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信じるよ。あんたのこと。

天羽(そらは)はまえに行ってた雑貨屋さんに着く、ハアハアと息が荒くなり、呼吸を調整するため無情に空気を貪る。うまく調子を取り戻して店舗の中身を覗き込む。


「え?ここにいた……どういうことだ」


「どうした?あんた様子がおかしいぞ!」


「ね、さっき私たちここに来て買い物したよね」


「ああ、そうだけど、それがなんだ?」


「私、中に入って確認してくる」


「私も行く」


天羽(そらは)は古びた扉を押すと、今回はあの独特の匂いがウソみたいに消えていなくなった。


「あのー、すいません」


「はい。どうしたんですか?お忘れ物ですか?」


「いえ、ただ確認しにきただけです。どうしてあなたが急にここに戻ったのですか?」


状況が追い付かなくてオーナーは腕を組んで天羽(そらは)の言いていることを反芻する。


「あのー、すいませんが、なにを言っているのか……」


「町の案内をしてくれたじゃなかったんですか?」


「うん?それはないと思いますけど」


「覚えていないんですか?あなたが私にああいう質問をしたんですよ。会話もしてましたよ」


「申し訳ないです、言っている意味がわからないのです。あなたたちを見送ってからはずっと店にいたんです」


──見た目は変わらないが、雰囲気から見れば同じ人物とは思えない、でも彼女の言葉から空々しい感じはなかった。まるで本当に何も知らない様子だった。


混乱に陥て天羽(そらは)は頭を抱えてしゃがみ込んで身体が小刻みに震えている。


「お邪魔してごめん。ね、羚夏(れいか)一旦外に出て頭を冷やしていこう」


「そうよね…わかった。ちょっと疲れていたかも」


「無理はない、いっぱい歩いていたから、とりあえず旅館に行って安静しとこう」


──違う、これは絶対に幻覚じゃない。あの女との会話は今でも目に焼き付かれるほど忘れたくても忘れられないのだ。


ルシカは近くにある旅館に行き、一晩泊まることになった。部屋に入った途端、彼女は風呂まで天羽(そらは)の背中を押す。


「先にお風呂入ってもいいよ」


天羽(そらは)は依然として無反応だった。ルシカは彼女の両腕を持ち上げて再び下ろす、このような仕草を何回目も繰り返したが、天羽(そらは)は壊れかけた人形のように他人の思うがままにもてあそばれた。


「おいー。聞いているか?いかないなら、私先にいくよ」


天羽(そらは)ははっと我に返った。


「いま入る」


「うん」


天羽(そらは)は風呂に入って、全身を浸かれるくらい潜り込んだ。鼻からブクブクを出し続け、一気に水面から出て息を吸う。


「パァー!」


天羽(そらは)は目を伏せて考えことに夢中する。いつの間にか30分が過ぎた。さすがに長すぎて、てきぱきと服を着かえて出た後、ルシカも浴室に入った。


天羽(そらは)は髪を丁寧に乾かして、鏡の前でぼんやりしてた。そのまま20分も座ってて、

岩のようにまったく動じなかった。ルシカも風呂からあがって、彼女の姿が目に留まって眉間に皺が刻まれて、天羽(そらは)のことを揺する。


羚夏(れいか)、大丈夫?」


「ルシカ」


「何が起きているか、さっぱりわからないが、話してもらえる?」


「あんたに話しても、わかってくれるはずがない」


「確かに、それは否めないなぁ。でも一人で背負い込むよりマシだろう」


「信じくれるの?」


「うん、あんたが何を言っても、疑わず信じる。知っていることを全部吐き出してもいい」


天羽(そらは)は足先をルシカの方へ向き、両手をひざに置く。


「あの雑貨屋さんのオーナーは町の案内をしてくれた。あんたがジュースを買っているあいだ、彼女が私にわけのわからない問題をして、これ以上接触し続けたら怖いと思って、あんたの元に走って行った。それで帰ったら、彼女の姿はもういない」


「……信じがたいが、私はあんたを信じる」


まごまごしている天羽(そらは)を見てルシカは助け舟を出した。


「え?そんなにあさっりと私を信じてくれるの?最悪の場合にも私の記憶まで捏造されたかもしれないのよ、何も聞かずにそう簡単に私を信じる?」


「その可能性はなくもない。が、畏怖という感情は作れるものじゃない。野生の勘だ。それに私にも責任がある。まさかやられたとは……!」


「あれは魔法の仕業か?」


「正直言ってわからない。今んとこ情報量少なすぎる。何か明確的な情報はないか?」


「匂い……」


「匂い?」


「あの雑貨屋さんに入った途端、匂いが鼻につく、そしてあの女は藍の花の匂いがする」


「本当?!私、全然匂わなかった。狼と名乗る資格ねえなあ。まさか人間のあんたが私の臭覚に勝るとは……面目ない」


「いや、私もすぐあんたに知らせするべきだった。だからあんたのせ……」


ルシカは天羽(そらは)を自分のどこに引き寄せてきて、抱きしめた。


「ごめん、怖かっただろう、あの時」


天羽(そらは)は人との接触は苦手だけど、この瞬間だけは嫌いじゃない。さっきまで凍り付けた手足が一瞬溶かされた。鼻に纏わりついたこのアセビの匂いがほっとする、気が緩んだせいか彼女は唇を嚙みしめながら涙ぐむ。気づかれたくないように平気を装って、声が裏返らないように抑えてルシカの腕から抜け出した。


