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推理編


「文芸部の方は?」


 キクコが目を鋭くして聞いてくる。文芸部については私の方が詳しいはずだ。


「そうだね。ハブちゃん、ワンちゃん、レラちゃん、私…」


 文芸部女子の名前を列挙しながらノートに書き込む。文芸部は先輩後輩の意識が薄いから、先輩でもみんな「ちゃん付け」で呼び合っている。

 さすがにテツト先輩はそこまで仲良くないから、先輩呼びだ。


「その中ならハブ先輩が一番怪しいな。」


 キクコがノートを指差す。


「なんで?」

「だってテツト先輩を文芸部に誘ったのはハブ先輩だよね。」

「そうなの?」


 なんで私たちが入学する前の話を知ってるんだ。


「さらにテツト先輩と同じ高校に行くし。」


 え? ハブちゃんって、先輩と同じ高校なの!?

 私、教えてもらってないよ。ハブちゃんって自分の事はあんまり言わないからなぁ。

 なんで文芸部の私より情報量が多いんだ。キクコ…恐ろしい子。


「でも、先輩がハブちゃんと話してるの見たことないなぁ。むしろ私の方が先輩と話してるくらいだよ。」

「レラちゃんもそう言ってたな。」


 テツト先輩はバスケ部のない時にしか来ないから、普段はあまり顔を出さなかった。試験期間中だとか部活引退後には文芸部の部室に毎日来て、本を読むついでに勉強していた。

 逆にハブちゃんは塾に行ってるから、その期間は出てこない。だから二人が同じ部室に居るのをまず見たことがない。


「テツト先輩って文芸部ではどうしてたの?」

「私が小説読んだり書いたりしてる横で、静かに本読んでることが多かったかな。たまに分からない表現とかあると、眉を寄せて耳の後ろを掻いてたり…。」

「誰かとよく話してた?」

「あんまりない。」

「最後に文芸部に顔出したのは?」

一昨日(おととい)は来なかったよ。その前日、月曜に顔出してくれたのが最後かな。」

「文芸部は意外に脈なしか…」


 キクコはつまらなさそうな顔をする。


「あんたはどうなのよ。」

「私ぃ? 私なんてあるわけないでしょ。今まで話したのなんて、せいぜい言葉の意味とかオススメの本とかを聞かれたくらいだけ。」

「ふーん、そう。」

「先輩、部室だとあまり話したくなさそうだったし。」


 普段は何でも誰でも話せる優しい先輩なのだが、本や勉強に集中している先輩には、部室で二人になった時でも声を掛け辛かった。

 私はノートの『文芸部』と下に書いた名前全体を×で消した。


「じゃあ次は『学年』。先輩は、三年…」

「二組ね。あそこで一番可能性が高いのはモモミ先輩。」


 キクコの情報網はすごい。誰とでも仲良くなれる性格だから、色んな情報が集まってくるのだろう。

 私みたいな陰キャとも分け隔てなく仲良くしてくれてるってだけでも、そのすごさが分かる。


「テツト先輩と三年間同じクラス。しかも最後の一年は前期後期とも、先輩と同じ委員会だったの。」


 なんでこの子は、他のクラスの委員会まで把握してるんだ。

 私はノートの『学年』の下に『モモミ 同じ委員会』と記入する。


「他に候補は?」

「四組のリルル先輩も怪しいと踏んでるんだよね。ほら、レラちゃんのお姉さん。」


 ロボットアニメのキャラクターみたいなキラキラした名前。音の響きだけで名前を決めてますって感じの姉妹だ。

 『モモミ』の下に『リルル』を追記する。


「リルル先輩、テツト先輩に告白(コク)ったって聞いたし。」


 キクコはさらりと言うが、私には驚きの情報だ。


「ぶはぁ、マジで? テツト先輩、告白されてたん?」

「三年の夏休み前にね。でも、その時はフラれたらしい。レラちゃんに聞いたら、リルル先輩まだ諦めて無いって。」

