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生贄の村②〜お互いを知る

誤字、脱字や文法など自分なりに全部修正させていただきます。よろしくお願いします。

「いや……私は怪我人だし、せめて休ませてよ」


「ここ、旅館じゃないの、ていうかお金払ってない以上なおさらだ」


「いや、ポイントはそこじゃない。あんたが先に殴ったんだから賠償責任として」


 天羽(そらは)とルシカが揉めている最中、ドアからコンコンという音を立てた。


「はい、どうぞ」


「なに勝手にどうぞって言うんだよ。ここはお前の部屋じゃないし」


「二人とも喧嘩しないで、ルシカ、悪いんだが、周囲の警戒を頼んでもいい?」


 首を縦に振ったルシカは一瞥もくれず部屋から出て行った。天羽(そらは)は安堵の息を漏らして、背伸びする。


「本当にごめんね、あの子はいつもそういう感じだから、代わりにわたしからお詫びします」


「気にしないで……いつもって?」


「彼女にも複雑な事情があってここに流浪してきた」


 村長は訥々と話を続け、視線を床に落として天羽(そらは)と目を合わさずにいた。


「ルシカは根が優しい子なんです。だが彼女に関する詳しいことは正直わからないのです。あの子は一度も他人に心を開くことがないの。人と関わりたくないのかもしれません」


 ──自分から壁を作るか……人との接触を拒む、さも子犬が見知らぬ人に吠えまくって、自分の居場所から駆除しようとする。まるで……


 天羽(そらは)は頭の後ろで手を組み思索する。


「色々驚かせたかもしれないが、あの子を誤解しないであげてください」


「いえ……私はただ、合点がいく理由がないと殺されるのは困るのです」


「君は地頭がいい人だが、その考えは危険ですよ」


「大丈夫です。自己責任です」


「そうか……図々しいかもしれないが、頼みがあります」


「何ですか?」


 天羽(そらは)は身を乗り出して耳を傾ける。


「この村にある呪いを解いてくれませんか?」


「でも解く方法はないと言及してたじゃないですか? それにずぶの素人の私にはなおさらです。あまり役に立たないと思う……私はただリテリアに言われた通りここに来ただけです」


「方法はあります。でもわたしは何度も試しても全然効かなくて、且つ亡くなったみんなの気持ちを向き合うのが怖くて、気が怯んでしまうのです」


 その言い訳を聞いて、天羽(そらは)は眉根を寄せる。


「差し出がましいかもしれないですけど、村長さんにはまっとうすべき役があります。あの時、村長さんは何をしてたんですか? 怯えているみんなを慰めてましたか? 恐怖という感情が絶えなく村の中で蔓延し、やがて負の連鎖まで起こしてしまった。その時、村長さんは何をされてたんですか?」


 ──私、そういうタイプの人間じゃないのに、こういう時だけが立て板に水のようにしゃべられた。

 何故かと言うと目の前にいる村長さんは、さすがに意気地なさすぎると思う。つい心に秘めていた思いを言ってしまった。


 ──現実世界では大上段に説教されるのが嫌で、なのに私いま何をしているんだ? きっと心のどこかで見るに堪えないというメッセージが発信されたと思う。


 村長は項垂れんばかりに目の周りにほてる感じがするや否や、ぽつぽつと涙が流れてきた。それと相まって外も絹糸のような雨が降り始めた。


「私ちょっと外に行って息抜します」


 ──こういう時は一人にさせた方がいいと思う。だから胡散臭い言い訳を作って、外に出た。正直に言うと私そういうの苦手なのだ。


 天羽(そらは)は少し休んではいるけど、腹部にまだ鮮明に残っている痛みのせいで、年寄りのような歩き方でほっつき回って、目に映ってはいけない疫病神を見かけたように背筋を凍らせた。


 灼熱の視線を感じると、ルシカがこっちを見ていた。


「なんで出てきた?」


「あんたに出ていけって言われたから」


「口答えすんな、そういう意味じゃない、村長と話した後何かあった?」


「呪いを解いてくれないかみたいな話」


「で、どう答えたか?」


「私に関係ない話だ。とさっぱりと答えた」


 ルシカは目を見開いて、怪訝そうな表情でビクともしない天羽(そらは)を見据える。天羽(そらは)は動じないまま相手を見つめ返す。


「何故噓をつく?」


 ──え? どういうこと? この人何を言ってるの? まさか盗み聞きした? さっきの会話を全部聞き込んじゃった? 最悪な事態だわ。千里耳でも持ってるの? また下手な答えしたら、もう一度ぶっ飛ばされそう…… 


