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駄目ダメな女子高生が迂闊に異世界に入り込んで、気づいたらもう現実世界には戻れない。  作者: 霞真れい
第十章:君は罪人なのか? わからない。 じゃ有罪ね。
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諸刃の剣

いつも読んでいただきそして応援をくださり誠にありがとうございます。感想やコメントも大歓迎です。


激しい戦いはまだ続く中、果たして誰が勝者なのでしょうか。読んでいただければと思います。

「え? まだ戦えるの?」


 女の顔に狼狽の色が浮かべて、これで終わりかと思いきや相手はまだ舞えるという状態に驚きを隠せないのだ。元々、こんな相手だったらちゃちゃっと終わらせられると思ったが、そこまで粘り強いとは思いもよらなかったらしい。


「今度は私から貴様への粛清だ」


 反撃宣言を掲げたルシカは嗜血(しけつ)の刃をむき出して、瞳に据えているのは常軌を逸した狂気の赤だった。まるで獣のその本性をさらけ出して、真の姿で人前で現す。気違い迫力だ。


 ここまで来ると、退路はもう残されていないため、相手が暴走している猛獣であれば自分も肩の力をもっと入れるべきだという思いに駆られて、女は飛ばされた軍刀を取り戻した。簡単な呪文を唱えたあと、その軍刀は長い槍に変えた。


 ルシカは一直線で女の真っ正面まで駆け寄って攻撃しようとしているが、女もそこまで与しやすい相手ではない。彼女は長い槍をしならせて、ルシカを幻惑することで近寄らせないのが目的だ。


 なんとその槍は身の丈ほどの射程距離があったにも関わらず、ルシカは人間離れした動きで女の方に迷わずに邁進し、怖気づかせるような雰囲気がまとっている。


 一気に縮められた二人の距離はもう普通の歩幅しかないのだ。意表をつく早さで女の右側に拳が飛んでいった。それを咄嗟に見抜いた女は防御を固めるが、あまりの衝撃でバランスを崩した。直後、ルシカはこの絶好のチャンスを逃さず、女の左側に蹴り抜いていた。


 手応えからして直撃ではなかったが、ここで攻め手を緩めるつもりはなく、彼女は舌打ちしつつ敵の跡を探している中、一瞬にして背後を取られてしまった。体がやっと反応に追いつくとき、軍刀による衝撃波をまともに食らった。


 ルシカの右肩から左の脇腹にかけて、焼けるような痛みが走る。だが彼女はその痛みをかみつぶし、猛然と振り返って女に向かい渾身の一撃をぶち込んだ。が、そんな一撃も虚しく、ただの幻覚でしかすぎないのだ。


 ふと女はとあることを思いついて、ルシカを自分の方におびき寄せて引っかからせるだけで十分だ。頭に血が上ったルシカは敵の思惑通りに突っ込んでいく。すると両側の壁が一斉に倒しルシカを覆いかぶすのだ。先ほど二人の激しい戦いで壁はすでに脆い状態にあり、ほんのわずかの力だけで押し倒せる。


 その大事なことを気づいて、女はルシカの戦いの習性を利用してこのようなことを引き起こせた。流石にこれで終わりだろうと言わんばかりに両手に汚れついたものを払い落とす。そう思うのも束の間。


 その瓦礫の中によろよろ立ち上がったのはあの銀白色髪の少女だった。明らかに体の所々に新しい傷が増えたが、彼女にとっては痛くも痒くもないようで静かに佇んでいる。しかし、ルシカ自身が一番わかっている。これ以上自分を無理したら取り返しのつかないことが起こる。その凄まじい執念に舌を巻いた女だった。


「バケモノ……なにが君をそうさせたの? あの変わり果てた姿に……」


 ──耐えろ、私。飲みこまれるな。ここで乗り越えたら私の勝ち。ってこれは理想な話。実際厳しい……初めてこれを使ったけど、かなり頭に来るな。


「私がバケモノ? 久しぶりに言われたわ……だが忘れるな、お前らの存在も十分バケモノと相応しいってこと!」


 しわがれた声に毒針のようなものが突き立てて、遠慮なく女に罵声を浴びせる。すぐに一触即発な雰囲気が漂えると思ったが、たった今二人は休憩を取り、珍しく両方とも譲歩して合意に達した。


