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獣の国③~殺されかけている

誤字、脱字や文法など自分なりに全部修正させていただきました。よろしくお願いします。

 天羽(そらは)は何度ももがいて決断を迫られて、親子たちの家から立ち去った、心にはまだ未練が残ってる。葛藤を抱えて走りに走っていた。一定的な距離を離れたあとからゆっくりと歩みを進める。


 天羽(そらは)は無意識に空を見上げると、遮るものはない、めまいほどの水平線が広くて空の彼方まで伸び続けていて、雲一つもないあおそらが見える。快かった天気としょんぼりした天羽(そらは)の顔とは真逆な対照だった。


 他人の心に踏み入れすぎると、ろくでもないことが起きるに違いない。それでも、天羽(そらは)はつい人の暖かさを求めてしまうから、いつも人との距離を保つ。それが天羽(そらは)の得意技とも言える。


 ──今はルシカを探すのが一番。あの子にとって私はただの過客。すぐに忘れられる存在だから気にしててもどうしようもない。でも私、いいことしたよね?わからない。私のやっていることは果たして正解とは言えるのか、わからない。


 天羽(そらは)は自問自答の中に繰り返し、案の定、納得できる答えは出ず、逃げるという選択肢しかなかった。時々逃げるのもいい策だったことは長年での積み重ねてきた経験から知った。


 ──とは言っても、どこから探せばいいのだろう?


 天羽(そらは)が熟考をしている中、ゴロゴロと音を天空から立てて、はっと我に返った。さっきとは打って変わった天気に変わった。どんよりとした空、陰鬱な天気と共にねとねととする湿度、あまつさえ雨がごうごうと降り注ぐ。煩わしい雨の音が人をイライラさせる。


 だが天羽(そらは)は雨の匂いが嫌いじゃない、むしろ好きだとも言える。変人扱われるかもしれないが、雨を浴びることで嫌な気持ちまで流されていく。


 理由に言うと晴れ晴れとした透き通った蒼穹なら他のことを考えさせられる余地がある、それに反して、雨の日だったらそれどころじゃない。強いて言うなら天羽(そらは)にとっては現実逃避かもしれない。


 みずたまりの反射によって、全身ずぶ濡れて惨めな自分をみて、可笑しく思える、天羽(そらは)は鼻で笑った。


 天羽(そらは)は近くにある雨宿りで雨が止むまで避難するつもり。全身ビショビショなので、ぶるぶるとふるわせたが、濡れたまま。抵抗を諦めて耳を畳んでぽつねんと待つ。ひとりぼっちになった天羽(そらは)は少し後悔した。こうなったら、あの女性に案内してもらえればよかったのにと自分の鈍さにムカッとしてきた。


 延々と降り続けた雨が一切やめる気はなかった。その反面さっきより激しくなり、完全に土砂降りの雨だった。雨垂れの音はまるでミニ音楽会でも開かれたかのように不思議だった。


 ──ついてないね。もうちょっと待つか……


 とその時


「うわ、猫だ!」


 声からすれば稚拙で幼い子供の特有の抑揚だった。すると天羽(そらは)は見上げると、目に映ったのはピンク色の髪、八重歯の女の子が興奮し心が浮き立って軽快な歩みを踏まえてきた。


 ──またガキかよ!


「こんなところに猫ちゃん!ラッキー」


 ──私……子供との間になんかあるの?毎回毎回、いつもこうなるんだから……


 ピンク髪色の女の子は天羽(そらは)のふにふにしたほっぺを触ろうとするが、天羽(そらは)は後ろの方へ一歩下がった。


 女の子はほんの一瞬、顔が暗くなって、意図的にうろうろと距離を詰めてきた。


 ──この感じ……鳥肌が半端ない……この女の子、何かを隠し持っている。だから私は咄嗟に拒んだ。


 野生の本能なのかよくわからないが、全身の毛が逆立つ、悪寒が感じる。次は背筋を凍らせて顔を引きつらせた。天羽(そらは)は本能的に後ずさった。身の危険をはっきりと感じて、警戒姿勢に切り替えた彼女は気を引き締めた。


