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Uncanny Valley war  作者: マサイ
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プロローグ

 『道具』は手の延長である。

 そう唱えた人物が昔にいたそうだ。

 例えば自転車、いわゆる人間を超えた速さで走る乗り物も、練習すれば意識することもなく乗りこなせるようになる。

 最近で言えば、ある研究機関は人間にあるはずのない三本目の機械の腕を取り付けて、それを脳の信号で動かせるか。そのような実験を令和に代わる前に行った。

 結果、実験に参加した半数がその腕を動かすことに成功したという。

 自転車も、あるはずのない三本目の腕も人間の機能を拡張するための『道具』であるということに変わりはない。

 なぜ人は自分の体の機能に属さないものを、あたかも体の一部の様に扱うことができるのだろう。その謎は令和12年になった今でもわからない。それはいまだに解決されていない、脳のブラックボックスの部分だからだ。

 結局、脳のことは今でも謎のことが多い。だからこの時代でも人間の脳を完璧に再現した人工知能は作られることもなかった。そのため『ターミネーター』のようにシンギュラリティが起こることもなかった。

 しかし5年前、それが起こるのと同じくらい大きく変わった出来事があった。

 人間の脳の中枢(高次脳機能)ではなく、脳のインとアウトを司る部分(低次脳機能)のみがすべて解析されたのだ。

 痛いと感じたらこの部分が反応する。腕を動かしたければあの部分が反応する。そのような入出力の部分だけが解析できるようになったのだ。そして、その電気信号を誤作動無く外部回路に送り出したり、逆に脳に外部回路から信号を送ることに成功した。

 この出来事はBMI(ブレインマシンインターフェース:体と機械を繋ぐこと)に大いなる革命を起こしたのだ。

 その後は昭和や平成の映画や都市伝説で語られているようなことが起こった。

 BMI産業の大手企業、CBR(Connect Brain to Robot)社が作った、『人型ブレインフレーム』というBMI用のアンドロイドが販売された。購入者は専門機関の下、脳を摘出し、その枠の中に入れる。

 『ブレインフレーム』には人間の体のほとんどの部分が再現されている。嗅覚や味覚、痛覚なども再現された。それはある意味、脳に付随する、体に代わる『道具』であり、エネルギー補給がプラグで可能であったり、金属の骨組みに人工皮膚と人工筋肉が付いた躯体だとしても、数週すれば自転車と同じように無意識に操れるようになる。

 病にかかることもなければ、脳が死ぬまで生を全うできるとして、その商品は売れに売れ、4年間で日本の総人口の30%、世界の40%が機械の体に乗り換えた。

 残りの60%の大半は脳を摘出するのを嫌悪したものや、高齢者、あとは値段が高く手に届かなかったものだ。

 最初は使用者に対する迫害が闊歩した。そんな混沌渦巻く2026年、日本や各国の政府は一人一人の考え方を尊重し、『ブレインフレーム』に乗り換えても、そのままの肉体でも同じ人権を持っているとし、生身でも機械でも差別が起こらない社会体制を作った。

 

 しかし、その3年後、脳のブラックボックスの部分が牙を剥いたのだ。

 本来、『ブレインフレーム』は脳に対する入出力にしか関与しない。脳の記憶や思考、人格などの部分には一切触れていない。そのため脳が生身の肉体に付随している時と思考や行動が変わらないはずだった。

しかし、機械に乗せられた脳は何らかの理由で変質し、旧型の人類を嫌悪した。


令和11年5月25日

 すべてのブレインフレームは中空から落ちる夕立の様に前触れもなく行動を起こした。彼らは各国の旧型の人間たちを一斉に殺したのだ。詳しい資料はないが、1日で旧型の人類は3割も減ったとされている。

 

 あれから約一年経つ。私たち、生き残った旧型の人間は彼らに見つからないように、人間としての営みをひっそりと送っている。

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