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駄目ダメな女子高生が迂闊に異世界に入り込んで、気づいたらもう現実世界には戻れない。  作者: 霞真れい
第八章:過去を変えられる力、欲しい?
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私の顔を見て、ほっとした?

いつも読んでいただきそして応援をくださり、誠にありがとうございます。感想やコメントも大歓迎です。


果たして天羽は本当に、一人で立ち向かわなければならないのか……どんな敵が彼女を待っているのか……

「おい、あれを見ろ!」


 その声が護衛の注意力を奪い、指差された方向へ一斉に視線を送る。そしたら、信じられない光景が彼達の目に映った。何人か逃げ腰になり、必死にもがいている。或いは目玉が飛び出そうぐらい絶叫し立ち尽くす人もいる。非常に大混乱だった。


「なんで王宮の中に、オオカミなんているんだよ!」

「何びびってんの? オオカミくらい殺せよ!」

「できないよ、あれ! もうすぐ追いつかれる! 逃げろ!」


 すでに取り乱した護衛たちがあちこちに逃げ回って、ついさっきまでの威圧もぶっ飛ばされたように灰となっていく。護衛たちは天羽(そらは)たちにかまう暇はなく、慌てて逃走した。好奇心に駆られて、彼女は目を細めてその方向に目を向けると絶句した。


「オオカミ? ひょっとして……」


 その時、天羽(そらは)は自分でも有り得ないと思う憶測が海の底に眠っているウミガメのように、徐々に浮かび上がった。まさかと思いきや、その姿が確実に視界に入られたから、彼女を目を見開いてせわしなくまばたきする。そう。彼女は確信したのだ。


 ──なんであいつか……


 オオカミは天羽(そらは)を見るや否や、彼女の前に駆けつけて即時人の姿に変貌した。あの凛々しくルビーのような瞳が彼女を注視する。そして、挨拶の代わりに、頭ポンポンと撫でられても天羽(そらは)は岩のように動じなかったので、ルシカが調子に乗って、煽り満載な微笑を浮かべる。


 こんな明け透けな挑発を受けても、天羽(そらは)は何とも思わなかった。普段ならすぐ嫌々しくイキるなと言わんばかりに払うのけるはずだが、その顔を見ると心の中に何かに埋め尽くされたような安堵感を覚えた。そう考えると、突然、目がうるっときて、まばたきする回数も知らないうちに増えてきた。


 ──なんだよ、その顔……見てて腹立つわ。でも毎回ピンチが訪れたとき、必ずちょうどよいタイミングで来てくれるからありがたい。が、やはりあの表情についてはノーコメントだな。


