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命賭けの鬼ごっこ

「二人しかいないけど……」


「別バージョンの鬼ごっこで」


「どんな感じ?」


 天羽(そらは)は興味津々の様子で体育座りして耳を傾ける。


「制限時間はなし。鬼だけじゃなくて、逃げる人も鬼のことをタッチすれば勝ち。ただし、そう簡単にはいかないの、タッチする前にもう鬼に掴まえられる可能性もあるからね」


 ルビーは神妙な笑みを漏らして天羽(そらは)の考え込む顔にまじまじと見つめる。


「それはそうよね……」


 天羽(そらは)は姿勢を変えてあぐらする。そして頬杖を太ももについて顎を支える。


「つまりこのゲームは人間がひたすら鬼の目から逃げるだけじゃなく、人間もその勝利方法もあるってことよね。」


 天羽(そらは)は何かを悟ったかのように拳を手のひらに当てる。


「ピンポン!」


 ルビーは嬉しそうにわーいと両手を高くあげる。


「ほぉ……いい度胸じゃないの、お姉さんはね、一応十七年間生きてて、鬼ごっこやらかくれんぼやら、得意分野だぞ、本当にやるか?泣いたら知らんぞ」


 天羽(そらは)は眉毛をあげて、意気揚々と頭の後ろで手を組む。


「私だって負けないもん!」


「受けて立つわ」


 天羽(そらは)はふーんと声を立てて、挑発するように首をかしげる。


「じゃお姉ちゃんに特別チャンス、どっちにする?私ここの構造は隅から隅まで知ってるんだ、いつもみんなやってるから」


 ──へえ。そうなんだ。ここはどっちに選ぶのかも重要だもんね……でも昔、学校では、授業や補講も全部サボった。うまく先生たちの目から逃げ切ったわ。自慢していいかわからないが、誰一人も私のことを掴まえられなかった。


 ──ここで鬼役をやってもおもんないから、逃げる側をやろうか……所詮相手は子供だし。


「じゃ、私、逃げる側で」


 ルビーの双眸には獲物を見るように危険な光を爛々と湛えているが、すぐ普段通りのにこやかな表情に変わり天羽(そらは)に注意をかける。


「あ、言い忘れた。一旦鬼ごっこが始まったからには途中でやめることは不可能だ」


「望むところだ。手加減なしで行くよ、私」


 天羽(そらは)はやおら立ち上がり、固くなった腕をほぐすために腕を振る。


 ルビーは壁に向かって目を覆う。そしてカウントダウンを始める。


「一、二、三、四……」


 その幼き声がはっきりと天羽(そらは)の耳に届いたから、彼女はスピードをあげて走る。天羽(そらは)の策略はルビーと一定的な距離を引き離してから、ゆっくりとここの構造を観察する。今、彼女は何も考えずにまっすぐに駆ける。


 この静寂の廊下では、他の誰かの声も響かなかった。彼女の荒々しい靴音と荒い息だけが響き渡る。天羽(そらは)は両腕をより多く振ることによって、足のペースも一斉に早まっていく。


 彼女はできるだけ遠くに逃げる。そうすると相手もきっと戸惑うだろう……広々としたお城で天羽(そらは)一人を探すのはちゃちゃっと見つけられるものじゃない。それを利用して多くだけこの場所を掘り下げる。


 このゲームはまだ始まったばっかりというのに、彼女の汗は止まらなく、滝のように背中を濡らしていく。服と肌はくっついてべとべととした触感は最悪だった。天羽(そらは)は自分の気持ちよくさせるため続けに走って、風のおかけで少し涼しくなった。


 大分走っていたので途中からもういいのかなぁと思い天羽(そらは)はちょっとだけスペースを落とす。こんなに長距離を走っていたが、目に映っている景色は相変わらず、廊下の両側には無限の部屋がある、一見隠れる場所は多いものの、中へ入ったら行き止まりかもしれない。でも一個一個を確認する時間もない。


 やむを得ない状況で一旦あきらめた。余裕ができたら彼女は引き返して調べていくつもりだ。今一番大事なのは安定な隠れ処をいち早く見つけること。しばらく時間が経って、遠くからはルビーの声が聞こえてくる。


「もういいか?」


 ──やばい……結構遠くに離れているはずなのに!


