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駄目ダメな女子高生が迂闊に異世界に入り込んで、気づいたらもう現実世界には戻れない。  作者: 霞真れい
第九章:空いたものはそう簡単に埋められないのだ
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終わりは始まり

いつも読んでいただきそして応援をくださっている方々、誠にありがとうございます。感想やコメントも大歓迎です。


やっと第九章の終わりが来ましたね。最後まで楽しんでいただければと幸いです。

(後書きには新しいお知らせがありますので、最後まで読んでいただければと思います)

「これを……中に入れて……」


「へえ、全部言っちゃうタイプなんだ」


 ルシカは依然として天羽(そらは)の行動を抑え続けた。被害者は吊り上げられた状態のままで不満の声をあげる。


「おろして」


「うん?」


「うんじゃなくて、おろしてよ」


「はいはい」


 天羽(そらは)はひょいとおろされて、再び着地できるということに妙な安心感を覚えた。


「私たちはただ、ここで見守るだけでいいの?」


「いちいち教えたら、自分らしい味じゃなくなっちゃうじゃん」


「それもそっか……」


 展開しづらい会話、見合うこともなく、まるで初対面の時だった。二人の間には気まずい空気感が走った。すかさずに何かを思いついたかのように天羽(そらは)は口火を切る。


「そうだ。さっき何話してたの?」


「え?」


 まさかさっきの会話を丸ごと見てたのかと驚きつつ、頭を傾けたルシカには異変が起こった。喉がやたらに乾くなってきてチクチクとした感じがするので自分の喉を触った。


「ないの? ルーのおばあちゃんと。たまたま見たよ。まさか、もっと甘いものを食べたいとおねだりした?」


「ないない。あ、あれは……」


「言いづらいならそれでいいよ」


 さっきの怪しい雰囲気を緩めるため、適当に聞いた質問なのか、あまり気にしてない表情をする天羽(そらは)は淡々と自分の意見を言い出した。


「いや、普通だよ、私たちの来歴とか……ただそれだけよ。向こうも単に確認したかったんだろう、私たちの身分。唐突にやってきたからね」


「それもそうよね。怪しまれてもしょうがないことね」


「あともう一つ」


「なんだ?」


 ──とりあえず、これをきっかけにささっと謝ろうか……一回目のとき、彼女が私のことを興味を持ち始めたのに、その手を振り払ったのは私だから。ちゃんと、私から謝らなくちゃ。


 ルシカはあえて天羽(そらは)と視線を交わさず、前方を見るだけだった。まるでいつ見ても静止したような顔がする。彼女は天井に仰向いて嘆息する。


「何かあった?」


「ご……」


「ご? またご飯かよ? どんだけお腹すいてんのよ」


「違う。その……ごめん」


 ──なんで謝るの? よりによってこのタイミングで、何を言いたいの?


 その言葉が耳に入った途端に天羽(そらは)の顔の筋肉がこわばって、心境もコロコロと変わり、困惑したように目を伏せる。


「またなんかやらかしたの?」


「いや、言いたかっただけ……」


 まるで会話を繋がせる糸が切れてしまい、続けなくなるような雰囲気になった。そこから生み出された静寂が彼女たちのいた空間を包み込んで、外との繋がりを断つ。それでも二人は変わらぬまま、互いの目を直視することは一度もなかった。


 どちらかその沈黙を打破しないと、恐らくこの静かさというものはこの場にあるすべての酸素を貪るのでしょう。すると天羽(そらは)はこの大変そうな任務を黙々と引き受けた。


「何それ……いきなり何なのよ」


「うん? なに?」


「なにも」


 さっきまで目を合わなかった二人だが、ばったりと視線がぶつかり合うなり、別のところを見始めちゃう天羽(そらは)は自分なりの力で感情を押し殺して、泥濘の底から這い上がったような声を発する。


「ルーもそろそろだから、見に行こう」


 ルシカはこれで成功なのかと考え続けたが、彼女の提案に応じて調子を合わせることにした。


「ああ、そうだね」


 ──原因もくれず、突拍子もなく謝るなんて、何の事に謝ってるのよ。


 天羽(そらは)は軌道からはずれた呼吸を微調整して、ルーの隣に傾ける。


「ルー、調子はどうだった?」


 ルーはカップケーキを手に持って落ち込んでいるようだった。カップケーキはまるで象の群れにひどく踏みつけられたようにうまく膨らまない様子だった。普通のカップケーキより若干低めな感じだそうだ。


