撃力上昇』、『クリティカル確率上昇』、『クリティカル威力アップ』が付与されている。


これのおかげで通常攻撃が限りなく高い確率でクリティカルになり、更にクリティカルの威力も上がり、おまけに基礎的な攻撃力まで上げてくれるのだ。


当然剣の扱い方等僕は知らないが、神様がこっちに転移させてくれる時に『異世界言語』と共におまけで『剣術』の効果も僕自身に一緒に付与してくれたのだ。


この異世界で僕は様々な強敵と戦い、恋人を作り、富も地位も名声も得た。


唯一集まらなかったのはパーティーメンバーだけだ。


コミュ障だけは治らなかったのである。


しかし、そんな僕をしてもこのドラゴンは強かった。


今の所対等に戦えてはいるが、僕の弱点は体力だ。

短期決戦が出来なかった時点でほぼほぼ詰みである。


打開の策も今は立たないのだ。


そうして半ば絶望していた時、彼は現れた。


僕達の戦いにいきなり割り込んできた大男がいたのだ。


彼はなんと、素手でドラゴンを殴り気絶させたのだ。


不意の一撃を喰らい、動けなくなっているドラゴンに彼はトドメを刺した。


裸だと思っていた彼だが、よく見ると装備をしていた。


胸には小さな三角形の鉄の塊が二つ……股間には逆三角形の鉄の塊が一つ……


ビキニアーマーである。


「少年、怪我はないか?」


「へっ!?」


突然のことで、自分に話しかけられていると気づけなかった。


「あ、ああ……僕は大丈夫です。貴方こそ素手でドラゴンを殴ったりして、大丈夫ですか?」


ドラゴンの体は随分と高熱だった筈だ。


周辺温度が変わり、表面に液体が触れれば即座に蒸発する程度には熱い。

炎系のドラゴンの特徴である。


だから、生きている野生のドラゴンを素手で触るなどもってのほかだ。


セオリーは弓や魔術で倒す事で、剣で倒すのもかなり危ないのだ。


「少しばかり、熱かったがこの程度で火傷などせんよ。俺は大丈夫だ。少年も大丈夫そうなら良かった。近くの村まで送って行こうか?」


「すみません、僕はまだドラゴンを倒さないと……」


「……何故だか聞いても?」


「彼女が……僕の彼女が言っているんです。この近くの村の人間がドラゴンの被害で怯えて暮らしている。何とか彼等を助けてくれと」


「それは変だな。ドラゴンは本来人里離れた所で迷惑を掛けずに静かに暮らしているはずだ。事実、ここは結構村から離れている。そもそも、彼女は何故関係の無い村の被害に君を巻き込んだんだろうな」


「か、彼女はあの村の出身なんです!だから気が気じゃ無いんですよ!」


心配そうな僕の顔を見て、ビキニアーマーの冒険者さんは何かを悟ったようだ。

少しばかり迷う素ぶりを見せた後、直ぐに僕に言った。


「仕方がない。ここら一体には確かレッサードラゴンの群れが巣を作っていた。君の彼女を納得させたいのなら、それを倒して村の安全を証明してみせよう」


「レッサードラゴンの群れ……?お願いします!場所を教えて下さい!」


「構わんよ。ただし条件がある」


「何ですか?」


「俺も連れて行け。君1人では危なっかしいよ」


「そんな!この件は貴方には関係無いんですよ!?貴方が僕に手を貸して命を脅かす必要はありません」


「それを言い出したら君だって関係の無い村の人間の為に命を賭けているではないか。良いじゃ無いか。俺は君が気に入ったんだ」


「そう言ってもらえると嬉しいんですが……」


「危ない……か?安心しろ。生憎俺は超強い。このビキニアーマーのおかげでな」


ずっと気になっていたから触れなかった事だが、どうやらビキニアーマーは冗談でつけているわけではないようだ。


「分かりました。でも無茶はしないでください」


「君もな」


「申し遅れましたが、僕の名前は楊田和也です」


「そうか、カズヤ君か。俺の名前はユコル。ただのビキニアーマー冒険者さ」






「和也くん、君は随分変わった服をしているね」


「あー……これは学ランと言って……」


レッサードラゴンの巣に行くまでの間、僕とユコルさんは他愛のない話をしていた。


僕は転生者だとバレないように誤魔化しながら話を続け、ユコルさんの情報を得ていた。


その結果分かったのは、僕は全然チートなんかではなかったという事だ。


千を超える付与がされたビキニアーマー?

