君は自分のことを許せるのか?
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謎の人物は一体……?二人はこれからどうなっていくのか、読んでいただければと思います。
ブーツのような硬い靴音が響き、現れたのは深い青色のサイドテールで軍服をまとっている一人の女性だ。
「ここにいたのか」
「貴様は誰だ?」
ルシカは天羽の細い腕をスッと引っ張って自分の方に寄せる。大切なものを庇うように殺意と威嚇な牙をむき出しする。それと彼女の頭をポンポンして宥める。
「ああ、そうピリピリするな。君に用はないから。僕が探したい人は……」
彼女は視線を巡らせて、ちょうど天羽と女の視線がぶつかる。沈黙の数秒間後、強気な表情をしている彼女の顔に目を凝らす。従容と指差した。
「君だ」
「私?」
──なんのために? もしかしこの人も私を捕まえにきた?
天羽は恐怖心を打ち勝つために服の皺を伸ばして、搔き立てられた焦燥感と激しい波打たれた不安を抹消する。そうしている間、唾をのむ回数もやたらに増えていく。
「まさか、あんたは増援か?」
「増援? なんの話? 僕はただたまたま君たちに遭遇しただけだ」
適当な口調と裏腹に女の表情が緩むことはなく、眼光は獲物を狙う鷹ように鋭く、胸を突き刺すような厳しい目つき。容易には見逃してくれなさそうな雰囲気が漂う。
「だったら、道をあけてくれない? 私ったら焦ったときカットなるかもしれないのよ」
ルシカは非難を含んだ語気を放ち、押しつけがましい響きになり妙な圧迫感もじわじわと湧いてきた。
「それが君の正義か?」
「は? あんたの正義ごっこに付き合う暇はない。とっととあけろ」
「残念、僕のターゲットはあの子一人だ。道を開けるのがそっちのほうだ」
すると女は迷いのない手つきで、腰から軍刀を引き抜こうとして柄を握りこむ。その禍々しいオーラを醸し出し、更に一歩を踏みこんだ。
「こいつ……さっきの雑魚キャラと違って。上下から押し寄せてきた圧が全然違う……」
「ね、そこの君。君は罪人なのか?」
タイミングが合わないにもかかわらず、女は勝手ながらこの時に限って関係のない話を切り出し、彼女の双眸には直視できないほどの威圧があり、それは肩にかける重担のようだった。
「え?」
自分でも驚くほど間の抜けた声をあげた天羽は面食らったように立ちすくむ。
「理解しづらいのか……では変えようか、君は自分のことを許せるのか?」
「そいつの質問に答えなくていい!」
ルシカはその意味不明な質問に逆らって大声で天羽の意識を引き戻す。
──許すだと? そんなのわからない。じゃ逆に教えて欲しい、自分は何もしてないのに、何に対して許すの?
天羽は命懸けに記憶の糸をたぐっても詮無い事だった。
「答えに窮したようだなぁ。では君二人だけの話でもしよう……」
「羚夏、いますぐここから逃げろ」
こういうかっこつけるように見えるセリフは、アニメやドラマしか出ないと思いきや、まさかこんな状況において言われるとは、複雑な気持ちになった天羽は数秒間で黙っていた。
「なにを言っているの? あんたを見捨てて一人で楽々と逃げるというの?」
「恐らくあいつの目標はあんたなのよ。それ以外の最善策は見つからねぇ」
「そう言われても……!」
「じゃ、お前に何かできるっていうのよ! 言ってみろ」
天羽はその一言にムカッとしてきたが、その言う通りだ。自分は魔力ゼロな人間、何もできやしないのだ。ここにいた方が足手纏いにしかすぎない。しばらくたつと、ルシカは落ち着かせるような笑みを見せた。
「私が時間稼ぎするから、そのうちできるだけ遠く走れ、絶対に止まるなよ」
「っ……」
二人ののんびりした会話が女の顰蹙を買って、イラつくさせた。
「もう終わりか? そこの部外者、ここが君の最期になりたくないなら、いますぐここから立ち去るがよい」
「黙れ、その気配からすれば貴様は魔女だろう」
すかさずに長い槍を生成して、得体の知れない敵に向ける。
「バレたか……じゃ君も粛清ね、罪人同士そろっていれば簡単な話だ」
その冗談交じりのない瞳から見れば、相手は本気だったそうだ。すると焦り始めたルシカは催促をかける。
「はやく!」
「……」
天羽は今の余念を断ち切っても、心の葛藤はまだ続いている。それを嚙み砕くかのように歯を食いしばって、毅然と背を向ける。
「ああ、それでいいんだ。振り向くなよ、どうせすぐ会えるからさ、案じるな」
