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生贄の村③〜それだけで充分です

誤字、脱字や文法など自分なりに全部修正させていただきました。よろしくお願いします。

 翌日の朝、木漏れ日が降り注ぐ。穏やかな風が吹き、草むらがサーサーと揺れる。とても居心地よい天気だった。まるで無事に終わらせますようにと祝福を捧ぐ。そうだ、ついにこの日で決着がつく。天羽(そらは)は村長とこの大樹の木陰で合流した。


「おはよう、怪我はどうだった?」


「おはようございます。たいぶよくなりました」


「ならよかった。改めてお礼を言う、本当にありがとう」


「いえ、私は村長さんに感謝されるほどのことをしてないので」


「ともあれ、君のおかげで目が覚めた」


「村長!」


 ルシカはこっちに手を振り走ってきた、どうやら間に合ったようだ。


「ルシカ、来てくれたんだ。ありがとう」


「いえ」


「では全員揃ったから、始めようか」


 村長は大樹の樹幹を触り、周りには強光が差し込む、思わぬ強光に天羽(そらは)は両腕で目を覆う。

 しばらく立つと信じがたい光景が目の前に現れた。巨大な猛獣が彼女たちに……いえ、正確に言うと村長の方へ突っ込んで行こうとする。けれど村長は動じなかった、攻撃体勢はおろか回避や防御体勢すら構えていない。


 ──なぜだろう? と天羽(そらは)は怪しく思ったが、理由を考えている間に、おぞましい猛獣がすでに動き出した。


「こんな姿にされて苦しかったよなぁ、大丈夫、わたしも一緒に行くから」


 村長は気が晴れたような表情で猛獣の真っ正面に佇む。


「え?ちょっと!ダメ!絶対ッ……」


 天羽(そらは)は考える前に身体が勝手に動き出して手を伸ばす。匕首を握りしめて村長を庇う、彼女は猛獣に面して匕首できれいに弧を描いて、真っ二つにしたが、当たる触感はなかった。すぐ防御体勢に切り替えて、向こうからの猛烈な攻撃を受け止めるために切っ先をバケモノに指す。


「君! 何をやっているんだ! 危険だ」


「村長は下がってください!」


「君はなぜそこまで……」


「見ていられないからです、いいですから、早くあいつを……!」


「その心はありがたいが、事の発端はこのわたしだから」


「違います。これは村長一人だけのせいじゃない。何もかも背負いこむのはやめてください!」


「やっぱり、君は変だね」


 村長は天羽(そらは)を押しのけて、自ら猛獣との距離を縮める。


「ごめん、許して欲しいなどのことは言わない。ただ恨まれるのはわたし一人で充分だ、他のみんなは巻き込まれただけ、あの理不尽なくじ引きを提案したのはこのわたしだから」


 だがバケモノは静まらなかった、より騒がしくなった。


「おい、ルシカ、早く手伝いに来て、このままだと村長さんが……」


「それはだめだよ。羚夏(れいか)


「何をでたらめなことを言っているの? あんたはこの村の歴史を見届けッ……って」


「そう。文字通りに」


「何それ? まさか見殺しするって言うの?」


「これは赤の他人の私たちでは阻止できないものだから、むやみに突破しようとしたら死ぬ」


 天羽(そらは)は肩をすぼめて地面に頽れた。昨日村長との会話をふと思い出す、その言葉は頭の中でこだまだけが響いた。


「あそこで合流しよう」「はい、それだけで充分です」


 ──そういうことかよ……どうやら私はまだまだ甘いんだよなぁ。これはやられたわ……


 猛獣は鋭い爪で村長の身体を貫通した、血がぽたぽたと地面に滴らしていく。赤と言ったら人に暖かさを与えてくれる。赤と言ったら活発やエネルギー満々なイメージを思い浮かばせる。


