表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

前編

ベレット王国の最北の山に囲まれた小さな村。

そこは滅多に人が来なくて静かな村だけれど、ご近所さんは皆温かくて優しい。

私はそんなこの村が大好き。

静かで温かくて、優しいこの村が…

…ずっと続きますように。


小さな小さな頃の、他愛もない夢。けれど、私はその願いが叶うことを切望していた。



◆◆◆


願いも虚しいかな、静かなこの村は只今、大変騒がしい。

なぜか?

これには単純かつ、複雑な理由がある。

…端的に言えば、私の父親は、このベレット王国の国王陛下と言うのが理由。

びっくりしたかもしれないけれど、私は一国の姫だ。

エリザベス・ベレット、それが私の本当の名前。

エリザベスという名は高貴な身分のものにしか付けられない慣習があるので、今はリズと名乗っている。

私の母は昔はベレット王国の国母で、とても民から慕われた人だったそう。 

けれども、国王陛下は寵愛する妃を正式な妻にするために、お母様を貶めた。 

国王陛下はお母様に冤罪をかけ、正妃の座を剥奪するだけでは飽き足らず、平民にまで落とした。

もう二度と、自分の目の前に現れぬように、と。

なんて自己中心的な人なの!

呆れて物も言えない。

…話が逸れたけれど。

まあ、そういう経緯で娘である私もお母様と共に平民落ちしたと思っていたのだけど。

どうやら国王陛下(阿呆)はさっさとお母様を追い出したいがために私を平民落ちにはしなかったみたい。

手続きは数カ月かかるといえど、今更私が王座を狙う心配をするくらいならその時手間を惜しまなければ良かったものを…


とどのつまり、国王陛下は今更私が王座を狙いに来る心配をし、わざわざ辺境の村に住んでいる私達の所に押しかけて来たのだ。

だから、今、村は凄く騒がしい。


「何度も言っていますが、リズと私は此処で静かに暮らしているだけです。あなたがたにご迷惑をおかけするような事はありません」


屈強な騎士とお母様が言い争って数時間。

いや、周りの目には騎士がお母様に吠えてるだけの図かしらね…?

