藍の花③~真相に近づけた?
誤字、脱字や文法など自分なりに全部修正させていただきました。よろしくお願いします。
結局ルシカは一晩中考え事に夢中してろくに眠れてなかった。そのまま朝を迎えた。まだすやすやと熟睡してる天羽をチラ見て、ぽんぽんとたたき起こす。
「起きろ、バカ」
だが天羽は一向に起きる気しなかった。昨日の姿勢と大して変わらないまま机にうつぶせ寝をする。
ルシカはシャーッとカーテンを引き、何かを察知したかのように、天羽は腕に顔を突っ込む。
「太陽が……炭になりそうだ~」
「吸血鬼じゃないんだから、起きろ!現実を受け入れろ!もう朝だ!」
「私の中ではまだ夜だぞ」
ルシカは知るかと言わんばかりに天羽の布団を引っ張ろうとしたが、すぐ天羽に奪い返された。この味気ない布団争奪戦は僅か五分続けた結果二人ともくたびれになって、一時休戦することになった。
「いま何時?」
「9時」
「あーあ、余裕~」
「何か余裕~だよ!まだ終わってないでしょう!」
天羽は猛然と起き上がって指の関節をポキポキと鳴らせて再び机に伏せく。
「そうだよね……」
「せっかくだし、散歩しに行こう」
「おい、涎たらしてるぞ!ただ朝ごはんを食べたかっただけでしょう。あんた」
外に出かけして散歩するとか、大自然と触れ合うなどの綺麗事を並べたが、実際は予想通りに二人は朝ごはんを食べにいった。
二人はレストランの雰囲気に近い店にやってきた。見た目からおしゃれな感じを醸し出して、現実世界では絶対に見かけない存在だった。異世界ならではのデザインとも言える。
ドアノブを回って中へ踏み込むと、焼きたてのトースト、コーヒーのこくある香り、まさに喫茶店のような雰囲気だった。木製の机や椅子も木の良い匂いが鼻をくすぐる。ここには優雅な銀食器はなかったが、素朴な飾りと相まっていい意味で平凡な味が滲み出る。
「ここいい場所だろう」
「へえ、異世界でもこんな場所あるの?ちょっとびっくりしちゃった」
「へへ、ほらこれ、メニュー」
ルシカは天羽に薄っぺらなメニューを寄越した。その内容を目を通すと現実世界にいたころ、いつも通い馴染んだ店とは同じ内容が気がして親切感が湧いてきた。
「蜂蜜トーストとスクランブルエッグでお願いします」
「じゃ、私はイチゴジャームトーストとハンバーガーとコーヒーお願い」
「うわ……朝からハンバーガーなんて胃もたれしちゃうわ」
「私の身体そんなに弱くない、何も飲まないの?」
「私は水でいいよ、苦いの苦手だし」
「へえ……そうなんだ。聞いた話だけど、子供って苦いのが苦手だったみたいよね……」
「じゃやっぱりブラックコーヒーお願いします。」
「じゃやっぱりってなんだよ!それにしても気が変わるの早っ!」
注文を終え、天羽は隅から隅まで店の構造を見る。
天羽は毎度新しい環境に来るたびに必ず周りをきょろきょろと見回して観察する。それが彼女の習慣で、趣味だった。
その奇妙な行動がすべてルシカの目にうつされて、彼女は無意識に天羽の頭を撫で回す。子供じゃないんだからと仕方なさそうに吹き出しそうになる。
天羽は思わぬ行動をされてはっと我に返って、ルシカの顔に目を凝らす。ルシカも異変を感じてすぐ手を引っ込めた。
「お!ちょうど朝ごはんきた!」
次から次に出された注文がこの居づらい空気を打破する。ルシカは料理が運ばれたことに話し出して注意力を分散させる。
食欲をそそる食べ物が勢揃いして、普通の食材に見えるが大事なのはその味。
天羽はブラックコーヒーを口に当てて、無理やりにすする。次の瞬間口の中に刺激の強い苦味が押し寄せてきて、すぐにコップを自分の口元から引き離す。
「ヴぇー!苦っ!」
「ほら、言ったでしょう、無理するな、水を飲んで、残りは全部飲んであげるから」
ルシカは頬杖をつく、天羽の手に持ってた木製のマグカップを自分の方へ寄せる。
天羽は一気に水を喉に流し込ませて、気を取り直してトーストを齧る。
蜂蜜の香りが口の中にふわっと広がって、トースト自体の食感は最高だった。サックとしてて熱々な温度が溢れんばかりの幸福感が与える。牛乳を染み込ませたスクランブルエッグを頬張る。塩コショウの味加減は絶妙な組み合わせだった。
