*もふもふさん
カーテンの隙間から差し込んだ朝日が、ベッドで寝ていた私を起こす。
目覚めると同時に、ごんぞうさんが私の頭に乗っかってきた。
「もっと寝かせてよぉ」
そんなことを言いながらも、悪い気はしていない。
もふもふとしたクマのぬいぐるみは肌触りが良い。
「早く起きてくだしゃい」
ごんぞうさんは舌っ足らずだ。
「私の相手もしてくださいな」
ウサギのフランソワもごんぞうさんに加勢する。
「もう、わかったよぅ」
私は観念して上体を起こす。
伸びをしたらあくびも出た。
ごんぞうさんとフランソワが私を見上げている。
私が二人を撫でると、嬉しそうにしている。
ちょっと前までは、もっとぬいぐるみがいたけれど、今はもういなくなってしまった。
寂しさのあまり二つのぬいぐるみを買ったら、こんなにも仲良くなれた。
「今日は何して遊びましゅか?」
「楽しくすごしましょ」
目をキラキラさせる二人をぎゅっと抱きしめる。
「く、苦しいでしゅ」
「離してくださいな」
可愛さを補充した私は、二人を開放する。
「ごめんね。愛おしくて」
二人を撫でる。
「嬉しいでしゅ」
「いつでもぎゅっとしてくださいな」
私はベッドを抜けて座椅子に腰を掛けてスマホをいじり始めた。
SNSで友達の最近の動向をチェックする。
仕事が順調のようだ。
「相手をしてくださいな」
「遊んでほしいでしゅ」
二人が寂しそうにしているので、お話をした。
楽しかったことがたくさんあればいいのだけれど、私はいつも愚痴をこぼしてしまう。
だけれど二人は私の話している時は黙って聞いてくれる。
そして時折相槌を打ったり、共感してくれる。
涙を流してしまうこともあるけれど、もふもふとした二人が私を包み込んで癒してくれる。
最高の友と言っていい。
気が付いたらしゃべり過ぎていたようで、お昼になるところだった。
また今日も愚痴りすぎちゃったかな。
そんなことを思ったとき、私の部屋のドアが勢いよく開いた。
「大人にもなって何やってるのよ!」
母が私の部屋に入ってくるなり怒鳴った。
そして私から前と同じように、ぬいぐるみたちを取り上げた。
「またこんなもの買って! 早く就職しなさい!」
大きな音を立てて、ドアが閉まった。
テーブルの上の鏡に映った私と目が合った。
現実に戻った。