傍から見ればお母様はあまりにも淡々としているから、言い争っているように見えない。


「お母様」

「何か用、リズ。何もないなら部屋に戻っていなさい」

「私達騎士団はエリザベス様に危害を加えるようなことをしない」

「そうですか」


お母様は騎士の言葉をスルーして、私を部屋に戻るよう促した。

いつだって冷静沈着なお母様。

けれども、今はとても機嫌が悪いように見える。

何年もお母様を見てきた私の直感のようなものだけれど…

お母様はもう二度と、我が子を手放したくないんだと思う。

あの日、生まれたばかりの我が子を手放した母の涙を、忘れる事はないだろう。

だからこそ、私はこれをチャンスだと思うことにする。

国王陛下は私を監視するために貴族の学園に編入させるつもりらしい。

なら、そこに弟もきっといるはず。

会うことは叶わずとも、息子が元気に暮らしていることを伝えられれば、お母様の憂いも少しははらせるかもしれない。

それに私自身、弟に会ってみたい。

ひと目でいいから、その姿を見てみたい。


「お母様」


もう一度、お母様を呼ぶ。


「私は、弟に会ってみたいのです。一度でいいから、顔を見たいんです」

「リズ…」


私は弟の事を余り覚えて居ないけれど、お母様はそうでは無いだろう。

何度、会いたいと願ったことだろうか。

だからこそ、私のこの気持ちをお母様は無下にはできない。


「……わかったわ。けれど、何かあればすぐに帰ってきなさい」


お母様は仕方ないように微笑し、私の頭を撫でた。

いつものとは違い、儚げな雰囲気のお母様。

少し、感傷にひたっているのかもしれない。


「この子を宜しくお願いします」

「承知いたしました」


お母様が美しい礼をした。

それに釣られるように、騎士もまた丁寧に礼をした。



こうして、私の学園入学が決まった。


◆◆◆


学園の入学を決めた日からはや数日。

私は学園の正門前にいる。

手続きとか色々あるはずなのに、スムーズに進みすぎじゃないだろうか。

国王陛下は余程早く私を監視下に置きたいらしい。

そう考えると、まんまと学園に入学したことが少し悔しいような。

…考えないようにしよう。

せっかく、もうすぐ弟に会えるのだから。

厳かにそびえる門が音を立てて開き、大きな馬車が現れる。

それだけで、学園の広さが伺えた。

馬車の扉がゆっくりと開く。

見えたのは、私とよく似た金髪に、深海のごとく深い碧眼。

少し切れ長な目元はお母様に少し似ている。


「はじめまして、こんにちは。君が、リズ嬢かな。僕はデイヴィッド・ベレット、この国の第一王子だ。これからよろしくね」


その声は柔らかく、微笑む顔は何処と無く覚えがある。

もう、殆ど覚えていないはずの、忘れてしまっていたはずの記憶が蘇る。


_ああ、この男の子は本当に私の弟なんだ。

 

なんだかほっとするような安心感を覚える。

それと同時にどっと緊張が押し寄せ、息がつまった。

目を合わせたまま何も言わない私をみて、デイヴィッドが首をかしげる。


「緊張してる?」

「…はっ」


おっとやばい、不審に思われている。

というか、王族に話しかけられて黙るとか不敬罪にならないよね。大丈夫よね?

国王陛下には平民のリズとしての生活を厳命されているし…。


「リ、リズと申します。宜しく、お願いしますっ」

「うん、宜しくね」


お母様直伝の礼を披露し、ひたすらニコニコと笑う。

すっごいどもったけど。

…仕方なくない?


緊張、動揺、焦り…全てが募り、ようやく弟へ会えた喜びはどこえやら。


最先悪いけど、これから大丈夫なのかな…!?



__数ヶ月後


多分、え?ってなったと思うよ。

デイヴィッドと仲を深めたりしてると思うでしょ?