 天羽(そらは)はペースをぐっとあげてダッシュする。そしたら寝室みたいなところに来た。どう探してもあちこち寝室だらけなので、しっかりめなやつを選んだ。あそこに入ったら隠れる位置は多いものの、どれもちゃんとしてない感じだった。


 隣のやつに一瞥をしてたら、やつの正体は洋服タンスだ。一瞬とある考えが天羽(そらは)の頭をよぎる。


 ──あそこだといいけど、ホラー映画を見た経験によると、そこは絶対にバレる。なんならこのベッドの下に隠すか……


 突如何かを感じ取ったかのように天羽(そらは)は背筋を凍らせて、青ざめた顔になった。背後からは妙に寒気が感じる。もう他のことを考える余裕すらはない、決断しなければならないので結局ベッドの下に匍匐前進する。運よくちょうど一人が入れる空間だった。


 ──太ってなくてよかった。


 謎のところに安堵の息を漏らしたが、天羽(そらは)は気が緩まずにルビーが来るのを待つ。


 ドアの外の廊下から何かを引きずっている音が伝わる。入念に聞くと鈍くて重たそうな鈍器のような鉄の音が響き渡る。そして今、天羽(そらは)にいた寝室のドアの前に止めた。


 ──なんだそれ、なんの音?


 余計な声を出さないように天羽(そらは)は極力に自分の口を覆う、息を殺す。


 ドアノブが回された音がする、扉が誰かに開けられた。入ってきたのは予想外れもなくルビーだ。その小さくてすべすべな裸足が目に映ってきた。それだけじゃなく後ろには鎖に繋がっていた先は大きな鉄斧があった。


 ──音の元はそれか……なんでそれを出すの?手でタッチすればいいじゃないの?違う、どうやって持ち上げたの?それも違う、認識の中では棘がいっぱいある鉄球じゃないの?斧だと!?


 ルビーは洋服タンスの前に止まって、凝視する。


羚夏(れいか)の匂いがする」


 ──???何それ?最初にも言われたけど、前回と同じ花の匂いがするって……自分は自覚してないけど……


「なんだか、このタンスにいる気がするね」


 ルビーは鎖をよいしょと引っ張ってそして振る。斧が空中に舞ってタンスの方へ突進していく。


 ガーンと音を立ててにつれタンスが一瞬ボコボコされた。中はあきらかに凹んでしまって、本来あるべき姿をもう見分けられないくらい破損状況は非常ひどかった。


 ──これは死ぬのでは?一撃食らったら、手足どころか頭までぶっ飛ばされるよね、今までのレベルとは段違いだ……


 天羽(そらは)は依然として動かず、ルビーの次の行動を読む。彼女はもう最悪の状況に立ち向かう準備は出来ている。彼女の本望であればここで簡単に姿をバレたくない。あんなチート武器に向き合わなければならない、その上ルビーに近づけてタッチするなんて言うは易く行うは難し。


