不自由なカナリア
いつも読んでいただきありがとうございます。
日本語能力試験に向けて復習しています。三日に一回の更新と続けさせていただきます。(頑張ります)
「ぼっ……」
「ぼ?募集に来たってこと?」
天羽は目を光らせて、希望という名の一筋の光が彼女を照らくれた。そしてトーンをあげて肯定の意を示すと同時に相手に怪しまれないように感情を控え目にする。高ぶった情緒が氷水にぶっかけられたようにさました。
「そう!そういうことです……」
女性は打って変わった表情となり、しーんとした物憂い月が、不意に訪れた雲に遮られたような顔つきだった。彼女はだんまりしてて中々口をあかなかった。
──まさか、バレてるのか? それはなくもないが……外見だけでわかるクソ弱いキャラクターみたいな感じ……
「なるほど!」
「え?」
女性はグッと顔をあげて、天羽の肩をぎゅっと掴んで視線を交わす。彼女は手のひらを胸に当てて、喜びが広がる。天羽に対する嫌疑や不信感などが風に吹かれた煙のように空を飛び散った。
「歓迎する。合格だ」
「はい?」
あっさりと返って来た答えに、あまりにも衝撃すぎで啞然とした天羽は間の抜けた声をあげた。彼女は目をカッと開いて、唾を飲み込む回数がやたらに増える。
「ほら、ぼーっとしないで、ついてきて」
──正気か? 大丈夫? この人……わけのわからないことばかりだったけど、とりあえずついてみよう。
天羽はこわばった体を起こし、牛の歩みのような歩き方を取る。彼女は緊張感を握りつぶすために両手を重ね合った。
彼女の目に映っいたのは、王宮を囲む宙に至るまでの高い塀、通る道の両側には物々しい護衛がいる。顔に微動だにせずまっすぐで前を見ている。王宮に入る来賓や余所者に怖気づきそうになる雰囲気を醸し出す。
その厳かな建物に一瞬鼻白んだ天羽は女性の後ろにぴったりとくっついていた。「へたに動いたらただじゃすまない」と彼女は自分を戒めて注意を払う。そして吐息のようなか細い声で女性に問いかける。
「あの……」
「あなたを選んだ理由が聞きたい?」
「はい」
「弱そうだから?」
女性は考える振りをして悪気のない答えをさっぱりと出した。当然のように、天羽はその無茶苦茶な理由について合点のいかないところが多く、首をかしげてる。
「はぁ?」
「この募集、ほとんどムキムキな男しか来ないよ。求めていたのは見た目から物凄い弱くて、人差し指で当てるだけで倒れそうな人、あとは雰囲気からはひよっこっぽい……多すぎて、きりがないね」
不意打ちにダメージを食らった天羽は萎えてしまい、空気を抜かれた風船のようにふさぎ込んでいる。彼女は残りわずかの気力で女性を止める。
「もうご勘弁して……」
「あ、ごめん。新入り、そういうつもりはなかった」
「じゃ新兵募集って? 強いやつを募集するべきじゃなかったの? 私、何もできないよ。それなのに、なんで?」
──まぁ、運動神経は凄い悪い方じゃないが、自分からハードルをあげるのはやめよう。
「それがいいの。王女様のそばにいてくれればいいのだ」
「まだ納得いかない部分はあるが……万が一何かあったら、王女様のこと守り切れる自信がない……」
「いえ、守る担当じゃなく、話し合いできる相手として充分だ」
「それだけ?」
女性はふと歩みを止めてこくりと頷いた。憂い帯びた表情で天羽の顔を見返した。
「うん、それだけ」
「どんだけの度胸……それを置いといて、あなたは?」
「言い忘れたか、私は王女様のために一生を尽くす人だ」
──ちょっと待って。てことは、このセリフから見れば主人公の一人? 早速、遭遇したか……いい流れが来たわね。
「ああ、あの有名な?」
「もうばれたか?」
女性は王女のことを思い出すと相好崩して柔和な笑みをたたえる。そして空を見上げてこう語った。
「王女様は私にとって大切な人だ。彼女の存在なくしては、今の私はいない。だから……」
「そうよね。本当に好きじゃなきゃ、そこまでしないからね」
天羽は目を細めて首をかしげながら、自然に微笑が上ってきた。女性は照れくさそうに口を隠して鼻を触る。彼女は幸せそうな顔がする。