ははっ。


「全く、会えないわ…っ」


進展0だよ。

この数ヶ月でしたことといえば。

デイヴィッドのファンクラブに入り。

意図せずではあるがデイヴィッドの従者と友人になったことだろうか。

ファンクラブの子とデイヴィッドを眺めてきゃあきゃあいったり、語り合うのは楽しかったよ…

結構、虚しかったけど。


「リズ、どうしたんだ?」

「あ、ノア…。ちょっと色々、現実という壁にぶち当たってるんですよ」


ノア・クライアンツ。

彼がデイヴィッドの従者だ。そして、私の友人でもある。

こうして、落ち込んでいる私を見て駆け寄ってくれる、良い友人だ。


「まぁ、なんだ。飯、食いに行こう」

「えぇ」


相槌をうち、いつもの裏庭へ出る。

ここは人が滅多に来ない穴場なのだ。

いつも通り、裏庭の中央にある木のベンチに隣り合って座る。


「で、どうしたんだよ」

「ぇと、デイヴィッド殿下、が…」

「…はぁぁあ…」


私がどもりながらデイヴィッドの名前を出すと、ノアは荒々しくため息をついた。

それも、仕方がないと思える。この相談は、もう数十回目なのだから。


「あのなぁ、お前はもう少し積極的になれよな」

「でも、デイヴィッド殿下からしたら、私はその他大勢のご令嬢と変わらないわ。むしろ、劣っていると言ってもいいくらいよ。なのに、私が…」


私は、デイヴィッドの姉。それは、紛うことなき事実だ。

けれど、デイヴィッドはそれを知らない。

それが事実であろうと、受け入れられる保証は無い。 

デイヴィッドもそんな事を知って喜ぶはずない。

だってデイヴィッドの幸せや平穏にヒビを入れるも同然なのだから。

それに、絆も何もない私達は、家族と言えるだろうか。

そんな、不安さえある。

姉弟と胸を張っては、言えない。


実際、私はデイヴィッドと姉弟だと口にしたことはない。


けれどノアは、知っていたのか、或いは気がついたのか。

私がデイヴィッドの姉である事を分かっている。

それを確かめ合ったことも無いので、最初は手探りだったが、王城の内部構造を聞かされた当たりで確信した。

だって、平民に極秘の隠し通路話したとかだったら、正気じゃないし。


つまり、私はデイヴィッドと姉弟だと明言する必要もなかったのだ。

だから、逃げてきた。


遠目にデイヴィッドの姿が見えた。


もう、いいじゃない。

だって、私の願いはデイヴィッドをひと目見ることだったんだから。

それに加え、声も聞けた。

だから、これ以上は望むべきじゃない。


「いいのかよ、それで」

「え?」

「お前は、デイヴィッド殿下に何も伝えずに終わってもいいのか?」


ズキリと胸が痛む。


「お前の気持ちはその程度か?」

「違う!でも、嫌われたらどうすればいいのよっ」


その言葉に思わずカッとなり、叫ぶ。

その程度?違う、大好きだから怖いだけなの。


「お前の身分も、どんな事情も、関係ないっ。デイヴィッド殿下はそんな小さい器じゃねぇ!」


「デイヴィッド殿下を信じろ!好きなんだろ!?」


まっすぐに訴いかけられて、少し考える。

…ノアの言う通りかもしれない。

この数ヶ月、私はデイヴィッドを遠くから見続けた。

デイヴィッドはどんなときも優しくて、別け隔て無い人だった。

そんなデイヴィッドが私の想像したような、醜い表情で私を見つめるだろうか。

そう思い至ったとき、私は自らの愚かさに気がついた。

デイヴィッドを思うかの様な、大切に思うかの様な事を言っておいて。

私が、デイヴィッドを貶めていた。

信頼、していなかった。


「ありがとう、ノア。私、行ってくる」

「ああ、頑張れ」

 

覚悟はできた。もう、迷わない。

私は立ち上がると、デイヴィッドの元に駆け出した。



◆◆◆


「デイヴィッド殿下!」


人気の無い廊下。

自分を呼ぶ声がやけに響く。

少し驚きのながら後ろを振り返れば、自分のそれとよく似たストレートの金髪に、澄んだ翡翠の瞳の彼女が駆け寄ってきた所だった。


「リズ嬢?」


リズ。それは、数ヶ月前に編入してきた平民の女性で、僕が密かに思いを寄せる人でもある。


「あ、あの、えっと…」


リズ嬢は僕を引き止めたはいいものの、話がまとまっていないのか手をもじもじさせている。

可愛い。


「ゆっくりでいいよ」

「!…いえ、すみません」


僕の声に小動物のようにびくりとすると、ためらうように口を開いた。


「私…デイヴィッド殿下に会いたくて、学園に入ったんです」

「…え?」


意中の女性にそんなことを言われて期待しない奴はいないだろう。

例に漏れず、僕もドキドキと胸を高鳴らせていた。

けど、この言い方だと、昔にあったことがあるのか…?


「最初は、ひと目見て、満足するつもりでした。なのに声を聞きたくて、話したくて…どんどん欲張りになっていって。なのに、デイヴィッド殿下に告げる勇気はなくて」


彼女の目尻に少し涙が滲む。

精いっぱいの勇気を出して、何かを告げようとしてくれているのがひしひしと伝わった。


「けれど、もう逃げるのは終わりにしたいんです。貴方の手をもう二度と離さないためにも」


僕は、その言葉を聞いた瞬間、ぴんときた。

ずっと、リズ嬢に既視感を感じていた。それは、正しかったのだ。

手を二度と離さない…

それは、6年前のあの日を指しているのではないだろうか。

10歳ももうすぐ終わる、そんな日。

初めて城下町に降りた日の事。

僕は迷子になった。

こっそり街に降りたから、護衛なんていないし、僕は不安でいっぱいだった。

しばらくたっただろうか、美しい金髪の少女が立っていた。

自分と同じか年下くらいだろうか。


『どうしたの?もしかして、迷子?』

『うん、帰り方が分からないんだ』

『お家の近くには何があるか分かる?』

『ええっと、お城が近いよ』

『なら、連れて行ってあげる!』


手をつなぎ、お城を目指す。


『そのペンダント、可愛いね』

『そうでしょ!えへへ』


沢山の他愛もない話をしながら。

しかし、そこは繁華街で、幼い体では右に左に流される。

そうしている内に、二人の手は離れ離れになってしまった。

その頃には城もだいぶ近くて、帰ることはできたんだけど…

まさか、リズ嬢があの女の子だったなんて。

なんて、運命的なんだろうか。 

あの少女を気に留めることはなかったが…僕は愚かだ。あの日の出会いは、神の思し召しだったんだ…!