 数え切れない疑問が天羽(そらは)の胸の中で繰り広げられて、どんどん膨らむ風船みたいにいつ割れでもおかしくないのだ。


「どうして黙っている?」


「なぜ知ってた?」


「人の質問に対し質問で返すのが愚かな行為だと思いません?」


「……村長は死者に弔う勇気がない、向き合う勇敢さはないって言ってた」


「そうか……」


「殴らないんだ……」


 天羽(そらは)はぼっそと呟いたが耳のいいルシカに聞かれた。彼女はいかにも不服そう表情を見せて天羽(そらは)をガン見してた。


「いちいち私が暴力好きなやばいやつだと思うな。村長に禁じられたから」


 ──つまり禁じられていなかったら殴るってこと? うわっ! やっぱり物騒だね、実力の差を見せつけられてなんだかモヤモヤする。


「まあ、元々はお前に用がないので、ケガを治したらここから出ていけ」


 ルシカは部屋に戻り、泣きじゃくった村長の姿を見かけた。


「村長、少し落ち着いたか?」


「ごめんね、こんなに不甲斐ない一面を見せられて。彼女の言った通りわたしは臆病者だ。反論する余地はない」


「首を突っ込んでいいのかわからないが、本当に助けを求めたいなら、もう一度話し合ってみたら?」


「君に本当に申し訳ない……もうここを守らなくてもいいのよ」


「何を言ってんの。ここに来た時から何かあっても絶対に守ってやると言ったはず。この村が朽ち果てるまで、私はここを死守する。みんなを守るのは私に与えられた唯一の役目。居場所のない私に手を差し伸べてきたあなたに感謝しきれぬほどの恩がある」


「本当に、ありがとう。でもわたしは……」


 村長はとあることを意を決して、双眸に迷いのない決心を光らせた。

 一方、天羽(そらは)は池にあるカエルを見つめて、一人でカエルへの愛を語り尽くす。


「やっぱりカエルさん可愛いな、プリプリとしたお肌、くりっとしたお目目、わらび餅みたいなフォルム……」


 ──私ってこれからどこに行くべきでしょうか……このまま誰にも気づかれず花のようにしぼんでいくのか……


「ね、あんた」


 振り向くとルシカは静かに佇んで天羽(そらは)を凝視する。


「村長はあんたに話がある」


「わたしはもう決意したのだ。君の協力が必要だ、頼みを聞いてくれますか?」


 相変わらずしわがれた声だったが、泣きじゃくった後よりかすれてて、聞き取りがかなり困難になった。


「村長が望むならば、全力でやります」


「明日の朝が本番です。あのこんもりとした森は覚えてる? 大きな木があって、あそこで合流しよう」


「それだけですか?」


「はい、それだけで充分です」


「わかりました」


 それを言ったあと、村長はのろのろと自分の家に帰った。


 天羽(そらは)はルシカの歩みについて隣の森に行った。彼女は焚き火を起こして、切り株に腰を掛ける。


「ありがとう」


「人にお礼を言うなら、渋々な顔でするな」


「調子に乗るな、あんたのその言葉で村長の腑抜けを治った、みんなと顔を合わす勇気も目覚めてきた」


「そうなのか。よかったね、あんたも手伝いに来るの?」


「もちろん、私はこの村の守護者だから、むろんこの村の歴史を見届けるつもりだ」


「そんなに私を信用してくれるの?」


「村長があなたを信じるなら、これ以上何も言わない、私は村長の意志を尊重するのみだ。あんたが頼りになるとは一ミリも考えたことないけどね」


「……任されたには全力でやり遂げるよ。それだけはご心配なく、ケジメというものね」


「魔力のない人間が何を格好つけてんの、と言いたいところだが村長にしかられるから、この辺にしとく」


「ふーん……私そこまで幼稚ではないから、チクらないよ」


「チッ。つまらない」


「あ、そうだ、この呪いが解けたら、みんな解放されると思うから、この村を守る必要あるの?」


 ルシカは無意識で視線を逸らす。


「別の村に守護者役をやり続けたらどう?」


 ルシカも依然として口をつぐんだ。


「あんた本体は狼じゃないの? この長き歳月から解放され、大自然に戻ったら?」


「そんな簡単な話じゃないの、お前なんか分かるわけがない」


「そうだよ。私はあなたのことを何一つも知らない、知りたくもない、それはあんた自身のことだから、干渉する権利はない、あくまで私の愚見だ」


「お前……」


「好きなところに行って、旅をして、誰にも届かない場所へ羽ばたこう、お前は自由の身なんだからね」


 天羽(そらは)は目を伏せながらお茶を啜り、ほろ苦い嘆息を漏らす。


「あんたは一体何者?」


「今更? ここの世界の住民じゃない、軟弱で卑怯でちっぽけな人間よ」


「お前も何か……」


「いえ、普通だよ。私から見ればごく普通の人間。順風満帆な人生ではないけど」


 ルシカは焚き火を見て何かを考えている様子だ。


「とにかく、私の話はどうでもいいのよ。明日の方がよほど重要だ」


 そうだねと言わんばかりにルシカはやおら立ち上がり、焚き火を消す。


 天羽(そらは)も明日の朝を迎えるため準備し始めた。

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