巨大化スキルで大きくなりすぎてダンジョンに入れなかった結果追放されちゃった女が私です。
「うぐぐぐ~~!ぐっ、ぐっ!ふんん~~ぁぁぁあああ!」
「いやもう諦めなって。絶対入らないから」
「ここまできてそう簡単に諦められません!レーシェさん、上から押してくれませんか?」
「はぁ……。まあ付き合うけどさ。ほれ、いくよ。ふん!」
「いたたたたたたた!痛い!痛いです!」
「だから無理っつってんでしょうが……」
ここは世界最大の地下ダンジョン、『セルグラッド』の入り口。飲めば願いが叶うとか叶わないとかいう『深層の聖泉』の伝説につられた冒険者たちがひっきりなしに行き来する場所ですが、本日はいつもよりも混雑している模様です。というのも、身長が大人20人分はありそうなほどの巨大な女が地下への入り口に腰まですっぽりはまって塞いでしまってるからです。
……私です。
上半身は外に出てるので、皆さんの視線が痛いです……
「まずいぞリエラ。並んでる人のイライラがそろそろ爆発しそうだ」
「レオンさん、待ってください!もうちょっとなんです!」
「僕の計算によると、その手ごたえは勘違いだよ。入り口に対して君は大きすぎる。関節を外しでもしなければ入らないね」
「外します!」
「馬鹿な事言ってないで、とっとと腰を抜きな!後がつかえてんだ。それにそんなギリギリで入れたって中でどうすんだい?」
「うぅ……」
「レーシェのいう通りだ。セルグラッドまでの道中でみるみる大きくなるリエラを見て薄々感じてたけれど、リエラはもうダンジョンに入れない。『草原の足音』のリーダーとして命令する。もう入るのは諦めろ」
「そんな~!ここまで来たのにっ!」
「残念だけど諦めな。ほら、そうと決まればどいたどいた。……おいリエラ、どうした?」
「……抜けなくなっちゃいました」
「……すみませんでした」
私はパーティの三人に頭を下げました。自分の情けなさに泣きそうになります。このダンジョンに潜るために今まで旅をしてきたのに……。
「いや、僕の計算によれば、君の巨大化スキルなくしては僕たちが無事セルグラッドにつくことは難しかっただろう」
「クルルシャさん……」
「それはそれとしてリエラ君をパーティから外し、新たなメンバーを迎え入れることを提案させてもらう。ダンジョンに入れない人間をパーティに置いておくほど僕らには余裕がない」
「クルルシャさん~~」
「クルルシャはまったく。リエラの気持ちも考えてやんなよ……。まあ入れるんなら盾役が欲しいけど」
「レーシェさんまで!」
「しょうがないだろ?リエラが身長を縮められない以上、ダンジョンに挑むには別のメンバーを入れるしかないんだから」
「そうですけど~」
「レオン君、君の意見を聞きたいね」
「レオンさん……」
レオンさんはリーダーなので、レオンさんが反対してくれたらまだ私のパーティ残留の可能性があります。お願いします……。虫が良い話ですけど、私には聖泉の力でかなえたい願いがあるんです……。
「……この街には俺のパラディンの従兄がいるんだが、今ちょうど空いてるパーティを探してるらしいんだ」
「もう目星ついてる~!」
「今までお世話になりました……」
ささやかな送別会が終わり、とうとう三人とお別れの時になってしまいました。私は腰を下ろし、できるだけ三人に顔を近づけます。
「僕の計算によれば、僕らが与えた恩よりも君から受けた恩の方が多い。パーティは組めないが困ったことがあればいつでも言ってくれ」
「ああ、数か月の付き合いではあったけれど、リエラとの旅は心強かった」
「今回のことは悪かったね。あんたにも叶えたい夢があったろうに……」
皆さんの温かい言葉に、思わず涙が頬を伝い、足元でバシャッとはじけます。私、この人達とちょっとの間でもパーティを組めて本当に良かったです。
「皆さん……。感謝するのはこちらの方です。村で冒険を夢見てたなんのとりえもない小娘を仲間にして頂いて、本当に嬉しかったです」
「まあ小娘といってもその時点でレオンの3倍以上の背丈があったけどね」
「それだけに今回土壇場で抜けることになってしまってすみません。皆さんと旅ができてちょっとは大きくなれたかなって思ってたんですけど、まだまだでした」
「むしろ大きくなりすぎたのが今回の問題だと思うが」
「セルグラッドに挑むことすらできなかったのは悲しいですけど、夢は別の方法で叶えることにします。……今まで本当にありがとうございました!」
「こちらこそだよ。元々『草原の足音』はリエラが歩く際の地響きが冒険者の間で話題になってつけられた名前だ。リエラあっての俺たちだった。……お互いに夢を叶えよう」
最後に皆と握手(といっても私は指だけですが)をしました。……これ以上皆さんといると名残惜しくて別れにくくなってしまうので、寂しい気持ちをぐっとこらえ立ち上がります。
「最後に一つだけいいか?」
レオンさんが私に聞こえるように大声で叫んでいました。
「良かったらリエラの夢を教えてくれないか?」
そういえば皆さんには私の夢を言ったことがありませんでした。隠すことでもないので言ってしまいましょう。
「私の夢は……誰よりも大きい人間になることです!」
こうして私、リエラ=クロスハートの新たな冒険が幕をあげたのでした。
「いやもうなってるでしょ……」