「だから、聞いてくださ…」

「リズ嬢」


僕は彼女の口に人差し指をかざす。

そして、ニッコリと笑った。


「僕と、結婚してください」

「…ぇ…」


小さく漏れた吐息が当てた指をかすめる。

翡翠の瞳が大きく見開かれ、驚愕を表していた。

唐突な申し出であるのは百も承知だ。

だけど、この機会を逃すわけには行かない。

それに、これは運命だ。

彼女も同じ気持なはずだ。問題はないだろう。


「驚く姿も可愛いんだね」


固まったまま動かなくなった彼女をみて、すこし時間が必要だと考える。

また明日、会いに行こう。


僕はリズの髪に軽くキスを落とすと、その場をさった。


あぁ、今日はなんていい日なんだろうか。


◆◆◆


頭が、くらくらする。

私は、なぜ、弟に求婚されている…?

いつもの裏庭、私は呆けていた。だって、意味わかんない。


「あ、リズ!やっと見つけた。デイヴィッド殿下がお前を探してたぞ」

「ひっ」

「?」


え、どうしよう。

え、てか知らない?私がデイヴィッドに求婚されてるの知らないっ?


「わ、わわ私、デイヴィッド殿下に求婚されててっ」

「ん、あぁ、聞いたぞ。今日はお前にプレゼントがあるんだと」

「いや、止めて!?」

「なんだよ、嫌なのか?」

「あ、当たり前よ!私とデイヴィッド殿下の関係を考えなさいよっ」


ノアよ、血迷ったのか?

姉弟が結婚出来るわけないし、私はデイヴィッドに恋愛感情なんて向けてないっ。


「関係って…まぁ、うぅん…。よし、デイヴィッド殿下にはまずは婚約からどうかって、言っておくよ。俺が出来るのはそれくらいだ」

「いやいやいや!しっかり手順踏んでどうするつもりよ。死地に飛び込めとっ?」

「そうじゃない。手順をしっかり踏むことで時間に余裕が生まれるだろ。そうすれば話し合いの余地が生まれる」

「話し合いっていうか、たった一言伝えたら解決なんだけれどっ」

「デイヴィッド殿下にその余裕が無いからこそ、婚約という手順を踏んで油断させた上で、話をするべきじゃないか?」

「いや…でも…デイヴィッド殿下を一瞬でも引き留められればいいのであって…?」


あれ、混乱してきたぞ。

もしかして、私がおかしな事をいっているのかな。

ノアの言うことが正しくて、私の考えが間違ってる…?

常識という常識が不確かなものへと変わっていく。


なんだか、もう、限界。


私は平民育ちだし、貴族ともなれば私の及ばぬ思考回路を有しているのかもしれない…

その点、ノアは生粋の貴族な上に優秀だ。

きっと、ノアの言うことが正しいのよね。言う通りにすればどうにかなる…のよね?