「ダメだった……全然膨らまないの……どこか間違ってるかな」


「残りの材料はまだある?」


「それがないの……どうしよう……またやっちゃったよ。なんでいつもそうなのよ。やっぱり私は……」


「いや、いい出来だったよ。私はそう思う。慰めや同情などじゃない」


「そんな欠陥品を人に振る舞うものじゃない」


 その言葉が天羽(そらは)の心のどこかでもっとも柔らかいところに突き刺して、少しひびも入ったものの、自己回復しつつ平静な表情に戻り、それを反芻しながら自分の持論を持ち出した。


「そんなこと言っちゃうだめだ。確かに人に振る舞うならできればいい結果を出した方がいいけど、誰だって失敗もあるものさ。それに記念すべき第一回目は滅多にないぞ。ほら『料理に犠牲はつきもの』という言葉聞いたことある?」


 ルーは軽くかぶりをふって、天羽(そらは)は続けて説明を入れる。過去自分の失敗した経歴も暴こうとする。


「それにいい匂いしてるよ。失敗なんて言いすぎよ。私なんかよりうまいよ。私ね、毎回台所に立つと災難なんだよ。きちんと教えられたにも関わらず失敗ばかりだ。毎回丸焦げもしたよ」


羚夏(れいか)……」


「ほら、心強いでしょう。冷めないうちに、おばあちゃんのところにもっていこう。万が一何かあれば、全部この反面教師に押し付ければいいことさ」


 彼女はどうでもいい顔して気軽に親指で指さして、それに対してルシカは納得がいけず、何も聞かされてないよとばかりの顔をして、不服そうに天羽(そらは)は頬をつつく。


「いやだって、変なもを吹き込まれたからでしょう。その責任の大半はあんたにあるから」


 緊張ながらも、二人の励みを確実に受けたので、ルーは不安の感情を抹消するため奮い立たせたが、その歩幅が普段より狭くて、綱渡りをしているような構えだった。一歩を踏み外したら、底知れぬ深淵に落ちそうなのだ。


 その緊張感がドアの後ろに隠れている二人まで伝わってきて、息をのみながら現場を見守るのだ。


「おばあちゃん……」


「お、なんだ? ルー」


「私、これを作ったの……」


「うん? いい匂いわね。じゃいただくわね」


 女性はそっとカップケーキを受け取って、ジュエルを扱うように慎重に持つ。そして一口を食べた。ルーは結果を受け入れたくないため強く目をつぶり、まるでテストの成績をあえて見ないようにしている。


