クリスマス•イブ
メリクリ
「今日来る途中、ケーキ屋凄い並んでたんですけど。なんかイベントでもやってるんですか?」
といつものようにパートさんに話しかけたら、もの凄い顔をされた。
「…それ、本気で言ってる?」
「え?」
「今日、クリスマス•イヴだよ?」
「あ、あ〜、今日って12月24日でしたねそう言えば…。」
もはや呆れを通り越して心配されてしまった。口には出されずとも、「男子大学生なんて青春真っ盛りなのに可哀想に…」というオーラがビシバシ伝わってきて悲しかった。
不思議なもので、一度気がついてしまうと想像以上に街がクリスマスカラーで浮き足立っているのがわかる。そう言えばなんだか男女の二人組が多いな、とか、BGMもクリスマスソングのアレンジだな、とか。
「うざったいな…。」
バイトを終えて、電車に揺られる。暖房でじんわりと暖かい車内は珍しく空いていた。シートに座り、足元に吹き付ける風を感じる。あまりにもいつも通りの日常だった。まぁ、非リア充にとってはクリスマスなんてこんなもんだろう。何か期待する方がおかしい。そういえば隣人はケーキ屋でバイトしてたっけな、とふと思った。今日は忙しいだろうから、部屋に押し掛けられなくて済みそうだと、そんなことをぼんやり考えていた。
甘かった。来ないと思った日に限って来るのだ、あの先輩は。
「やっほー後輩くん、元気かい?私はもうクタクタだよ〜。」
玄関を開けるなり先輩は靴を脱ぎ散らかし、こたつに潜り込んだ。
「どうして世間はクリスマスになると途端にケーキを食べたがるんだろうね、私にはさっぱりわけがわからないよ。」
「僕には後輩の家にアポもなく上がり込む先輩の思考の方が余程不可解なんですけどね。」
「釣れないなぁ後輩くん、今日はお土産もあるっていうのに」
先輩は左手に持った白い箱をこたつの上に置いた。
「じゃーん、うちのお店の今年のクリスマスケーキで〜す。」
立派なホールケーキを箱から誇らしげに出す先輩。
「このケーキ人気で、午前中にはもう店頭分なくなっちゃうくらいだったんだからね?わざわざとっておいた私に感謝してもしきれないと思うんだけど。」
かなり恩義がましい言葉を重ねる先輩。僕も少し前までだったら、殊勝にケーキなんか持ってきた先輩に対して驚いていたかもしれない。が。
「先輩、このケーキなんだか型崩れ酷くないですか?」
「そ、そりゃ、箱を持って歩いて帰ってきたからね、少しくらいならまぁ、いいじゃないか。」
「にしてはデコレーションもズレ過ぎてません?」
「…。」
「ねぇ先輩?」
「…なんだい後輩くん。」
「これ先輩が店で落とすかなんかして、持ち帰らされたやつなんじゃないですか?」
「…君のような、勘の良いガキは…」
「ああはいはいハガレンごっこは別にいらないです。てか図星なんですね。
先輩は今度は泣きついてきた。
「良いだろ別にぃ。味は変わんないんだしぃ。なんでこんな、ちょっとずれたくらいで私が責任取らなきゃいけないんだよぉ。」
「いや、どう考えても落とした先輩が悪いっすよね。てか自分で食べれば良いじゃないですか。」
「君はクリスマスの夜に、一人でホールケーキを食べれる鋼鉄の精神を持ち合わせているのかい?」
「うっ、それは、確かに…。」
「だろ、じゃあ、一緒に食べようじゃないか?」
押し切られる形で、フォークと皿を用意させられた。
「ぼっち達のクリスマスに、乾杯!」
先輩はどこから取り出したのかシャンパンを掲げて、そう言い放った。
「だから僕、アルコールダメなんですってば……」