ルシカは口元を緩ませて、氷山でさえ溶けるような静かな笑みを漏らす。
「生きて」
と二人が口を揃った。天羽は振り向いちゃうダメと何度も自分を説き伏せてがむしゃらに走る。ルシカの覚悟を無駄にしたくないから、彼女は信ずるという選択を選んだのだ。
「逃げる? させるか!」
女は天羽に追っかけたいものの、ルシカはその槍を的確に彼女の足元に落下させた。
「こっちのセリフだ。さぁ、くだらない正義ごっこの茶番、付き合おうじゃないか」
「そうね。君とならいい遊び相手になりそうだ」
言い合いの終わりのとき、女は軍刀を鞘から抜け出し、切れ味抜群の刃に映し出されたのは険しい面持ちをしているルシカ自身だ。彼女も気を引き締めて敵の一挙一動をこの目でおさめる。
ルシカは迎撃をかまして、歯を食いしばる。揺るぎない鋼鉄のような思いが彼女の戦いの糧となり、彼女の大切な支えでもあった。手慣れた武器を前に構えて、ここは通させないという気持ちが強く見せる。
向こうは軍刀を高く掲げて強く振り下ろす。斬撃による別々の方向から襲ってくる衝撃波が荒波のようだった。たとえ全部かわしたところで敵の攻勢はひっきりなしに続くのだ。むしろルシカが全部打ち返す隙を狙い、不意打ちしてくる可能性は高い。
するとルシカはまた前回と同じく前方宙返りし多方面から来た衝撃波をきれいにかわした。しかし、再び敵の位置を目をやると、もうどこにもいないのだ。つまり彼女の予想通りだ。ならば敵はどこから姿を現すのか、彼女はまだ空中にいる優勢を利用して辺りを見回したが特に変なところはなく……
どうやら収穫はないなと思うその瞬間、敏捷な獣のようなスピードでこちらを強襲してくる。その常人ではない閃光のような速さに目をカット見開いたルシカだが、冷静沈着を保つのがいかに大事なことなのか身をもって知ったので、手に持っている槍をその突撃に防げた。
だが、その衝撃で勢い余ったルシカは地面にたたきつけられた。彼女は自分の体を起こし、すかさずに立ち上がった。槍を媒介として回し、無数の風の刃が現れて、合図をして一斉に敵にうつのだ。しかし、それすらひるまずにルシカからの攻撃を断ち切りながらスピードアップしていく。
あっという間に、二人の間には身の丈のほどの距離になり、ルシカは指パッチンして、壁から円錐のようなものが突き立てて、少しでも相手のペースを減速させる。しかし、女は易々と道に妨げるものを全部切り裂き続け、ルシカに顔を寄せて軽く会話を交わす。
「君は罪人なのか?」
「これしか言わないのか。お前は」
「まだ答えてないけど」
彼女はその質問にスルーして、まっすぐに蹴りを放つ。うまく敵とは十分な距離を引き離したあと、無言のまま女に追い打ちかのように距離をグッと縮める。その後、ほとんどの山勘で振るった拳は女の顔を掠める形で空を切った。
女はルシカのその必死な行動の意味を読み切れず、ただただ首を傾げるのだ。思いを巡らせつつ軍服についているホコリを払い落とす。ルシカがむやみにリスクを冒す理由を知りたくて、彼女は興味津々に歯をむき出して笑う。
ルシカは姿勢を低くすると、暴れた馬のように怒涛に飛び込んできた。この戦を長引くわけにはいかない、なぜなら彼女を待つ人がいるのだ。もしかしたら彼女が戦っている間、危険なことに遭ったかもしれないと考えたら不安の念が彼女の心を駆け巡る。
言うのは簡単だが、相手はただものではないから殺すのは無理な話。だったら別の思考回路から見れば、無力化させればいい話だ。ルシカはあきらめずにその決定的な瞬間を待ち続ける。だがしかし、だらだらしている様子が向こうに作戦を読まれて、プレッシャーをかけられる一方だ。
そして次の瞬間、女は音もなく襲い掛かってきた。放たれる攻撃はかなりの速さだが、かわせないほどではないと思いきや、ルシカの頬に熱が奔ると同時に鮮血が舞った。彼女がひるんだ隙間を逃さずに、女はラッシュをかけてきた。
頬の傷を構う暇はなく、敵がこちらに駆け込む前に作戦を練っておかないと……彼女がそう思うときに、なぜか視界がぼやけてくる。何があったと疑問に思うとき、女はもう一歩手前に来た。咄嗟にガードを固めるのも簡単に破られた。
再度に敵に立ち向かったが、さっきと同様敵を複数人のように見える。瞬時、目まいに似た恍惚感が前兆もなく訪れて、まるで精密機械に混雑な信号が入り、運転に支障が出始める。体も自分のものじゃなくなるような違和感を覚えた。