 そのごく短いの時間に、ルシカは呼吸を調整して敵の動きを観察する。だがあまりにも荒々しすぎて、呼吸するたびに肺が張り裂けるような苦しさがずきずきと痛んで、その痛みが脳天へ直撃する。それにもまして、毒をやられた状況で時々幻覚が飛び込んできたり、もはやこれは現実なのかさえ分別不可能になった。


 それでも、ルシカは自分を奮い立たせて拳を握りしめる。毒はもうすでに彼女の全身を侵食して、知らず知らずのうちに彼女の意識を刈り取り、理性を食い蝕んでいく。少しでも侵食の速さを落とさんがために狂化(ベルセルク)の力を最大限まで発揮する。だがそれはある意味、一本の諸刃の剣だ。


 ──でもここであいつを止めないと、手遅れになっちゃう。


 その苦しみに耐え切るために、瓦礫の欠片を思い切りぶったたいた。はた目から見ればそれは自暴自棄に等しい行為だった。自分の限界に達したルシカは仕切り直して次の突撃に備えるその時だった。


 突然、隣で感じた気配に体が反応してしまい、身がすくんだ。軍服をまとった女はいつの間にか彼女のそばに来て、耳元でこう囁く。


「まだ死んでいないのか? しぶといね」


 ルシカはなんとか反撃らしきものを出したが、苦し紛れの一撃も虚しく空振りした。まるで彼女の足搔きをあざ笑うかのようだ。


 ──もう少しの辛抱だ。相手はもう調子に乗っているから、彼女が攻めてくるとき、その一瞬を狙いばいい!


「こんな可哀想だから、ハンデつけるよ。こっちは魔法使わないよ」


 彼女は攻撃態勢に切り替え、雷のような踏み切りでルシカの方に突っ込んできた。大雑把に振り下ろされる槍を間一髪でかわしたルシカは隙を突くように女の土手っ腹を拳で突き上げた。こんなズタボロな状態にまともなカウンターを見舞ったのは紛れもなくその狂人ぶりだ。


 何本の骨が折れて、女は何メートルに飛ばされたその時、まるで凶暴なワニを化したようで一度食らいついた獲物を離さないのだ。ブレーキをきかなくなったように猛進し女のすぐ手前に現れた。そして、防御が間に合わずにいた女はオオカミの姿に変貌したルシカに押し倒された。


「このいかれた女……」


 相手の息の根を止めようと喉笛を正確に嚙みついたのだ。すると鮮血の匂いが鼻に押し寄せて、その血肉の味が口に刺激を与え続け、その生々しい感じが一気に口腔内に充満していき、喉の奥まで到達していた。


 急所を狙われて命の炎があっさりと消えた女の四肢がぐにゃとなり、動けなくなった次第ルシカは口を離した。そしてそのまま人の姿に戻した。


 彼女は口元に残っている血を一滴残らずに拭いていく。それを唾棄するかのように唾をはく。彼女はその生気を失った体に視線を向けながら自分をほめたたえる。うまく狂化(ベルセルク)がもたされた悪効果をかみつぶし、欲を抑え切ったことに安堵の一息を漏らした。


「あんな大口を叩いたくせに、結局こんな有様ね」


 狂化(ベルセルク)の効果が切ったことは体にこたえて、うまく歩けない自分を見て笑いを禁じえなかった。


 彼女はふらふらとした足取りでこの修羅場を立ち去ろうとしたが、ひどく消耗されていたこともあってまったく力が入らなかった。それでも、あの少女に会いたいと足を動かせる。


 彼女はそんな些細な願いに支えられ、メチャクチャな体を引きずり、壁を触りながら前を歩く。


「もう少し頑張れば会える……」


 そんな思いも儚く散っていくのだ。なぜか一息残っている魔女が息をひそめて彼女の背後に現れ、ぽかんとしているルシカを抱きしめた。彼女は意図的に抑え込むような低い声で言葉を放つ。


「君……完全に箍を外せたら勝てたのに。惜しい」


 さも自分の運命を知り、抵抗も諦めたルシカはぽつねんと立ち尽くした。力尽きた彼女には今何もできやしない。ただ自分だけの審判を待っているかのように沈黙を守る。


「僕は君を殺さない。そんな頑張っている君を見て、いたたまれない気持ちだ。お返しとして一つだけ情報を教えてあげる。我々魔女全員一回だけの起死回生を持っている。つまり、もし君はもう一回僕を殺せたら、僕は本当の死を迎える」


