この青春は幻か④
生徒会室をあとに、ぼくは会長に連れられ、ある場所に案内された。
「 ここが、今日からキミが暮らす場所だ 」
大きな校舎の裏側にある中庭を通り、木々に囲まれた小道を抜けると現れる二対の建物。向かって左側が男子生徒が暮らす『 蒼井寮 』。右側が女子生徒が暮らす『 櫻寮 』と分けられていて、卒業までの三年間全校生徒が共同生活を送る場所だ。
共用玄関から入ると、まず目に入ったのは大小さまざまなテーブルにソファーやマッサージチェアなど、ちょっとした団らんやくつろげるスペースが広がっていた。
「 ここは、共用スペースだから、自由に使って構わないよ 」
そう言って、共用スペースの奥へ向かう会長に離されないよう、ぼくは少し駆け足で後をついていった。
共用スペースの奥には、淡い桜色と藍色の二つの暖簾が垂れ下がっていた。察するに、藍色のほうが男子で桜色の暖簾が女子だろうと考えていると、会長は勢いよく藍色の暖簾をくぐってみせたのだ。
「 か、会長!? 」
「 どうしたんだ? なにもないなら先へ行くぞ 」
正直、とても驚いた。この先は、恐らく男子寮だと思うが、表情ひとつ変えず暖簾をくぐり足取り軽やかに突き進む会長の姿に、もしやこっちが女子寮だったのかと自分の予想を疑ってしまった。
少し歩くと、また共用スペースのような開けた空間があり、何人かの生徒が談笑していた。
「 やあ諸君、ご機嫌はいかがかな 」
談笑していた生徒達に、会長は高らかな声で呼び掛けた。
「 か、会長!? 」
「 なんで、こっちにいるんですか!? 」
いきなり現れた会長に、辺りは一瞬で騒がしくなった。騒ぎの現況である当の本人は、おどけた表情を見せていた。
「 驚かせてすまない。じつは、転校生を連れてきたのだが、薫を呼んでくれないか 」
懐かしい響きだった。前の学校で一番仲の良かった友人の名前。会長の口から飛び出た懐かしい名前に、ぼくは心なしか寂しさを感じていた。
「 いま読んでくるので、少し待ってください 」
「 よろしく頼むよ 」
談笑していた生徒の一人が、薫という生徒を呼びに奥の部屋へ消えていった。待っている間、ぼくと会長はそこにいた生徒達と軽く話をしながら待たせてもらった。
「 会長、お待たせしました 」
聞き覚えのある声だった。声の方を見ると、見覚えのある金髪と耳のピアスに目を疑った。それは、ぼくがよく知っている幼馴染みの姿と瓜二つ。いや、見間違えるはずがない。紛れもなく彼だった。
「 薫? 」
ぼくの問いかけに、薫は少しだけ困ったような表情をみせたが、右手を軽くあげた。
「 積もる話もあるだろうから、私はここで失礼するよ 」
なにかを察して、気を使ってくれたのだろう。会長は、軽く手を振るとまたと言って部屋をあとにした。