「なんて言ってフラれたの?」


 私の質問にキクコが、エロい顔をする。


「好きな人が居るからだって〜。」

「じゃあ、リルル先輩はないんじゃない?。」


 私は冷静にそう答え、『リルル』の名前に大きな『▲』を重ねて書く。


「なんで?」

「諦めてないなら、先輩をフラないでしょ。」

「あ、そうか。そうだね。」


 キクコがため息を吐く。


「ネタが尽きた。これで全部。」

「…ということは、この中に先輩をフッた犯人がいる!」


 私はノートを指差す。

 これを一度言ってみたかった。なんか気持ちいい。

 でも、これじゃあ犯人を絞り込むことができない。


「もう少し情報が欲しいっ!」

「分かった。一番の情報源(ソース)連れてくる。」


 バタバタとキクコは隣のクラスに走って行った。そしてすぐに誰かを連れて戻ってくる。


「スズ、連れてきた。」


 ササセ先輩の妹だ。確かにこれ以上の情報提供者はいないだろう。

 兄に似て活動的なスズはテニス部。私はほとんど話したことがない。


「あ、こんちは。」


 話したことのない人を相手にするのは緊張する。私は陰キャなんだから仕方ないでしょ。


「ねぇ、そんなにしてまで探らなくてもいいんじゃない?」


 スズは乗り気ではないようだ。


「テツト先輩は人気あるからね。こういうのを放っておくと、必ず根拠の無い噂が流れちゃうんだ。そうなると関係無いのに傷付けられちゃう子も出てくるから、真実を知らせないといけないんだよ。」


 たまにキクコは中学生とは思えないようなことを平然と言う。


「そうか…だったら協力するよ。でも、テツト先輩は相手が誰かは言わなかったって。お兄ちゃんも聞き辛いって言ってた。」


 それを言ってくれてたら、うちらは悩まなくても良いのに。

 でもおかげで推理するのはめっちゃ楽しいけどなっ。

 もう一回、私は自分で書いたノートを再確認する。


「しかし、見事に先輩ばかりだな。」

「学年が違うと部活以外に接点ないからね。一年二年でテツト先輩と接点のありそうな人は皆に聞いた。アオイが最後だよ。」

「あんた、将来は芸能レポーターになると良いよ。」


 キクコは笑う。いや、本当に天職だと思うけどな。


「一年二年には、テツト先輩に呼び出された人が居ないんだよ。」

「恥ずかしくて隠してるとかは?」

「みんな嘘は吐いてないと思う。」


 キクコが信じるなら私も信じる。彼女の取材力は並じゃないし、信用している。


「でも…相手が三年生なら卒業式に告白でもいいと思うんだ。前日じゃなくても良いでしょ?」


 私はそこが引っかかっている。


「前日に告白しておいて、卒業式の後にデートに行くとかじゃなくて?」


 スズの意見はもっともだ。


「卒業式の後でデート…、やっぱイケメンの発想は違うなぁ。」


 キクコは身悶える。


「じゃあ、そのイケメン発想を無駄にした犯人を絞ろうか。」


 スズはイロイロ教えてくれた。


・その人とは家の方向が逆。

・普段はあまり喋らないけど、たまに二人でいる時は素の自分が出せた。

・好きなものが一緒だった。

・場所と日時の約束は、手紙を出した。

・その日の予定がない事は本人に確認した。


 スズから得られた新しい情報。これがあればかなり絞れる気がする。


「家が逆ってことは、ニナ先輩は消えたね。本命だと思ってたんだけどな。」


 キクコがそう言って、『ニナ』に×を付ける。


「あんまり喋ってないってことはモモミ先輩もない。でもヤヱ先輩は微妙だな。」


 スズは『モモミ』に×を付ける。

 初めは渋っていたけれど、スズもこの犯人探しにノリノリになってきたようだ。


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