「大丈夫。今度また会った時、あんたに伝えとく」


「ああ、そうしよう。その時は必ずアイツの尻尾を掴んでみせる。約束する」


夜遅いから、早く寝ろうと言わんばかりに。ルシカはベッドの布団に潜り込んだ。


「私、もう少し考えことに凝ってから寝る。先に寝て」


「夜更かしするなよ。おやすみ」


「うん、おやすみ」


ルシカはベッドへ倒れこんで、ゴロゴロしたあと、5分しか立っていないのに、すぐ穏やかで凪いだ海のような寝息がきこえてくる。


──早ッ!羨ましいなぁ……ところであの女の匂いは藍の花。珍しいわね。でも結構特徴的だから、割と分かりやすいかも。


天羽(そらは)は熟睡してるルシカの寝顔に視線を一点に凝らした。


──今日はこの辺で、自分を追い詰めすぎるのもよくないね。


天羽(そらは)はベッドに飛び込んみ枕を脇下に挟んで瞼を閉じる、再び目を開ける時は朝がやってきた。強い日差しに刺激されて、目をぱちぱちさせる。起きたらすぐルシカが着かえている。


「今日は町中の観光スポットに行こう、昨日はまだ遊び足りてないので」


「いいと思う」


──昨日のことを忘よう。ただの偶然かも、偶然に出会って、偶然に会話する、そう、何もかも偶然にあった出来事。あの時のように。


天羽(そらは)はあらゆるの理由を自分を説き伏せて、言い聞かせた。


「だったら、最初はヴンシュツリーに行ったらどう?」


── ヴンシュって確かドイツ語だよね?意味は願いかなぁ……


「面白そうだね、行ってみよっか」


ヴンシュツリーにきて、おごそかな雰囲気からは長い歴史の持ち主と見られ、樹幹は雲の上まで突き抜けて、肉眼では届かない距離だった。


「大っきいーー」


「子供かよ」


ルシカは天羽(そらは)の屈託のない笑顔を見て相好を崩す。


「これすごくない?」


「ええ、そうだね」


天羽(そらは)は不服そうな表情を立てて、頬を膨らませる。


「見たことないから、仕方ないだろう」


「はいはい、では羚夏(れいか)ちゃんは願い事とかある?」


「子供扱いすんな、でいうかもうされてるし」


「まあまあ」


「私……」


「やっぱり、元の世界に戻ること?」


「いえ」


天羽(そらは)はきっぱりと言下に否定した。迷いなく真っ直ぐでルシカの瞳の奥を見据える。


「私、もうちょっとこの世界のことを知りたい」


「性懲りもない子ね、あんなにびびってたくせに」


「あれは予想もしなかったから、テンパっただけ」


「でもね」


ルシカは今までにない態度を剝き出して顔をしかめる。


「この世界はあなたの想像と違って、もっと険しく、醜いものよ」


「そんなのわかってるよ」


「いえ、お前は全然わかっていない。この世界の恐ろしさ、まだ真実に一歩も近づいてないから、

前途を危惧しない、もしある日あんたがそれを見抜いたら、まだそんなこと言えるのかなあ、羚夏(れいか)


「私は……」


「軽率な発言を控えた方がいいよ。別に責めるつもりはない、だがこれは忠告でもあり、警告とも言える」


「私だって……」


「うん?」


「あの世界でさんざん嫌なことあって、もううんざりなんだよ」


「何ぼそっと言ってるんだ?」


天羽(そらは)は肉を食い込むほどの力で拳を握りしめる。


「私も本気だよ。遊び心で来たわけじゃない」


ルシカは妥協して、仕方ないなぁと言わんばかりに後頭部を支える。


「私はもう何も言わない、今後はあなたの意思を尊重する、どこまでもついて行くよ」


──地獄の彼方まで。とルシカは強く誓った。


「ルシカ……」


「私がいないと、あんたが狙われるに違いない。ちょっとだけ目を離すだけでどっかに行っちゃいそうだから、保護者という立場だね」


「うわ……」


「なんか文句ある?」


「いえ、何でも」


「私はもう決めた。願い事」


「奇遇だね、私も」


天羽(そらは)とルシカは同時に目を伏せて柏手を打つ。

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