物騒なシスターと遭遇
誤字、脱字や文法など自分なりに全部直させていただきます。よろしくお願いします。
「いったぁ……」
天羽は額にある汗を拭きながら瞼を開く、いきなり差し込んできた強光に思わず目をすぼめて手のひらで遮ろうとしても、いくつか細い日差しが指の隙間から漏れた。
いまだ状況を理解できずただぼんやりとしてて、周りをじろじろと見る。
「一体どういうことだ……途中から意識が飛んちゃったから何も覚えてない。まさかこんな味気ないハプニングで異世界に転移されるとは、さすがに非常識すぎるよ……ね」
突如草むらがさわさわと音を立てた。それが気になって天羽はゆっくりと音の方向に目をやると、炎にまつわれた小さな妖精みたいな生き物がぽろっと出てきた。生き物がぴくぴくして目の前の少女を見据える。
「なにこれ? 君名前は?」
初対面の生き物に対し善意を示したら、あっちは私が悪い奴じゃないと気付くでしょうと、天羽は自分に説き伏せた。そう思いながらおどおどと手を伸ばして触ろうとしたら、その生き物は威嚇に近い姿勢を構えた。
「これって完全に敵扱いされたなあ、ねえ、私に他意はないから、ここがどこなのか教えてくれない?」
あえて子供をあやすような口調を使うと、どうやら向こうは警戒心を解いた様子だった。
──こっちに近づいてきた。一歩、二歩、三歩。よし! 手の届く範囲だ!
と天羽は心の快哉を叫んだ。疾風迅雷の速度でか弱い生き物を両手で掴む。生き物はきょとんとして小刻みに震えている。
──こうやって素手で掴んだのに、私の手は平気だと……一旦それを置いといて。
と神妙な顔をして天羽は生き物と話し始めた。
「食べたりなんかしない、あんたがぴくぴくしていて何も喋らないから、こういう非常手段を使うんだよ。余儀なくされただけ」
「おやめなさい!」
生き物との会話が急に邪魔され、機嫌を損ねた天羽は舌打ちして振り返ってみた。目に映るのは、金髪でシスターみたいな格好をしている女性がこっちに向かっている。
手に持っていたのは杖のようなもの。少し物騒に見えるが、所詮コスプレでおもちゃにすぎないと自分を納得させる。
「その悪者の行為はおやめください。今すぐその子に自由を返してあげてください!」
──頭が混乱しすぎて、整理整頓が出来ていない。私いま悪者扱いされてない? 違う違う、私はこいつに聞きたいことがあるから、手に乗せてあげただけよ。
天羽はそう弁解しようとその時、束ねられた光線が彼女の頭上にすれ違った。あまりにも突然すぎて息を吞んだ。
───なんだよ! この物騒なシスター! ていうかさっきの一発を食らったら炭になりそうだなあ。
「そんなに欲しいなら、返してやるよ!」
天羽は全力で手に握った生き物をシスターへ投げた。思った通りにシスターは一瞬気が緩んだ。その絶好のチャンスを見逃さず、天羽はシスターの盲点に入り、彼女はシスターの背後で息を潜めて羽交い締めしてやった。
「いつのまにですか?」
「昔教えてくれたやつがいてね」
「悪の象徴は、私になにをしようとしますか?」
「おいおい、私が本当に悪者だって言い方はやめて、違うから」
「じゃあなたは、なぜこのか弱い妖精さんを掴むのですか?」
「あんた、いまなんて言った? 妖精? ていうか私が知りたいのはここはどこだって話だ。それを把握したら離すから。悪気はない」
「変なお方ですね。簡潔に言うと、ここは異世界でいわゆる魔法の世界とも呼ばれるのです」
天羽は答えを聞いた後反射的に腕をおろし、その場に崩れ落ちた。悪質な冗談かと思いきや向こうから差し掛かってきた真剣な眼差しに、彼女はシスターの答えに耳を疑う。頭を支えながら、もう一度疑問を投げ出す。
「まじ? 冗談にもほどが……」
「本当です。ここは正真正銘の異世界です。噓ではありません、私はシスターなんですから」
その不毛な疑問に対し言下に否定したシスターは眉宇を曇らせこっちに見てきた。天羽のぽつねんと立っていた姿を見て、心配してくれた様子だった。
「あの……大丈夫ですか? お身体の具合が悪いなら、教会までご案内させていただきます」
「元の世界に戻る方法はありますか? 私この世界の人じゃいないの……」
「何をおっしゃっているのがよくわかりませんが、つまりあなたは別の世界から来たという理解でよろしいでしょうか?」
「まあそんなもんでね」
「申し訳ございません、それは私にも詳しくないので、でも一つ確定できるのは多分あなたは元の世界にはお戻りになれないのです。残念ながら。例えば一度入ったからもう出てこられないみたいな概念ですかね」
