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解決編


「じゃあ、文芸部の可能性が復活…」


 私は文芸部につけた×を消す。


「普段は喋ってない人が犯人だもんね。」


 キクコも納得する。

 ハブちゃんとか、テツト先輩と全然話してなかったけど、逆に怪しいと思えてくる。


「しかも普段喋らないんなら、他のクラスの人とも可能性もあるんじゃない?」


 スズも推理を楽しみ始めた。

 もしかしたら、いい友達になれるんじゃないかな。


「たまにしか喋らなくても、二人っきりになる機会があるって人は部活とか委員会とかに限られるでしょ。」


 私の意見に二人が頷く。


「何で手紙にしたのかも問題だ。」

「相手のチャットを知らなかったんじゃない?」

「じゃあヤヱ先輩は完全に消えた。バスケ部は連絡網で全員のチャット知ってるから。」


 スズからもいろいろな情報が出てくる。

 そんなことまで妹に話してるのか。本当に仲のいい兄妹だな。


「となると文芸部…。」


 私は腕組みをする。先輩といい感じの人居たかなぁ。思い出せ。何かがあるはずだ。


「好きな物が一緒って、つまり本だよね。」

「文芸部なんだから、手書きの手紙にこだわったとか?」

「ハブ先輩だわ。最近コンタクトに変えて可愛くなったって、みんな言ってるし。」

「ワン先輩は? アジアンビューティーじゃん。」


 スズとキクコがいろいろ推理を働かせる。


 あ。そうだ、思い出した。


「月曜日に先輩が文芸部来た時、みんなの予定聞いてた…」

「なんでそれを早く言わない!」


 キクコが大声を出す。


「だって、すごい自然な聞き方だったから。あんまり印象に残ってないよ。」

「やっぱり文芸部だ! 誰の予定を聞いてた?」


 キクコが私に迫る。


「全員の予定だったと思う。男女関係なく、そこに居た部員七人全員の…」

「誰かの事を細かく聞いてたとかない?」


 キクコもスズも私に迫る。顔近いよ。

 わかってるって、今思い出してるでしょ!


「先輩はみんなの予定聞いて、先に帰ったんだよね。」


 思い出せ。思い出せ私。

 テツト先輩は他に何を聞いてた?

 ハブちゃんは何て答えてた?

 ワンちゃんは?


「あ…」


 私は持っているペンを落としてしまった。


「ねぇ、もしかしたらだけど…。」

「何か思い出した?」


 私は自分の推理を展開する。


「手紙にした理由って、先輩が相手のチャットを知らなかったんじゃなくて、相手がチャットできない人だったってことかもしれない。」

「どゆこと? もしかしてアオイ、相手分かったの?」


 キクコの目がキラキラとする。


「で、その相手は先輩をフッたんじゃなくて、単に手紙に気付かなかっただけ…。」


 私は突然、立ち上がった。


「ねえ一緒に来て!」

「ちょ、どうした。」


 私は、キクコとスズを引っ張ってクラスを出る。


「相手がスマホ持ってなかったから、先輩は手紙を出すしかなかったんだよ。」


 二年の靴箱までやってきた。しゃがみこんで自分の靴箱の奥の方に手を入れる。


「なになに? 何してるの?」


 自分の靴のさらに奥。


  クシャリ…


 指先に触れる何らかの紙の感触。

 恐る恐る引っ張り出す。


 封筒だ。私はくしゃくしゃになっているそれを伸ばす。


『千田テツト』


 差出人の名前だ。

 恐る恐るひっくり返す。


『大上アオイ様』


 ああ、私の名前が書いてある!