「まさか、初対面から五分もたたず、若い芽の新入りに見破られるとはショックを受けた」
──それはクレアシスが大体のことを話してくれたから……違う。ていうかあいつはどこに行ったのよ!なんだか、あの胡散臭い本屋さんに行った気がする……あとで覚えてろ~
「じゃ、今はどこに行くの? 新人教育とか?」
「いえ、全然違うね、新入り。直接行くの」
「直接?」
二人は石畳のアプローチを進み、その先にあるのは目を奪うほどの金色の取っ手のある扉。それを開けて、王宮の内部に入った途端、天羽の心拍数が一気に加速し、これが童話の中の王宮そのものだと思い、心が浮き立った。
更に一歩を進むたびに謎の力に引き寄せられて、キョロキョロと壁画や床を見回す。大理石のような真っ白な床で、上にはシャンデリアがつるされていた。豪奢な照明が磨きこまれた床に反射し、煌々と輝いている。
彼女たちはとある部屋の前にきた。何故かわからないが、天羽は緊張し始めた。女性はそっとそのドアを開けた。
「ただいま戻りました。王女様」
王女は窓の景色を眺めながらお茶をすする。彼女は声の方向に目をやる。しかし彼女の焦点は天羽たちにとまるわけじゃなく、ただまっすぐに前を見ていて、二人と目を合わせなかった。女性はこそこそと王女の隣にきて、耳元で囁く。
「私はここにいるよ」
「ここにいるんだ」
「ええ、紹介するよ。この人は今日からの新入りだ」
女性は目遣いして、天羽にここに来てと言わんばかりに手招きする。だが王女は依然として天羽と目を合わさずにいた。そして彼女にたずねてみる。
「手、握らせてもらっていいですか?」
「はい、もちろんです」
「あなたが新入りさん?」
「はい」
天羽は相手にバレないように密かに観察する。王女は自然と笑みがこぼれて女性に感謝の気持ちを表明する。
「ありがとう、しばらくお外で待っていただけないかしら?」
女性も満面の笑みで返しつつ、何も言わずに王女の肩に置いてあった手を離す。それからこの部屋から立ち去った。
「では、新入りさん、まずおかけください」
王女のぎこちない振る舞いがすべて天羽の目に捉えられた。王女の薄い反応を目にして心にある疑惑が漣のように広がっていく。だが彼女は今すぐで聞くつもりはない。
「あ、その……」
「お気軽にどうぞ」
「あの……不躾かもしれませんが、こうして二人きりに残されるのが怖くないですか?」
「怖い? どうして?」
「いや……だって、得体の知れない外来種ですよ……そんなに私を信頼していいですか?」
天羽は自嘲気味な笑みを浮かべて抑揚のない声がする。
「これは至ってシンプルですよ。彼女は私の目だから、躊躇なく信じるのは当然なことです」
──目?どういうこと……そうだったのか……王女は目が見えないのか……全然知らなかった。
その時、王女はようやく顔をあげて、見事に視線がぶつかった。天羽は初めて王女の真っ正面を直視し仰天した。あれは暗闇の中で、もがい続けていた弱々しい光。たとえ闇に飲み込まれるとしても、人一倍努力を払い、微光を保っている。彼女の双眸からして活気のある灰色の瞳だ。
「私、生まれてから病弱で、周りに迷惑をかける一方だった。そんな私でも、外の世界を覗き見たいという青臭い願いを祈った。それが奇跡的にはたしたの。あの日、私はこっそりと抜け出した。どうして私がそこまでの執着心を持っているのと聞かれたら、あの事実が『告げられた』からですと答えます」
「私、偶然にも耳に入ってしまったのです。正確的に言うと盗み聞きなんですけどね。お医者さんと父の会話により、私の目が著しく悪化していく傾向があり、このままだと目が光を失う……だからこそ、もっと色んなものがみたいのです」
天羽は王女の話を聞いたあと腕をだらりとさせる。複雑な気持ちといたたまれない感情が矛盾してて、飛び交っている。同情心をもって慰めるべきか、異様のない眼差しを向けるべきかと頭を抱えている。
──この人、これまでどうやって生き来られたのか想像に難くない。
「あの一年、とても楽しかったです。頑張って生きている自分に対しほめたたえたいものです」
──フルバージョンはこれなのか……思ったやつと違う。でも、なんで私に言うの?
