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駄目ダメな女子高生が迂闊に異世界に入り込んで、気づいたらもう現実世界には戻れない。  作者: 霞真れい
第九章:空いたものはそう簡単に埋められないのだ
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妖精(限定?)のお茶会

いつも読んでいただきそして応援をくださり誠にありがとうございます。感想やコメントも大歓迎です。


前回は無口な幼女と出会い、困惑を隠せない天羽だが、今回はどの展開になるのか読んでいただければ嬉しいです。

 そんな彼女の意識を呼び戻したのは、ずっと天羽(そらは)の服に隠れていた火の妖精だった。どうやらしびれを切らしたようで好奇心に駆られて、ポンと出てきたようだ。それを気づいた天羽(そらは)は若干焦りを見せる。


「おい! なに勝手に出てきやがった!」


 だが、どう考えても今追いつく気力がないと意識し、放っておくことにした。


 ──ま、いいよ、いちいちあれこれ心配したら、狂っちゃいそうなのよ。


 連れて行かれた場所は見渡す限りの雄大な草原だ。芝を絨毯のように覆う落ち葉はふかふかのベッドに見える。立派に成長した木々の枝から枝へ飛び移る妖精、或いは芝の上に走り抜けるのもいる。当然少女の頭上をしゅっと飛び回るミニキャラのような妖精も少なくない。


 それだけではなく、花の間を優雅な姿勢を見せた蝶々が人をうっとりさせるほどの魅力がある。芝生の上に不規則な走り音、静かに自分だけの時間を楽しむ読書をする子、木の茂みの間で活発に会話を交わしている子もちらほらいる。


 どの妖精もちびキャラのように見えてきて、羽根つきもあるが、それ以外の形をしている妖精もいるのだ。なんという多元化な種族なんだと感心する天羽(そらは)だが、中々実感が湧かないものだ。


 彼女は無意識に顔をあげると、太陽光の暖かさに当てられて思わず目を閉じるのだ。それに加え生きている実感がする。


 彼女はずっと思っていたが、改めてここに佇んでいる自分がどれだけ小さく、微塵のような些細な存在でしかないことを思い知らされた天羽(そらは)は開いた口が塞がらぬ状態にいた。


「めっちゃ賑わってるね。まるで妖精族の一家団欒の時間そのもの……ね、私のような余所者って本当に入っていいの?」


 天羽(そらは)は両手をポケットに滑り込ませて視線も定まらず、心配の種が尽きない顔でちらりと幼女を見る。しかし幼女は相変わらず何も答えてくれない様子、ただひたすら彼女の背中を押し切って、この大自然のイメージにそぐわず、真ん中に置かれているテーブルに近づく。


 ──いや、ここにいてどうすんの。


 一分も足らず、天羽(そらは)の周りにすでに妖精たちが集まってきた。どうやらこの珍しい来訪者を気になっているようで、怪訝そうな視線を向ける。


 匂いをかがれたり、顔を寄せてきたりして、中にもヤンチャな子がいてつんつんと天羽(そらは)の頬を触って、まるで毒の有無をテストするかのような奇妙なシーンだった。


 ──なにこれ、動物園の触れ合いコーナーじゃないんぞ。確かに異物である私がいつも変なものを引き寄せちゃう場合も多いが、さすがにこれは耐え難いわ。


「な、ストップストップ! めっちゃ苦手、そういうの」


 その哀願が届いたのか妖精たちは動作を止めて、フリーズしたかのようにまばたきもせず、ジッと天羽(そらは)を見据える。彼女を息を凝らして、背筋を凍らせるような汗がにじみ出て、体の力が抜かれているような安心感を覚えた。


 ──わかるんだ……人の話を……


 しかし、妖精たちは再び天羽(そらは)の隣で騒ぎ出して、お祭りでも開催するのかと思うぐらい大はしゃいでいた。天羽(そらは)は首の付け根を触って、好きにしろと言わんばかりに肘をついて額を支える。


「それはないっか」


 と前言撤回し笑い飛ばしながら自分を励んだ天羽(そらは)の顔にはほろ苦い微笑が凝っている。彼女は苦渋を味わいつつそばに起きている大騒ぎを見届ける。そんな中、幼女は火の妖精を自分の手に乗せて彼女に見せる。仏頂面をしている天羽(そらは)は口を尖らせる。


