ひとりじめ
ずいぶん昔、私が長い髪をしていたころ。
「君の色素のない髪に、とてもよく、似合うよ。」
ウルトラマリンブルーの、髪飾りをもらった。
派手な装飾はないけれど、シンプルで、揺れるラピスラズリのビーズがとてもお気に入りだった。
出かけるときはいつもつけていた、お気に入りの髪飾り。
あの人は、ウルトラマリンブルーに輝くクオーツ時計を付けていた。
さりげなく、同じ色を身につけて。
ウルトラマリンを見るたびに、お互いを想ったあの頃。
今、クオーツ時計はあの頃と同じ色のまま、時を止めている。
今、髪飾りのラピスラズリの色は、ずいぶん色あせている。
…時を止めたあの人の時計と、長い時を過ごした私の髪飾り。
二つ並んで、引き出しの奥にそっとしまい込まれていた、ウルトラマリン。
ずいぶん、長い時が過ぎた。
時計が時を刻むことをやめてからずいぶん時間がたち、ラピスラズリは色を変えてしまった。
同じ色だねと笑いあっていた色が、こんなにも違う色になってしまった。
長い、長い時が過ぎた。
あの頃色素の薄かった私の髪も。
今、さらに色が抜け落ちて、ずいぶん色を失ってしまって。
色の抜け落ちたラピスラズリが似合うように、なった、気がした。
気が、したから。
久しぶりに、髪飾りをつけて、みた。
銀髪に映える、髪飾り。
色の抜けたラピスラズリのビーズが、あの頃と変わらずかわいらしく揺れる。
引き出しの奥にしまいこんでいた長い時間、このかわいらしさは一度だって。
…誰の目にもとまらずに。
久しぶりに、クオーツ時計を、手に取った。
あの頃と同じ色の盤面が、きらりと光った。
ふふ。
もう一度、時を刻んで、もらおうか。
少しいい時計屋さんに、クオーツ時計を見てもらう。
電池を入れたら、動くらしい。
時を刻み始めたクオーツ時計は、私の左手に。
色あせた髪飾りは、私の右耳の上に。
あの頃二人で付けていたクオーツ時計と髪飾りは、今、私が、独りで。
二つの宝物を独り占めできる自分が、ここにいる。
…独り占めになど、したくなかったけれど。
遺された者は、いつだって独り占めする側。
思い出も、悲しみも、独り占め。
いつか、分けあうことができる日まで、独り占めの日々が続く。
いつか、分け合うことができた時に、あの人はなんというだろうか。
そんないつかの日を思う私の左手で、クオーツ時計は正確な時を刻み続けている。
そんないつかの日を思う私の右耳の上で、髪飾りは、揺れている。
変わらない色と、変わらない思い。
変わった色と、変わった思い。
すべてを抱きしめて、私は、生きている。
すべてを抱きしめて、私は、生きていく。