目には目を歯には歯を
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前回は、天羽の指名手配を発見し街中で大騒ぎになったが、あれは誤解なのでしょうか?
「わからない……でも一つだけわかっていたのは、このまま街でうろうろしてたらまずいの」
「いや、私は何もしてないのに、なんで逃げなきゃいけないのよ」
ふいと天羽は指名手配の詳細を入念に読むと、書かれた罪名は殺人だ。彼女は自分の目を疑うほど何回も見たが、相変わらずあの「殺人」という文字だけ大きくように見える。
──なにそれ、殺人? 罪は殺人? してないのに……
「それ私が人をやったという?」
彼女は腹部に両腕を巻き付いて、おびただしい量の汗をかく。顔に現れたのは突き抜けた茫然と戦慄、背筋を凍らせるような感じがする。
「はめられたんだろう。でもここで立ってばかりで通報されると全滅になりかねないのよ」
「!?」
「ほら、野次馬も増えてきたんだから、ここは大人しく私の言うことを聞いて」
ルシカは何度も力説して、天羽のことを目覚めさせようとする。
「どこに逃げるの? この指名手配が街中に貼られている限り、もう逃げ場ないじゃない?」
こんな肝心なところでも揉めている中、続々と人が集まってきて黒雲のようにこちらを近づいてきた。そして、不審者を見るかのような目で彼女たちを中心にして議論し始める。
「なんか指名手配の人と似てない?」
「そうだね。そっくりさんとか?」
「まさか本人なの? よくこんな吞気な顔しやがって」
「護衛兵の方を呼んでおこうか?」
──この国に来たばっかなのに、一難去ってまた一難かよ!
天羽は混乱に陥って頭の中にもやがかかって、考えにさまよっている。するとルシカはこんな彼女を呼び起こそうとするために大声を放った。
「なにぼうっとしてる? 全力で走るぞ!」
上の空だった彼女がはっと我に返った。その反応はまさに誰かにビンタされて明け透けの驚愕を目に表す。
「いま?」
「お前まだわかってないのか? 自分の身を危険にさらすのか?」
「それは……」
「とりあえず、旅館はもう無理だな。人気のない路地裏に身を隠すよ」
ルシカは短時間で解決策を練り素早く反応した。彼女は天羽の手を掴んでまっしぐらに駆ける。風が頬を掠め、これこそ自分が逃亡していることを実感した天羽は形容しがたい気持ちと化す。二人は人目のつけない路地裏についた。
静寂の中、二人の荒い息遣いだけが響き、互いの心拍数すら聞こえられるのだ。
「ごめん、また私のせいで……」
「お前は悪くない、おかしいのはあのクソポスターだ。誰かあんな卑劣なマネをしたのか、あとで調べいくから、今一番大事なのはここから身を隠しながら情報収集なのだ」
ルシカは天羽を庇うように姿勢を変えて、時々外を覗き込んだりもする。
「そんなの到底無理な話よ」
「そう。それでもやるのよ。が、今の状況において無事にここから出られるのかはまた一つの問題だね」
天羽は浮かない顔して、自分がいたせいでルシカの計画を狂わせた。不快感を伴う中、しぼみかけた花のように項垂れて、唇を一文字にしっかりと結ぶ。
「そんな顔しないで、必ず真犯人を仕留めてやるからよ」
「私……やっぱり」
彼女は無意識に後ろをチラッと見て、なにか異変を感じていた。それは遠くの一点だけがピカッとひかり、しかもどんどん大きくように見えてくる。恐らくルシカを狙っていると勘付いて、彼女を押すや否やその閃光のような速さが目前に迫っている。
気がつくとその手が天羽の視界を覆い尽くすように現れて、彼女を壁まで押し付けた。踏み場を失い、体を支える支点もなくした天羽はひどくてんぱっている。突如現れた女が彼女の顔を見て顔をしかめる。
「グゥッ……」
強く絞めつけられ、息苦しさも感じ始めた天羽はうめき声をあげた。それは喉の奥から発された助けを求めるメッセージだ。
すべての出来事がほんのわずかな時間で起きていた。ルシカ自身も反応すらできず、我を忘れてしまい棒のように立ち尽くすのだ。リアリティのない状況に拍子抜けの表情を浮かべる。
「おや、順番間違いましたが、どっちみち同じですから平気ね」
「羚夏!」
ルシカは朝の静けさを切り裂くように喚き散らし、喉を焼きつくような痛みが走る。自分がまた守られた側になり、ひどく悔しがっている。
「ちょっと待ってください、ヘタな動きをしたら、この人の首をへし折りますよ」
脅かすような発言をしたあと、見せしめとして天羽の細い首にかける力を強めていく。
「私は大丈夫……だから、来ないで」
首が重圧をかけられ、少しでも減らすために天羽はこの思わぬ来訪者の手首を掴む。
「まだしゃべられるのですね、なんとうこのしぶとさ。さっきも、よく私の存在を気づいてくれましたね」
「今すぐそいつから離してくれないか? お前は誰の飼い犬なのか知らんが、もう少し自分の命を考えてみたら?」
ルシカは凄まじい殺気を放ち、指をぽきぽきとならせる。
「私が何者だと? この国を守る護衛兵の隊長だ。指名手配に乗っている犯罪者を粛清するのが私の役目だ。それが何かおかしい?」
「あのさ、言いたいことあるんだけど、私たちはちょうど昨日来たばっかなんだよ。ああいう犯罪行為をするわけがない」
「そうですか? アリバイあります?」
