生井家
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霊谷家の前の道路に出てみると僕の家から歩いてこれるくらいの場所だった。
記憶に従い道の端っこをとぼとぼ歩く。平日だからかほとんど誰もいないが、途中で犬を散歩中の初老の男性と行きあった。
「! わんっ! わんわんっ!」
距離がおよそ3メートルになったとき、いきなり犬が吠えだした。
ビクッとして思わず立ち止まってしまう。
ふぅ~、びっくりした。けど、僕が見えるはずないんだから僕にほえたわけじゃないよね。
しかし、犬は相変わらず吠え続け、しかも何かこっちを見てる気がする……。
「ほら、どうしたコロ。早く行くぞ」
飼い主のおじいさんが引っ張ろうとするが、コロと呼ばれた犬は腰を後ろに引き一向にこっちに来ようとしない。
それでもおじいさんが無理に引っ張ろうとすると今度は威嚇ではなく
「クゥ~ン、クゥ~ン」
と懇願するような声を出しながらじりじりと後ろに下がろうとする。その表情はどこか怖がっているようでもある。
そう言えば……。
出がけに白猫さんに言われたことを思い出す。
「どうした? 行きたくないのか?」
おじいさんも犬のどうにも様子がおかしいことに気付いたようである。
やばっ! はやくここから離れないと。
犬から距離を取るように反対側の歩道を通りすれ違う。
しばらく離れると犬はきょろきょろとあたりを確認してとことこと進んでいった。
ふぅ~。気をつけないとな。
その後は何事もなく自分の家の前に着いた。のだが、
……葬式?
いったい何事? 誰の? などと考えて自分が死んだことに思い当たる。
白い花が並び、玄関の外には長机の上に帳簿が置かれ参列者が名前を書いている。
親戚、校長先生、担任の先生、学級委員長、ご近所の人たちが少数だが来ていた。
その机の向こう側ではお父さんが喪服を着て立っていた。とても悲しそうな顔をしている。
それを見た瞬間、霊谷愛美への憎しみが一気に膨れ上がるのを感じた。
落ち着け。ここで怒ったってどうにもならない。
すーはーすーはー、と深呼吸して玄関をくぐる。
にしても、自分の葬式を見るのって複雑だな。
僕がなんとも言えない気持ちになっているとちょうど僕のクラスの委員長が玄関から出てくるところだった。
委員長・阿久井怜奈。クラス内だけでなく同学年で知らない者はいないだろう有名人物。
茶色がかった髪を肩まで垂らしたヘアスタイルに抜群のスタイル。その誰にでも愛想のよい性格と整った顔立ちで男女ともに人気が高く、教師受けもいいことから始業式当日にクラス委員長に推薦され、その役職についている。
玄関から出てきた阿久井さんが顔を上げる。ちょうど家の前の道路から玄関を見ていた僕と目が合う。
と言ってもそれは僕の感覚で彼女からすれば後ろのブロック塀しか見えてないんだろうけど。
僕はそう思っていた。しかし、
阿久井さんの目が大きく見引かれた。