「まずかったら、そのまま言っていいよ。失敗作なんだから。これ」


「失敗作だなんて……すごい美味しいわよ、なんで自己評価がそんなに低いの?」


「私の気持ちを気を遣ってくいたら、いいのよ」


 ルーはひたすら服のしわをのばしながら、緊張まじりな声をあげる。その情緒はジェットコースターを乗っているような気分だ。


「違う。心から美味しいって言ったの」


「やったね、責任を負わずに済んだね」


 天羽(そらは)は得意げに口笛を吹き、隣の反面教師に肘で軽くつついた。ルシカは睨むような目で彼女の祝いに返した。


「あなたたち、あそこで隠れてどうするの?」


「あ、あはは。どうしても気になるので、その……そうですね」


 天羽(そらは)はそのまま理由を吐き出して、視線を下に向けてうなじをこする。


「本当にありがとう」


「ルー……」


「昔、本当に苦手だが、おばあちゃんの笑顔が見れて嬉しい。もう究極の食材にも執着しないと決めた」


「そうか……それも一つの選択ね。その一歩を踏み出せることがすごいと思うよ」


 肩の荷が下がったようにルシカはほっとし、安堵の一息を漏らす。体が水面に浮かんでた枯れ木の束のように軽く、羽のごとし。


「なんか、依頼を果たせてなかったけど、そういうのも悪くないね」


「そうかも……ともあれ平和が一番ね」


「……うん。それにしても、カップケーキ美味しいね、そんなの美味しくないわけがないよ」


 まるでカップケーキの余韻に浸しているような顔をして、ルシカは腕組みしながら天井を見る。


「なんで知ってんの?」


「あ、口を滑らせちゃった。想像よ。イメージだ」


「だから、通りで一つ少なかったわけよ……お前の仕業か? どんだけ食いしん坊なのよ」


「教師として学生の作ったものを味見するのが大事だ。やはり私の目に狂いはなかった」


「頭の回転が早いね、別の意味で」


 と天羽(そらは)はぼそっと言い、再びルシカの臨機応変の対応に脱帽する。


「どうやら、円満に解決したようで、それに私たちにも用がないみたいね。できれば、もう少しここにいたいが……」


「え? もう行くの?」


 ルーは寂しそうに唇を一文字に結んで、無理やりに自分の笑いを絞り出す。


「そうね、もう無事に済んだみたいだからね……」


「ううん。楽しかった。羚夏(れいか)とルシカも面白い人だった」


 ──面白いか……褒め言葉としてありがたくいただくか。


 天羽(そらは)もかすかな微笑みで返した。


「じゃ、ここから離れる前に、もう一口食べていい?」


「あんた……まだ食い足りないか……」


 ありえない要求を聞いたあとに、こいつ脳みそまでお菓子で形成されたのかと耳を疑いながら天羽(そらは)はつま先で立って、ルシカの肩に腕を置く。


「足りない足りない、あんな一口しか食べてないんだから」


「あんたの一口への定義はもう人並み外れたわ」


「あの……いつでも遊びに来て!」


 ルーはぱんぱんに詰められた袋を持ちながら、こっちに向かってる。袋の内容物は問答無用なわたあめだ。そのものがルーの身長を余裕に超えていき、なんとかルシカに渡せることができた。


「旅中、これを食べながら……」


「おおお! 感謝、感激の至りだ!」


「ごめんね、わざわざこれを用意してくれて……」


 ──ルシカって子供かよ……


 その反応に絶句した天羽(そらは)だが、ルシカはもろともせずにそのいっぱいに詰められてるわたあめを抱き枕のように抱きついて、すりすりする。食べ物に対して無我夢中になった様子はもはや日常茶飯事のようなものだ。


「ううん。おばあちゃんも二人の旅の無事を祈ってる」


「そうか。代わりにありがとうってお願いしてもいい?」


「もちろん!」


「それとまだ色々聞きたいので、機会があればまたお邪魔するよと伝えてくれ」


 本来背を向けたはずのルシカだが、ためらったあと踵を返して、ルーにこう頼んだ。


「うん……よくわからないけど、ちゃんとそのまま伝えていくよ」


「それは助かる」


 ──また何かあったかな……


 天羽(そらは)は不穏な匂いを感じ取り、考え込みながら唇を食い締めてだんまりする。隣にいる少女がその微妙な変化を読み取ったかこう切り出す。


「な、私調べに行きたいところがあるんだけど、あんたは大丈夫か? 嫌なら言えばいいよ」


「いいのよ私のこと。調べって?」


「あの場所についてから話すよ。このまま説明してもわかりにくいから」


 ルシカは天羽(そらは)の頭をぽんぽんと撫でたあと、口角に浮かんでた霞のような微笑が朝露のようにだんだんと蒸発されていき、暗い影が差しかかったかのように真剣な仮面を被る。


 その後、ルーの家にいた女性は椅子にもたれて、ふーっと気持ちよいため息を肺の底を傾けて吐き出さす。


「まさかあの子も見たのか……食材の妖精を……迷いのある人こそ、あの場所に導かれる……では彼女の迷いはもう円満に解決したのか? また機会があったらちゃんと話し合ってみたいね」


 女性はカップケーキをぐるぐると回せて、まるで工芸品を鑑賞するようだった。彼女は目をつぶり香りを楽しんでいる様子が見られている。

読んでくださりありがとうございました。


そして、お待たせしました。期末テストがやっと終わりました!これからも三日に一回の更新に戻らせていただきます。


しかし、期末テストに引き続き、大学でのボランティア活動がもうすぐ始まるので、本編への更新はしばらく停止とさせていただきます。だが、このまま更新を途絶えさせたくないため特別編を更新します。

主に短編で構成されていた内容です。視角編やまとめ情報、あるいは新しい補充なども加えていきます。


では予告させていただきます。(順番並び)

1.イーレンの視角編(藍の花事件)

2.第45話の最後の部分の続き。<ハリネズミ対コブラ>

3.天羽羚夏のまとめ情報

4.ルシカのまとめ情報


となります。特別編を楽しみにしていただけると嬉しいです。

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