「本当に感謝しかないです。あの子に。でもその平穏な日々も終わりそうです。最近嫌な噂がちらほらと広がっている、恐らく三日後に嫌なことが起きるでしょう」
──もうそこまで進んだの? これじゃ与えられた時間はもう残りわずか……
死亡宣告されたかのように天羽は思考回路が止まって言葉で言い表せないほど面食らった。
「そんな不安がっている私を目にして、見るに堪えないでしょう……だからあなたがここに配属されたのです」
──てことは、あの人はもう意を決したということ? 王女を巻き込みたくないため自己犠牲を達するのか? どうやって止められるの? 本当にできるのかな。
「うん?新入りさん、気のせいなのかもしれませんが……」
「はい」
「どうして、苦しそうな呼吸をするの? 何かあったの?」
王女は心配するような目つきをして天羽の方に寄せる。
──感じれるの? 目が不自由なのに? どうやって感じ取った?
「ごめんなさい、私、目が見えないものの、周囲の空気の流れによって判断できるの、これもあの子が教えてくれたんです。自分の周りに不審者がいるかどうかって、らしいです」
「違っ……」
「わかっています。信じていますから」
天羽の感情はまさにジェットコースターを乗っている気分だ。彼女は今、安堵の吐息を漏らして胸をなでおろした。
「肩の力を抜いて、そんなに緊張しかなくていいです。うん……ではゲーム、やりませんか?」
「ゲームですか?」
「どっちに入っているのか、ゲームです」
王女は同時に左右の手を握り出して、お茶目な笑顔をたたえてワクワクしている様子だ。
──ものを手に隠しておいて、相手に当ててもらうというゲームか?
「簡単です、この駒を右手か左手に隠しておいて、相手に当ててもらうというゲームです。簡単でしょう」
──そのまんまね。
天羽はふいと王女の双眸を見て、心の波立ちが騒いでいて落ち着かず、かすかな焦燥が漂う。結局、彼女は言いよどんでしまい口が震えてる。しばらく経つと、彼女は遠回しに王女に聞いてみた。
「その……王女様はこれでいいんですか?」
「ええ。やりたかったんです!一局で勝負を……新入りさんに任します。誰か先攻なのか」
王女は屈託のない笑顔を浮かべて、足をバタバタする。天羽は恐れ恐れで手をあげて、先手必勝という寸法で勝利を勝ち取るつもりだ。
「では、私から失礼します」
──どうせ、目が不自由だから、ここはちょっとだけチートを使っても問題ないよね。これも作戦の一環、みんなもよく使ってるズルだから、不正はなかった。
天羽は多数の理由で自分に言い聞かせて、心の罪悪感を押し殺しながらこそっと駒をポケットに入れるところ、彼女は咄嗟にやめた。良心との戦いはぼろ負けして、最後に出した結論は公平にゲームを進むこと。
──ここで、勝ってもおもんないよね……不利の条件に縛られた人にこんなせこい手段まで使うとはみっともないわ。やめておこうか。
余計な考えを頭から追い払ったあと、天羽は誠実に両手を出して、王女に当ててもらう。彼女は考えもせず、ここぞとばかりに天羽の右手を掴んだ。
「これにします」
天羽は見えづらい笑みを漏らして、ゆっくりと手のひらを開く。そこに駒があった。
「おめでとうございます。当たりです」
「まさか当たるとは……勘で指しただけなのに。でもありがという」
「いえ、よかったです。それからお話が……」
──三日後……長引いたらダメ今が好機だ。いっそここで言おうか……!
「短い間ですが、今日はこの辺にします。付き合ってくれて感謝します。今度は私の番からですね」
「え? いえ……こちらこそありがとうございます」
王女はニコニコしながら天羽の背中を見守り、しっかりとドアを閉まる。彼女は言いかけた言葉が遮断されてどうしたらいいのか途方に暮れている。突然、新入りと呼ばれていたので振り返ってみたらあの女性だった。
「どうだった? 新入り、王女様との会話が弾んでた?」
──もたもたしてる場合じゃない、三日しかないの。頭のおかしい人と思われても構わない。
「ちょっといいですか? 外でお話したいことがあります」
それを聞いて、女性はこれが尋常じゃないと鋭く感じ取り気を引き締める。険しい表情にかえて人気のない場所を案内してくれた。
──ここで種明かして、彼女たちに真情を吐露する……