さっきの物騒シスターとはまた違って、愛想がよいお姉さんに変貌し親切にふるまった。
「いや、それを知っているだけで充分です。ありがとうございます」
天羽はやおら立ち上がり、この場所を離れてあとのことを考えようと……
「あの……」
と呼び止められた。彼女は踵を返してシスターを凝視する。
「なに?」
「さっきのことは本当にすいません……お詫びとして他の情報を教えてあげます。それしかできないのです。何もしてあげられなくて、なんだかいたたまれない気持ちになります」
──そう言えば、この似たようなセリフがあの時にも言われたことがある。
天羽はそっと記憶の糸をたぐる。
「ごめんね、羚夏ちゃん、○○○は何もしてあげられなくて、そういう羚夏ちゃんを見て、私の心が痛むから、ほら、笑って、○○○はぬいぐるみ買ってあげたよ」
──嫌な思い出だね、ずっと過去に引きずられて、すべてのことが蒸し返されて、ろくでもないことばっかりだった。
天羽はその感情を必死に押し殺して、日常会話のような軽い口調でシスターにこう答える。
「いえ、大丈夫だ。自分のことなんだから、なんとか自分でやりこなせるわ」
シスターは天羽を引き留めようとしているが、手を引っ込めた。ポケットからサインが書かれていた紙を彼女にスッと渡した。天羽は首を傾げているところ、シスターは微笑みをたたえた。
「これは私のサインです。これを持って東にある武器屋さんに訪ねてみてください、リテリアさんならあなたのお悩みを解決してくれるはずです。ついでに護身用の武器を頼んだ方がいいです」
「ありがとう。そういえば、ここが、あなたが言ってた魔法の世界だとしたら、私にも魔法が持ってるよね?」
「そうですね……それはあなた次第です」
「そうか……わかった。では」
シスターは、天羽の背後を見守りながらこう呟いた。
「あの子は尋常じゃないわ、教会に報告した方がいいのかしら……」
これらの原因で、いま天羽は東にある武器屋さんへ向かう。シスターにくれた紙をよく見てみると「アフデリア」というサインが書かれていた。
──あのシスターの名前はアフデリアって言うんだ……そう言えば自己紹介もしてないわね私。でもあの時は緊急すぎて自己紹介すら余裕がなかった。
──異世界とは言え温度差が凄いね、日本はあんなに暑くてオーブンで焼かれているような熱さだったのに、ここに来たら少しくらい寒いね。
緊張がゆるんだせいか、お腹がグーと鳴った天羽は赤面したが、周りには誰もいないことにほっとした。嬉々とカバンから潰されたおにぎりを取り出し、矢印の方向から剝がして食べ始めた。ぐちゃぐちゃになったツナマヨおにぎりを口に頬張って噛みちぎる。
「待って、今更気づいたんだけど、もしかしてこれ貴重品じゃない? 日本のコンビニならではのおにぎりよ、これを売ったらいい値段になりそうだけど……しくったわ、残しておくべきだった……記念品として大事にした方がいいのになあ」
──まあいいよと、天羽は自分を開きなおし道に沿えて闊歩する。
「ええ……異世界ってこういうことか。アニメと比べたら一味違うね。さっきからもそうだが、ずっとついてきている妖精(?)たちも、なんか不思議な感じがする、夢のように……私何を望んでいるのだ? 異世界に来たいと言ったのは私なのに、なんだろうこの焦燥感は」
ひとりごちっている間に、天羽は話しかけられた。話し手は農民のおじさんで、やわらぎな笑顔をかけて彼女に挨拶した。
「お嬢ちゃんはどこに行くのかい?」
「東にある武器屋さんです」
「そうなのか、じゃもう考えてきた? 理由」
「はい?」
「初めてこの村に来たの? 武器屋さんのリテリアだろう。あいつは気分屋なんだよ。あいつが納得させる理由を考えておかないと、手伝ってくれないのよ」
「普通にお願いしてもダメなんですか?」
「それがだめなのよ。面白い理由を考えて彼女を喜ばせるのは重要だ」
──それのどこが重要なのよ、わざと機嫌を取らなきゃいけないなんてまるで意地悪なクソガキと同様じゃん……気まぐれすぎる。
天羽は心の中で唾を吐き密かにぼやいた。
「ありがとうございます。考えときます」
農民おじさんは頑張れと言わんばかりに天羽に手を振った。
「理由ね……そのうち考えよ」
こうして天羽は農民おじさんのアドバイスをよそに、なんとかなるという信念を持ち、武器屋さんにたどり着いた。