冗談じゃない。

全てのチートに謝れと言いたい。


いくらなんでも極端すぎる。


基本的にマジックアイテムの付与効果は、一つだけでも充分チートだ。


付与効果を持たない武器では、付与効果のある武器と打ち合う事ができないとまで言われている。


更に、武具の性能は付与効果数に比例するから、同じマジックアイテム同士でも付与効果一つと二つでは全く格が違うのだ。


例えるなら、マジックアイテム付与効果一つの武器は紙で出来ていて、二つの武器はアルミで出来ている。三つの武器は鉄でできているようなものである。


それが千。

ビキニアーマーは防御面積が小さいので実質的な防御力は低い筈だが、硬度だけなら間違いなくこの世界最高だ。


「どうやってそんな装備を手に入れたのですか?」


「すまない……あまりそこは聞かないでくれ」


残念ながら装備の出所は聞けなかった。


「おっと、そろそろ奴らの巣に着くぞ」


ユコルさんに連れられてやってきた場所は先程ドラゴンと戦った場所から少し離れた森だ。


中には低級の魔物がいたが、彼等は害獣では無いので討伐しない。


「ここら辺はレッサードラゴンと縄張り争いで負けた魔物がみんな消えてしまったから、極端に強い魔物が少ないんだ」


「今はみんな死んじゃったんですかね」


「分からない。何処か別の場所へ行ったのかもしれないし、死んだのかもしれない……おっと、いたいた。早速一体見つけたぞ」


ユコルさんが指を刺した方向にレッサードラゴンはいた。


木の上で気持ちよさそうに喉を鳴らしながら寝ている。


「基本的に彼等は群れで行動しているんだが……一体はぐれてしまったようだな」


「……狩ります」


「1人でできるか?」


「もちろん」


僕は慎重に近寄る。

レッサードラゴンは鼻がいいのだ。

その代わり視力が低い。


匂いで感知する能力は高いが、そのギリギリのラインより外から一気に近づけば少し対処は遅れる筈だ。


そのギリギリのラインは……


凡そ14メートルといったところか。


15メートルまで近づいた時点で腰の剣を構える。

そして、そのまま猛スピードで近寄った。


レッサードラゴンが僕に気づいたのは距離が10メートルを切ったあたりである。


匂いに違和感を感じてゆっくりと目を覚ましたのだ。


そして、視界で僕を捉えるまでに更に1秒を要する。


その頃には距離は5メートルを切っていた。


すぐさま警戒体制に入ったレッサードラゴンだったが、もう遅い。


何とか回避しようと後ろに下がった瞬間を僕は見逃さない。


剣に付与された効果を最大限に使って、翼を正確に奪る。

これで逃げられない。


その後、目を潰し視界を奪う。


ドラゴンは僕を感知出来ず、その場でもがいている。


後は急所を的確に潰すだけだ。

ドラゴンの首元……血管が通っていそうな部分をザックリ斬り、更に苦しそうにし始めた。


放っておいても死ぬが、せめて楽に殺してやろうと、そのままブスリといった。


「ふぅ……終わりましたよ、ユコルさん」


「ああ、良い剣だった」






レッサードラゴンの個体を倒した時、僕は油断していた。

一体とはいえドラゴンを倒したので、少し気が抜けてしまったのだ。


突然背中に激痛を感じた。

何かに引っ掻かれたような痛み。

振り返ると、先ほど倒したと思われるレッサードラゴンがいた。


「なんっ……で」


「カズヤ君!そいつは別個体だ!まさか近くにもう一体いたとは」


明らかに背中の肉が抉られている。血が出過ぎて、冷たくなってきた。


これは間違いなく死ぬ。


レッサードラゴンは追撃を喰らわそうと突進してきた。


……が、それはユコルさんが止めてくれた。


「させんよ」


突進してくるレッサードラゴンと僕の間に割り込んで、片手で受け止めたのだ。


「グギャアァァァァァァ!!!!!」


尚も突き進もうとするレッサードラゴンを、ユコルさんはもう片方の腕で思いっきり殴りかかり、頭を潰した。


「大丈夫……では無さそうだなカズヤ君」


「ユ……コルさん……お願いです。……たす、けて」


「安心しろ、この程度の怪我なら俺のビキニアーマーで……」


そう言いかけたユコルさんは、何か嫌な感じがしたのか上を見上げる。


「まさか……」


空にはレッサードラゴンの群れがおり、こちらを見下ろしていた。


「さっきの個体の叫び声に呼ばれてきたというわけか」


数は……8体。

倒したのと合わせて合計10体のレッサードラゴンが群れを成していたのか……


「すまんな、カズヤ君。俺は奴等を倒してから君を治療する。悪いがそれまで耐えてくれ」


「ゴフッ……は、はい」


血を吐きながら返事をした。

もう意識を保つのも難しくなってきた。


だが、ユコルさんが治せると言った以上、まだ死ぬわけにはいかない。


僕は気力でなんとか意識を保つのであった………




………………………………

………………

……


(ユコル時視点)



