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過去のキミ、未来のキミへ  作者: 金華鯖
幻とは存在の確認が難しいものである
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この青春は幻か①

小説初心者ですので、表現に間違いがあるかもしれませんが、最後まで読んでいただければ幸いです。

 僕はとても驚いた。

 さっきまで目の前にいた女子生徒が、一瞬にして姿を消したのだった。


 十数年生きてきて初めての経験だった。テレビでたまに見た、マジシャンの合図で違う場所から現れる、瞬間移動のマジックとは勝手が違う。なにかで隠されていた訳じゃない。本当に目の前から人が消えた瞬間だった。


 「 どう? これで信じた?」


 次に姿を表した女子生徒は、得意気な顔でそう僕に問いかけた。





 遡ること二週間前ーーー


 宮城県仙台市。日本の東北地方にあるこの街で、ぼくは暮らしていた。これと言って取り柄があるわけじゃない、勉強も運動も人並み、趣味は料理と音楽のどこにでもいる普通の男子高校生だ。


 「 (ぎん)!! 早く起きなさい。遅刻するわよ!! 」


 聞き慣れた母さんの声が家中に響きわたる。四月も後半というのに朝はまだちょっとだけ肌寒い。ぼくは、眠たい目を擦りベットから起き上がると、机に置かれたパンフレットが目に映った。


 「 そうか、今日でこの学校ともお別れか 」


 カーテンの隙間から差し込む光はとても暖かい。転入案内と書かれたパンフレットを照らすその日差しは、まるで新しい門出を天が祝福しているように思えたが、正直なところあまり良い気はしていなかった。

 仲の良い友人が数人いて、それほど強豪ではない水泳部で汗を流し、家に帰れば母さんのつくる美味しい料理が待っている。平凡だけど、そんな充実した毎日にぼくはとても満足していた。

 このまま高校を卒業して大学に行き、それなりの会社に就職して、いつかは自分の家庭をもち、そして老いていく。どこにでもあるような普通の人生を送っていくと思っていた矢先のことだった。


 「 ただいま 」


 部活で帰りが遅くなったあの日、リビングのテーブルに青い封筒が置いてあるのが目に入った。特に気にするわけもなく、疲れていたぼくは早く自分のベットに飛び込みたい、そんな一心で二階の自室へ向かった。すると、ソファーに座っていた母さんが自室に向かう途中のぼくを呼び止めた。


 「 銀。ちょっと良いかしら 」


 「 どうしたの? 母さん 」


 普段と様子が違う。真剣な表情をした母さんがそこにはいた。


 「 落ち着いて聞いて欲しいの 」


 母さんは、テーブルに置いてある封筒をぼくに差し出した。


 『 十五夜(じゅうごや) (ぎん) 様 』


 宛先は、ぼくの名前だった。


 「 青桜(せいおう)学園? 」


 封筒には聞いたことのない学園の名前、それに桜の花びらがあしらわれた校章らしきものが印されていた。封を開けると、そこには一枚の紙とパンフレットが入っていた。



 拝啓  十五夜(じゅうごや) (ぎん) 様



 この度は、本校への転入決定おめでとうございます。

 

 本校は、あなたの転入を心から歓迎しています。


 つきましては、同封したパンフレットを熟読のうえ、

 五月の連休明けから登校していただきたいと思います。


 また転入の手筈は、本校で行っておりますので、安心して転入してください。


 それでは、共に楽しい学園生活を送れる日を、心からお待ちしております。



                            青桜学園理事長



 同封されていた手紙を読み終えたぼくは、一度手紙から視線をそらしもう一度、よく読んでみた。


 「 転入...... 」


 転入ってことは、つまりは転校ってことだよな。ぼくは、脳をフル稼働させ置かれた状況を整理しようとするが、思考回路はショート寸前だった。


 「 よし、一旦考えるのをやめよう 」


 ぼくは、考えるのをやめた。

 あえて言うが、考えることを放棄した訳じゃない。一度、脳内を白紙に戻し単純に物事を考えることにした。


 「 つまり、転校するってことだな 」


 いま通っている学校から、別の学校に移る。仲の良い友達と離ればなれになる。知らない土地の知らない学校に通うことになる。誰もが経験する訳ではない、できれば経験したくないかもしれないと思う転校。そんな、一世一代のイベントが、平凡な暮らしを送っているぼくに訪れた。


 なぜ、ぼくなのか?


 なぜ、いまなのか?


 もし、転入を断ったら?


 突然の出来事に、考えれば考えるほど疑問が生まれる。

 いったい、なんの意図があるのか。

 母さんに質問をしても、返ってくる言葉は決まってーーー


 『 今は、言えない 』


 母さんの言葉に、不安が膨らむ一方だ。


 そんな運命と言う名の歯車は、転校というきっかけにより大きく動き始めていたことを、このときのぼくはまだ知らなかった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

沢山の意見をいただければ幸いです。

頻繁な更新は難しいですが、次回もお付き合いいただければありがたいです。

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