 女の子は相変わらず愛想の良い笑いをかけて、親切ごかしに天羽(そらは)に手招いた。


「へえ、面白いわね。あんた普通の猫じゃないよね」


 天羽(そらは)はその言葉の意味を反芻して、嫌な予感がする。


 女の子は口の端に歪んだ笑いを浮かばせて、焦点の失った虚無な瞳で天羽(そらは)を見据える。


 天羽(そらは)は揺るぎを隠せずきょとんとした表情で相手と視線を交わす。


 ──何するつもりなんだ?このヤバい匂い……


 女の子は背後に隠していたピカピカと磨かれた刃をみようがしにさらせた。刀は完全に抜けた状態ではないのに、ちょうど枯葉がひらりと刃の辺りに落ちて、真っ二つにされた。枯葉の結末を目の当たりにして天羽(そらは)は浮足立つ。


 彼女は身がすくんで、小刻みに震えている。確実に命の危険をそんなにも身近くに感じるのはこれで三回目だった。今までにない恐ろしさが体中にいきわたって、周りの酸素が著しく減っていくのが身に覚えた。呼吸できなくなるくらいわなないた。


「あら、もしかして、怯えているの?かわいいわね。猫ちゃん」


 女の子は鞘に手を構え、一気に距離を詰めてきて、抜刀しようとする。


 現状はまだ雨が降り続けている限り、こんな最悪の天気にお出かけする人は滅多にいないせいで、誰かに助けを求めるのが不可能なのだ。それを狙ったかのように、女の子は剝き出しの狂気を晒しわっと大笑い出した。


 天羽(そらは)は一直線に駆け抜ける。転んでも無理やりを自分を起こし、つまずいても、心を奮い立たせて鈍くなった足を起こす、このまま座りぱなしだと殺される、と何度も自分の足を催促する。


「逃げても無駄よ、今のを見て確信できる、あんた、あの人が言ってた、外来種」


 ──外来種?!私ってこと、もうすでに敵に回されたってことか?


 どこへも逃げられない恐怖心が脳内に浸透していた。最初は痺れた手足、それから寒さが心の大半を占拠し最後は脳みそまで到達した。いまの天羽(そらは)だともう理性を失って、さも猟銃に撃たれ、パニック状態の上でトラバサミに引っかかる羽目になった。


 天羽(そらは)は必死に気配を隠れる場所を逡巡して、考える余裕はなかったから、天羽(そらは)は一か八かかけてみて慌てて別の路地裏に逃げ込んだが、結果は最悪だった。彼女はよく周囲をきょろきょろと見ると行き詰まりだった。


 ──待って、これで自分が自分を危険な目をさらすってこと?


 路地裏の奥に追い詰められて、ピンク髪色の女の子が一歩一歩に近づいてきた。どこにも隠せない焦燥感と不安が募る。


 天羽(そらは)はあえて目を瞑らなかった、生き残れる転機があるかぎり、彼女は死にたくない。殺されていい理由はなかったから、生きたいと強く思った。相手の隙を見計らって反撃したいが、その瞬間を待たずに向こうからは迫ってきた。


 その極めて鋭い切っ先が天羽(そらは)の目にさす前に寸止めした。女の子は謎の力に壁へはじかれて、そして壁に滑り落ちた。


 その時は何か大きな人影が自分の目の前に佇んでいた。銀白色髪の持ち主は天羽(そらは)を懐に隠す。彼女はバリアを張り続けて気が緩まなかった。天羽(そらは)は増援を見たかのように目を見開いた。


「探すのが苦労したぞ。羚夏(れいか)、でも間に合っててよかった」


 ルシカの顔は魔力にかかれたようにわけのわからない安心感をもたらす。彼女はやわらぎな笑顔をたたえ、その後、女の子のいたところに目をやると、表情が険しくなり、ピンク髪の女の子を睨む。


「あれ、仲間あるなんて聞いてないけど」


 女の子は怪訝そうにじろじろと彼女たちを見つめる。首を傾げながら困り顔を出す。


「誰から聴いた情報なのか知らないが、人んちの猫に対してなにしやがる」


 ルシカは猛獣が唸り声をあげるような低いトーンで女の子を威嚇する。


「おっかない~仲良くしたいだけなのに、猫ちゃんと」


「選択肢二つあげる、ひとつはお前が私にちぎられて死ぬか、ぶん殴られ死ぬのか、さあ選べ、もう充分慈悲だ」


「どっちも死ぬ道しかないじゃん。つまんない、どっちみちあんたらをまとめて葬らってあげるわよ、無駄なはったりを……」


「こっちのセリフだよ。どうやら反省の色はなさそうだね。殺っ……」


 ──ルシカ!