空にいるレッサードラゴンの数は8体。

倒せなくは無いが、カズヤ君を治療する事を考えたらかけられる時間は30……いや、20秒が限度だ。

つまり一体辺り2秒と少し。


俺は地面に落ちていた大きめの石を拾う。


幸いレッサードラゴン達は様子見をしているようなので、遠慮無くこちらから仕掛ける。


大きめの石を握り潰して小さな石を大量に作り、それらを一斉に投げた。


小さな石はバラバラに飛んでいき、何体かのレッサードラゴンの体を貫いた。


ダメージを受けたのは5体……

内2体は急所と翼に致命傷を負っており、そのまま落下してきた。

あと5体……

少なからずダメージを受けていた残りの3体にトドメを刺そうと、空に向けてジャンプする。


一瞬で上空100メートルまで飛び上がり、レッサードラゴンをクッションにして止まった。


その衝撃でクッションにしたレッサードラゴンは死亡。

あと4体……


当然ホバリング等出来ないので、死体を足場にして次のレッサードラゴンに向けて飛びかかる。

飛びかかられたレッサードラゴンはまたも衝撃に耐えられず死亡して落下していった。

あと3体……


ここまでで4秒かかっている。


あと16秒で決着をつけようと思ったら、残りの3体が逃亡を開始した。


流石に部が悪いと思ったのか、一目散に逃げ出したのだ。


こちらとしては好都合。

一刻も早くカズヤ君を助けようと思っていたので、逃げてくれるならそれで良い。


そう思い、直ぐに地面に着地してカズヤ君の元に駆け寄る……

が、どうやら諦めの悪い個体が一体いたらしい。


こちらに向けて火球を放とうとしている。


「……………」


俺は無言でレッサードラゴンに向け、殺気を放つと火球を放つのをやめて、全力飛行で逃げ出した。


ここまでで凡そ8秒


「よし……間に合ったな。直ぐに回復させる」


「どう……やって?」


「このビキニアーマーを君に着せる。このビキニアーマーは回復力上昇、体力上昇、持続回復、まだまだ色々回復効果がある」


「っ!?」


「安心しろ。上だけにしてやるから脱がすぞ」


「や、やめ…」


ビキニアーマーの上半身だけ、とビキニアーマーの下半身だけの男達2人が森の中にいた所を、この後偶々通りかかった女冒険者に見られたのだが、それはまた別の話……







冒険者の中でもとりわけ強い、若しくは有名な者には通り名のようなものがある。


例えば『ビキニアーマー』のユコル

彼の場合強さというよりその異常さで通り名がついた所が大きいのだが……


他には

『一撃必殺』のヨウダ・カズヤ

『黄泉がえり』のスージャー

『速射』のガープ


そして……『聖女』のナターシャ




………………………………

………………

……



『聖女』のナターシャ、彼女は今冒険者ギルドに来ていた。


冒険者達が自らの実力に見合った依頼を引き受ける、その為に集まるのがここ冒険者ギルドである。


「すみません、そこの受付嬢さん」


「あわわ……申し訳ありません。少々お待ちを……、って、えっ!?貴方は『聖女』のナターシャさん!?」


「どうも」


「申し訳ありません、直ぐに対応します」


「良いですよそちらの仕事が終わるまで待ちますので」


「申し訳ありません……直ぐに終わらせますので」


そう言って受付嬢はカウンターから離れて行った。


それから暫くして慌てて戻ってきた受付嬢が話を聞く。


「お待たせして申し訳ありません。本日はどういったご用件で?」


「依頼を受けにきたのよ。……と、言っても受けたい依頼は決まってるけど」


「えっ……」


「この街の東の方で流行病が起こっているわよね?たしか流行病にかかった人達は隔離されて治療法を探されているとか」


「あー、はい!起こっていました」


「それを治しにきたわ。私の使う回復魔術なら流行病だろうと新種の病だろうと治せる」


「申し訳ありません。それは無理です」


「無理……?私、これでも結構腕に自信はあるのだけれど?」


「いえ、『聖女』様のお力は知っておりますとも。しかしですね……」


「しかし?」


「既に治りました」


「な、治った……本当ですか?どうやって?」


「はい。突然いらっしゃった冒険者の方が一斉に治してしまったそうです」