「なんだ? 久しぶりだから、私の顔を見た途端、涙でもあふれ出そうになるのか?」


「違うわよ……勝手な想像をつけないで。さぞその脳みそは常に、妄想が咲き乱れた満開状態かな?」


「辛辣だが、それがいい。今回もちょうど間に合ったんだから、セーフってことでいいよね」


 ──ったく……変わらないな、あのイラつくさせるようなドヤ顔。


 天羽(そらは)は微笑むのをこらえようとして唇をかみしめて、しばらく目を閉じる。今の気持ちを一回喉に落とさせて、目先のことだけを集中する。


「うん、今はまず……」


「わかってる、この人を無事にあそこまで連れていくでしょう。王女と合流するために」


「凄い……テレパシーでも持ってるの?」


 ルシカは背中を丸くして、後ろに両手を当てる。怪我した女性をおんぶしながら、体幹がぶれない状況で易々と立ち上がった。


「また馬鹿げたこと言ってる。まぁとりあえず羚夏(れいか)、帰ったらいくらでもおんぶやお姫様抱っこしてやるから、そこは我慢しといて」


「は!? 何を言ってるのかわからないんだけど……」


「いやだって、羚夏(れいか)は子供だから、こういうの見たらすねるでしょう」


 次第に天羽(そらは)の頬が燃えるように赤くなり、顔の紅潮が耳まで登ってきた。ジレンマに陥った天羽(そらは)は思いついたことを言葉にした。


「しないわ!」


「はいはい。時間ないから、ここから出よう」


 ──あんたが意味のわからないことを言ったからだろう……


 二人はあてもなく廊下に走り、常に周囲の変化を警戒する。


「どうやって突破するつもり? 計画立てた?」


「ないよ、そんなもの。どうしてもあんたを助けたくて、そう一心に思い詰めながら来たから」


 天羽(そらは)は申し訳なさそうに口ごもって、何を言おうとしても声がかすれる羽目になる。すると、ルシカは彼女の横顔を見ながらこう言った。


「ないよ、そんなこと。迷惑なんてちっとも思ったことがない。ていうか自己評価低すぎ」


 ルシカは口調を明るくにして天羽(そらは)にちょっかいを出す。聞き手はほろ苦い笑みを頬に含んで下を向く。誰も聞き取れないようにぼそっと言う。


「この世は、本当にテレパシーという存在があるんだな……」


「話に戻ろう。今はやるかやるまいかの問題ね、正直に言うと、ここは魔法に優しくない世界ね……」


「じゃ、クレアみたい、転送魔法とか使える? なんか今までいっぱい使ってた気がするよね」


「クレア? まぁああいう魔法は自由に使えないよ。私はそこまで強くない、特定な条件でなきゃダメなんだ……考えても無用、今はまず、ウザイ雑魚ともから解決しよう……」


 野生の本能でルシカは振り返ってみたら、護衛がしつこく三人たちを追っかけてくる。臨界点に到達したルシカは小道具を持ち出して敵の方向に思い切って投げた。小道具が地面に落ちた瞬間、謎のガスが噴き出してきた。敵は煙に包まれて次から次へと倒れていく。


「また煙幕か? 本当に煙幕好きだね」


「敵の視界を攪乱できるし、逃げる時間も稼げる。何より、これは敵を寝かせる成分も入ってる。そういう小道具は便利なんだよ」


 本来なら抜群的な効果を見せるべきだったが、朦朧の中で、ある人影が物凄い勢いで突撃してきた。危険な匂いを感じ取ったルシカは舌打ちして、背中にいた女性を天羽(そらは)に託して、迎撃の準備を構えた。


 一瞬の間に、煙の中から突き抜けたのは一人の護衛だった。彼は軍刀をもちいてきれいな弧を空中に描き、その煩わしい煙幕を一刀両断にした。当然、切っ先の向く先にはルシカだ。彼女は息を凝らして、迂闊な行動を控える。敵を観察し、真意の探り合いになった。


「ね、おじさん、もうついてこないでもらえる? ストーカーか? こんな国を守る理由ってどこにある?」


「うぅぅぅぅ……」


 男は不気味な唸り声あげて、虚ろな眼差しを向ける。


「ダメだ、話が通じないっぽいね」


 先手必勝という寸法を掲げながらルシカは反撃し始めた。彼女は魔法の槍を生成しようとしたが、突然、電流のような感触が彼女の全身に行き渡って、一時的に右腕が麻痺された。まるでこの結果を予想したかのように顔をしかめて、歯ぎしりする。


 ──っ……! むやみに魔法を使ったら、こう反映されちゃうわけね。絵本の世界ってこんなややこしいなの? 制限多くない? 元々は一発だけで、簡単に済ませたはずなのに!


「魔力持ちでありながら素手で闘うなんて笑い者にされる!」


 ルシカは小言を並べている間、男は急に動き出した。彼は軍刀の切っ先を下に向いて、そして閃光のような速さでルシカの急所を狙う。大理石の床に走らされた軍刀が一気に地面から跳ね上がり、ルシカは幅の小さい動きで攻撃をかわしたが、男はその流れのように横なぎに(つるぎ)を払ってきたのだ。


 ルシカは焦らずに相手の動作を見極める。ふと男の腰にはもう一本の軍刀がかけられていることに気付き、不敵な笑みをたたえる。すると、軍刀に斬られる前に、彼女は身体の柔軟性を生かして、前方宙返りして上手くかわせたと同時にもう一本の軍刀を奪い取った。


 彼女は一か八か賭けて、軍刀を振り下ろしたが、男はその攻撃を捉えて、謎めいた微笑を浮かびつつ彼女を嘲笑った。そして、彼は易々とルシカの攻撃を食い止めたが早いか、彼女の腕を掴んで容赦なく壁の方へぶん投げた。