「あのね。先輩が予定聞いた時に『暇』って答えたの、私だけなんだ…。」

「マジか!」


 私は少し泣き声になっていた。

 どうしよ。どうしよ。


「どうしよ。どうしよ。どうしよ。どうしよ。」


 なんでここに手紙が入ってるんだ。

 いや、自分でここに手紙があるって推理したんじゃないか。


 先輩ごめん。先輩はフラれたんじゃなくて、単に私が気付けなかっただけです。

 こんな靴箱が下の方じゃなければ、月曜日に帰る時に気付いたはず。

 一昨日(おととい)も今朝も気付かなかった。本当にごめんなさい。


 私の頭は真っ白になる。


「まさかの探偵が犯人のパターンかぁ。」


 スズが笑う。

 もう笑わないでよ。

 でも、スズは直接関係ないもんな。私もその立場なら、ちょっと笑ってしまうかも。


 キクコが私に聞いてくる。


「先輩からオススメの本聞かれたことあるって言ってたよね。」

「う、うん。たまに。」

「きっと先輩はその本を読んで、アオイと気が合うって思ったんだよ。」


 うわ。となると、本当に先輩は私のことを好きなのか。

 だんだん頬のあたりが熱くなってくる。


「で、あんたはどう思ってるの?」


 キクコが私の両肩を摑む。


「え、あ、え? 何のこと?」

「テツト先輩のことに決まってるじゃない。どう思ってるの?」


 キクコの真剣な眼差し。


「あの…、そりゃあ、テツト先輩は憧れるけど、私、そんな風に考えたことなかったし。」


 そりゃ、恋愛の対象として意識なんてしませんよ。

 陰キャには眩しすぎる人です。


「自分の気持ちに気付いてないだけじゃない?」

「自分の気持ちに気付く?」


 キクコさん、怖いです。

 私はオウム返しするのがやっと。


「耳の後ろを掻くだとか、テツト先輩の細かな仕草とかちゃんとチェックしてるし、」


 まあ、そういう細かいところに気付くのが探偵ですから。


「テツト先輩に告白(コク)ったリルル先輩の名前を塗りつぶしちゃったりもするし、」


 犯人じゃないなら、容疑者から外してあげないと。

 ああ、でも他の人はそんな風に消さなかったね。


「それって、アオイも先輩のこと気になっているからじゃない?」

「え、でも…。」


 これじゃあ、キクコのほうが探偵みたいじゃない。

 私って、テツト先輩を意識してるのかな?


 先輩の顔を思い出す。

 私が勧めた本を、真剣な表情で読む先輩。

 分からない言葉を私に聞いてくる先輩。


 あ、やばい。全部覚えてる。先輩の顔、言葉、全部覚えてるよ。


「私…先輩のこと好き…かも…。」

「OK! スズちゃん、ササセ先輩に連絡して!」

「お兄ちゃんに? なんて?」

「アオイが会いたいって言ってるって、テツト先輩に伝えてって!」


 キクコさん、行動が迅速すぎます。


「ちょっと待って待って。」


 私は、スマホを取り出したスズにストップをかける。


「諦めるの?」

「いや違うの…あの…」


 私はすこし呼吸を整える。


「あの…私、『桜の木の下で待ってる』って、伝えて。」

「了解!」


 スズは満面の笑みで、親指を立てた。


***


 もう桜の花は散ってしまった。

 私たちは三年生の靴箱の前に並ぶ。


「アオイ~、おはよう。」


 今年もキクコと同じクラスになった。


「おはよ。」


 私も挨拶を返しながら、靴箱の中をちゃんと確認してから靴を入れる。


「昨日あんたの事でチャットで盛り上がってさ。」

「そうなんだ。あたしもグループに入れてよ。」

「アオイもスマホ持ったんだ!」

「うん。」


 ポケットからスマホを取り出して見せる。


「どうした、心変わりかな?」


 キクコがニヤける。


「まあね。少し大人になったんだよ。」


 丁度その時、チャットの着信。


「おお、テツト先輩からじゃないか!」


 キクコに見られてしまった。


「春休みのこと、いろいろ聞かせてもらうからなぁ!」

「分かった、分かったって。」


 キクコが私の腕を掴んで放さない。


「何の話? 私にも聞かせてよ。」


 今年から同じクラスになったスズが追いかけてきた。

 私たちは笑いながら、三年の教室へと向かった。



~おしまい~

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