 ルシカは咄嗟に止めた。懐にいる黒猫をチラッと見る。


 ──無謀なことをしないで、あんたが怪我したらどうする?相手の実力はまだ未知数のまま、むやみに挑もうとすると……


「でも。向こうも同じ条件だろう、この場であいつをこの世から消えてもらわないと……」


 ──あいつの挑発に乗らないで、敵の思惑通りかもしれない。


 舌打ちしたい気持ちを抑えてルシカは軽く頷いて、ポケットにスッと手を入れる。


「あんたが言っていることなくはないね。わかった、一旦ここで引くとしよう」


 そしてルシカはボールみたいな物体を思いっきり女の子の方へ投げ出す、ボールは爆発して白い煙となった、視線が遮られ、女の子は耐えれずに壁にもたれて、小声で呟く。


「クソ……」


 ルシカは敵の状態は万全ではないうち天羽(そらは)を抱えて雲隠れした。


 女の子は思いがけない裏技にやられて、煙幕の匂いが鼻につく咳の音を立てる。


「ゴホッゴホッ」


「らしくないですね。失敗するとは」


 ピンク髪の女の子はコルチカムの匂いに鼻につく、再び咳を立てて口を隠し、急に訪れてきた女を警戒する。


「安心しなさい。私はあんたに興味を持っていないですから」


 薄暗い路地裏から徐々に姿を現した紫紺色の髪の女は唇を舐めて、女の子を見下ろす。


「あの子は外来種に間違いはありませんが、仲間です」


「仲間?」


「そのうち分かりますから、どうか勝手なマネをしないでください」


 女の子は目の前の紫紺色髪の女に気押されて、刀の鞘を握りしめて渋々と屈服する。


 一方、天羽(そらは)とルシカは安全な場所で息抜きをする。


羚夏(れいか)……大丈夫か、どこか怪我はない?」


 天羽(そらは)は口をつぐんだまま、何もしゃべらなかった。


「ごめん、遅くなって、おまけに驚かせちゃって、本当にわるかった」


 天羽(そらは)は尻尾を前足にくるっと巻きつけて、目を伏せる。


 ──わざわざ助けにきて、ありがとう。


「どうやら、あんたは厄介なものに絡まれてるね」


 何それと言わんばかりに天羽(そらは)はルシカの懐に抜け出して、耳をそばだてる。


「端的に言うと、魔女だ」


 ──魔女?悪い奴なの?


「見ての通り、あのピンク野郎は魔女の一人。でも大丈夫、次はない。多分ね」


 ──おい、もっと自信を持って。


「ていうか、なんでこんな姿、またやらかした?」


 ──あんたに言われたくない、あの魔法水だよ。多分。


「いっそこのままにしよう。かわいいじゃん。逆に大人しいし、普段は口がとがってるから、これで悔い改めよう!」


 ルシカが無責任なことを言い出したせいで、天羽(そらは)は背がすりすりと撫でられたことにムカッとしてて、歯を剝き出しシャーと音を立てる。


 ──やだよ、ずっとこのまましなけいけないってことよね、それは無理。


「ふむふむ。どうやら羚夏(れいか)ちゃんは人間の姿に戻りたくないようですね、なお一生でこの猫の姿で生きていくことに決めました!」


 ──独裁じゃん!勝手に決めるなよ。


「へえ……」


 ──何かへえだよ、色々不便だ、この体じゃ。


 ルシカは天羽(そらは)をそっと引き寄せて両手で持ち上げる。


「冗談だよ、もちろんとかす方法を探すのだ。安心しな。まぁ猫の方がわいいけど、やっぱり人間のあんたなら見慣れやすいからね」


 ルシカは鼻や耳を触る、照れくささを隠くす。


「私の認識ではこの国に有名な魔法士がいてね。あの人はこういう領域の専攻みたいだから、まずあそこに当たってみよう」


 ──どんな領域なのよ……まぁいいけど。


 天羽(そらは)は溜息をついた。それを見てルシカは冗談めかしに彼女を慰めた。


「いつまでもくよくよするな、逆にいいじゃん、自分で歩かなくてもいい、抱っこしてやる」


 ──あんた!またバカ事を言う……


「少し気が緩んだか?」


 ルシカはノリノリのテンションで天羽(そらは)の頭をぽんぽんとする。


 ──はぁ……一応前よりはよくなったけど。


 やっぱりこういう日常の雰囲気は悪くないと天羽(そらは)はこっそりと心の中に思った。

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