獣の国①〜猫になっちゃった…
誤字、脱字や文法など自分なりに全部修正させていただきました。よろしくお願いします。
「ほら、着いたよ。ルシカ、あの子を起こして」
「うん、わかった。ちゃちゃっと起こしに行くよ」
ルシカはこんこんと眠っている天羽を左右に揺すって、強制に起こしてやった。
「なんだ、ルシカなの?」
「悪かったなぁ。最初に見たのは私で、がっかりさせたね」
「はぁぁぁ……」
天羽は口元を隠して大きなあくびを出る。首を動かしたら痺れた感覚が伝わり、普段とは異なる違和感を覚えた。ストレッチをするところで形容しがたい激痛が走り、肩をすぼめる。
「痛っ!首千切れそう」
長期間で顔が上に向いてしまうほど首が後ろに反った状態で寝てしまったから、激痛の原因となった。天羽は拳のでっぱたところで自分の首をゴロゴロとマッサージする。
「なんだその言い方、生々しいけど、千切られたことあるの?」
「ない、想像するだけで、なんとなくこの痛みなのかなと勝手に思った」
「いや、何百倍以上痛いよ絶対。姿勢がよくないから、首が痛いんだろう」
「ルシカはよく寝れた?」
「ああ、最高だった」
「あら、そう?よかったわね」
「皮肉のことしか聞こえないけど」
天羽は気楽に手を振って否定する。
「気のせいだ、考えすぎるのよ」
「で、どこか痛いの?ここか?」
ルシカは手際よく天羽の首こりをほぐす。
「へえ、随分慣れた手つきだね」
ふととある考えが頭をよぎって、にやりとしたルシカが指先に力を入れて天羽の肩をもむ。その後、彼女は断末魔の叫びを上げた。
「死ぬほど痛っ!肩がはずれるかと思った」
「おっと、すいませんね……」
「マッサージ師として失格だわ、クビだよくび、絶対くびにしてやるわ」
ルシカは上機嫌になり、ルンルンと弾んだ心でステップをする。
「煽り満点だなあ。あんた……」
「ごめん、力加減が難しいのよ」
ルシカはぺろっと舌を出して誤魔化そうとする。
天羽は歯痒い気持ちでいっぱいだが、その爆発しそうな感情を押し殺して御者にお礼を言う。
「おじさん、ありがとうございます」
「ありがとう、おっさん」
御者は微笑みをかけて会釈する。
「幸運を祈る。また何かあったら、いつでも呼んでも構わん」
「ああ、そうする。お世話になった」
天羽はルシカと二人で御者を見送る。それから彼女たちは獣の国に入るや否や、魔法をかけられたように天羽はぽんと猫耳と尻尾が生えてきた。
「ほら、やっぱり猫なんだろう」
「何かやっぱりだよ……ルシカは?」
「バカじゃない?私、元々狼だし」
ルシカはぽさぽさの尻尾を見せて、耳を欹てる。狼であることを天羽に見せつける。
「そりゃそうよね…結構似合うじゃん」
天羽は緩やかに両手を出して、ルシカ耳を触る。ふにふにとし感触に夢中してて、抜けなくなっちゃった。
「いい加減にしろう、もう充分でしょう」
「あ、つい……無我夢中になっちゃった」
仕返ししたいという思いが渦巻き、ルシカは彼女の長細い尻尾をツンツンと触ったら、天羽は全身の毛が逆立てたような威嚇な姿勢を構える。
「あんたね!」
「まあまあ、折角ここに来たし、あのお伽噺から出てきた、動物と話せる魔法水を探しに行こう」
ルシカは天羽の灼熱の視線をさりげなく逸らして、無理やりに他の話題を切り出す。
「本当に探検する気満々だなぁ」
「ひょっとして、興味ないの?」
「興味ないわけがない!だってカエルさんと話せるチャンスだよ!」
天羽は目を光らせ、好きなものに対し熱弁する。それを目にしてルシカはププと吹き出して笑った、声を漏らさないようにしかっりと口を覆う。
「そうだね。よかった~」
「なに笑ってんのよ!」
「いや、なんか微笑ましいだなあと思って、カエルさんと話せたらいいね、羚夏ちゃん」
天羽はいまでもルシカを引っ叩きたいがこれだと埒が明かないので、その衝動に抑え込んでいつかぎゃふんと言わせてあげると腹をくくった。
「そんだけカエル好きなんだ…カエルが好きになったきっかけとかあるの?」
「カエルさんはなんとなくどこかで私と似ているから」
「そうか…確かに似てるな、ぼんやりしてるところ」
「おい」
「ともあれ、あの魔法水を探すのは確定事項だなあ」
こうして天羽とルシカは動物と話せる薬の探検を始めた。
「そういえば、ここのみんなって耳や尻尾も色々な獣の外見してる、なんか不思議だね」
「だろう。そういう趣のある国って素敵だと思わない?」
「風情のある国、主に魔法が原因でこれらの現象を巻き起こしたのかなあ」
「聞きたいの?この国についての歴史」
「うん。興味湧いてきた」
ルシカは呑気に昔話を語り始めた。
この怪奇現象は何千年前から、残された呪文は原因と見なす。かつて獣人と人間は犬猿の仲で、いつも敵対の関係を維持する。しょっちゅう戦争も起こすものだ。