「どなたですか!それは」


「えーっと……たしか『ビキニアーマー』のユコルさんと仰ってた様な……」


「ビキニアーマー……っは!」


ナターシャはこの間、森の中でビキニアーマーを2人でつけている男冒険者を見かけた事を思い出した。


アイツらの内のどちらか……


そのどちらかが回復魔術を使えたということか。

許せない……等と小物じみた事を言うつもりはない。


自分が間に合わなかったのが悪いだけだ。

寧ろ街の人達を元気にしてくれたそのビキニアーマーの冒険者には感謝したいくらいである。


しかし、気になるのだ。


果たして回復魔術の腕前はどちらが上なのか?……と。


「今、そのビキニアーマーの冒険者は何処にいるのですか?」


「えーっと……たしか今日この街を出ると言っていた気がします」


「なら馬車乗り場に居るはずね。ありがとう、教えてくれて」


ナターシャは急いで馬車乗り場に向かった。

冒険者ギルドと馬車乗り場はかなり離れている。

ナターシャの身体能力はそこまで高く無いので、急いで行かなければ出発してしまう。


この街の馬車の始発は9時で、2時間に一本出る。

現時刻は8時40分だが、馬車乗り場まで急げば15分で着く。


ナターシャは全力疾走して、馬車乗り場まで行った。


そして、馬車乗り場に着いたのは8時55分。

あと5分で出ようとしていた所だ。


「はぁーはぁー……あっ、いた!」


ナターシャはこの間ビキニアーマーを着けていた男を見つけ、一目散に駆け寄る。


「貴方!ちょっとそこの貴方!黒髪で変わった服着てる貴方よ!」


暫くの間彼は反応を示さなかったが、やがて黒髪が自分だけである事に気づくと慌てて返事した。


「えっ、僕ですか?」


「ええ、……どうやら今日は来ていない様だけど、隠しても無駄よ。貴方があの『ビキニアーマー』の冒険者だって事は分かっているからね」


「ええっと……」


「この間見たのよ。森の中でビキニアーマーをつけていた所を。だから隠しても無駄よ!」


「あのー……人違いです。僕は楊田和也です。ビキニアーマーの冒険者ってのはあの時僕の横にいたユコルさんです」


「へっ」


何と言う事だ。二分の一の確率でハズレを引いてしまった。

いや、慌てる必要はない。ならばユコルの知り合いであるヨウダカズヤにユコルが何処に行ったのかを聞けば良い。


「じゃあ、そのユコルって方は何処に行ったのかしら?」


「ユコルさんはつい1時間程前に歩いてこの街を出て行きました」


「うっ……行き先は?」


「さぁ?僕には何とも……」


「くっ、見てなさい!ユコル!必ず貴方を見つけるわ」


こうして『聖女』のナターシャはユコルを探す旅に出るのであった。







ナターシャとヨウダカズヤが対面していた頃……

ユコルは平原を鼻歌まじりに歩いていた。


「ビッキニアーマーカッコいいーーー♪強くて可愛いビキニの子ーーーー♪」


すると、目の前からゴールドスライムが寝ているのを見つけた。


歌うのをやめて、じっとゴールドスライムを観察する。

ゴールドスライムとは、スライムの亜種であり、戦闘能力は極めて低い。

しかし、その素材は、紙よりも軽く、ドラゴンの鱗など比較にならない程に硬い。そして変幻自在で加工しやすく、あらゆる物に溶け込んで同じ性質を持たせる。

更に、何度溶かしても基本的に純度が落ちないという鍛治職人が喉から手が出るほど欲しい素材である。

ゴールドスライムの死骸をギルドに持っていけば、買取額10,000Gはくだらないのだ。


だが、それだけの値段がつくのには当然他にも理由がある。


異様に捕まえるのが難しいのだ。


まず、個体が少な過ぎて滅多に見つからない上、生息地が未だに判明していない。


仮に見つかっても、ゴールドスライムは足が速く、スピードだけなら魔王にも匹敵するのだ。


そのスピードで体当たりすればそれなりにダメージが入りそうだが、残念ながらスライムボディーはぶつかった物に柔らかい衝撃を与えるだけで、ダメージなど入らない。


それが分かっている彼等は、人間を見つけた瞬間にものすごい勢いで逃げる。


そんな訳で激レアなゴールドスライムが、偶然にも今、ユコルの目の前にいた。


どうやらゴールドスライムは寝ている様で、こちらに気付いていない。