天羽はさりげなくルシカのハンバーガーを見てごくりと唾を飲み込む。その視線を見逃さず見事に捉えたルシカは意地悪そうにハンバーグを天羽の目の前に揺する。
「あ、これ食べたいか?」
「は?違うのよ」
「ずっと見てるから、これでも食べたいのかなぁって。半分こしよう」
「え?」
ルシカはハンバーガーを半分にちぎって天羽におすそ分けする。
「あ、そうだ。もう一度確認しておきたいけど、二件ともの依頼だが、内容自体が矛盾すぎる。本当に考慮した上で決めたか?」
時間が停止されたように天羽は口にあるパンを含んだまま動きを止めた。
「いくら聞かれても、私の答えは変わらないよ。こういうのは順番からでしょう」
「羚夏らしいね」
ルシカはだんまりして目を伏せながら熱々のブラックコーヒーを啜る。瞳の中に微妙な感情が秘めている。
「これを食べ終わったら、ちゃんと仕事をやるんだよ」
「わかってる」
天羽はハンバーガをほおばって、咀嚼してモグモグの状態で返答する。さもハムスターが口にヒマワリの種をパンパンに入れたような光景だった。
「わかっていないようだが……まぁ、この事件が終わったらまた一緒にここ食べに行こう」
──なんだかフラグにしか聞こえないんだけど……
ルシカは早々に食べ終えて足を組んで天羽を待つ。退屈しのぎのため事件の話を切り出す。
「しかし、まさかあの藍の花のやつが罪なき人を葬るなんて、自分の秘密が洩らさないようにやったのかなぁ……いくらと言ってもやりすぎだよ……」
天羽は最後の一口を飲み込んで満足そうにお腹をすりすりと撫でる。
「何もしゃべらないか?本当にあいつの依頼を最優先にするのか?私たちがだらだらしている間に、もしかしたらまた犠牲者が出てるかもしれないのよ」
「まだ決定的な証拠ははっきりしてないから、断言しない方がいい」
「ふん……そうだよね」
ルシカはよろよろ立ち上がり、会計をしに行った。天羽も後ろに同行した。会計を済ませたあと、二人は旅館に戻る。半分以上残っている資料はまだ読み切れていないため、今から踏ん張って読み切ろうと目標を立てた。
「なんだこの記事」
気になるところを見つかって天羽はその資料を手に持って読み始めた。
その記事の内容にはそう書かれている。
およそ十年前のお話、とある女の子は名門出身で、代々引き継がれた優秀な魔法家系の一員だった。だが不幸にも、女の子はその才能に恵まれず、クラスでは学業の成績はおろか魔法の成績も最下位だった。
女の子の実力は周りの同級生より劣っている。本来見込みがある魔法士と称えられたが、女の子の家族はそれが恥だと認定し縁を切った。その日以来、同級生が大胆に女の子をいじめて、落ちこぼれと呼び始めた。
そんな彼女が常に他人の才能を妬む。最後はブラック魔法つまり禁忌の魔法に手を出して他人を陥れるが、自分まで飲み込まれてしまって、体も失くした。今は魂だけが残されて徘徊してる。
──だから人の体に付着するというわけか……
「えぐい話だね……てことは藍の花のやつはクラスでは落ちこぼれで、他人の才能に嫉妬し、最後はこのざまか……なんか可哀想」
「同情必要ある?自分より強いやつを見て、腹が立ったから、やっつけたってことよね。物騒だけど、あんたが殺されなかった理由なんだか思いついたわ」
「なに?」
「あんたが弱っちいってことを認識されたから、手を出さなかったよ」
ルシカは変なところで合点がいって、新しい発見でもした嬉しそうな顔をする。
「おい、ひどいなぁ、完全に言葉の暴力だよ。まぁそれは否めないけど」
「でも、これで一段落だよね」
ルシカはバラバラになった資料を片っ端から片付けて、全部まとめにする。
「うん?」
「いや、こんなやつに手伝う必要ある?ちゃちゃっと終わらせばいいじゃん。怖かったら、私に任せても構わない」
「違うの。まだ決め手がない状況で、勝手に決めつけるのはよくないのかなぁ。それに『約束』をすっぽかしたらまずいと思って、まぁ無理やり承諾されたけど、あの依頼屋の女よりマシだね。」