 この瞬間、天羽(そらは)は赤色が妙に冷たく思い、虫唾が走るような感覚を覚えた。


「このバカッ……!」


 ルシカは背後から駆けつけてくれて、右手で天羽(そらは)の双眸を覆う、左手は匕首を持っている彼女の手を掴む。耳元でこう囁く。


「現実から目をそむけろ、見て見ぬふりをしろ、耳を塞いで、何も喋らないで、そうしないとあんた持たないから」


 ──ただの見殺しにしかすぎないじゃないか……


 天羽(そらは)は力込めて唇を嚙みしめて、口から血が流れてきて、紛れもなく鉄の味がする。


 ──クソまずい。


 多分儀式が終わっていたと思いルシカは天羽(そらは)に自由を返してくれた。再び顔をあげると村長は地面に横たわった。命の炎がもろくて消えちゃいそうになる。


「村長さん!」


「あらあら……君」


「村長さん……」


「君、ありがとう。これでわたしの人生も幕を閉じることを許された。みんなに顔を合わせる資格もあった」


「こんなはずじゃなかったのに……これがどこのハッピーエンドだよ、誰にも幸せになれないじゃないですか?」


「まだ気にしてるの? わたしとルシカが君を騙したこと」


「違います。そんな形で償うなんて悲しいからです」


「君は本当に面白い子ね、何百年も経て初めて感受性豊かな子と出会った」


「違います。ただそんなやり方は釣りに合わないからです」


「こんなにも素直じゃない子、初めて見たかも」


「違いますッ!」


 村長の身体がどんどん薄くなってきて、透明の状態に近いと言ってもいいのだ。


「長引いたらいけませんね、あっちは待っているから」


 天羽(そらは)は無言のまま村長の蒼白な面立ちを見据える。


「これぐらいで悲しむ必要はない、これからもっと厳しいことが待っているから、この老いぼれの忠告を聞いてくれたら嬉しい」


 村長はため息を漏らして、訥々と言い始めた。


「最後、君に託したいことがある」


「何ですか?」


 天羽(そらは)は頷きながら村長の遺言に耳を傾ける。その後、村長は息を引き取った。


「終わった?」


 ルシカは珍しく自ら天羽(そらは)に話をかける。


「多分」


「この村はようやく呪いから解放されたね。みんなもきっと……」


「私はそろそろ行かないと」


 天羽(そらは)はこの空気を耐えられなくて、別の話を切り出した。


「どこにいくの?」


「目的地はまだ決まってないけど、あちこち回って気分転換をする」


「あの」


 ルシカは天羽(そらは)の裾を掴み、引き留めようとしている。引っ張られたのは感じて天羽(そらは)は振り向いて首を傾げてる。


「なに? 私はここにとどまらないわよ」


「私もついていく」


「は?」


 天羽(そらは)は訝しげな表情を隠しきれず目を見開きルシカの言葉の意味を反芻する。


「あんた元の世界に戻るんだっけ? だったら丁度いいわ」


「何言ってるの?」


「あんた言ったじゃない、この世界の住民じゃないって。だったらあんたが無事に帰らせるまで付き合ってやる、みたいな存在」


「え?」


 ──情報量が多すぎて、適切な反応はできずしかも脳が働かない!


「あんた魔力ないから、一人でうろついたら危ないぞ。私がついていれば安心するでしょう」


「いえいえ、この前私を殺そうとするくせに、なにいい子ぶってんの? 頼りになさそう……」


「は? あの時は仕方がないから、今はもう溝が埋まったんだから。問題なし」


「気色悪い、そんなに仲のいいほどじゃないから、やめて」


「あんたが言ってたでしょう。、行きたいところに行けって」


「ああ、言ってた」


「あんたとならもっと高いところにはばたけそうだから、悪くないと思う」


「そんなの、私に関係ない話だ、それに私面白いくないから、つまらないよ」


「そんなに嫌なの? 誰かと肩を並べて共に歩むのが」


「ちょっと苦手で、私はそういうの慣れなくて……」


「わかった。これ以上あんたにしつこく頼まないから」


 ルシカはとぼとぼ帰って、ふさぎ込んでいる姿を見ると何とも言えない罪悪感が天羽(そらは)の胸からこみ上げてきた。気が変わって、踵を返した途端彼女の姿がスッと消えていた。


 少し後悔と似たような気持ちと、また一人になれて安堵とした気持ちがぶつかり合って、天羽(そらは)自身にとって矛盾だった。


 とその時、ルシカは天羽(そらは)の背中を小突いた、面食らったように口をぽかんと開いちゃった天羽(そらは)を見て、ルシカは溜飲が下がって勝利の微笑みをたたえた。今まで起伏の少ないポーカーフェースだが、初めてルシカの笑っている姿を見て天羽(そらは)は少し見惚れてた。


「あんたね!」


「わかりやすいなぁ、あんた、顔がバレバレだよ」


「もういい、好きにしろう」


「素直じゃないなあ、羚夏(れいか)


「きっしょ! 一番あんたに呼ばられたくないわ」


「これからもよろしく」


「はぁ……よろしく……」


「私がついている時点で、もう何も心配いらないわ」


「はぁぁ……」


「案じるな、私は自ら約束を破らない派なので」


「破ったらどうする?」


 天羽(そらは)は冗談半分で聞いたつもりだが、向こうからは真剣な眼差しが返えてきた。


「死で償い」


「いらない、重すぎる」


「もちろん、そのようのことが起こさないため、同行させてもらうわ」


「それはどうも」


 天羽(そらは)は大樹の前で柏手を打つ。


 ──村長さん、私はまだ覚えている、あなたに託されたこと。


 彼女はちらりとふらふらしているルシカを見て、目を伏せた。


 ──そして今果たしたわ。あそこで憎しみのない世界を祈っております。仮にですけど、私が本当に現実世界に戻る時が訪れたら、必ずまたここへ伺いますので、待っていてください。


 村長は息を引き取る前にすっきりした笑みを浮かばせ、幸せそうな顔をしているが、私には到底理解できないのだ。恐らくこれからどう考えても合点がいく答えはないのだろう。と天羽(そらは)は心底から思った。

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