「なん~だ。あんたら親戚か? こんな懐かれて、どうせならこいつあげよっか?」


 天羽(そらは)は冗談めかしに軽々しく提案した途端、火の妖精は縋りつかんばかりの根性を見せて、|彼女の服を強く引っ張るばかりだ。天羽(そらは)は溜息をつきながらこやつを掴み取る。


 そして、両手で挟んで、まるで鏡餅を作るかのように天羽(そらは)はそのか弱い妖精をみよーんと伸びて、丸める。


 ──お前、風見鶏かよ……そんなことどうでもいい。まずはこの幼女からなんかの情報を聞き出すか……無駄だと知っているが。


「食材の妖精って知ってる? かなり高級らしくて、あれを見つかれば高級スイーツとか作れそうだって。なんか知らない? 少しだけでもいいから……」


 しかし、言葉が通じ合っていないなのか話がまったく嚙み合わないのだ。幼女は星空のように微塵の濁り一つも見えぬ、透き通った川のような瞳で彼女を見つめる。あの頑是ない笑顔を見せられて、天羽(そらは)の心のどこかでとろけるような感じが込み上げてきた。


 ──めっちゃくちゃ癒されるがそれを置いといて、全然わかんないよ……何を表現したかったのか。いっそこだわらない方がいいか? 馬鹿馬鹿しいに見えるが、もっと早く妖精の言葉を学んだらこんな目にあわなかったのに……


 と謎な発想が浮かび上がって、本人は深く反省しているようだ。


 せっかくのお客さんを立たせたままにはいかないので、妖精たちは積極的に彼女を座らせた。全部が整えた次第、お茶とお菓子を差し出された。


「あ……クッキーか。気持ちはありがたいが、ちょうどお腹いっぱいなの」


 ──色々意味でね。


 無理強いされるとはいえ、せっかくの好意を無下にはできず、せめて差し出されたお茶だけをすするかと考え、天羽(そらは)は渋々と濃厚な紅茶を口につく。自分たちからの善意を受け取った様子が見れて、妖精たちは微笑みを浮かべる。


 和やかな雰囲気が漂い中、天羽(そらは)はその絶好のチャンスを逃さず、さりげなく聞きたいことを口にする。


「気に障ったら無視しても構わないけど……この森には食材の妖精があるんだって、何か心当たりとかない?」


 妖精たちは一斉に静まり返って、息が詰まりそうなほど不思議な静寂に包まれていて、互いを見つめ合っている。


 ──やぱっり知らないか……同じく妖精らしき種族だと思いきや、違う家系か。


「ああ、何でもない。さっきのを忘れて、続けてどうぞ……」


 天羽(そらは)は頬を引きずらせて曖昧に笑い、手のひらを上に向ける。妖精たちもお言葉に甘えてと言わんばかりに賑やかさを取り戻して、各々と盛り上がっているようだ。


 ──ふう……目いっぱい楽しもうという意味か、あの二人心配してくれるのかな……たぶん、ここから出ていったらめっちゃ怒られそう。どう説明したほうが……


「ここって、あんたたちが管理してるの? みんなの家みたいな感じ?」


「うんうん!」


 幼女は代わりに答えてくれて、親切に振る舞った。


「そういえば、なんでお前だけ等身大なの? ちびキャラみたいなやつじゃなかった?」


 ──待って。もしかして、ルシカと同じパターンか、自由変換できる? なら話が成立ね。


「なんでもない、さっきの質問を忘れて」


 すかさずに質問を取り消して、黙々と自己解釈する。とその時、幼女はのろのろと天羽(そらは)との距離を縮めて、うつむいたままもじもじしてる。それを目にした天羽(そらは)は穏やかな波を保ったまま、柔らかい口調で問いかける。


「どうした?」


「……」


「しゃべられないのか? それとも喋りたくない?」


「……」


 天羽(そらは)は真摯な眼差しを向けて、それ以外は何も言わず相手の答えを待つのみだ。


「うん……」


 幼女はあえて視線を下に向けて指をいじる。流れのように左足を軸として、体を左右に揺らす。何かを躊躇している様子が見られている。


「うんって一言だけで何も伝わらないよ……何か行動を取れば?」


 子供に対し免疫力がゼロな天羽(そらは)はすでにお手上げ状態となり、好きにやってもいいよと言わんばかりの態度を取る。その後、幼女はテーブルにあるお菓子盛り合わせを懐に抱える。