ぼやけた思考の中、私はそう結論づけた。


「いえ、そうね。ノアのいう通りにするわ。ありがとう」


焦って事を急くのはは、いけないことなのよね。

落ち着かなくっちゃ、エリザベス。



「よしっ、デイヴィッド殿下に会いに行ってくるわ!」

「あぁ、頑張れ。デイヴィッド殿下は別棟の中央廊下にいるぞ」

「ええ、分かったわ。それじゃあ、また後で」

「ああ、また後で」


私はベンチから立ち上がると駆け出した。

場所は、この間求婚された中央廊下。

これは、偶然か、故意なのか…。


「デイヴィッド殿下!」


あの時のように後ろ姿のデイヴィッドに呼びかける。


「リズ」


ぱぁ、と輝く笑顔でデイヴィッドがこちらを振り返る。


「君に、渡したいものがあったんだ」


私が口を開く前にそう言うと、デイヴィッドは私の前にひざまずく。


「なにを…」

「改めて、僕と結婚してください」


デイヴィッドは手に持っていた小さな箱を開くと、それを私に向けた。

そこから輝く物を取り出すと、私の左手をそっとすくう。

そして、私の薬指にそれをはめた。



_指輪である。



「も、もももらえません!」

「ど、どうして…」


思わず叫んだわたしに、愕然とたしたデイヴィッド。

私は先程のノアとの話の根本が間違えていることに気がついた。

デイヴィッドは少し事に急いているなんてものじゃない。ことは思ったよりも、深刻だ。

焦りと動揺で私はひとおもいに叫ぼうとした。


「私はデイヴィッド殿下とは、婚約できま…」


しかし、それはデイヴィッドの言葉でかき消された。


「指輪、よく似合ってるよ。可愛い」


それだけいうと、デイヴィッドは走りさる。


_いいえ、走りさらせない…っ。


ここで、逃がすほど私はやわな女じゃない。

ここで負けては、姉がすたる……!

 

結果的には、私がデイヴィッドに追いつくことはなかった。

いや、少し違う。

正確に言えば、デイヴィッドに怒涛の勢いで迫りくる私を危険視したデイヴィッドの護衛によって止められた、だ。


一番危険なのは、今ここで止められることなんだけど…!

そんな私の叫びは一蹴され、泣く泣く宿舎に帰ることになったのだった。





デイヴィッドに逃げられたあの日から、私は幾度となくデイヴィッドに会いに行った。

けれど、何故か避けられる。


そして、最悪な事態がもう一つ。

デイヴィッドと婚約を結んでしまった。それも、極秘に。

どれくらい極秘かと言うと、国王陛下にすら伝えられてないくらい、かな。


普通、婚約と言うのは親しい物からの承認があって、初めて成立する。一筆はするもののそれは口約束に近く、それ程手順を踏むものではない。

つまりは偽造が簡単。

私の字体は完璧に偽造された後に、親しい者としてノアが私達二人の婚約を承認した。

あとは、教会に受理してもらえばいいから、故意にしている神官にそれを秘密裏に受理して貰えば、完璧だ。


そしてそれをあとからにこにこ顔のノアに知らされた。

私は「バカ」と罵った。

事前に話していた話だったけどさ、でもさぁっ。

…はぁ、いっそ、大っぴらに公表してくれたら、事はもっと単純に終わったのに。

結構、デイヴィッドが不憫な事になるけれど。


私は国王陛下からリズがエリザベス王女と公表をするなと言われている。

つまり、大勢の場で私がデイヴィッドの姉だと叫ぶことは不可能。

他に人のいない場所か、遠回しに伝える他ない。

…難易度たっか。


そして、今私はデイヴィッドを探すために徘徊している。

半分ストーカーである。

違うから。私、デイヴィッドの姉だから…!

もうやだ。正直に言うと、私はデイヴィッドに幻想を抱いていた。

初めて会ったときは、こんな学園中の人気者が弟なんだって、嬉しかったし誇らしかった。

お母様へ綴った最初の手紙はデイヴィッドを褒め称えるかのようなものになったし。


でも、いまは…アハッ


(このっ、ばぁかデイヴィッド!)


愚痴もはかどるというものだ。


「あ、デイヴィッド殿下っ」

「リ、リズ?」


人通りの多い廊下、デイヴィッドとかち合う。

やっと…やっと見つけた!


「今日は、逃しませんからね」

「僕は、ぇーと、今から生徒会の仕事があるんだ」

「一瞬ですから。私と、デイヴィッド殿下は、きょ、きょーだい関係なんです」


私は周りに聞こえないくらいの小声でデイヴィッドにささやく。

ど、どうだ…?

結構リスキーな挑戦だったんだよ。成功してて…!


「きょーだい…きょうだい?」

「!そうです!」


私はデイヴィッドの発した"きょうだい"とい言葉に目を輝かせる。

デイヴィッドもうんうんと頷き、納得の様子だ。

やっぱり、デイヴィッドも私が姉だと心の何処かで分かって…


「あぁ、僕たちの関係には強大な障害が存在する。だからこそ、二人で力を合わせよう!」

「は?」


わかってなぁーーーい!

え、何をどうしたら姉弟が強大になるのよっ。

しかも、"きょーだい"と"関係"しか伝わってないし!