やるなら今だ。


ゴールドスライムとの距離は凡そ10メートル。しかし、これ以上近づけば感の良いゴールドスライムは俺に気づいてしまうだろう。


とはいえ、この間のレッサードラゴンみたいに投げる物もここには無い。


「あとは……俺のビキニパンツを投げつけるしか……クッ!それしか無いのか……?コイツは40年間共に戦ってきた戦友だ!そんな事……」


等と言っている内に、ゴールドスライムが起きてしまった。


当たり前だ。

あれだけ騒いでいればゴールドスライムで無くても起きてしまう。


こうなったら逃げられるだけだろう……

と、思っていたら、何故かゴールドスライムはこちらを見つめるばかりで逃げようとしない。


「なんだ……?何故逃げんのだ」


暫くユコルを見つめていたゴールドスライムは、あろうことか近づいてきた。

そして、擦り寄っている。


ユコルも訳が分からないという顔である。


ゴールドスライムが人に懐いた話など聞いた事もない。

しかし、こう懐かれては無惨に殺してギルドに売るのも流石にな……


「………いや、やはり俺には飼う事など出来ん。せめて見逃してやるから何処へなりとも行くが良い」


ゴールドスライムは言葉が分からない。

が、ユコルの言っている意味は何となく理解した様だ。

だが、それでも離れようとしない。

そして、庇護欲を誘う目でユコルに連れて行ってくれと逆に訴えかけられる。


「グヌヌ……ええい!分かった!お前を飼うことにしよう」


途端にゴールドスライムは嬉しそうな顔をして、ぴょんぴょんと飛び跳ね始めた。


「さてと、お前に名をつけなければいけないな……果て、何が良いだろうか」


色々と考えてみる。

ゴールドスライムだから、ゴルちゃんとか?

否、安直だろう。

ならばスラちゃんか?

否、先ほどと大差ない。


数分悩んで出た選択肢は


・ネオン

・ルチア

・トッポ

・クリアーネ

・ニーナ


だ。

この世界のそこそこ一般的な名前達だが、スライムにつけるにはちょっとどうだろう?


まあ良い、この中から選んでもらうとしよう。


「ほら、ゴールドスライム。お前の名前の選択肢だ、好きなのを選ぶが良い」


書いた紙をゴールドスライムの前に見せる。

普通魔物がこれを理解する訳はないのだが、何となくこの子なら理解するだろうと思ったのだ。


案の定、ゴールドスライムは全ての選択肢を見た後、直ぐに一つの名前の前に座った。


「……そうか、それが良いのか。よし、お前の名前は今日からニーナだ!よろしくなニーナ」


「フユユユ!!!」


「それにしても……偶然とはいえ、また因果のある名前を選んだものよう……ニーナ?」


「フユ?」


「ああ、すまん。お前の事では無いんだ。そうだ、お前の分の食べ物を街に買いに戻らねばな。行くぞニーナ!」


「フユユ!」


こうして、ユコルに新たな仲間が加わったのだった。


一方、その頃ナターシャは、ユコルを追いかける途中でウルフに襲われていた。




「はぁっ、はぁっ……このウルフ強い!」


ウルフが強い……というよりもどちらかといえばナターシャが弱かった。


そう、戦闘タイプでは無いナターシャがそれらしい装備もせずに街の外に出てしまったのは失敗であった。


基本的にこの近くには弱い魔物しか出てこない。

その話を聞いていたから、ナターシャは自分でも大丈夫だろうと安易に外に出てしまったのだ。

実際ここら辺の平原では出てくるのはスライムやレッサードラキュラくらいのもので、大した危険はないのだが、運悪くこの平原では強めのウルフと遭遇してしまったのだ。


ナターシャの戦闘手段は基本殴る、蹴るしか出来ない。

一応短剣を持ってはいるが、扱い慣れていないので、自分を傷つける恐れがある。

スライムやレッサードラキュラ相手ならこの短剣だけでも良かった筈だが……


この状況ではナターシャに勝ち目はない。


早めの撤退をしようと思い、背を向けたのが間違いだった。


単なる走力でウルフに勝てるはずがなかったのだ。


余裕の走りでナターシャに追いついたウルフは、そのまま足に噛みつき、アキレス腱を切ってしまった。


「イタタ……」


血がどくどくと流れ出し、痛みでうまく動かない。


誰か……助けて!