「あ……私に食べて欲しい? とか」


 幼女ははにかんだ表情で強く頷いて、こっそりと目の前にいる少女の反応を覗き込む。


「なんだ、案外かわいいじゃないか」


 幼女は嬉しそうにクッキーをつまんで、少女の口に運ぼうとする。


「え? あーんってやつ? 子供じゃあるまいし……ちゃんと自分で食べるから」


 天羽(そらは)は素早く彼女の腕を掴んで止めようとしたが、幼女の圧にかなわないので、逆らえない立場となり屈服せざるを得なくなった。


 ──こりゃやりづらいな、いい年して、おまけにあーんってされるなんて、ルシカに見られたら爆笑するんでしょう。


「はいはい」


 幼女からの好意を断るには忍びないため、天羽(そらは)は彼女の期待を沿ってぱくっと食べてくれた。


 ──!? 私の作ってたやつと違う、遥かに美味しいわ……何を入れたのかなぁ……そういえば、あれを思い出すのがちょっと、ね。カーデナもお菓子作り得意だった……私のすっからかんのクッキーとは違う。


「ね。気になるけどさ、何か秘蔵な調味料とか高級な食材とでも入ってるの?」


 幼女は何もしゃべらずに天羽(そらは)の両手をそっと握りこんで、そのまま視線を交わす。天羽(そらは)は首をかしげているところ、幼女は彼女の胸のあたりをさす。


 ──それでもわかんないな……ルシカに言われた通り鈍感なのかも。あいつもそうだけど……五十歩百歩っというもんさ。


 すると彼女はわからずじまいで、幼女の両手から抜け出した。その後、草原の上に寝転がったり、ぼーっとして澄んだ青い空を見据えたりする。最後は気の向くままに大の字で寝ようとする。


 ──気持ちいい……もう少しここで休んだ方がいいかも、時間はあと……


 彼女は持ち歩いている砂時計を取り出し、砂の流れ具合を見る。まだ半分以上の砂が上側にいて、まさに有り余る時間と言っても過言ではないのだ。


「大丈夫。余裕っぽいね」


 タンポポの綿毛を運ぶようにそっと微風に吹かれて、その風に当てられた木の葉もサッと音を立てる。夏の風鈴がチリリーンと音が鳴って、それを聞きながら眠りにつくのが好きだった天羽(そらは)にとって、これも同様だ。


 彼女が寝ている間に、妖精たちが自然と天羽(そらは)の体質に惹かれて、彼女を囲むように円を作る。妖精たちは天羽(そらは)にもたれながら、気持ちよさそうに眠りにつくのだ。


「ふう……」


 一定的なリズムを保たれている寝息はとても軽くて、割れやすいシャボン玉を吹くようなささやかな呼吸音でもあった。こんな居心地いい睡眠はいつぶりなんだろうと天羽(そらは)は感嘆する。


 彼女は姿勢を変えて、片方の手を頭の下に入れ体を縮こまった状態て寝る。とその時、おぼろげな意識の中、誰かの気配がいなくなったことを感じ取って、かろうじて目を開けて、疲れた目しょぼつかせる。


 また、夢の世界に引きこもっているらしく、あくび連発する。しかし、ちょうどその時、砂時計がぽろっと出てきて、彼女は横目で見ると眠気が一気に覚めた。そして、しわがれた声をあげる。


「ちょっ……!! なにこれ! もうこんな時間、もう終わってるじゃん! まずい、夢中になってしまった。あの妖精たちには申し訳ないけど、さすがに帰らないとやばい……か」


 ──え!?


 周囲を見渡すと、あの不思議な場所と異なって、今の彼女は元の森に戻ってきたそうだ。


「え? ここ森? 確かお茶会の途中だったよね。まさか……失礼なことをして駆除されたのか、それともただの寝ぼけ?」


 ──うん? なにこれ?


 天羽(そらは)は自分の手のひらに異物の感触があり、何だろうなと思いつつ視線を落とす。

読んでくださってありがとうございます!次回も楽しみにしていただければ幸いです。


それともう一つお知らせがあります。大学の期末テストを控えるため、不定期な更新とさせていただきます。恐らく四日に一回の更新になるかもしれません……いつも応援してくださる読者様には申し訳ない気持ちがいっぱいですが、これからも精一杯頑張らせていただきたいと思います!

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