「あるに決まってる。ずっとそいつと一緒にいた、旅館でね」
女は氷のような虚ろな笑みを口元を掠める。一旦天羽から視線を外して、ルシカに置く。
「君たちは仲間でしょう。そんな狐を馬に乗せたようなこと、私が信用するとでも思ったのですか?」
「そんなの偏見しかすぎない!」
ルシカは敵の方向に傾けて、なにを目論んでいる様子だ。彼女はちょっとした一歩を踏み出せたところ向こうに忠告された。
「そんな軽率な行動はいいんですか? この人どうせ犯罪者だし、私刑で済ませても苛まれないですから……なんならここでこいつを処分しても構わないですけど」
「ほお……やってみれば? まずこの国からとことん踏み潰してやる」
頭の中でじんじんと燃え上がるほどの怒りがわいてきて、双眸には漆黒の炎が爛々と燃え滾っている。理性の糸がいつ張り裂けてもおかしくないのだ。しかし、ルシカはその暴走しかける情緒を押し殺す。
「君にはそうできるのですか?」
「できるよ。だからこれは最後の警告だ。そいつを離せ」
「虚勢を張るなんて、その震えている手があんたを裏切った証拠ですよ」
その女がわざと眉をあげて首を傾げながら大胆不敵な笑みをたたえる。これはまるっきりの挑発だと知ったが、まだ頃合いではないと判断し、ルシカはもう少し我慢続ける。
──クレアシス、あんたの力ちょっとだけ貸すよ。
ルシカの手首には浅い緑色の呪文が浮かび、それに繋がって天羽の手首のところにも同じような呪文が現れた。しかし、ルシカの顔色がだんだん悪くなってきて、呼吸もどんどん不穏になり秩序を乱された行列のようだった。
「本当に離さないのか?」
「何度も言ったが、答えは同じです」
女のその不動な表情が凍った仮面を被ったかのように動じず、自分の意思を背くつもりはなく、凛々しい目つきを見せる。
ルシカは天羽の顔に目を凝らして、意を決したようだ。
「そうか……」
と彼女はぼそっと呟いた。そして次の瞬間、女は自分の腕に違和感を感じ、静電気のようなものが流れてきた。当然のように手を離すや否や鮮血が飛び交っているのだ。天羽は束縛から解放されたと同時にルシカはラッシュの準備を出来ている。
「なに……? いまの?」
女はかなり驚いているようだ。
もちろんルシカはその数舜を逃さず、すぐに天羽の元に駆け寄り彼女をお姫様抱っこする。誰にも奪われないようにひしと抱きしめながら、残りの力を絞り切って後ろの方に一目散に駆け抜ける。
女は正気を取り戻して、自分の腕にたらたらと流した血をみながら熟考を重ねる。彼女は腕をゆっくりと高く挙げてそしておろす、指がまだ動けるかどうかを確認して拳を作る。
「今のはなに? 魔法を使った痕跡はないらしく、武器もまだ取り出していないのに、そのままダメージを食らった? なにを見逃した? でもこうなったら動きにくいね。やむを得ず一旦帰るしかないね」
一方、ルシカは一定的な距離を引き離して、また人気のない街に身を隠す。彼女はそっと天羽をおろしたあと、窒息しそうな勢いで絶え間なく空気をむさぼる。そんな彼女を見て、声をかけようとする天羽は自分の首を触ってみた。
──なんで私だけ痛みを感じないのか? 一番首を絞められた人なのに、息しづらい感じなどまったくないのだ。まるで彼女は私のためにそれを黙々と引き受けたようで……
「ね、なんで首が……」
「気持ち悪い……初めて使ったけど、かなり効いているな」
ルシカは跪いて、太ももに肘をつきながら両手で額を覆う。その後こめかみをマッサージする。彼女はしばらく地面をガン見して、だんまりしていた。
「なにしてた?」
「クレアシスの力を貸した」
──少し違うのは、連携したい対象と繋がって、彼女の身代わりにその倍のダメージを受ける。そうすれば条件が揃った以上発動できる。愚者。クレアシスに伝授してもらったやつって便利だね。こいつが魔法できなくても、私さえいれば大丈夫だ。
「確かに便利だが、そこまで負担が大きかったのは考えもしなかった」
確認するため彼女は自分の首を触った。するとひりひりとした感触が残り、その部分だけが焼かれたような痛みが伝わる。彼女は困ったなと言わんばかりに眉をひそめる。
「……ごめん」
「な~に、楽勝だ。あんたはまだ歩ける? ダメだったらおんぶするよ」
彼女は無理やりに一抹の笑みを絞り出したが、額ににじみ出る汗は彼女の疲労と憔悴を表す象徴だった。それでもこのような軟弱な一面を天羽に見せたくないのか、終始強がっているように見える。
疲れ果てた彼女のために額にある汗を拭こうとした瞬間、ルシカの顔の筋肉がこわばり険しくなった。敵を臨むように攻撃態勢に入り、背後からの方向を一秒たりとも目をはなせなかった。異様な空気に纏わりつつ、ルシカは使い慣れた槍を生成し、その鋭い矛先を前方に向ける。
天羽もこれはただことではないと感じ取り、顔にあふれている緊張感は緩むことはなかった。彼女は固唾を飲んでまっすぐに前を見る。その一瞬、周りの時間が凝り固まるように静止して、耳だけが異様にさえわたっている。
そして、その人影が時間がたつにつれ、彼女たちに迫ってきた。
読んでいただきありがとうございます。
彼女たちを待っているのは一体誰なのか? 二人はこれからどうなっていくのか、楽しみにしていただけると嬉しいです。
ここで少しネタバレですが、次回はまた苦手な戦闘シーンも挑みたいと思います!