 魔女は言葉を続いた。


「君はここで朽ち果てるかな。運が良ければ命を拾ってくれる人がいるかも、だから『眠れ』」


 魔女はルシカを押しのけて、彼女が徐々にドミノのように横になっていくにもかかわらず一瞥もくれなかった。そして穏やかなステップを踏みながら天羽(そらは)のあとを追っていく。


 自身が倒れていくのスローモーションのように見え、視界がゆっくりとずれていき、頭がぐるぐると回る。次に見えた景色はどんよりとしたそらだった。


 ──これは私の油断したせい? いえ、あいつの言う通り、自分の野性を押し殺しすぎ。でもこれで時間稼ぎできたよな。


 行き場のない無力感に覆いつくされて彼女は観念せざるを得なかった。彼女は何度も自分を目覚めさせたいが、見えない力に囲まれるのだった。


 はたまた天羽はまだ逃亡中で、息が上がらないくらい走って、こんな時間経っても敵はまだ追いついていないことは相当なバトルえおしていた証だ。その反面、それだけ血を流し、気力尽きても倒れようとしないルシカを想像すると胸がギュッと引き締まるような息苦しさを感じる。


「ルシカは大丈夫なのかな……ううん、きっと大丈夫。信じていたから」


 突如、前にルシカにもらった丸っとしたどんぐりがいきなり天羽(そらは)のポケットから落ち、明らかにひびが入っていた。次第に背筋を蝕んでいく寒気が彼女の動きを固まらせた。ちくっとした痛みと共に襲い掛かってくる。


「……まさか」


「あの……大丈夫ですか?」


 その話掛け声は極めて優しく、目をつぶっているとあたかもそっと抱かれるような心地よい調子だ。一瞬で荒くなった心を鎮めるようなまろやかな声にとても印象が残った天羽(そらは)は周囲に一筋の光が差し込んできた気がする。


「あの……顔色がひどいからなにが起きているのかなと思い、つい声をかけちゃいました。差し出がましいなら、なかったことにしてください」


 まさに見渡す限りの砂漠の中で、枯渇で死にかけたサボテンのようにに雨を待ち望んでいる。彼女は全身の力を振り絞って、藁でも縋るような思いで女性の元に走っていった。そして彼女を哀願する。


「お願い!」


「どうしかしたの? 私になにかできるんだったら……」


「その……友っ、大事な人がいま大変なことが!」


「え? どういうことですか?」


 女性はすぐに倒れかけそうな天羽(そらは)を受け止めて、彼女を支えてくれた。女性は耳を澄まして天羽(そらは)の伝えたいことを聞く。気の強い彼女にとって、こうして人を頼むなんて誰よりも一倍困難だが、今は珍しく腹の底から真摯に頼んだ。


「たぶん私もうじき捕まえられます。そのうち、彼女を助けてあげてください。一直線に走っていたから、折り返したらそこにいるはずです」


「つまりあなたが自己犠牲をするのですか?」


 そんな大したことじゃないよと言わんばかりの天羽(そらは)は軽く頭を横に振った。その後、上着に隠していたちびもこっそりと女性の手に乗せる。目の奥には言葉じゃあらわせない感情がうずくまいている。


「それとこの妖精も……連れてってあげてください。もし目が覚めたら、見慣れの顔がそばにいないと不安しがちだから……」


 女性は無言のまま天羽(そらは)を見つめる。彼女はほぼ土下座に近い姿勢で見知らぬ人に助けを乞う。断れられるリスクや逆に何にされるのも顧みずに、ただ一心に祈ることしかできないのだ。


「なんでもあげるから……お願い」


 その言葉に響いたか女性は天羽(そらは)の顔を触って、気の毒そうな顔で彼女をじっと見据える。まるで彼女に関することを洗いざらい見抜き、吸い込まれそうな瞳。一つ悪意も秘めていない双眸だったのに、なぜかその方が逆に恐怖を感じさせた。


「『何でも』はよくない言葉ですよ。だがその気持ちもらっていきますね」


 言い終わった女性は立ち上がり、天羽(そらは)を慰めるように頭ぽんぽんする。

読んでいただきありがとうございます。戦闘シーンはこれで一段落です。書くのが難しいですが、それもいい経験になります!


女性は天羽の願いに応じてルシカを救助しにいったが、天羽自身はどうなるのか……楽しみにしていただけると嬉しいです。

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