類友
いつも読んでいただきそして応援をくださり、誠にありがとうございます。感想やコメントも大歓迎です。
前回、天羽は自分のことに関する一部だけネタバレして、物語のような表現方でルシカに伝えた……翌朝、天羽がいなくなった? どこに行ったのでしょうか? それと今回はどんな展開になるのか……読んでいただければ嬉しいです。
「うん……よく寝た……もうこんな時間?」
ルシカは目をこすってひっきりなしにあくびをする。そして目を細めて、隣の位置を目をやると、誰もいなかった。
「どこ行った?」
彼女は寝ぼけの声をあげてぼーっとしてるばかりだ。寝起きのせいなのか、視界はほとんどぼやけて頭も鉛のように重くて、思考回路が停止してしまった。その位置を触ってみると、ほのかな暖かさが残っている。これは行ったばかりの証拠だ。
「あいつ……どこ行った? まぁどうせ、外でうまい空気でも吸ってるだろう……」
ルシカは石並みの重い頭を支えながら、一回出てみようかと思い、シェルターからくぐり抜けた。彼女は限界まで背伸びして辺りを見回す。
「誰もいないね……うん……ちょっと待って! あいついなくなった? あのバカ! どこに行きやがった!」
やっと眠気から完全に覚めて、さっきまでは夢と現実の挟間に遊走していたルシカはとんでもない事態に発覚して、やや上ずった声をあげた。
「仕方あるまい、こうなったら、探知魔法を使うのが先だ!」
そうは言ったものの、寝起き直後が原因でうっすらと魔法にも影響が出て、中々集中できず、何度やっても失敗する始末だ。胸を焦がすような焦燥感が絶え間なく募るばかりだ。
「クソ……あいつ迷子したらどうする! 大体どこに行ったか心当たりはないよ……とりあえず、川にでも行って、顔に水をぶっかけたら、頭の回転も良くなるでしょう」
頭の芯まで醒めるため、この森で一番近い川に向かう。彼女はふらふらと歩いていたら、ぱったりとあの見慣れの背中を発見した。最初自分の目を疑ってた。なぜなら昨夜、天羽に目潰しされそうになるところだった。
「まさか……」
その人が後ろから聞こえてきた声に反応し振り向いた。そして、平然とおはようとばかりに弱々しく手を振る。
「あ、ルシカ、起きたのか? ちょうどいい、ほら……」
ルシカは雷のような踏み込みで天羽との距離を縮める。しかし、ルシカは彼女に近づくにつれ徐々に減速する。明らかにこれは普通じゃないと気付き、天羽は彼女に問いかける。
「どうした?」
「また、一人で行動してたよね」
「あ、お肉食べたいって言っただろう。だから魚を捕ってきたの、これを見て」
天羽は自分の捕った勝利品を見せびらかすために、元気いっぱいの魚を両手で持つようにする。
「……ケガとかはない?」
「ないない。楽ちんだよ、まさに楽勝」
とその時、ルシカはやっと気づいた。天羽は今、濡れ鼠のように全身びしょびしょであった。いくら隠せたものの、ルシカの目には騙しきれないのだ。天羽の顔には疲労の色が浮かべて、昨晩寝かしつけの話をしている表情と大違いだ。
「どうした? もしかして……魚を見惚れちゃった?」
ルシカは何も言わずに天羽にデコピンをする。
「痛い……」
はじかれた側がダメージを食らった額にマッサージして、不意にルシカの口元に漏らしているかすかな微笑みを捉えた。ルシカは天羽から視線を切って、シェルターの方向に戻る。
「そんなわけないだろう、帰ろう」
──なんだ……喜んでいるじゃない……素直じゃないな。
その後、二人は焼き魚を美味しくいただいた。小腹は満たされたルシカは拳を作って天羽に軽く突き当てる。その拳には何かを隠しているように強く握りしめた。
「ありがとう」
「うん? 何のこと?」
「魚、とってくれたじゃん。そのお礼」
早く手を出せと言わんばかりにルシカは無理やりに天羽の手のひらにものを置いた。
「なにこれ?」
「これ、見ればわかるでしょう。どんぐりよ」
「いや、それはわかるが、なんでどんぐりなのって聞いてるの」
「あんたを探している途中、たまたま近くに落ちてたんだ。だから拾ったの、大したものじゃないけど……」
──いえ、それだけで十分……
「そうなのか……よくわからないけど、ありがと」
天羽はその丸っとしたどんぐりをポケット入れて大事にする。
そこから二人は和やかな雰囲気を浸しながら目的地に向かい、馬鹿らしい会話を交わしている間、ちょうどいい時間にたどり着いた。
「来た……」
「うん、来たね」
折を見て、天羽はわざとらしくルシカの耳元で囁き、彼女の反応を期待してるようだ。
「おい、よだれ出てるぞ」
「マジ?」