ルシカは深刻な表情をして、親指と人差し指で顎を挟む。
「忘れていないよね、あのおっさんたちの話」
「聞いたよ」
「それを知った上で、危険を顧みずに飛び込むってっこと?」
「腑に落ちないところが結構あるから、少しだけ調べていきたい」
「じゃ、この記事に書いてあった魔法学校に行こう、たまたまこの辺の近くにあったんだ」
──偶然しすぎるが、これがこれでやりやすい。
「よし、気合を入れてやるか」
彼女たちは徒歩で魔法学校に来て、慈しみ深い微笑みをかけた女性が出てきた。
「わたしはこの学校の校長です。何か御用でしょうか?」
「あの、羚夏といいます。最近記憶喪失事件と殺人事件が多発して、それに関してお聞きしたいことがありまして……以前この学校で名門出身だったが、魔法の成績は思うようにいかない生徒っていますか?」
──単刀直入かよ……この聞き方やばいって。この学校は非常に優秀とはいってないが、一応ランクインの学校なんだから。落ちこぼれなんて我が校に存在しないとか言いそうだね……
ルシカの手汗が異常な多いほどべとべとになって、固唾を飲んだ。
「あるますよ」
予想と大幅にずれて、きっぱりと答えを出した校長にルシカは顎が外れるくらい驚いた。
「あります、でも今はこの生徒は……」
「亡くなられましたか?」
「ええ。もう何年前くらいです」
「不躾かもしれませんが、詳しく事情をお聞かせ願いますか?」
「いえ、構いませんのでこちらへ」
現実世界の学校と異なって、教室の数が少なく、屋上やグラウンドなどもない。これは学校なのかなと目を疑うくらい共通する部分は少なかった。
校長室に案内された二人は腰をかけた。お茶を飲みながら校長の話に耳を傾ける。
事件の女の子は学校中の名門貴族だが、クラスでは存在感が薄くて、空気と同化したのかなと思われるくらいぼっちだった。家族の恥とも言える存在、彼女は家族に見捨てられた。
それ以来、クラスメイトからのいじめが酷くなり、生きるだけで精いっぱいの彼女がある日、禁忌魔法という存在を初めて知った。この魔法なら何の願いでも叶えられると誰かにそそのかされてつい手を出してしまった。案の定いい結果にはなれなかった。
──うん。何か所々微妙だね、しかも変……
天羽は首をかしげて気が晴れない様子だった。
「どうしたのです?」
「いえ、ただ何かどこかずれてる気がしてて……」
「上の空で人の話を聞くなよ。端的に言うと、藍の花のやつは嫉妬心が強い女、それでどこからかで禁忌魔法の情報を知ってそして道を踏み外したってこと」
ルシカは再び事情の経緯を大まかに説明した。
「違うの」
「何か違う?」
「あの……よかったら、教室も見ますか?有力な手がかりになれるか分かりませんが、少なくとも事件に役立てればいいなと思います」
「本当にいいんですか?」
「ええ」
「じゃお願いします」
三人は魔法教室にやってきて、校長は一番遠い方向にある位置に指した。
「へえ……想像と違いますね」
──木製の長机が並ばれて、椅子も低くて丸いやつを使用してる。教室の前方には大きなボードがあって、多分授業中の時使うやつだな。それ以外ほぼガラガラっ!うわ、想像と比べたら結構落差があるよね。
「あそこです。もう十年以上たってるんですが……あの位置は誰も使うとはしないです」
天羽はあの位置に近づけて、手のひらを椅子の上に置くと何かを感じて、ふと声をあげる。
「あ!」
校長とルシカは同時に目をカッと開き息を凝らす。
「何か感じた?」
「ほこりがめっちゃついてるわ」
校長とルシカは仰天しわっと笑い出した。
「あ、すいません、ふざけたつもりはないですが、ただ感じたことをそのまま言っただけです。」
「いえ、気にしないでください。緊張感もほぐれるし」
校長は頭を左右に振って目尻にある涙を拭く。
──でも冷たい、今の天気はそんなに寒くないのに、やけに冷たかった……他の席を触る時は普通だったけど。
天羽はその発見が重要ではないことに判断し、二人に伝えなかった。そして彼女は思いを巡らせた。