小声?小声なのが行けなかったの?


「ち、違うんですよ。えっと、私はデイヴィッド殿下のああね、みたいな!」


みたいな、って何!どもりすぎたよっ…


「ああね…?アアネ山脈のことか。確かにリズはアアネ山脈のごとく広い心を有しているな」

「……」


確かに、どもったけどさ。その感じでいったら、はっきり姉と叫ぼうが伝わりそうにないよ。

アアネ山脈ってどこ。どの国の山脈だよ。今、その博識さは求めてないんだって。


「あ、そろそろ生徒会の仕事があるから、またね」

「え、ちょっと…」


立ち去るデイヴィッドに縋ろうとして、止める。

…周りの視線が。

デイヴィッドに纏わりつく女を見る目なんだもん…っ。


「〜っ、また今度」


周りの目恐ろしさに、この日は泣く泣く断念した。










手段を選べば、その先にあるのは弟との結婚。

そのことを悟ったのは、随分と遅れた頃だった。


「よし、王城に乗り込もう」


私はそう決めた。

ストーカー?構うものですか。いいえ、構ってられない。

その先にあるのは弟との結婚を企む変態女だから…


「意外とすんなりと通れた…」


王城に来たものの、通して貰えるとは考えていなかった。強行突破する気だった。

あわよくば、噂を聞いた国王陛下が気づいてくれないかなー、なんていう期待もしていた。

けれど現実は、見張りの兵士に応接間まで快く通されている。

デイヴィッド、何か企んでる?

じゃっかん疑心暗鬼に陥っている最中、ある一人の侍女が現れた。


「デイヴィッド殿下の統括侍女のメイファと申します。デイヴィッド殿下は執務がありますので、しばらくお待ち下さい。」


私は逡巡した。

もう、いっそのこと他人にバラしてしまおうか、と。

もちろん、信頼の置ける人間であるのが第一条件ではあるけれど。

その点、デイヴィッドの統括侍女ともなればその辺はクリアしていると言えるのではないだろうか。

国王陛下との約束は破ることにはなってしまうけど、デイヴィッドと結婚するよりはずっといい。


「あの、デイヴィッド殿下との婚約について、なので…す、が……」


何ということでしょう。


あら、まぁ。


見事な耳栓さばきではありませんか_(?)


(いや、どういうことなの。なんでそんなに素早く耳栓をするの!?)


「デイヴィッド殿下のご命令ですので。失礼します」


メイファはそれだけ言うと、私の戸惑いはよそに静かに礼をして去っていった。


泣きそう。怖い。


「やぁ、待ったかな?会いに来てくれるなんて嬉しいよ」


メイファと入れ替わりにやってきたデイヴィッドは朗らかな笑顔で言う。

に、対し陰鬱な空気を纏う私は言う。


「なにを考えてるの…ねぇさんはわからないよ…」


それは本心だった。だからこそ、緊張もなくハッキリと伝える事が出来た。

意図せずして、伝える事が出来た。

伝わってるよね。伝わってなかったら、お医者様の所いこう!耳がおかしいと思う。


「ねぇーさん…ネイサン?あの、考える人のモデルとなったと言われる」

「え?」

「リズは博識だね。「分からない」をネイサンに例えて伝えるなんて…なんて、ユーモアにあるれているんだろう」

「ユーモアにあふれているのは殿下ですよ」


デイヴィッドの頭の中が一番ユーモアに溢れていると思う。


「所で、お医者様に会いましょう」

「え。どうしてだい、どこか悪いの?」

「私ではなく、デイヴィッド殿下です。私…デイヴィッド殿下の(耳が)心配でたまらないんです」

「…っ!なんて優しいんだっ。今すぐ見てもらおう!」



あの後、デイヴィッドに連れられるがままにお医者様の所へ向い、デイヴィッドの健康診断をしたが、異常はなかった。

じゃあ、デイヴィッドの頭が究極のお花畑だと、認めるしか、ないのっ?