元々ここの空気を貪るかのようにポカンと口を開いたが、注意された途端口を閉じる。ルシカは慌てて口角にあるよだれを拭こうとしたら、何も感じられないので、疑惑に満ちた表情で天羽を見つめる。
「ウソだよ」
滅多にいない、てんぱってるルシカの姿を見れて、くすくすと笑い出した天羽は視線を逸らす。
「それにしても、ここだけ、空気甘くない?」
「だから言ったでしょう。この地方の特有の空気なの、早速作ってみて試食しようっと!」
「おいおい、ウソだろう……本当にやるの?」
「それは当然だ。よく考えてみろう、ここには食べきれないほどの量がある。それにただでもらえるよ。だから……」
「まさか……あんた」
この状況において、相手に図星されても恐れずに、逆に堂々としている態度がルシカならではの特徴だ。その澄み切って、表面がピカッと輝く水晶のような目で天羽の戸惑い顔を見据える。
「そう、その通りだ。わたあめ食べ放題!」
「はぁ……胃もたれしちゃったら知らないぞ、言っとくが」
天羽は腹の底にあるため息を一気に吐き出して、目を覆う。毎回同じセリフを言っているが、これは必須で毎回の恒例行事と言っても過言ではないくらいだ。
「すごい! 見てみて、すごい絡んでる」
初めてのことに新鮮味を感じて、風に乗った羽毛のように空を舞い、弾んだ口調で声をかける。
「本当だね」
──こういう時って、子供っぽい一面が出てくるね……
「食べる?」
「ずっと食べたかったんでしょう、先に食べてもいいよ」
「じゃ、いただくわ」
──いや、なんだその顔は? 試合で金メダルを取ったあと取材を受けたかのような表情……食に対する執着心は凄まじいものだな。
ルシカの一口は思った以上より小さく、どちらかというと「レディー」の食べ方に近いのだ。わたあめをかみちぎるように細かく咀嚼して、嚙めば嚙むほど味がでるのかなと思い、彼女は以前ルシカの豪快な食べっぷりを見直した。
──違う、これはわたあめだぞ。口に入った瞬間、溶けるでしょう。何か嚙めば嚙むほど味が出るんだ? また頭がバグってる……
「おお!」
「どう? 美味しい?」
「美味しいぞ……うん、甘い」
「食レポ下手だな」
「そういうの苦手だ。なんなら食べてみて、食べてみないとわからない味だ」
その屈託のない笑顔は太陽の如く、一ミリ近づくとじりじりと焼きつくされそうになる。それを知ったとしても、蛾の火に赴くが如しに、その手を振り払うなどができず、渡されてきたわたあめを受け取り、がぶっと食べる。
「うん? 意外と美味しいね、やるじゃん」
「よかった、ガンガン作るわよ」
ルシカは楽しそうに口ずさんで、手に持っている棒を空中に疾風のような速さでくるんと回り続け、それで巨大版のわたあめが出来上がった。すると、彼女は意気揚々と高く掲げる。さも反旗を翻して革命を巻き起こすかのように旗を目立たせる。
「もう……みんなに注目されてる。同じやつだと思われたくないので、少し距離置いとくね」
遠くからぽつねんと立っている女の子が天羽たちの行動に引き寄せられて、物凄い勢いで走ってきた。ターゲットされたことに気付き、天羽はルシカの肩を掴んで、左右に揺らし、無我夢中になった彼女を起こそうとする。
「やばっ……これ連行されるよね。おい、ルシカ、一旦止めよう。向こうから誰かが走ってきたぞ」
「そんなこと……あるわけないだろう」
「バカか、あんたがただ食いしたばかりで、営業妨害と認知されたに違いないわよ。ブラックリストされたらどうする?」
「大袈裟ね。まぁ、確かに、こっちに向かってるね」
ルシカは平常心を保ちながら、わたあめをぱくりと食べる。女の子が更に距離を縮めている間、ルシカはせかさずに飲み物を飲むように、わたあめを一気に口に頬張って流し込む。
「なに吞気に食べてんのよ、もう目前に迫ってるのよ」
「案じるな、私に任せとけ」
──おお……頼もしいな。
心頼りな答えをしっかりと受け取った天羽はこの瞬間、ルシカに対し莫大な信頼を持ち、何とかなるという信念を握りこめながら、事件の流れを見守る。
「あの……すいません……」
──あーあ……しまった。このまま追放されるのか。
「あ、どうした?」
「先ほど、ここでわたあめを作ったんですよね」
──やっぱり……終わったな。
「そうなんだけど、あれ、私の仕業じゃないんで」
「は?」
その突拍子もない弁解が耳に入った途端、天羽は間抜けの声をあげて、眉間に皺を寄せる。彼女はぼんやりと、心ここにあらずの視線を投げる。
「友達がさあ、どうしても食べたいからいっぱい作ったの。もうやめなさいってあれだけ忠告してあげたのに、全然聞いてくれない。困ったな」
ルシカは煽り気味の笑みを漏らす。
──こいつ、やってくれたわね!