こんなことろで倒れるわけがないと何度も自分に言い聞かせたが、ルシカはかろうじて立ち上がるが早いか、高いところから底までずーんといっぺんに落ち、視界に映っていたものが渦のようにぐるぐると廻ってゆく。
そしてさっきから変な声が頭を駆け巡り、こだまのように響き続く。あれは慟哭なのか、懺悔の叫び声だったのか、一つだけわかるのはその声がルシカ自身を発狂させる時限爆弾のようなものだ。
「もう効いたのか? 早いわね」
女はルシカと一定的な距離を保ち、無表情で彼女を見つめる。
「なに……やった?」
「もう気付くかと思うが、毒だ。裁判官のおかげよ」
「この三下!!」
女は勝てればいいのよと言わんばかりに抜刀した。ルシカはいま危ない橋を渡るような思いでピンチに立ち向かい、手に握っている槍を思い切り相手の方に投げる。
相手のテンポが崩したら、ルシカは必ずその隙を掴んで何も顧みずに突っ走って敵を屠るのだ。しかし、そんな一撃も虚しく女の斬撃により真っ二つにされた。
ルシカの行動を待たずに、手前まで接近し次の衝撃波を振ろうとする。もしこれを真っ正面で丸ごと食らったらただじゃすまないと思い、ガードポーズと共に障壁のようなものを展開した。間のいいところ、その石のような重撃を防げた。
限界を発揮した障壁が自分なりの役割を全うしたのか、その衝撃で瞬きの間に、大きな爆発が生じたと共にガラスの破片のように散っていく。しかし、ルシカは一切視線をそらさず、まともに顔面で受けた。
もし彼女が女から視線を切ったら、次の破片になるのは間違いなく彼女自身なのだろうと自分を戒める。距離をとるように後ずさったが相手はまったく疲れない様子を見せて、彼女を攻めまくる。
その軍刀の切っ先がルシカの喉の方にどんどん伸びてきて、生存本能に駆られてすぐ対抗できる剣を生成した。その流れのように地面に走らせて、きれいな金属音と共に相手の軍刀を飛ばさせた。つまり攻撃や防御できる武器はない以上大胆に攻めるべき……そう思うのも束の間だった。
ルシカはしっかりと地面を踏みつけて、剣を腰の位置から振り払った。女は不完全な態勢で振られたとはいえ、かわせるのは造作もないことだ。あの攻撃がかわされたことにルシカは舌打ちしながら、形勢逆転したように横払いした。相手もギリギリまで追い詰められて、そろそろ身の危機を感じた。
すると、ルシカは追い打ちかのように果敢な一歩を踏み出した。今度はルシカから戦闘の主導権を握り、敵の喉まで近づいてきた。
だが、相手はじっとして殴られるじゃすまないのだ。反撃の糸口を見つかるや否や、ルシカから身構えるよりはやく、そらから降り注ぐ雨のような攻撃をぶちかました。ルシカは野生の勘を活かして、巧妙によけながら華麗なけんさばきで絶え間のない攻撃を斬っていく。
が、いくら一生懸命で綿密に対応したとしても、見逃したやつもいる。あれらをうまくさばけない結果は……太い刃物を刺されるのような痛みと共に腕が一気に血まみれになった。肉まで持っていかれそうな痛みや軋む体も全部彼女への警告だ。
──あれを使うか……本意ではないが、勝つにはあれが必要だ! それにここだとあんな醜い姿も見られないから、思い存分暴れていくぞ。
ルシカは覚悟をすわりきった目つきを見せて、自分がどうなっても受けて立とうという精神を固める。胸中に占めているのは寸分の揺るぎもない決意、拳骨のような堅さ。
彼女は慣れた手付きで懐から魔法の道具取り出し、煙幕と見せかけて実は相手の視界を攪乱できる上に聴力の影響も与えるやつを全力で投げた。ほんのわずかな摩擦だけではぜる。敵はそれを知らずに安易に斬ってしまった。
濃く白い煙がその場の二人の視界を充満していき、近距離での爆発により、耳がわんわんと鳴き止まず、全体の動きもだいぶ鈍くなってきて、当然反応も遅れている。唯一それを受けていないルシカは心の中でカウンターを始める。
その煙幕が徐々に消えていき、視界良好に戻る。すると女の目に映っているのは、先ほどの狼狽えていた表情が一変し、冷ややかで感情に乏しい顔になったルシカだった。あれは路肩の雑草を見るかのような冷酷な眼差しだ。そして、彼女はこうぽつりと言う。
「狂化」
読んでいただきありがとうございます。
たぶんこれは久しぶりの戦闘シーンなのではないかと思います……私的には本当に苦手なんですが、なんだか再挑戦してみたくて書かせていただきました。結果がどうなっていくのか、温かい目で見守っていただけると嬉しいです。