お母様、ごめんなさい。

最初の手紙に書いた、天才という言葉を取り消させて下さい。

この子、とんでもないアホの子だった……っ。


_その日の夜、涙で枕を濡らしたのは言うまでもない話だ。


◆◆◆


どうして…こうなったかな。それが、今の私の気持ち。

何故…私はウエディングドレスを着ているのかな。

何かの、手違いであれ。


というか、私達の昨日は無かった事になってる?

もしくは、昨日の事は夢だったのかな。


意味わかんないっ!



_昨日の昼頃が事の発端だった。



私は何時ものようにデイヴィッドに会いに行った。

目的は勿論、私がデイヴィッドの姉と伝えることだ。


(けれど…姉と伝えても勘違いされるのが関の山よね。なにか、別の言い回しで…)


「やぁ、リズ!会いに来てくれて嬉しいな」

「あ、はい。所で大切な話があるんです」

「うん、なんだい。何でも聞くよ」

「私とデイヴィッドは、家族です」


私は堂々と言った。

言い回しを変えるのと共に、殿下と言うのもやめた。国王陛下の命令で当初は他人同士として、接していたかけど…今は必要ない。

王族を呼び捨てなんて、家族にしか許されないから、これもアピールになるはずっ!


「家族…。少し、時間をくれないか。すまない」

「い、いえ。いきなりでしたから、困らせてしまいましたよね。今日はこれでお暇させていただきます」


デイヴィッドは深刻な表情で俯いた。

やっと、伝わったんだな。そう、思える表情だった。


安心した、けど。

やっぱり傷つけてしまったよね。嫌われた、かな。


そんな不安と共に迎えた今日の朝。


私は王城に迎えられていた。

そして…

侍女に囲まれて湯浴みをさせられた後、純白のドレスを着せられ化粧を施されながら髪を結われた。


???


もしかしたら、王女としてきちんとした姿でいろという事なのかもしれない。そう思った瞬間もあったけど。


(どう見ても、ウエディングドレスだよね…!?)


違和感が確信に変わった瞬間から、私は頑張った。


侍女達に精いっぱいの大声で「私はデイヴィッドの姉ですっ!」と叫んだし。

できる限りの抵抗もした。

でもね、侍女が耳栓してるの。信じられる?

耳栓ってそんなに万能だったけ。ねえ、怖いよ。

耳栓、勿論外そうとしたよ。でも、華麗に避けるんだもの。


…ねえ、デイヴィッド。

お姉ちゃんは疲れたよ。

だって貴方は私の話を全く聞かないし、身勝手だもの。

もう、引いてるもん。ドン引きしてないだけ、優しい。


(お母様、ごめんなさい。デイヴィッドをあれだけ褒め称えておいて、頭お花畑野郎でしたなんて…)


お母様が日頃から何事にも慎重になりなさい、決めつけるのは貴女の悪い癖、と言っていたのを思い出す。

本当に、その通りだ。

でも、何もかも手遅れなのかもしれない。


「リズ、綺麗だね」


開いた扉から現れたのは耳栓をつけたデイヴィッド。純白のタキシードに合わせて、白銀色の耳栓だ。

なんだそれ。


「……」


動揺で頭が回らない。何から突っ込めば良いか分からない。

誰か、助けて。


「リズが昨日、家族になりたいと言っただろう?だから、少し張り切ってしまったよ。…急だったから、驚かせてしまったよね」

「ぇっ…いや、え…っ?」


動揺の中にさらなる爆弾が落とされた。

やめてくれ、私のライフはもう0なんだ。


「私は…家族だと、言ったはずですが……?」


誰が家族に、なりたい、なんて言った?

私の声は耳栓に阻まれて届かない。

ただただ虚しく、私の声が空気に溶けた。


聞こえてないならいいかな。

村にいた頃に覚えたできる限りの口の悪さで言い放つ。


「ばーか、あーほ、馬鹿な子ほど可愛いと言うけど、流石に可愛がれないわ」


「緊張してる?心配しないで僕がいる」

「心配なのは、貴方の頭です」


聞こえないことをいいことに私は悪態をついた。

そうでもしなきゃ、やってられなかった。


「そろそろいこう。皆、まってる」


私はその時、最高の復讐を思いついた。

もう、限界。

温情なんてないわ。覚悟なさい。

姉の恐ろしさを…見せてあげる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