ウルフの体が真っ二つに裂かれたのはその直後の事であった。


よく見ると、ウルフの向こうには大柄で筋肉質な男が、肩にゴールドスライムを乗せて立っていた。

その体は殆ど全裸で肌を露出させていたが、たった一つの装備で守られていた。


マイクロビキニアーマーで、である。


間違いない、この男が自分が探していたビキニアーマーの冒険者、ユコルだ。


「貴方は……『ビキニアーマー』のユコル?」


「む?俺の事を知っているのか?」


「ええ、噂は聞いているわ」


「噂だと?」


「貴方が街の流行病を治したってね」


「ああ、そういえばそんな事したな……」


「それで、勝負しようと思っていたのよ」


「それより大丈夫か?足から血が出ておるぞ」


「いいえ、丁度良いわ。回復魔術で勝負すると言っても、わざわざ病気の人を探したり怪我させたりなんて出来ないもの。私のこの怪我、貴方には治せる?」


ナターシャからすると、これはほんの小手調べである。

この程度の怪我、ナターシャが治せないわけは無い。

要は、この程度の怪我も治せないのなら勝負するまでも無いという事だ。


お手並み拝見……のつもりだった。


「あー……すまん、俺には治せん」


「はぁ?貴方街の人を回復魔術で治したんでしょう?これくらい治せないの?」


「治せなくは無いが、君にも出来るだろう?」


「……何で分かったの?」


「俺のビキニアーマーの付与効果さ。『鑑定』の効果が付与されていて、使える魔術が判別できる」


「おかしく無い!?何でビキニアーマーにそんな効果があるの!?」


「まあ細かい事は良かろう。それより、中々の使い手では無いか。若いのに大したものだ」


「あのね……貴方の方が凄いでしょ!大体回復魔術が使えないのにどうやって街の流行病を収めたっていうの!」


「それは……だな。いや、実際にやってみせた方が早いか」


そう言うと、ユコルはビキニアーマーの上を脱ぎ、ナターシャの胸に装備させようとしていた。


「ちょっ!馬鹿!」


「……俺はな。回復魔術が使えん。だから、この様にビキニアーマーの付与効果である『自然治癒力強化』、『免疫生成』等を使って回復させていたのだ」


「分かった!後はもう自分で回復魔術使うからそのビキニアーマーはやめて!」


本気でナターシャに装備させる気はなかったのか、ユコルは素直にやめた。


「『ヒール』!」


すると、見る見る内に傷が治っていった。


「……という訳だ。すまんが、君と勝負は出来ん」


「分かったわよ。あと……ありがとう」


「む?何がだ」


「助けてくれた事よ!その……ウルフから助けてくれた事」


「ああ、良かったら街まで一緒に送って行こう」


こうして、2人は少しの間共に行動する事になる。




「ねぇ、さっきから気になってたんだけど」


「何がだ?」


「貴方のその肩に乗ってるやつ。ゴールドスライムよね?」

「ああ、ニーナの事か。そうだぞ、懐かれてしまってな」


「懐かれてって……ゴールドスライムが?」


「俺も信じがたかったが、実際に懐いたのだから仕方あるまい。なあ?ニーナよ」


「はぁ……名前までつけちゃって」


暫く話していたら何となく分かった。

ユコルは途轍もなく強い。

少なくとも、今まで私が会った人の中では1番だ。

だからこそ、言いたい事がある。


「ねぇ、貴方。魔王は知ってるわよね?」


「魔王だと?……当然知っているが、それがどうかしたか?」


魔王の単語を聞いて少しユコルが不機嫌そうな顔になった気がしたが、気のせいだろう。


「40年前……野生の魔物達を力で抑えた伝説の知性ある魔物。それが魔王。魔王の台頭によって少しずつ魔物達の力が強くなっていった……」


「そうだな」


「ユコル……さんは、丁度その時20歳くらいだったんじゃ無い?」


「ユコルで良いぞ」


「そう……なら、ユコル。当時と比べて魔物の強さはどうなの?」


「明らかに強い。魔王が台頭する前と倍近いんじゃないか?」


「やはりね。だから、国は魔王を討伐する勇者を作ろうとした」


「だが、過去にその討伐が成されたことは……」


「一度も無いわね。初めの勇者パーティーは5人の精鋭だった。それ以前にも討伐隊は組んだそうだけど、生半可な力では太刀打ちできなかったそうよ」


「たしか、一定以上の実力を持つ者でないと魔王の前では威圧感に耐えられず、動けなくなるって話だったからな」


「詳しいわね……。でもまあ、ユコルの言う通りよ。その結果一定以上の実力を持つ勇者パーティーに、人類の命運は託された。でも、初めの勇者パーティーは魔王に傷一つつける事も出来なかった。その後、進行する魔王軍を抑えること10年。2度目の勇者パーティーを作られた」


「その時は一般応募をかけて、勇者の力があるかどうかを騎士団長を使ってテストした筈だ」


「詳しいわね……。でもその通りよ、テストの結果残ったのはたった2人だけだった。残った2人は鍛錬を繰り返し、たった2人で魔王城まで到達し、魔王と対峙した。けれど、魔王自体は倒す事もできず、装備を破壊するに終わった」


「そして10年前に新たに勇者パーティーが結成された。このパーティーは……魔王に到達する事すら叶わなかった」


「10年おきに攻めてくる勇者パーティーに対抗する為、魔王が四天王というシステムを魔王軍内で作ったんだったよな?魔王軍の中でも特に強い4個体を魔王が直々に指導し、特別強化する事で勇者にも対抗できる戦力にしたっていう」


「ええそうよ。というかやっぱり知ってるのね。10年前の勇者パーティーは四天王のうちの1人を倒しただけに終わった。そういう訳で魔王は未だ倒されておらず、この世界は混沌の最中……」


「ナターシャ、お前が言いたいのはこういう事か?『私と一緒に次の勇者パーティーへ志願しないか?』だ」


「……あら、よく分かったわね」


「分かるさ。先程から意味ありげにし過ぎだ」


「なら話が早いわね。私が貴方を誘う理由も分かるでしょう?」


「……悪いが、あまり乗り気にはなれない」

 