 壁にめり込んだルシカは胸を締め付けられるような苦しい呼吸して、辛うじて敵の位置を目で追う。凄まじい衝撃に及んで、壁の周囲には大きいなひびが入り、とても信じられない光景だった。


「ルシカ!」


 天羽(そらは)は顔を曇らせて、心配の種が頭から離れず、すぐにルシカのそばに駆けつけるところ彼女に止められた。


「来るな。このぐらい平気だ」


 ただの擦り傷しかすぎないと判断し、ルシカはほっと一息を漏れた。しかし安心できるのも束の間、男は軍刀の柄を両手で握りこんで、まっすぐに彼女の顔面に刺す。ルシカははっと息を吞んで、歯を食いしばりながら、素手でその白刃を受け止めた。


 もしも、一秒だけ、反応が鈍かったら、彼女の顔が真っ二つにされることになりかねないのだ。


 当然のように、あの切れ味抜群の白刃は決して侮れるものではない。ルシカの手のひらからぽつりぽつりと血がにじみ出て、床に滴っていく。これはまずいと思いルシカはその血を利用して、男の目にぶっかける。


 かなりの効果が効いたようで、男は一歩を下がって目を覆う。追い打ちのチャンスを見逃さないルシカは壁の力を借りで、力強い蹴りを打ち込んだ。痛みつけられた男の歩調がだいぶ崩れてしまい、腹部を押さえる。


 こんな不意打ちを食らったあとでも倒れず、距離を置いて仁王立ちする。一連のスムーズな動きから見れば男はかなりの歴戦を経て、躊躇いのなく、ぴかぴかと磨かれた技を身につけであるのだ。だとしても何かがおかしいとルシカは謎の違和感を覚えた。


 ルシカはやおら立ち上がり、男を直視する。そしたら、男は待機体勢から攻撃モードに切り替え、軍刀が大上段に構えられた瞬間、男から感じた圧が一気に高まり、その場の緊張感があてもなく走り回って、空気がどんどん薄くなってきた。


「上等だよ。こっちはもう飽きたので、そろそろ勝負するか……もたもたしていられないんでね」


 ルシカは集中力を高めるため、目を閉じてゆっくりと息を吐く。この一撃で勝負がつくということを知って、彼女は気を引き締めて構える。打って変わった目つきがして、虎視眈々と男を見つめる。


 一触即発な空気が漂い、張り詰めた糸がプツンと切れるや否や、両方は一斉に走り出した。敵は迅雷のような踏み込みでルシカとの距離を縮む。だが、「スピード勝負なら負けないよ」と鼻で笑ったルシカは男が襲い掛かって来る前に、自分の手の届く範囲までに入り込んだ。


 男は目を丸くして、凍り付けられたように固まる。気がつくと、その鋼鉄のような拳に叩き込まれて無力化され、徐々に倒れこんでいく。次第に、その軍刀が生気を失い、ガシャンと床にはじかれた。ルシカは男の生存確認をするためツンツンと触ったら、ほんの少しの紫の光が放ち、密かに消えた。


 ──うん? これって……仄かな魔力反応が残ってる。でもこの物語は確か『魔法』というワードは存在しないはず。じゃ、どこから? なんで?


「ルシカ、大丈夫?」


 茫然と立ち尽くしてるルシカを目にして、天羽(そらは)は女性と共に彼女のもとに寄っていく。


「ああ、なんとかね……魔法使えないという点は面倒だが……」


 チラッとその手のひらを見て、天羽(そらは)は何も言わずに自分のポケットからハンカチを取り出して、その傷口をしっかりと抑えて、巻いて結んだ。


「ちょうど二枚があったから、これで緊急措置しておいた」


 時を止められたかのようにルシカは微動だにせず、何かに引き込まれたように天羽(そらは)の顔をガン見してる。


「どうかした? 気になる点あった?」


 ルシカはハット我に返って、かぶりを振った。視線を天羽(そらは)の足元に落し、何かを考え込んでいる様子だった。

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