でもある日、この国の人間と獣人のリーダーが偶然にも平和宣言を出した。その日を境に両陣営は争いもなく、平穏に共に生きていく。人間との溝も埋まることができて、それを祝してこの国では、平和の象徴であり、特別の魔法をここにかけた。
人間も獣人も分け隔てなく共に手を組んであゆんでいく。という意味合いだ。
「争いの口火は何?」
「それが土地の所有権の問題でさ」
──リアル……切実すぎて何を言っていいか……別の問題に聞こう。
「目的地まであと……」
「私もわからないんだ。わるい」
「こうやって、うろつくと無駄足じゃない?」
「じゃ、誰かに聞いてみる?」
天羽は言われる前に通りすがりの人に情報を収集する。
「積極的だなあ、こういう時は」
ルシカは天羽の行動力に舌を巻く。
「あのすいません、動物と話せる魔法水ってこの辺りにありますか?」
「ああ、あるわよ、君たちも遊びに来た?」
「はい、ついでにあの魔法水を探しに……」
「なんなら、あそこの山脈の下に洞窟の中にあるよ、宝物が」
「本当ですか?」
「ええ、ほんとうだよ」
「ありがとうございます」
二人が山脈の方向へ歩き、川を越えて、命からがらに切り立った峰の下の洞窟にたどり着いた。
洞窟の中で、しんとした空間の中に二人の荒い息遣いだけが響く、息を整えた後、奥へ入り込んだ。
「おお!見つかった!」
天羽は奥にあった緑の瓶の栓を抜き出して匂いを嗅ごうとする。
「すごい!早いね」
「これか……ルシカは飲む?」
「いいよ、あんただけでいい、そういうスキルはも身につけたよ」
「あ、そうなの?」
天羽ポリポリと頭をかく。
「これでカエルさんと話せる!」
天羽は期待に満ちた表情ごくごくと一気に飲み干した。
「何も変わんないけど」
「時差かな。もうしばらく待てば効果が出るんじゃない」
「それもそうだよなぁ」
「あのさあ、この国では有名なグル……」
「わかったわかった、行こう」
「よしっ!食べ放題だ~」
「お腹壊すなよ」
時間をかかって、彼女たちは元の出発点に引返した。
ルシカと天羽は一緒に限定スイーツを注文するその時
天羽は体の異変に気付き、視界も酷く低くなり、体が縮んでいく。おかしいなあと思ってふらふらと花屋さんのガラスドアに目をやると、そこに黒猫が自分を見つめていた。
──誰だ、この猫、なんでこっち睨んてきた?気に入らないなぁ。何もしていないのに、ただ通りすがかっただけ……
天羽は自分の手足は紙のような軽さを感じて、とんでもない事態が起きてしまったことをようやく気付けた。
──違う、待て、この猫は私と同じの仕草をしてる、こんなありえない茶番……私、猫になってる?
「ニャー!」
──何これ?今の私ニャーしか出せないの?ちょっ……!あれはルシカじゃん、早く合流すれば、まだ間に合う、嘲笑われるのも想定内だが、今はいち早く知らせておけ……!
突如天羽は誰かに抱っこされて、地面から離れていった。
──え?どういうこと?いやだ、もうすぐだったのに……
女の子は天羽のぷにぷにとした肉球を押す、楽しんでいる様子だった。
「ニャー!」
「よしよし、怖くないよ」
──よしよしじゃないのよ。しかも相手は一番嫌いなガキだなんて最悪だわ……
「ニャー!ニャー!」
「暴れないで、あなたは飼い主さんはいるの?」
──いないけど、待ってる人がいるから、早く解放して!このガキ!
「そうしたの?」
女の子の母親が買い物したばっかりで手に余裕がない様子だった。
「ママ、これ見て、猫ちゃんがいた」
「あら本当だね、どうしてここにいたの?」
「迷子かもしれない」
──迷子なんてなってない!もう帰りたいから、降ろして。
惜しくも誰にも天羽の心の叫びは聞こえなかった。
「置いていくのがかわいそうで、持って帰ってもいい?」
「もしこの子の飼い主がいたら、ダメでしょう」
「でもくびわついてないよ」
「あら、本当だ。じゃ暫く家に持って様子見よう」
「やった!!」
「私たちと平等でかけがえのない命だから、慎重に扱ってね」
「うん!」
女の子ウキウキして天羽を持ち上げた。元々人間である、高所恐怖症の彼女にとって間違いなくこれは拷問だ。吐き気を催す。
女の子と母親が帰ろうとしているその道にちょうどルシカとすれ違いのところ、絶好のチャンスが来た。
──今しかない、ルシカがこっちに向いてくれたら……
天羽は胸の中で喚き散らしたが当然、ルシカは一瞥もくれず、別の方向に行った。
──あ、終わった。これ笑えないよ。異世界に転移されて、しかも結局は猫になり変わった?
もう永遠にこの格好でしかいられないのか……
天羽はルシカとの距離が徐々に引き離れていくというのに何もできやしなかった。




