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過去のキミ、未来のキミへ  作者: 金華鯖
幻とは存在の確認が難しいものである
2/5

この青春は幻か②

 それから数日が経ち、ついに今の学校と別れる日が来た。これと言って思い入れがある訳ではないが、いざこの日を迎えてみると、胸の奥から込み上げてくるものが少しはあった。


 ぼくは、仲の良いクラスメイトや部活の先輩や後輩などに転校することを伝えた。みんな驚きを隠せない表情だった。転校前日に、転校することを伝える人なんてまずいないと思う。申し訳ないと思いながらも、なにも言わず去っていくよりはマシか。そう思いながら、ぼくは学校の屋上に向かった。最後に一人、どうしても転校することを伝えなきゃいけない奴がいる。

 屋上への入り口には、相変わらず立ち入り禁止の札がかけられているが、やっぱり鍵は開いている。扉を開けると、フェンスにもたれ掛かる金髪の男子生徒がいた。


 「 やっぱり、ここに居たか 」


 「 なんだ、銀か 」


 彼の名前は、山田(やまだ) (かおる)。高校二年生で、ぼくの幼馴染みだ。髪は金髪、耳にピアスと見た目は少々怖いが、とても気さくで優しい奴だ。


 「 銀。なんか話があるんだろ? 」


 「 やっぱり、薫はなんでもお見通しだね 」


 そして薫のすごいところは、まるで予知しているかのように、なんでもお見通しなところだ。ぼくが悩みを相談しようとすると、いつも薫の方からいま悩んでいることを当てられ、解決策を提案される。ぼくは、そんな薫にいつも助けられていた。


 「 じつは、転校することになったんだ 」


 「 知ってる… 」


 このときだけは、ぼくの方から話したのをいまでも覚えている。


 「 今日で、この学校ともお別れなんだって。それで…… 」


 ぼくが言葉をつまらせていると、薫は間を割って口を開いた。


 「 これで、お別れとか言うんじゃねえよ。別に、一生会えなくなる訳じゃね 」


 ああ、やっぱり薫は優しいな。

 薫の言葉に、胸を締め付けられる。


 「 海外に行くならまだしも、東京に転校するんだろ? 」


 「 やっぱり、薫はなんでも知ってるね 」


 「 たまたまだ… 」


 ぼくは、いつもと変わらない薫に少し笑ってしまった。薫もぼくにつられ、少しだけ微笑んで見せた。暖かな日差しが二人を包み込むが、屋上であたる四月後半の風は、まだ少し冷たかった。






 それから、二週間が過ぎたゴールデンウィーク明け。こんな中途半端な時期から、ぼくは新しい学校に通うことになった。転校先である青桜(せいおう)学園は、東京にある文武両道の私立学校であり、完全寮生活ということだけが、パンフレットからわかった。しかし、それ以外の情報で目立つものは特にない。ネット検索で引っ掛からないという点を除けば、どこにでもありそうな普通の高校だった。

 たしかに、青桜学園なんて一度も聞いたことがない。そもそも、ネットで調べて検索できないなんてありえるのか。なぜそんな場所へ、半ば強制的に転校しなければならないのか。いまだに不安を拭えないまま、ぼくはメモに記された目的地へ足を動かした。


 電車に揺られ新宿から約一時間、学園もよりの駅につく。商店街を抜け、住宅地をしばらく歩くと一際目立つ大きな建物が姿を現した。どうやら、スマホのナビが示す場所は、その大きな建物がある場所のようだ。しかし、目の前に見えている建物は一向に近づく気配がない。


 「 こんな大きな学校が、東京にあったんだな 」


 少し圧倒されながもしばらく歩くと、ようやく学園の入り口と思われる重厚な門構えがぼくを出迎えた。


 「 なんだよ、これ… 」

 

 ぼくは、言葉を失った。訪問してきた人を圧倒する重厚な校門に、遠くから見えるほど大きな建物が建つ恐ろしいほど広大な敷地。レンガ造りの塀に囲まれたこの学園が、ファンタジーの世界に入り込んだような錯覚を感じた。


 「 これ、どうやって入れば良いんだ? 」



 ギギギギギーーー 



 校門の前で挙動不審にしていると、さっきまで開く気配が無かった門扉が、機械音とともに突然開いた。

 門が完全に開くと、眺めているだけだった学園の姿が露になった。遠くから見えていた大きな建物のほかにも沢山の建物があり、広い敷地は様々な草花で彩られ、すべて手入れが行き届いているようだった。


 「 す、すげえ… 」


 ここは、本当に日本なのか。そう疑わざる終えない現実が、目の前に広がっている。この学園は、いったいなんなのか。圧倒的なインパクトに、ぼくの不安が少しだけ期待に変わっていたことを、ぼく自身気づいていた。




 「 よく来たね、転校生君!! 」




 黒く長い髪をなびかせながら、とても綺麗な人が歩いてきた。




 「 ようこそ、青桜学園へ!! 」




 いまは五月。

 日本の門出には桜が付き物だと思うが、いまは桜なんて咲いていない。

 でも、たしかにぼくの目には映っていた。

 女性の回りに降り注ぐ、桜の花びら達が。


 五月の東京の風は暖かい。

 これは運命の出会いなのか、それとも別のなにかなのか。

 ぼくの不安は、また少しずつ期待に変わっていた。

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