ただの気まぐれ
その頃から世間は俺のことを死神と呼ぶようになった。
王に認められた裏の王。
年頃になると女はいくらでも寄ってきた。
俺の金と容姿に惹かれ寄ってくる貴族の女ども。
滑稽だと思った。笑顔で隠しているつもりだろうが、死神を恐れていることがありありと見て取れる。
怖いものみたさで近寄ってくる商売女のほうがまだマシだった。
どちらにしても、今まで俺に歯向かってくる女はいなかった。
それが今日、面白いことが起きた。
「ブブブブブ、ブラックリリリリーここ公爵!!! わわわ、私のままま前髪をききき切りましたねっっっ。どどどうせせ責任をとと取ってくれるのですかぁ……」
俺の嫁になる予定の女との顔合わせ。かたちだけの政略結婚。
結婚などしたくはなかったが、金がかかわっているので仕方がない。
ある程度の自由な金を与え、しばらく放置していれば、外に男でもつくるだろう。
もし公爵家を乗っ取ろうとしてきたら、その時はまた潰せばいい。
親戚どもを潰した時より、簡単に終わるだろう。赤子の首をひねるようなものだろうから、そこまで面倒なこともない。
顔合わせの時間さえもったいないが、煩わしいのは最初だけ。
そう思い、婚約者と対面した。
白銀の長い髪を足元まで伸ばし、顔を隠したままの女。
アーガイルが後ろでニヤニヤしているのがみえた。俺が何をするか、わかっているのだろう。
女の前髪を剣で薙ぎ払った。
女の顔を見る。顔を隠す理由があるようには思えなかった。
無駄なことをした……。そう思い、女を下がらせようとした瞬間。
女はつかつかと俺のもとまで歩み寄り、顔をぐっと近づけにらみつけ、先ほどのセリフを叫んだのだ。
俺を恐れて声が震えているわけではないようだった。
普通の貴族女だったら、俺を恐れてその場は引きつった笑顔でやり過ごす。
そう思ったら興がのった。
先ほどとは違い、下を向き小さくなっている女の顔を持ち上げキスをした。
ただの気まぐれ。
いつもと違う女を味見してみるのも良いかと思っただけ。
しかし反応はただの幼稚園児。キスされて動けなくなったようだ。
「ふっ」
エドワード自身も気づいていない笑みは、彼の執務室に消えていった。