「でも、それだけの力を使わないなんて勿体無いわ」


「本当に悪いが、俺は老い先短いんだ。俺にはやらなければならない事がある」


「……国王が言っていたわ。魔王を倒した勇者には何でも一つ、願いを叶えてやると」


「なに、国王が……?」


「ええ、やる気出てきたかしら?」


「悪い、余計にやりたくなくなってきた」


「はぁっ!?どういう事よ一体……」


問い詰めようとユコルに寄ったナターシャだったが、ユコルの見せた表情に驚き、それ以上は何も言えなかったのだった。




「ねぇ……」


「なんだ?」


「さっきは……その……ごめんね」


「何がだ」


「さっきの、国王?の事口にしたの」


ナターシャは、ユコルが機嫌を悪くした原因がよく分かっていない。

しかし、とにかく謝らなければいけないと思ったのだ。


「別に……構わん。それに俺も大人気なかった。ナターシャは関係ないのにな」


「大人気……って、私子供じゃないんですけど!立派なレディーなんですけど!」


「そうだな」


「絶対信じてないでしょ!本当の事言いなさいよ!」


「あー……うむ、そうだな」


「この男!」


「それより、そろそろ街に着くぞ。ほら、見えてき……」


「待ちなさいよ、逃げようったってそうはいかないわよ。さっきの件、有耶無耶になんてさせないんだから!」


「待て、あれは何だ?」


「あれって何よ」


「街の向こうだ。何だか煙がたってないか?」


「……あ、本当だ。火事かしら」


「いや、違う。あれは人為的に起こされたものだ」


「何でそんな事貴方に分かるのよ」


「確信は無い……が、間違いない。俺のビキニアーマーの付与効果の一つに『危機感知』というものがある。気休め程度のスキルだが、悪い予感が当たりやすい」


「本当、貴方のビキニアーマーは何でも付いてるわね。でも、それならたしかに気になるわね……」


その時、丁度煙の元で爆発が起こった。


「っ!」


「走るぞ……」


2人は全速力で駆け出した。





………………………………

………………

……



2人が駆けつけた先……

そこにはツノの生えた少し黒い人間が街を破壊していた。


「貴様……何者だ?」


ナターシャがゆっくりと声をかける。


「我が名は……アルト」


「アルト……!?貴様四天王か!?」


途端、ナターシャの顔は真っ青になった。


「知っているのか。ならば我が、いや我等の目的も分かるだろう。当然この国の破壊だ」 


「そん……な。よりによって四天王が……こんな、辺境に……」


半ば絶望するナターシャ。

そこに、空気を読めない男、ユコルが話に割って入る。


「おい、どういうことだ?四天王が何故ここにいる?」


「……ばーか、教えてやるものか」


「そうか……ならば話したくなるまで痛めつけてやろう」



ユコルはアルトに向けて全力体当たりをする。


「グハァッ!?」


すると、アルトの体は四方に爆散し、辺りは肉の破片と血で汚くなった。


「あっ、うっかり殺してしまった……」


しかし、爆散したはずの肉体はすぐに一つ一つが寄り集まり、元の状態に戻っていた。

 

「フフフ、我を殺せたと思ったか?残念でした。我はこの身に魔力がある限りどれだけ刻まれようが肉体が再生し続けるのだ。もし殺し……」


最後まで言い終わる前にユコルが地面に埋まっている煉瓦を抜き取り、軽く砕いてアルトに投げつけた。