「確かに私も食べてた……けど、ほとんどお前しか食べてないじゃん!」
彼女たちはにらみ合って、火花バチバチな雰囲気を生む。二人の醜い罪のすり合いを傍目から見守りながら、女の子はふと笑い出し、噓偽りもない本心をぼろっと言ってしまう。
「二人はきっと見えない糸に結ばれてます。仲良いいし、きっといいカップルになるそうです」
天羽は間髪入れずに反論する。
「はぁ? こいつと? 絶対いやよ」
「ふん、あいにく、私も同じだけど。ってあんた、何の用?」
「その……突然ですが、究極のスイーツに興味ありますか?」
ルシカは別人になりかわったかのように、キラリと目を光らせる。錯覚なのか、そこには満天の星空が宿し、煌々と燃える宝石のようなキラメキだった。目を奪うほどまぶしかった。
「究極のスイーツ? なにそれ? 名前からすれば強そう」
──おいおい……さっきわたあめ食べたばっかじゃん……
「あれはレア食材をふんだんに使われているものです。通常の甘い物より百倍以上甘い!だがそれはくどくない甘さなんです」
女の子は胸のあたりにぎゅっと両手を握りしめて、一筋の曙光を手放せたくないため、真摯な眼差しを向ける。期待や不安を膨らませたのか、声がやや震えている。
「それなら、やりがいあるね。私たちへの依頼ってこと?」
「いえ、そんな……ただ一緒に探して、一緒に作りたいんです」
「ほお……なんで私たちに? ほかのやつならもっとしっかりしてるはず、私たちはまだ来たばっかだよ」
「遠くから見たんです。『君たち』はわたあめに対し愛がある。それを繋がって、甘いものやお菓子にも同様だと思いまして……そのため一緒に究極のスイーツの食材を探したいのです」
女の子は言葉を続ける。
「私、ここにいるみんなを喜ばせたいんです。でも私いつもうまくやれてなくて、自信がないというか……苦手なんです。お菓子作り」
──一つ訂正したいところがあって、「君たち」じゃなく、「ルシカ」だけね、さらっと巻き込むわね、まぁ別にいいけど。
「いい考えじゃないか」
天羽は女の子の考えに肯定し、結んだままの唇が柔和になり霧のような微笑みをたたえる。
「同感だ。じゃこれで乗る?」
ルシカはすぐに相槌を打って、軽く頭を縦に振った。彼女は手を顎に当てて思案する。
「あんたがやりたいなら、全力でやれば?」
「よし!じゃ自己紹介する。私はルシカ、こいつは羚夏だ。気軽でいい」
「私はルー、短い間だけどよろしく!」
ルーは自然と顔が綻びて、その場で飛び跳ねそうくらいの嬉しさや喜びを全身で表現する。
──たまにこういうのもいいよね。
天羽は目を閉じて息を漏らし、雲一つも見つからぬ快い青空を見上げる。
読んでくださってありがとうございます。
次回の更新はしばらく火曜日とさせていただきます。早めに書き終わった場合、月曜日にあげさせていただきます!本当に申し訳ございません。待っていただければと幸いです。