 天羽(そらは)の心のどこかで「ルビーちゃんは早く別の部屋に行け」と願い続けた。慈しむ女神が彼女の心の叫びを聞こえたかのように、ルビーはドアの方向へ歩いた。


「なんだ~でも、ここじゃなくてよかった。まだ序の口だから、早々終わるのは嫌いね」


 天羽(そらは)ははやる気持ちを抑えて自分の呼吸を整える。息が激しいすぎると、間違えなく即バレになるから、パニック状態にならないように、全身を引き締める。


 ルビーはつまらなさそうにシュッと振り返った。その行動パターンに予想もせず天羽(そらは)の瞳の焦点は激しく左右に揺する。


「ふん……もしかしてこのベッドの下にいるとは、ないよね……普通ならこんなところに隠すなんて有り得ないこと」


 ルビーは不機嫌そうに冷笑する。


 ──来ないで、頼む頼む頼む頼む……


「一応確認してみるか……まさかと思うけど」


 ルビーは更なる一歩を進めようとしたら、斧はタンスの破片に引っかかれて、進めなくなった。舌打ちをして再びドアの方向へ向かう。やがてこの部屋から立ち去った。


 天羽(そらは)はこの穏やかなエンドに肩の荷が下りる。だがここで気が緩むわけにはいかない、せめて五分が経ってから外に出る。


 ──死神と会えにいくかと思った……


 あっという間に五分が経った。天羽(そらは)はベッドの下からの手を伸ばして、壁の力を借りてベッドの下からくぐり抜けた。それから大の字で床に横たわる。


「はーはー……なんだよこれ、思ったより心臓に悪いね、鼓動が半端なく早いんだけど」


 天羽(そらは)は片膝を立てて、ストレッチをする。そしてやおら立ち上がり、ふらふらしてドアノブを握る。


 ──流石にもういないよね……こんなところでダラダラしてたら、ルビーちゃんが戻ったらやばい。それを避けるために次の場所に移動しなきゃ、それにこの無茶苦茶なゲームの終わり方は彼女をタッチする……今思えば無理ゲーだよ。


 ──でも鬼になるのもあんまり変わらないと思うけど。


 天羽(そらは)は思い切りドアノブを回す、そして廊下を覗いて見ると誰もいなかった。彼女は寝室から出ていて、忍び足でレッドカーペットの上に歩く。今この辺だと彼女自身しかいない、しーんとした空気でかすかな耳鳴りを感じる。唾を吞む声もはっきりと聞こえてくる。心臓はパクパクと早まる、不規則な呼吸音が非常に伝わる。


 ──それにしてもここ広いね……確かここは……二階だったよね、ルビーちゃんに案内してくれた階はぎりぎり覚えてる。


 ──今はルビーちゃんの位置を確定できれば、その階をよけて別のフロアーに行く。でもどっちみち彼女をタッチしないとゲームが終わらない。だが今はこの建築の構造を知っておけば役に立つ。


 天羽(そらは)は無意識に加速し、小走りする。だが廊下は果ての見えないように無限に続く。そんなことを気にしていられないと思い、彼女は一目散にかけて、足が痺れるまで気が済んだ。そこでスピードを抑える。体をかがめて、両手を膝につく。俯いた体勢でひと休みを取る。


 天羽(そらは)のミディアムヘアーが乱れられ、前髪は汗のせいでびしょびしょになってベターと額にくっつく。不意に顔をあげると、お城の中に螺旋階段が目の前にあった。


「はぁ……なんとなく着いた……これを登ろう」


 天羽(そらは)は螺旋階段に沿って、手すりを掴んで上にあがる。どこへ繋ぐか未知数だが、このまま二階にいても捕まえられるのは時間の問題。いっそ新しい場所に転移する方が正しいのだ。彼女はトントンとずっしりな踏み音を立てて、三階にやって来た。


 ぱっと見、二階と大した変わらないが、雰囲気から見れば違った気がする。


 ──ここは何階建てだったっけ?上にも螺旋階段が続いている……どこまで広げられるのかなぁ。


 天羽(そらは)は耳を澄まして周囲は異変あるかどうかを細心に聞く。


 ──何もないようだね……でも一応警戒心を高めておこう、どっから来るかわからないから……ここで探索してみよう。


 天羽(そらは)はきょろきょろと見回す。急にお花を摘みに行きたくなり、焦り始めた。


 ──噓だろう……こんなときに……


 天羽(そらは)は適当に某部屋の扉を軽く押した。ちょうどそこは目まいほどのきらきらとしたトイレだった。


 ──自分の好運に感謝を捧げる……!


「間に合った間に合った……それにしても豪華だな……」


 無事に間に合ったことに天羽(そらは)は胸をなでおろす。外に出ようとする途端、何か騒いでいる様子。彼女はドアにくっつき、しゃらしゃらと鎖の音がきれいに聞こえてきて、あまつさえこっちに向かってる傾向はある。


 ──え?噓だろ……前言撤回だよ。なんだよこの運は!前途多難だね。

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