今度は身体が蜂の巣にされてしまったようだ。

しかし、先程と同じく訳も無く元通りだ。


「馬鹿め。学習せんのか?我にそれは通じん。……が、最後まで話を」


やはり言い終える前に、ユコルはアルトに近寄り彼の足を掴むと、地面に凄い勢いで叩きつけた。

まるでトマトのように、アルトの身体は上半身が四散しており、とても見ていられるものではなかった。


「アルト、貴様の再生能力は魔力が無くなれば使えなくなるはずだ。ならば回復しないように攻撃しつづければ良いだけだ」


「やめ……」


上半身がほぼ治りかけていたアルトを拳で殴る。

また回復してきたら踏み潰す。

それをし続けて10回程した頃、アルトの様子がおかしくなっていた。


「ゆ、許して下さい。何でも話しますから。お願いします助けて」


「……何故ここに来た?」


「分かりません」


ユコルが再び殴ろうとするとアルトの命乞いが再び始まった。


「ち、違うんです!我にも何が何だか分からんのです」


「何が?」


「この街の襲撃は魔王様の命令によって行われました。でも……」


「でも?」


「フフフ」


「何がおかしい」


「馬鹿め、引っかかりやがって!」


すると、いつの間にやらユコルの背後に立っていた肉塊が、ユコル目掛けて剣を振り下ろしてきたのだ。


「我が能力が一つだと思ったか?我は肉体の一部を切り離して操作する事も……」


しかし、肉塊は、動き出す前にバラバラに刻まれてしまった。


「な、何だと!?」


「そこまでだ!」


窮地に立たされたユコルを助けたのは、楊田和也であった。


「やれやれ、何だか不穏な雰囲気を感じたから来てみればやはりだ」


「チッ、『一撃必殺』か!」


「カズヤ君、何故ここに?」


「……僕の彼女の件でユコルさんに報告があったんですよ。……しかし、今はそんな場合じゃなさそうですね」


「ああ、コイツから情報を吐き出させないと」


「クソッ!テメェユコルの餓鬼が!我を誰だと思ってやがる!離せ!」


「……アルト、悪いが貴様は生かしておいても益は無さそうだ。残念だよ」


「ま、待て!ユコル、落ち着けよ。お前まだビキニの村のあの女の事気にしてんのか?その為にこんな事してんだな!?分かった、我が情報をやるから……」


「死にたいみたいだな」


「だから待てって、ビキニの巫女の代わりなら他にいるんだ!その女を連れてこれば……」


「遺言はそれで良いんだな」


ユコルはアルトの頭を叩き潰した。

どうやら、焦っていた通り魔力がなくなりかけだったようだ。


「ユコルさん……貴方、過去に何があったんですか?」


「……話せん。すまんなお前達」


ユコルはニーナを肩に乗せると歩き出した。


「何処へ行くんですか!」


「悪いなナターシャ。やはり俺のような老兵には魔王討伐は無理だ」


「何故です!貴方ほどの実力があれば魔王だって簡単に……」


「違う……俺は違ったんだ」


「だから何の話……」


「俺は本来のビキニアーマーの後継者じゃなかった」


その言葉だけ残して彼は行ってしまった。

後日、国中に四天王アルトの死の話は広まったようだ。

皆英雄ユコルを讃えようと彼を探したが、ついぞ彼は見つからなかったようだ。

彼は今日も、誰かの為に人知れず戦っている。




人気あったら続き書きます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